2005年12月16日

44. リバウンド・フットワーク&スプリング・コントロール

(2004/09/14アップ。9/23修正改良)

 いきなりですが、まず次の動画をご覧下さい。

動画:超高速フットワーク
超高速フットワーク
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(MPEG-1 350Kbps 1.44MB)
動画がうまく見れない場合は…

 BPM140の『片足連打』と、BPM260の『両足シングルストローク』という、ほとんどギャグ(!?)のような超高速フットワークです。(こんなこと出来たからってどーすんねん!)

 実演奏ではほとんど使うことのない超高速フットワークですが、皆さんも手の練習の際、スピードアップのために、あまり実演奏では使わないルーディメンツ等を練習したりしていると思います。
このパターンはあくまでそういった“練習用のパターン”と思って下さいね。(動画では小野瀬も坂野上も、ふざけて遊んじゃっていますが、彼らも普段は、こういった演奏は全くしません。)

 ちなみにこの動画では、バスドラムにトリガーも使っていませんし、収録マイクも家庭用ビデオカメラ本体のマイクです。(マイクとは呼べないかもしれませんね。) つまり、皆さんが旅行や運動会で撮影する時と全く同じ方法で、撮影・録音しています。

 通常、高速フットワークを行うには、足のスライド奏法や、アップダウン奏法で行うと言われているようです。また、速く踏めるようになるためには、「どうしても筋力が必要で、スネやフクラハギの筋肉を鍛えなければならない」とも、よく言われているようです。

 ですが、この動画では全く別の方法で行っているのが、おわかり頂けたでしょうか?

 よくよく考えると、実際にトレーニングをして、皆さんはできるようになった事があるでしょうか? それどころか、無理してトレーニングをした結果、腰痛になったり足を痛めたりしてしまった人も多いのではないでしょうか?

 今回は、フットペダルを理科で考える(!?)事で、本当に小さな力でもフォルテの音量・音圧が可能な方法である「スプリング・コントロール奏法」と、バディ・リッチやデニス・チェンバースがバネを外してまで練習していた、「リバウンド・フットワーク奏法」という2つの足奏法を紹介します。 この動画では、その方法と足モーラー奏法を合わせる事で、力を使わずに高速フットワークを可能にしているのですよ!

フットワークに筋力を鍛える必要など絶対にありません!! 筋力が必要になってしまう人は、『小中学校で習った理科』を、ペダルの動きに応用できていないだけなんですよ!!


■STEP1 手の指三本!?

 ところで皆さんは、ペダルの「フットボードを割るつもり」で、また「バスドラのヘッドを破るつもり」で、つまり、そんなにキックを強く踏んだら手が叩けなくなるくらいに、『フットボードを脚で思いっきり踏んだ音圧・音量』と、『フットボードを、たった“手の指3本”で押したバスドラムの音圧・音量』とでは、どちらが勝ると思いますか?

「そんなの脚に決まってるだろー!」と思い込んでいる人も多いと思います。
しかし、K's MUSICの「初回レッスン」で必ず行っているメニューのひとつに

「主宰の小野瀬の手の指たった3本に、入校された生徒さんが、脚のフルパワーで対抗する」

というものがあるのです。

 その際、生徒さんには『ペダルを壊したりヘッドを破いても構わないので、遠慮せず思いっきり大きな音を出して下さいね!』と、あらかじめ指定までしてあります。

 では次の動画で、その初回レッスンの模様をご覧下さい。

動画:手の指3本vs脚のパワー
手の指三本v思いっきり脚
★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 221Kbps 1.43MB)
動画がうまく見れない場合は…

 いかがでしょうか? この動画は実際の初回レッスン時の模様で、もちろん「ヤラセ」などではありません。(各生徒さんの許可を得て、使わせて頂きました。)

 生徒さんが身体が揺れるくらい思いっきり踏んでいるのに、小野瀬の手の指3本に音圧も音量も及ばないのをご確認頂けたと思います。(これもマイクとは呼べないような、家庭用ビデオカメラ本体のマイクで録っているので、勝手にリミッターがかかって、同じくらいの音量に録れてしまっていますが、実際の音は小野瀬の方が1.5倍くらい大きいのが、各生徒さんのリアクションで、お分かり頂けると思います。)

 実は入校されたアマチュアさんやレッスンプロの方の7割~8割は、小野瀬が手の指3本でコントロールするバスドラムの音圧・音量にかなわないのです。(現役プロの方でも4割~5割ぐらいの方は、入校時には小野瀬の手の指3本にかなわないという結果になっています。)
 それは決して「小野瀬の指の力がとてつもない」からでも無く、もちろん「ペダルやバスドラムに仕掛けをしている」わけでもありません。(ちなみに、小野瀬の握力は40kg程度です。)
 ですので、今回登場頂いた三宅晃史さんや上田健史さんや山背弘さんも、K's MUSICのレッスンを受けて、現在では、手の指3本以上の、とてつもない音圧を、どこも力む事なく出せています。

 ではなぜ、手の指3本という、「とーっても小さな力」で、普通のドラマーさんの「脚のパワー」に勝ててしまうのでしょうか???


