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働く:第1部 逆風の中で/1 産婦人科医 /広島

 急激に悪化した経済状況の中、労働環境は逆風の中にある。解雇、低賃金、長時間労働、人手不足、経営難……。厳しい環境の中で人々は今、何のために働くのか。さまざまな「働く現場」をルポすると同時に、人々が生きる姿を通して「働く」意味を考えたい。

 ◇出産・子育て、悩む女医

 「元気に育ってますよ」。妊婦の腹にエコーを当てると、画面に赤ちゃんの成長が映し出される。「ほっとしました」。妊婦が柔らかな表情で答える。広島大学病院(南区)の産科婦人科で働く中前里香子さん(35)=中区=の表情もほころぶ。産科婦人科は女性医が多く、医師不足が深刻だ。

 中前さんは、07年6月に長女を出産し、1年間の産休・育休を取得。現在は、外来・入院患者を診察すると同時に、新生児脳障害の研究に取り組む。

 県内の病院で勤務していた04年、整形外科医の夫と結婚。当初から仕事を続けようと考え、06年に広大病院に移って以降も旧姓の「島筒」で働く。今は子育てと仕事の両立に悩む。

 出産前は当直勤務があった。深夜、仮眠中に入院患者の胎盤はく離が。赤ちゃんの心拍数が低下した。緊急手術だ。中前さんが帝王切開し、赤ちゃんを取り出した。「夜の緊急手術はよくあります」

 復帰後は当直免除だが、午前1時まで東区の実家に子どもを預けて働いたこともある。腹痛を訴える急患が来院、午後9時に緊急手術が決まった。手術が終わると、日付けが変わった。一息つく間もなく、携帯電話で「もう寝ついた?」。子どもを迎えに走った。病院は実家の近く。「自分はまだ恵まれている」と思う。

 高齢出産や低体重児など医療高度化が、訴訟リスクを高めた側面もあり、現場に無言の圧力を加える。

 近年、医師の国家試験合格者の3割が女性だ。小児科や産婦人科だと、20~30代前半の約半分を占める。県医師会によると、出産を機に女性医師の半数が辞職や休職、パートなど勤務形態を変える。医師不足で産休は取りにくく、退職する人も多いという悪循環。全国の産科救急病院で患者を十分に受け入れることができない原因の一つが、女性医師の早期退職。一方で、患者すべてが女性ということもあり、女性産婦人科医は患者に好評だ。

 「先生の名前を付けていいですか」。妊婦検診から出産まで担当した患者の一言が忘れられない。中前さんの職場は“いのち”の現場だ。生命の誕生に立ち会い、患者と喜びと苦しみを共有する。死にも立ち会った。障害を持って生まれた赤ちゃん、がんを患った女性……。

 「新しいことを知ったり、目標とする先輩に近づいていく。それがやりがい」。自分の成長が分かるのが働く喜びだ。

 気持ちがへこんだ時、携帯電話の待ち受け画面を見る。長女がほほ笑む。保育園に迎えに行けば、待ちきれずに走って抱きついてくる。その姿で、仕事のストレスはすべて癒やされる。【大沢瑞季】

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 ◇データ

 県によると、県内の産科・産婦人科医で1カ月の当直回数が10日以上が34・1%だった(06年)。県内の産科・産婦人科医は229人(06年)で、98年の279人に比べて約2割減少。県内4市6町では、分娩ができる病院がない。

 県内の女性医師数は990人(06年)で全体の約15%。育児休業制度や短時間勤務、院内保育所の整備などの支援策はあるが、現実は制度はあっても利用しにくいという。

毎日新聞 2009年1月4日 地方版

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