(2005年7月記事)
血圧低下から免疫促進まで幅広い効用
 ユーモアセラピー


 「人間は笑う力を授けられた唯一の動物である」(F・グレビル)――人間だけに授けられた笑い、それには何らかの意味があるはずである。今、アメリカでは「笑い」がもたらす心身への治癒が注目されている。「笑いの療法」による最新の研究成果を報告する。
13世紀、手術の痛み軽減のため医療現場でユーモアセラピー

 ソロモン王時代、既に笑いの癒し効果は認められていたという。聖書の箴言の中にもその一文が見られる。13世紀には、手術による痛みを軽減するため外科医が治療現場にユーモアセラピーを取り入れることを図ったともいわれる。

 そして、近代医学の中で、20世紀になって笑いの治癒力をテーマにした科学的研究が盛んになり、応用されるようになった。ユーモアセラピーを有名にしたのが、ノーマン・カズンズ氏である。彼は膠原病を克服したが、その殆どの要因が、喜劇や面白いものを見て笑ったことだと、自ら語っている。

 思いっきり笑った後、落ち込んだり暗い気分になるというケースはあまり聞かない。笑いで疲れるとしても、心地よい疲れであろう。科学者が指摘する笑いの効用は、ざっと挙げただけでも、1)ストレス軽減、2)血圧低下、3)気分の高揚、4)免疫組織の促進、5)脳機能の向上、6)心臓の健康の維持、7)他人との関係を改善する---、などがある。

コメディ映画で血流改善という報告も

 笑うことによって、免疫グロブリンやナチュラルキラー細胞、T細胞の量が増大し、免疫システムが促進されると考えられる。カリフォルニアのロマリンダ大学研究者グループが行った研究では、被験者を2グループに分け、1グループにはコメディビデオを1時間見せ、残り半数には見せなかった。

 研究の前後に、被験者の血液検体を採取したところ、ビデオを見たグループは見なかったグループに比べ、ナチュラルキラー細胞の活動が著しく活発化したことが分かった。一方免疫を抑制すると考えられるエピネフリンやコルチゾール値は低下した。
 また、笑いは、花粉症などのアレルギー反応を抑制することも報告されている。

 University of Maryland School of Medicine研究者グループが平均年齢33歳の男女20人を対象にした研究では、「There's Something About Mary」などコメディ映画を見せたところ、95%に血流の改善が見られたという。血流が22%増大し、15〜30分運動した後と同等の有効性であることが分かった。反対に「Saving Private Ryan」といった重い映画を見た場合、血流が悪くなった割合が75%あった。つまりストレスにより、血流が35%減少した。この影響は12〜24時間続いたという。

 血流改善の効果は心臓病予防にも繋がる。University of Marylandの研究者グループが、健康体被験者150人、心臓発作経験者、または心臓手術を受けたことのある150人を対象に、笑いを誘われるシチュエーションについてのアンケート調査を行った。

 被験者に、例えば、「あなたはあるパーティー会場に着きました。そこで、あなたと全くそっくりのドレス、あるいはシャツを着ている他の参加者とばったり出会いました。さて、あなたは 1)別に面白いとも思わない、2)面白いと思うが、外にあらわさない、3)微笑む、4)笑う、5)大笑いする、のどれ?」といった21項の質問をした。

 結果、スコアの範囲は21から105となり、全体的にスコアが50以上の被験者は心臓病の危険性がかなり低いことが分かった。反対に心臓病患者は、その場面の中でユーモアを感じることは無く、適応しにくいことが分かった。また、プラスのシチュエーションにおいても、バカ笑いなどできない傾向にあることが指摘された。

笑いでカロリーが消費、ダイエット効果も

 笑いによるダイエット効果も報告されている。2005年6月、European Congress on Obesityで発表された研究では、友人同士45組を一室に閉じ込め(メタボリック・チャンバー)、テレビでコメディを見せた後、カロリーの燃焼度を計測した。部屋は、被験者が吸い込んだ酸素および吐き出した二酸化炭素によりエネルギー燃焼を測るよう設計され、心拍数などが計測された。被験者には、1本10分のコメディを5本見せ、その間に、放牧されている羊の情景テープ(5分)をはさんだ。

 結果、笑っている時間は笑わない間に比べ、カロリーが20%多く燃焼されたことが分かった。体のサイズ、笑う度合いにもよるが、1日に10〜15分笑うと最大50カロリーを消費する。つまり、10〜15分/日の笑いで年間約2キログラムを落とせるという。
 また、Stanford University研究者グループが行った研究でも、10分間の笑いは、ローイングマシンと比べ200倍のカロリーが消費できると報告している。

 笑いと糖尿病の関連性も多くの研究で認められている。笑いのある食事は血糖値を下げるという。2003年5月、Diabetes Careに掲載された研究では、糖尿病患者19人、糖尿病を発症していない5人の血糖値を、食事前後に測った。被験者は全員、ある1日は退屈な講義を40分間聞き、また別の日には日本のコメディを聞いた。結果、退屈な講義を聞いた被験者のほうは血糖値が上がったという。

 もちろん笑いは、精神療法にも有効性が報告されている。Texas A&M Universityが行った研究によると、ユーモアは人の夢や希望の度合いを高めるという。18歳から42歳の200人を対象にしたこの研究では、半数にコメディビデオを15分間見せたところ、見せなかったグループと比べ、希望や期待感が著しく増大したことを報告した。つまり、笑いが人のストレスを軽減し、生きる希望といった前向きな姿勢を持たせる一助となると結論付けている。

重度の疾患を発症している子供たちにユーモアセラピーを導入

 こうした笑いの効能を利用した研究やプロジェクトがあちこちで進んでいる。笑いの鎮痛効果に注目したプロジェクトが、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)ジョンソン・キャンサーセンターを中心に1998年から行われているが、これは特に、難病、重度の疾患を発症している子供たちの治療にユーモアと笑いを応用しようというもの。

 UCLAの小児学科や精神治療科などが参加、エンタテインメント産業とのコラボレーションで、「Rx Laughter」と名づけられている。治療現場に厳選された子供向きコメディ、ユーモアビデオやオーディオを導入し、白血病などのがんや糖尿病、腎臓病を患っている子供が、化学療法や腎臓透析、骨髄治療、臓器移植といった苦痛を伴う治療を受ける間、痛みを軽減、治癒を早めることを目的としている。

 2002年、American Medical Associationで、パイロット研究段階の成果が発表されているが、それによると、笑いは自律神経系のリラクゼーションを誘い出すという。そのため、治療や痛みに苦しんでいる子供たちの苦痛軽減に役立つと結論付けている。






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