■STEP2  スプリング・コントロール

 実は小野瀬は「スプリング・コントロール」という足の奏法を、手の指3本に置き換えることで、大音量を可能としていたのです。

 「スプリング・コントロールって何!?」って人のために、まずは一緒にフットペダルを小中学校の理科を使って、考えてみましょう。(実はフットペダルの構造上、下の図のように、正確な扇形にはなりにくい事を、あらかじめお断りしておきます。)

 
0°ポジション

 写真①は、フットペダルを真横から見た写真です。

 バスドラムにセットして何も触れなければ、ビーターは、約2時を指すこの状態になっています。

 この状態を0度ポジションとします。

+60°ポジション

 写真①の状態から、写真②の様に、手でビーターを+60度の所まで押してみて下さい。

 スプリングによる力で、写真③の-30度ポジションの方向へ戻ろうとしているはずです。
 (ここでパッと素早く手を離したら、スプリングの力で一気に-30度のポジションまで移動します)

-30°ポジション

では今度は写真③の-30度のポジションへ手でビーターを押してみて下さい。

 今度は写真②の+60度のポジションの方向へ、スプリングの力で戻ろうとしているはずです。
 ここで手を離すと、ビーターは一気に+50~+60度ポジションに移動します。

 つまり、『フットペダルのスプリング作用』は、-30度から0度は、踏む方向へのサポート力(下り坂?)になるのに対し、0度から+60度までは、踏む方向への反発力(上り坂?)となっているのです。
 したがって、0度からフットボードを踏むためには、スプリングの抵抗を受けながら、ビーターを加速させなくてはならないのです。
しかし、フットボードに軽く足を乗せ(乗せるだけで、足の重さで+50~60度ポジションになります) 素早く足を離すと、ビーターは-20~30度ポジションまで移動します。
そこまでビーターが戻ってきた瞬間、-30度から0度まで、フットボードをスプリングの力に沿って、後押ししてあげれば、ビーターは『スプリングが戻ろうとする力との相乗効果』で、物凄い勢いで加速をし始めるのです。

 小野瀬は、まず指の力で、フットボードを押して+50~+60度ポジションをとった所から、素早く指を離し、ビーターが-30度ポジションにきたところで、-30度から0度までという、ごく短い時間だけスプリングの力に指の力を添えて、ビーターを加速させているだけなんですよ!

 つまり、動画の生徒さん達は、0度から+60度まで、体重を乗せ、足の力をも全部出しきって踏んでいるのに対し、小野瀬は-30度から0度まで指で押しているという事なのです。
たとえて言うなら、生徒さん達は、急な上り坂に対して『原チャリでフル加速』しているのに対し、小野瀬は急な下り坂を『ママチャリで加速』している様なものだったのです。

●スプリング・コントロール奏法●
スプリング・コントロール・ペダル奏法
まずは、フットボードの動く角度に要注目! フットボードは全体で約20度動きますが、コントロールに必要なのは、水色の部分の「わずか4~5度だけ」です(もちろん出したい音によっては踏み込んでクローズにする事も可能)
ヒットの瞬間、足はペダルから離れている事にも要注目です!(ですので、1997年2月発表の、ドラミングアドバイス第8回『みかんとフットワーク』にあるように、フットボードに置いたみかんを潰さずに、フォルテの音量で演奏する事が可能なのです!)
スプリングコントロールのできていないドラマーにとっては、“今までに体験した事のない程の音圧”が出せる。
ビーターをたくさん返すことで、振り幅が約90度前後となり、ビーターにより強く遠心力をかける事ができる。
踏んでビーターを動かすというより、抜く(離す)ことの連続動作が基本。
●日本的奏法●
44_jahu1.jpg
ヒールアップ奏法①
44_jahu1.jpg
ヒールアップ奏法②
44_jahu1.jpg
ヒールアップ奏法③
日本的フットワークでは、足がフットボードから完全に離れてしまうなど、言語道断とされている。
スプリングによる力を、ビーターを戻す事にしか使えない
バネの反発力に逆らいながら踏むという「キツイ条件」の中で「スプリング・コントロールの約2倍」の15度近くも、フットボードを動かさなくてはならない。
スプリングの反発力に加えて、足裏の接触面が「クッション」の役割をしてしまうので、連打も難しくなり、パワーのロスも大きい。
速く、強く踏もうとすればするほど、スプリングの反発力に対抗するための力が必要になるので、筋肉を鍛えざるを得ない。(しかし悲しいことに、いくら鍛えてもスプリングコントロールを行うドラマーの音圧には到底及ばない(T-T)
遠心力を利用したくても、振り幅がたった60度前後では、ほとんどその恩恵にあずかれない。
小さい音を出す時や、ゆっくりな音符を踏むにはベストマッチ!!

 スプリングコントロール奏法をマスターしてしまえば、誰だって「手の指3本」という、とっても小さな力で、大音圧・大音量を出せてしまうのです。
それを「手の指の何十倍も力のある足」で行うのですから、一体筋肉のどこを鍛えればいいのでしょうか?
逆に言えば、この方法さえマスターすれば、超脱力した状態で、身体のどこも痛くならずに、ごく小さな力で大音圧でプレイできてしまうのですよ!

