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いじめ後遺症:ある少女の死/下 「動かない」国と学校 今も続く母の戦い

 高橋美桜子(みおこ)さんがいじめの後遺症との戦いの末に16歳で命を絶ってから、母典子さん(50)は無気力感に陥っていた。だが1年以上たった07年末、突然気がつく。「もうすぐ同級生が高校を卒業してばらばらになる。そうなったらいじめの実態は調べてもらえない」

 今年2月9日、名古屋経済大学市邨(いちむら)中学に電話した。校長にやっと会えたのは卒業式2日前だった。

 典子さんによると、実態調査のほか、系列高に在籍する元同級生との面会を求めたが「いじめはなかった」の一点張りで断られた。「線香を上げに来て」と請うと「私が行くと学校がいじめを認めたと言われる」との答えが返ってきたという。

 元担任の男性教諭には会えた。美桜子さんが転校した直後の03年5月、「あなたの転校を無駄にすることのないように『いじめ』に対して真っ正面からぶつかり何とか無くすことが出来るよう努力をしてゆきたい」との手紙をくれた相手だ。だが面会では、教諭は「いじめという認識はない」と言い切った。手紙の趣旨を問うと黙っていたという。

 教諭は今月上旬、毎日新聞の電話取材にも「いじめはありません。(同級生の行為は)そういう年代によくあること」と話した。

   ◇    ◇

 次に典子さんが向かったのは文部科学省だった。7月、いじめの実態調査を担当する児童生徒課で約4時間にわたり、いじめの内容や学校の対応を説明し、学校への指導を求めた。だが対応した職員は「文科省に私立学校への指導権限はない」と素っ気なかった。

 文科省の調査は公私立にかかわらず学校からの報告頼みだ。同課の担当者も取材に「転校や退学などで、いじめを受けた学校の在籍者でなくなった児童・生徒の実態が把握できていないという問題はある」と認める。

 「いじめの後遺症は重大な問題となっている」と言う教育評論家の尾木直樹さんは、同じ悩みを抱える人からの相談を何度も受けている。「いじめが疑われる場合に被害者側が駆け込める第三者機関を作り、公私立関係なく調査できるようにすべきだ。専門職のスクールソーシャルワーカーや精神科医がメンバーにいるのが望ましい」と提言する。

   ◇    ◇

 愛知県刈谷市の典子さんの実家。美桜子さんの遺影がある2階の床の間には、大好きだったロックバンドのCDや友達からの手紙が並ぶ。典子さんにとって「ママでいることを確認できる場所」だ。

 今年10月、典子さんは遺影を見ながら「学校も文科省も一人の命が奪われた重みが分かっていない」と言った。母の戦いは続いている。(この連載は飯田和樹が担当しました)

毎日新聞 2008年11月11日 中部朝刊

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