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平成20歳:/7 出産多様化、支える助産師 /静岡

 ◇情報はんらん戸惑う母も

 昨年12月28日午前10時26分、静岡市葵区瀬名川の「くさの助産院」に産声が響いた。千葉県の自宅から同市清水区の実家に里帰りしていた伊藤ふみかさん(23)と、立ち会いに駆けつけた夫、彰宏さん(20)の間に誕生した愛和(あいな)ちゃんだ。ベッドが置かれた四畳半の部屋で48時間かかった出産に、彰宏さんと助産師の草野恵子さん(55)がつきっきりで励ました。

 草野さんは88年、静岡市の総合病院で助産師としてのスタートを切った。だが、交代制で出産途中に他の助産師に交代したり、入院時以外は妊婦の様子を見ることができないなど、想像していた仕事とは少し違った。互いに顔も覚えられないまま分娩(ぶんべん)台に妊婦を乗せ、出産を終えると短期間入院させて退院する。子供を産むというより、医療行為を受けるような違和感を抱いた。

 98年に助産院を開業すると、訪れた妊婦から「自然な姿勢で産みたい」と言われた。それまでは分娩台の設定から、あおむけで産むのが常識とされていた。なるほどと思い、他の妊婦にも聞いてみると、出産姿勢以外にリラックスできる自宅出産や入院中の食事内容、出産時の環境など、次々と要望が出てきた。病院時代に「受け身の出産」で抱いた違和感は、自分だけではなかったと思った。

 助産院に限らず、水中出産、無痛分娩、ラマーズ法など、この20年で「産み方」は多様化した。県内での自宅出産数は、出生総数が減ったのに反し、89年の40件から07年には59件に増加。全国でも89年に比べて07年には1・6倍の2289件に増えている。

 その背景にある要因の一つは少子化だ。女性1人が生涯で産む子供の数を示す合計特殊出生率(全国)は、89年の1・57から07年は1・34に低下した。草野さんは「出産が母親や家族にとって大きなイベントになった。医者任せにせず、自分がこうしたいと選ぶ人が増えたのではないか」と感じている。

 草野さんは、女性が自分らしく、大切に産むための選択肢が増えたのを喜ぶ半面、情報があふれる現代ならではの不安も感じる。最近、助産院に来た母親から、子供が泣いている横で、パソコンで泣きやむ方法を探る母親がいると聞いた。確かにネット上には多くの子育て体験談が掲示され、参考になるものも多い。だが、他人と比較するあまり、自分を追い詰めてしまうこともあるのではないか--。

 08年末の助産院はにぎやかだった。同院で出産を経験した女性(31)が、幼い3人の娘を連れて遊びに来てくれたのだ。院内を駆け回る姉妹を見て、草野さんは「出産も子育ても一人一人、みんな違うのよね」と笑い掛ける。出産、子育ての正解は一つじゃない。それを見つける手伝いをしたいと思い、今日も母親たちの言葉に耳を傾ける。【望月和美】=つづく

毎日新聞 2009年1月8日 地方版

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