 ではここで、実際にバスドラムを『フルパワーで演奏した日本的フットワーク』と、『脱力した状態でのスプリングコントロール奏法』の音圧の違いをご確認下さい。

 あえて、スネアもシンバルも、これ以上ないくらいの大音量で叩いていますので、それをバスドラムの音量の目安にして頂けると、音量差がわかりやすいと思います。

動画:日本的奏法と
スプリングコントロール

日本的奏法vsスプリングコントロール
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動画がうまく見れない場合は…

 いかがでしょうか?

 スプリング・コントロールの音圧・音量を確認して頂けた事と思います。 非常に楽に行えるにも関わらず、音圧・音量もバスドラムが鳴りきってしまうくらい出てしまうのですよ!

 超一流ドラマー達だけでなく、海外のプロドラマー達にみられるフットワークの原理も、実はこの「スプリング・コントロール奏法」によるものが、ベーシックになっているのですよ! そのせいもあって、日本人ドラマーのほとんどがクローズド(ヒット後ビーターがヘッドに着いたまま)になるのに対し、海外のドラマー達の多くが、日本人ドラマーの倍ぐらいの音圧をオープン(ヒット後ビーターがヘッドから離れる)で出せているのです。

 スプリング・コントロール奏法を行っている有名なドラマーとしては、バディ・リッチ、チャド・スミス、デニス・チェンバース、デイブ・ウェックル、etc, 例を出すと本当にキリがありません。 逆に海外のプロドラマーで、スプリング・コントロール奏法を使っていないドラマーさんを探す方が、かなり大変です。

 もちろん、クローズドがダメと言っているわけではありません。 ですが、クローズドしか出来なかったり、音量や音圧を極端に下げてしかオープンにできなくては、もったいなくありませんか? 日本にも山木秀夫さんのように、オープンと、クローズドを使い分けてリズムパターンを叩き、非常に遠近感のある表現をしている人もいます。

 また、スプリング・コントロール奏法で踏み込んでクローズドにすれば、『音のひずんだ大迫力の音圧』も可能なのです!
スティックワークに剛性コントロール奏法があるように、フットワークにも剛性コントロール奏法があるのですよ! ですから、皆さんも、スプリング・コントロール奏法をマスターして、ご自分の表現の幅を広げてみてはいかがでしょうか?

 ドラム歴4~5年以上になるドラマーさんでも、スプリングコントロールによるバスドラムの大音量と大音圧を体験しているドラマーさんの方が圧倒的に少ないのは、K's MUSICに入校された、たくさんのドラマーさんの例からしても、明白です。 現役プロドラマーの方でも、K's MUSICでそのあまりの音圧を体験し、驚かれる人も多いのです。
バスドラムは、本当は、もっともっと鳴る楽器です。スプリングコントロールをマスターすれば、あなたのバスドラムも、今の2倍・3倍の音圧と音量で鳴り始めるんですよ!

 このスプリング・コントロール奏法を「無意識にやっているよ!」とか「知ってたよ!」と思う人もいるかも知れませんが、日本ではほとんど使えている人がいない方法なのです! ですので、もし本当にできているかどうか確認したい方は、友人ドラマーに頼んで思いっきり脚で踏んでもらい、そのパワーに、手の指3本で勝てるかどうかをテストしてみて下さいね! 足よりも手の方が器用なので、最初は手でできるようにした方がつかみやすいかも知れませんよ!


■STEP3 みかんとフットワーク

 1997年2月発表のドラミングアドバイス第8回『みかんとフットワーク』の、

「その気になれば、バスドラムのペダルボードにみかんを固定し、みかんをつぶさないで、バスドラムをフォルテの音量で演奏する事も可能なのです。」

 という説明を読んだドラマーさん達から、ドラミング電話無料相談で「本当にできるのですか??」という質問をたくさん頂いています。 もしかしたら、皆さんの中にも『いくらなんでも、できるわけない!!』と思っている人が多いでしょうか?

 ですが、スプリングコントロール奏法を使えば、みかんを潰さずにフォルテで演奏できてしまうのです。 なぜなら上記にあるように、踏んでいるのは水色の部分だけなので・・・

え?

ウンチクはもういい?・・・わかりました(笑)

 それでは、論より証拠! 次の動画をご覧下さい。この動画も、あえてシンバルとスネアを大音量で叩いていますので、それを『目安』にすると、キックの音量がわかりやすいと思います

動画:みかんとフットワーク
みかんとフットワーク
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(MPEG-1 350Kbps 1.25MB)
動画がうまく見れない場合は…

 いかがですか? 実際にやってしまうと「ギャグのネタ!?」になってしまいますが、スプリング・コントロール奏法を使えばこんな事も可能なんですよ! フットボードに両面テープでみかんを固定しているので、その“みかんの重さ”のせいで、ペダルの動きがかなり鈍くなっていますから、とても確認しやすいのではないでしょうか?

