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いじめ後遺症:ある少女の死/上 自ら絶った女優の夢 心の傷、4年抱え

 女優を夢見た少女の顔は傷つくことなく、穏やかだった。

 06年8月18日未明、高橋典子さん(50)は入院中の病院で、長女美桜子(みおこ)さん(当時16歳)が愛知県岩倉市の自宅マンション8階から飛び降りたとの連絡を受けた。駆けつけた病院で、寝台に横たわった娘の腹の辺りで組まされた両手が目に留まり、泣き崩れた。空が白んだころ、自宅に戻ると、居間のテーブルの上にノートを破って書いた遺書が2枚あった。1枚は下書きだった。

 「まま、大好きだよ。みんな大好きだよ。愛してる。でもね、もうつかれたの。みおこの最後のわがまま聞いてね。こんなヤツと友ダチでいてくれてありがとう。本当にみんな愛してるよ。でも、くるしいの」

  ◇    ◇

 「もう学校に通うのは無理」。03年3月、名古屋経済大学市邨中学1年だった美桜子さんは、修了式を終えて帰宅すると典子さんに訴えた。

 典子さんによると、いじめが始まったのは02年夏ごろ。典子さんとカナダ人の父の間に生まれ、目立つ容姿をした美桜子さんは同級生から「きもい」「うざい」「死ね」などの言葉を投げつけられ、机を教室の外に出された。靴の中にテープで画びょうを張り付けられたこともあった。

 典子さんは当時、何度も電話で学校に対応を求めたという。学校法人を代表して今年10月、取材に応じた松田和夫・同大事務局次長は「事実をはっきりつかんでいない。(行為が)あったとしてもいたずら程度」といじめを否定する一方、いじめの有無の調査を現在まで「していない」と述べた。また当時の担任の男性教諭は「私もあれから5年とか教師をやっているから、いろんなことがあって記憶がない」と話した。

 結局、美桜子さんは別の中学に転校したが、不登校となった。パニック状態で「みんなが死ねって言ってる」と叫び、自宅から救急車で病院へ運ばれた。

 医師はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断した。

  ◇    ◇

 美桜子さんは小学生の時から児童劇団に所属し、女優を目指していた。同じ劇団にいた林優衣さん(19)は「人一倍頑張っていた」と振り返る。

 06年8月、名古屋市東区のホールで開かれた夏季公演。舞台には薄紫色のワンピース姿で踊る美桜子さんの姿があった。公演後、泣きながら「舞台が生きがい。どんな役でもいいから舞台に立ちたい」と林さんに話した。自殺したのは、5日後だった。

 典子さんは言う。「美桜子はずっと生きようとしていた。いじめがあの子の命を奪ったんです」

    ■

 心に傷を負った少女は、その4年後に自ら命を絶った。専門家は、少女のように長年いじめの後遺症に苦しむ子どもの存在を指摘し、いじめを受けた子どもの追跡調査の必要性を説くが、学校や国は実態に目を向けていない。少女と家族のケースを追った。

毎日新聞 2008年11月8日 中部朝刊

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