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医療過疎:/4 開業医 /群馬

 ◇「無医村」救った善意

 「先生、助けてもらえないでしょうか」

 昨年1月15日。下仁田町の大沢クリニックに南牧村職員が訪れ、院長の大沢歩医師(46)に頭を下げた。大沢医師は「考えさせてほしい」とだけ答え、天を仰いだ。

 南牧村で唯一の医療機関だった大島医院の大島浅吉医師(77)が体調を崩し、昨年春に閉院することになった。人口約2800人、高齢化率全国1位の村に「無医村」の危機が迫った。すがるような思いで職員がたどり着いたのが、隣町の大沢クリニックだった。

 「曜日限定の分院でいい」。大沢医師はそう頼み込まれ、悩んだ。クリニックの患者や今後の経営をどうするか。得をすることはなさそうだったが、1週間後、再度訪れた職員に「引き受けます」と答えた。

 最大の理由は、07年9月の台風9号の記憶だ。河川の氾濫(はんらん)で道路だけでなく電気や水道も遮断され、住民約500人が約1週間にわたり孤立した。クリニックには村内の患者も多く、薬を取りに来た被災者に「助けてくれ」とも言われた。その時の表情が重なった気がした。

 昨年4月、クリニックの南牧分院がオープンした。扉を開ける患者から次々に「先生、ありがとうね」と声をかけられた。大沢医師は、この時の感動が忘れられない。「患者にこれだけ感謝される。医師としてこんな最高なことはない」

 週2回、火・金曜日に開く分院には、日に20~40人の患者が訪れる。症状は風邪から関節痛までさまざま。肩痛で来た同村磐戸、市川暸さん(84)は「隣の病院まで車で40分かかる。小さな村にも病院は必要だ」と話す。

 患者数は本院よりも少なく、収益は減った。大沢医師は「クリニックという本体があるからやっていける。分院だけでは無理だろう」と、へき地での開業の難しさを感じているが、時折、患者から巨大なマツタケを贈られたりもする。「これがまたうまいんです」。引き換えに得た村民との信頼関係は、金銭では計れない。

 厚生労働省は50人以上が住み、半径4キロ以内に医療機関がない地区を無医地区と呼ぶ。県内の無医地区は78年に25地区あったが、08年には7地区まで減った。こうした数字の背景には、市町村が運営するへき地診療所に加え、古くから地域に根付く開業医の踏ん張りがある。

 かつて大病院に勤めた経験もある大沢医師はいう。「ここには都市にないおもしろさがある。治療する側が癒やされる。そんな場所です」=つづく

毎日新聞 2009年1月7日 地方版

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