 スプリング・コントロール奏法を、あなたが本当にできるようになっているかどうかを確認する方法のひとつとして、興味のある方は、実際にみかんを置いてやってみてはいかがでしょうか? ですが、動画にもある通り、日本的奏法で踏むと、みかんは一発で潰れてしまいますので、よく注意してやって下さいね!(今回は触れませんが、重心位置もかなり重要になってきます。)

 「みかんを潰してスタジオのお兄さんに怒られた!」 「みかんの汁でペダルが錆びた!!」 「食べ物を粗末にするなと怒られた!!!」等の、責任は一切K's MUSICでは負いかねますので(笑)、自己責任で行って下さいね(笑)


■STEP4 リバウンドフットワーク奏法

 勘のいい人ならすでに気づいているかも知れませんが、スプリング・コントロール奏法では、一番最初の動画のような超高速フットワークは、物理的に無理なのです。

 そこで、スティックにリバウンド奏法があるように、フットワークにも「リバウンド・フットワーク」があるのです!
ところで皆さん、リバウンドフットワークと言うと、「スティックをビーターに置き換えて考える人が多い」ためか、「ヘッドとビーター間のリバウンド」というものを、まずイメージしてしまうのではないでしょうか?
しかし、よーく考えて下さい。 ビーターはスプリングによる力で、勝手に返ってくるのですよ。
ですから、バディ・リッチやデニス・チェンバースが、フットペダルのスプリングを外して練習していたのは、
フットボードと足裏間のリバウンドを得るための練習法だったのです。  
一番最初の“超高速フットワークの動画”はこの「リバウンドフットワーク」を行ってプレイしているのです。

 もちろん「スプリングコントロール奏法」だけでも、ロックからフュージョンに至る、ほとんどの曲に対応出来ます。ですが、一番最初の動画のように、極端に速い連打になると、ビーターが最大限戻ってくるための時間が、物理的に足りなくなってきます。

-30度
ビーターがここまで返るには時間がかかる
+20度+40度
極端に速い連打では、この辺りまでしかビーターが返らない

つまり「-30度」の場所まで戻るのを待っていては、テンポに間に合わないので、「+40度」~「+20度」くらいのところに来た時に、“つつく”動作になるのです。 ですので、フットボードと足裏は、離れている時間の方が長いのです。 ペダルと足裏の接触面積を減らして、フットボードと足裏との間でリバウンドを起こす事で、「普通は不可能と思われるスピードの連打が可能」になったり、通常なら極端にパワーが下がってしまうプレイも「メゾフォルテ~フォルテぐらいの音量で演奏」できてしまうのです!

そこで次の表をご覧下さい。

 
フットボードに対する
脚のポジション
フットボードと
足裏の接触面積
特徴
足はペダルボードに対して
外旋(ガニマタ)

44_mas.jpg
靴の外側ヘリを使う
44_kutu2.jpg
靴のツマ先部分を使う事で、ペダルボードと足裏の関係を意図的に不安定にさせる。
ビーターが異常な速さで跳ね返っていくため、音も太く、スピードプレイも可能。
小さな音が出しづらい。
股関節を有効利用する円運動フットワークを行う際の、外旋(ガニマタ)のフットワーク。
靴の外側のヘリを使ってペダルボードと足裏の接触面積を少なくする。
デニス・チェンバースやデイヴ・ウェックルに代表されるフットワーク。
ペダルボードの外側ヘリを使う
44_kutu3.jpg
青文字の特徴は同上
これも外旋(ガニマタ)フットワーク。
「わざと」ペダルボードのヘリを踏む事で、ペダルボードと足裏の接触面積を少なくする。
普通のドラム教室では“絶対やってはいけない”とされる踏み方かも知れませんが、非常に楽に踏めるので、皆さん是非お試しあれ!!
小野瀬のBPM260超高速ツインバスの動画では、このフットワークで行っています。
フットボードに対する
脚のポジション
フットボードと
足裏の接触面積
特徴
脚はペダルボードに対して
内旋(内マタ)

44_mas.jpg
靴の内側ヘリを使う
44_kutu5.jpg
青文字の特徴は同上
円運動フットワークを行う際の、内旋(内マタ)のフットワーク。
靴の、ツマ先の左のヘリを使ってペダルボードと足裏の接触面積を少なくする。
ヴィニー・カリウタに代表されるフットワーク。
これもパッと見では気付けない人が多いようですが、よーく見てみると、確認できると思いますよ!
ペダルボード内側のヘリを使う
44_kutu4.jpg
青文字の特徴は同上
これも内旋のフットワーク。
わざとペダルボードのヘリを踏む事で、ペダルボードと足裏の接触面積を少なくする。
これも「禁じ手」(笑)と思うかも知れませんが、主宰の小野瀬はワンバスの時、この踏み方をメインとしているのですよ!
坂野上の、BPM140シングル超高速連打の動画では、このフットワークを使って行っています。
フットボードに対する
脚のポジション
フットボードと
足裏の接触面積
特徴
足はペダルボードに対して
ほとんど真っ直ぐ

44_mas.jpg
靴のツマ先部分を使う
44_kutu6.jpg
青文字の特徴は同上
脚がほとんど真っ直ぐになっているので、慣れていない人は日本的フットワークと間違えやすい
日本的フットワーク44_kutu0.jpg
日本的奏法の基本とされているフットワークで、最も力が伝わりやすいと誤解されている。
足裏の接触面積が多いので、フットボードに対してクッションの役割をしていまい、動きが鈍い。
1発だけなら安定感があるので、とてもやりやすいが、連打になった途端、極端に音量が下がったり、続かなくなる。
ゆっくりとしたフレーズや、小さな音でプレイする時にベストマッチ。
初心者が踏めるようにするためには、とてもやりやすいので覚えやすいが、この方法で練習しても連打は難しい。

