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乳がんとたたかう(下)

2008年12月31日

写真

日本乳癌検診学会総会でピンクリボンバッジを渡す「乳房健康研究会」のメンバー(右)=名古屋市

【日米のピンクリボン運動】

●日本のNPO 岐路に

小規模が乱立 少ない寄付

 12月5、6日に名古屋市で開かれた日本乳癌検診学会総会。NPO法人「乳房健康研究会」(東京都中央区)のメンバーは会場で休む間もなかった。500円の寄付につき一つずつ渡すピンクリボンバッジなどが並べられたブースには、ひっきりなしに人が訪れる。2日間で89個のバッジが無くなった。
 同団体の昨年度の予算規模は約7千万円。米国に比べれば小さいが、日本のピンクリボン団体の中では一、二を争う。しかし収入の多くはイベント収益や企業からの協賛金で、個人による寄付金は約76万円に過ぎなかった。
 理事の高木富美子さんは今年10月、ワシントンで米国対がん協会主催の「資金集め講座」を受けてきた。「これまでの資金集めは企業への依存度が高かった。もっと個人が寄付に参加しやすい仕組みを作らねばと、反省しました」
 総務省によると、昨年の日本の1世帯当たりの慈善活動への寄付金平均額は約2300円。米国の80分の1にとどまる。背景には文化の差に加え、税制優遇策など制度の差もある。
 米国では、ほとんどのNGOやNPOへの寄付金が全額控除の対象となる。しかし、日本では国税庁が認める認定NPO法人に寄付した場合だけ、寄付金から5千円を引いた額が控除される。
 日本には現在、約3万6千のNPO法人があるが、99%以上が認証NPOだ。認定NPO法人になるには、会計上の処理など厳しい要件を満たさなければならず、認定数は89にとどまる。ピンクリボン関連で認定されている団体は一つもない。
 全国では現在、約20の団体がピンクリボンの啓発活動をしている。しかし、ほとんどが小規模で活動資金不足や組織運営に悩んでいる。福岡市のNPO法人「ハッピーマンマ」は03年、国立病院機構九州がんセンター乳腺科部長の大野真司さんが中心になって、設立された。メンバーは医療関係者を中心に約10人。昨年度の収入は約200万円で、大半が製薬会社などからの寄付金だった。
 大野さんは「本業の傍ら、もっと企業回りをして寄付金を集められるかと言えば、無理。寄付文化のない日本で今後、ピンクリボンがどういう方向に進んでいくべきなのか悩んでいる」と話す。もっと大きな団体に「一緒に活動できないか」と持ちかけたが断られた経験もある。「九州だけでも複数のピンクリボン団体があるが、一つにまとまろうという発想がない。それが日本の文化なのだと思う」
 寄付を提供する企業側にとっても、小規模な団体が乱立している現状は悩みの種だ。
 ロッテは今年9月、一部のお菓子の売り上げをNPO法人に寄付し始めた。
 担当者は「米国ではスーザン・G・コーメンのように窓口が一つなのに、日本は各団体、ピンクリボンのマークの形からして違う。きちんと活動している団体に寄付したいが、どこを選べば効果的なのかわからない」と指摘する。

検診率上がらない悩み

 ピンクリボン運動の最終目標は、マンモグラフィー検診の受診率を上げ、乳がんの早期発見・治療につなげることだ。だが日本の受診率は約20%と欧米の70〜80%台に比べて格段に低い。ピンクリボンという言葉は広まっても、受診につながらないという悩みを各団体とも抱えている。
 NPO法人「J・POSH」(大阪市)は02年、姉を乳がんで亡くした乳腺外科医の呼びかけで設立された。事務局長の松田寿美子さんは、この乳腺外科医の高校時代の同級生だった縁で活動に飛び込み、日本のピンクリボン運動を先導してきた。
 個人や企業からの寄付金を原資に、自治体にマンモグラフィー検診車を寄付したほか、検診受診者に受診費補助として500〜3千円をキャッシュバックするなどの取り組みを展開している。松田さんは「啓発はここ数年で、ほかの団体も行うようになった。うちは一歩進めて、受診につながる活動に力を入れている」と話す。
 米国と同様、ピンクリボン・ウオークは日本各地で行われているが、これにも苦言を呈する。「日本では、歩いたら協賛企業からお土産がいっぱいもらえる。米国に比べお客様扱いしすぎだから、『情熱』が伝わらない」
 乳房健康研究会事務局の岸まゆみさんも、日本のピンクリボン活動は曲がり角にあると指摘する。「ただ『受けろ』と言うだけでは、受けてもらえない。受診率を上げるには、人とお金が必要。それを誰が負担すべきなのか。みんなで考える時期に来ていると思う」(岡崎明子)

 日本のピンクリボン 日本でピンクリボン運動が始まったのは01年ごろで、米国より約20年遅い。03年に関心がある企業の有志が集まり、東京で「ピンクリボンフェスティバル」(朝日新聞社など主催)を開催したころから広がってきた。東京・六本木で行われた今年のピンクリボン・スマイルウオークには約6千人が参加した。

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