「足の裏とペダルボードの接触面積」を増やしてしまうことは、「足の裏にクッション」を付けてしまう事と、全く同じなのです。
このようにフットワークを『理科』で考えると、足の裏のクッションで『フットボードが戻ってくるエネルギーを一旦吸収しゼロに戻して』から、その後に『自分の筋肉で作り出したエネルギーをフットボードに伝え続ける』という日本的フットワークが、いかに、効率の悪い事かおわかり頂けたと思います。
日本的フットワークの連打では(1発だけならいいですが)、かなりの筋力が必要になってしまったり、極端にパワーが無くなってしまったりする「大きな原因」は、ここにあるのです。

 一般的に言われている「基本奏法」とは、本当のドラム超初心者が、BPM100前後の『ゆったりした8ビートを叩けるように考えられたもの』だったのではないのでしょうか?
しかし、慣性力を無視して、いつまでも『2分音符や4分音符のためのフットワークを重視して練習を続ける必要性』は一体どこにあるのでしょうか?

足裏とプレートの接触面積を極限まで減らし、フットボードと足裏の間に、いかにリバウンドを起こさせるかが、高速フットワークを行う上での、重要なポイントなのです!

Q.ペダルをコントロールするには、どんな靴が良いのですか?

A. 前述したように、ペダルの操作は、「踏む」というより「離す」事の連続になりますから、つつくときの「接触面積」をいかに減らせるかという事がポイントです。
写真(1)の靴を見て下さい。この靴のように「角やヘリの部分が角張っていて、つま先も真っ直ぐになっている靴」をK's MUSICはオススメします。 なぜなら、写真のようにヘリや角が角張っていなければ、結果的にフットボードとの接触面積が多くなり、ロスが多くなってしまうのです。 ですから、写真(2)のような靴では、靴底とフットボードの間でリバウンドを起こすのが、少々難しくなってしまいます。
また、この後説明する靭帯や腱を有効に使う為には、靴のサイズについても、注意が必要です。 通常の「歩行用の靴」のように、靴の中で足が前後左右に動いてしまうスペースを設けてしまうと、フットボードとのリバウンドの際に、「レスポンスの遅れ」を招いてしまいます。 ですので、普段より1~2センチ小さいサイズの靴を、是非一度試してみて下さい。 もしかしたら、ペダルのコントロールのしやすさに、ビックリしてしまうかもしれませんよ!(ただし、とても歩きづらいです!) 
『全体重が足にかかる歩行用の靴』と、『座った状態でペダルをコントロールするための靴』は全く別物と考えて下さいね! 実際、ある有名なプロドラマーの方がK's MUSICに入校されて、この事を知り、ツアー用の靴のサイズが、それまで26.5センチだったものが、2.5センチも小さい“24センチ”に変わってしまったのですよ!

とは言え、主宰の小野瀬も今回の動画では「普段歩く時に使っている革靴」で演奏しています。 コツさえつかんでしまえば、そこまで靴にこだわらなくても、ある程度演奏できてしまいます。

カドのある靴

カドの丸い靴

Q.内マタやガニマタにすると、真っ直ぐ踏めないのですが?

A.1998年2月発表の、ドラミングアドバイス第14回『円運動フットワーク』でも触れたのですが、人間の脚の骨は湾曲していますし、各関節も曲がってついています。(足モーラー奏法では、この湾曲を積極利用して、円運動を作っています。) ですから「真っ直ぐ踏む」という行為は、一見正しいように錯覚されがちですが、関節を圧迫してしまう、とても不自然な行為なのです。ですので踏み方もそうですが、イスの位置もおおいにフットワークには関係してくるのですよ!
また、超一流ドラマー達に、フットワークの際、脚が左右にブレて見えるドラマーが多いのも特徴的ですが、これは“股関節と足首を同方向に回転させているため”で、「腰内の内臓筋」と「足の裏の骨格筋」のコントロールがポイントになっているからなのです。(股関節や重心等は、今後のドラミングアドバイスで詳しく説明していきたいと思います!)



■STEP5 足首って?

 「スプリング・コントロール奏法」も「リバウンド・フットワーク奏法」も、足首の使い方がキーワードになってきます。 

ではその足首の構造について、もう一度見つめなおしてみましょう。 

足首部分の構造
人間の足首はこのように、「シーソー」のように動かせるようにできています。
宇宙人の足?
このような人間は絶対に存在しません!

 よく、「カカトを支点に足首を動かす」というセミナー記事も見かけますが、上の図のように、カカトには支点となる関節など、どこにも存在していません。
 ですからつま先が上がる時はカカトが下がり、カカトが上がる時はつま先が下がるという、一種のテコの原理になっているのを知っていましたか? これに気づかず、踏み込む際に無理してカカトを支点にしようとして、足が痛くなってしまった人も多いのではないでしょうか?

 つまり足首を動かす際、

44_asi4.jpg ←こうではなく 44_asi3.jpg ←このように動かせば、どこも痛くなったりせずに、
スムーズに足首は動いてくれるのです。

 また、その足首を動かす際、「スネやフクラハギの筋肉が必要」と思っている人が多いようですが、実はここで大事になるのが、足の裏の靭帯や腱なのです。
「靭帯や腱を使ってペダルなんて踏んだら、断裂しちゃうんじゃないか?」という誤解をしている人もいるそうですが、靭帯や腱ってものすごく強いって事を知ってましたか?

 以前のドラミングアドバイスと重複しますが、もう一度よ~く考えてみて下さい。

 我々人間は生活する上で常に歩いています。その歩くという動作を別の言葉でたとえると「自分の全体重が片方の足首にかかった時にその足首を伸ばす動作」とも表現できます。

 たとえば体重60キロの人が歩くとき、瞬間的に60キロ以上になる体の重さが片方の「足首」にかかっているのですが、特に重さや疲労を感じてはいないはずです。
ドラム演奏時におけるペダリングも同じく足首を伸ばす動作であるはずなのですが、わずか体重の何十分の一の重さしかないドラムペダル(フットボードの踏力は通常2~3キロしかありません)を踏むためにトレーニングをしたり、演奏時に疲労や痛みを感じるなんて、とても変な話ではないでしょうか?

 大変多くの方が「非日常的なフットワーク」、つまり人間として「日常的に使っていない足首の伸ばし方」になっているようです。
人間の通常歩行は主に足首まわりの「靱帯」や「腱」という「筋肉とは別の役割を持つ部分」を主に使って歩いているのです。
全体重がかかった足首を伸ばしても重さや疲労を感じないほど、靭帯や腱は“超力持ち”なのです!

 「歩く」「またぐ」などの「日常的で最も自然な足首の動作」をフットーワークに取り入れたものが「自然体奏法であり正しい奏法」なのではないでしょうか?

 ドラミングだけに必要な筋肉(非日常で使うための筋肉)をわざわざ鍛えるよりも、普段歩いているときの“日常的な動きの感覚”で演奏できたら大変楽ではないでしょうか? また、この方法は超一流ドラマーであるバディ・リッチやデイヴ・ウェックル,ヴィニー・カリウタなどに代表されるフットワークです。

※ここで言う「自然体奏法」とは、よく言われている「脚を持ち上げて落とすだけ」というものとは、根本的に違います。
 「脚を持ち上げて落とすだけ」と「言葉」で言われると、いかにも自然な感じを受けてしまいますが、その実態は「たった一曲の演奏で、数100回~1000回前後も、脚を持ち上げなさい」という筋肉エクササイズです。「モモ上げ100回!!」でも苦しいのに、一回のバンド練習で、1万回以上も脚を持ち上げなくてはならない奏法について、どう思いますか? 勘違いせずに読み進めて下さいね!

足首イラスト


足裏イラスト

一番最初の動画では、靭帯や腱を使い、足とプレートの接触面積を必要最小限にする事で、連打の最中という本当に短い時間の中で、可能な限りリバウンドを起こし、あのような高速プレイを行っているのです! もちろん、身体のどこかが痛くなったりなどという事も、全くありません。

■人体力学トリビア:「足の裏」が下半身と脚のスイッチ

 実際、足首や足裏まわりの靭帯や腱について、意識した事がない人も多いと思いますので、少し説明を加えておきます。

 それでは、まず立ってみて下さい。 その時、多少“足の裏”に力が入っているのを、誰でも確認できると思います。 次にその状態から、足の裏の力を完全に抜いてみて下さい。
いかがですか? 立った状態で足の裏から力を抜き去ると、フトモモやフクラハギ等の筋肉から力を抜いたつもりが無くても勝手に力が抜けて、いきなり、しゃがんでしまいませんか?(わかりづらい人は、立った時に、少し膝を曲げて、やってみて下さい)
  つまり、足の裏の靭帯や腱は、「足と脚全体を動かすスイッチ」の役割を持っているのですよ!! 

 今度は実際にドラムを演奏するつもりで、ドラムイスに座って下さい。 そしてさっきの様に、足の裏の力を完全に抜いてみて下さい。 どうでしょう? 今度は何も変化が起こらなかったのではないでしょうか? ですので、立っている時には誰でも使っている足の裏の靭帯や腱を、イスに座った途端に、「全く使わなくなってしまう人が非常に多い」のです。
  確かに、ただ座るだけなら、靭帯や腱を使う必要はありません。しかし私達ドラマーは、イスに座って常に足を動かさなければならないのですよ。それなのに、足裏のスイッチを「OFF」にしていまい、完全に座り込んでしまう人が非常に多いのです。 ですから、日本的フットワークを行うドラマーさん達は、スネやフクラハギやフトモモの筋肉を使わざるを得なくなっているのですよ!

 ドラマーは、ドラムイスに座った時には、立っている時のように、足の裏の靭帯や腱のスイッチを「ON」にしておく必要があるのです。 また、「足の裏の靭帯や腱」は「大腰筋、腸腰筋」等と繋がっていますので、ボディショットを行う際にも、まず足の裏の靭帯や腱を先に反応させなくては、「腰」も入れる事はできないのです。

 では、BPM220の『両足のダブルストローク』を、靭帯や腱で行っている動画をご覧下さい。

動画:足のダブルストローク
足のダブルストローク
★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 221Kbps 1.30MB)
動画がうまく見れない場合は…

 いかがですか? ちなみにこの方法は、バージル・ドナッティの行う足のダブルストロークの方法とは、根本的に異なっています。 バージル・ドナッティはスネ、フクラハギ、フトモモの筋肉などを中心にダブルストロークを行っていますが、K's MUSIC講師の喜納は、足首や足裏まわりの靭帯や腱、そして脚の股関節を有効に使う事で、足のダブルストロークを可能にしているのです。

<最後に>

 それでは最後に、もう一度すべての動画を見て分析し、実際にご自分でチャレンジしてみて下さい。


超高速フットワーク

手の指3本vs脚

日本的奏法と
スプリングコントロール

みかんとフットワーク

足のダブルストローク

 『スプリング・コントロール奏法』も『リバウンド・フットワーク奏法』も、小中学校の理科で考える事のできる人なら、誰もがその仕組みを理解できてしまうほど、簡単な理論です。 ですから、ここまでの内容が本当に理解できていたら、動画の分析ぐらいはできると思いますよ! ただ読むだけで、「できているつもり」や「わかっているつもり」になって終わってしまっていては、本当にもったいないですよ!(実際、K's MUSICの入校当初に、無意識でできていた生徒さんは、たくさんのプロの方々の入校者を含めても皆無に等しかったくらいですから・・・)

 今回の内容が、「足が速く踏めない!」 「バスドラのパワーが出せない!」 「足や腰が痛い!」 「バスドラで遠近感が出せない!」等、フットワークで悩んでいる人の役に立てたならK's MUSICとしても非常に嬉しく思います!

 何度も読んで、また動画も参考にして、ぜひご自分のプレイに取り入れていって下さいね!

今回はペダルと足周辺に「限定」して説明しましたが、足の靭帯や腱は、骨盤や股関節や大腰筋、重心と切り離して考えることはできません。 結果として「股関節や骨盤を使った足モーラー奏法へと発展」していくのです。 それは今後のドラミングアドバイスで詳しく解説していきたいと思いますので、どうぞご期待ください!

※最後に、注意点を挙げておきます

  1. 超高速フットワークを行うための『リバウンドフットワーク奏法』については、モーラー奏法の『肩の動き』を『股関節に置き換えている』ため、手腕のモーラー奏法ができていないとマスターできません。 ですので手腕のモーラー奏法を確実にマスターしてから、リバウンドフットワークの練習をするようにして下さい。

  2. 『スプリング・コントロール奏法』や『リバウンド・フットワーク奏法』を練習する際、必ず足裏や足首周辺の靭帯や腱を先に反応させるように心がけて下さい。 ただし、靭帯や腱にスイッチを入れたまま、日本的奏法のように、スネやフクラハギやフトモモの筋肉を中心に足と脚を動かしてしまうと、かなりの確率で筋肉痛や関節炎、もしくは腰痛になってしまいます。 ですので筋肉自体は極力、脱力した状態で練習するようにして下さい。 もしどこかが痛くなったりした場合は、靭帯や腱よりも先に筋肉を反応させてしまっている等の原因が考えられますので、すぐに練習をやめ、やり方を改めてください。 むやみに練習を行って、身体を壊したとしても、K's MUSICは一切責任を負いかねますので、ご了承下さい。

<K's MUSICから、ドラマーの皆さんへ>

皆さん人それぞれ「憧れのドラマー」がいると思いますが、
「自分には無理だ」とあきらめてしまっている人はいませんか?
ですが、彼ら超一流ドラマー達も、普通のアマチュアドラマーさん達も、

生理的限界に、差はありません。
彼らが特別なのは、超一流ドラマー達だけに共通する
身体の動かし方や、その動かす時に使っている部位、呼吸、
そしてスティックや、ペダル等の

コントロールの仕方が、一般ドラマーとは根本的に違っているからなのです。
スティックワークにしても、グルーヴにしても、
今回のフットワークにしても、繰り返しになりますが、
“生理的限界に差は無い”のですから、あきらめたりせずに、
彼ら超一流ドラマー達と同じ方法を試してみませんか?

K's MUSICドラム人間科学は、
そういった超一流ドラマー達だけに共通する法則の宝庫です!

43. ひずみトーン、クリ―ントーン、ゴーストトーンの「タッチ」

(2004/06/13アップ。16日修正改良)

今回のドラミングアドバイスを読み進める前に・・・

 今回は音の質についての内容になりますが、一旦この内容をやめにしようかと思ったほど、ウェブ上で伝えるのは困難な作業でした。
というのも、ミキサーを使ってマルチマイクで録音すると、「何かインチキをしているかもしれない」と疑念を抱く人もいるでしょうから(^-^; K's MUSIC HPの動画の「音」は、「皆さんがバンドの練習時に行っているのと同じ方法」で録っています。
そうして録った「決して良いとは言えない音」をHP上にアップするためには、さらに「音を約1/30にまで圧縮」しなければなりません。そうすると、今回の内容で非常に大事になる繊細な音などが、かなり削ぎ落とされてしまうのです。
ですので、今回の動画の音は雰囲気が伝わる程度なのを、あらかじめお断りしておきます。今回の内容の音をちゃんと伝えるには、「実際に目の前で実演する」か、しっかり録音したものを「CDにして聴いていただく」しか、方法はないのです。
ですが、多くのドラマーさんにとって非常に役に立つ内容なので、今回アップする運びとなりました。ぜひご自分で実践して、音楽表現に役立てて下さいね!

録音にいつも使用しているマイクも
↓こんな程度です!↓

マイク画像



 まずは、K's MUSIC主宰、小野瀬健資による動画をご覧下さい。

動画:JAZZバッキング
Jazzバッキングビデオ
★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 500Kbps 1.32MB)
動画がうまく見れない場合は…

よくある感じのジャズの演奏です。

この動画では、多少ダイナミクスをつけて演奏していますが、このようなダイナミクスをつけるには、振り上げの高さでアクセントをつける事が必要と思っていませんか? その思い込みから、日夜アクセント練習に励んでいる人も、多いのではないでしょうか?

しかし、小野瀬は「フィンガーコントロールを使って、ある事をすると、勝手にダイナミクスがついて、アクセントっぽく聴こえちゃうんだよ~!」と言っています。

一体、どういう事でしょうか!?

実は小野瀬は、この演奏の間、振り上げの高さではなく、
手の中で常に「ある事」をしてダイナミクスをつけていたのです。

今回は、音楽表現のための「第一歩」となる「タッチ」についてです。

※今回は、プロや、上級者のドラマーさんには大変有効な情報となっていますが、「経験」や「歴」の浅い初・中級のドラマーさんには理解しにくい内容かもしれません。しかし、ドラマーのみならず、すべての楽器プレイヤーにとって非常にタメになる内容となっていますので、今後の上達のためにも是非読んでみて下さいね!



<はじめに>
 日本で定説となっている「アクセント理論」は、みなさんよくご存知だと思います。 フルストローク、ダウンストロークetc.・・・という風にネーミングされ、振り上げの高さで音に強弱をつけるという練習法です。

 ですがこの練習法には大きな落とし穴があるのを、みなさんは気付いていますか?
 ドラムはアコースティック楽器ですから、ちょっとした変化で音が変わる、とてもデリケートなものです。 それを音の強弱だけで解決してしまうと、自分のドラミングの幅をとても狭い物にしてしまうのです。

 音量以外にもアクセント時の「音の質」、弱く叩く時の「音の質」をコントロールできればできるほど、自分の音楽表現の幅がグーンと広がるのですよ!

 「そんなの当たり前だよ!」と思った人ほど、じっくり読んでみて下さいね!
今回のドラミングアドバイスは、日本のトップドラマーでさえ、わずか数人しか使える人がいない音楽表現の方法です!


「衝撃の新事実!」

誰もが今までアクセントだと信じてきたものは、実はスティックの剛性コントロールだったのです。
高さ=パワー、 スピード=パワーという、一見もっとも合理的と思える理論の裏に隠された
究極の盲点にせまります!


■STEP1 グリップ

 「グリップでタッチが変わるので、サウンドも変わる」と多くのドラマーが言いますが、なぜサウンドが変わるのかをきちんと理解していますか? もしくは理解していたとしても、それを曲中で「常に変える」という発想がありますか?(1拍の中でさえ変える事は可能です。)

 グリップでタッチが変わるのは、スティックと指の接触面積が変わるからなのですよ!

打面ヒットの瞬間に、スティックに触れている「指の接触面積」を多くすると、スティック自体の剛性が上がるため、アタックの立ち上がりが鋭くなって音が締まり、ピッチも高い音になります。 逆に「接触面積」を少なくするほど、スティック剛性が下がるため、音の立ち上がりが鈍くなり、ピッチも低くなります。

 これは1998年5月掲載の、「ひと言レッスン第16回」で説明した内容ですが、これを読んで実際に試して頂けたでしょうか?

 実はジェフ・ポーカロの、ドワンドワン(ドロンドロン?)した遠近感のあるタムのフィルインや、ハイハット、ライドシンバル等での遠近感あふれる表現は、「アクセント理論」で片付けられるものではないのです。 あの独特な遠近感ある表現のほとんどは、スティックの「剛性コントロール」によるものなのですよ!

 またピーター・アースキンの一種あぶない感じの、緊張感あふれるドラミングも、アクセントと言うより、「スティック剛性コントロール」あってのものなのです。 フィリー・ジョー・ジョーンズや、全盛期のトニー・ウィリアムス、シェリー・マンの演奏ニュアンス表現も、日本国内のアクセント理論を使ったものではなく、「スティックの剛性コントロール」による所が大きいのです。

 彼らは単に叩く強さだけではなく、「スティックの剛性」までもコントロールすることで、あの遠近感のある(ウネリのある)ダイナミクスを可能としているのです!

 ですから、彼らのような超一流ドラマー達の、ウネリある表現力豊かなダイナミクスコントロールは、エレドラ等では絶対再現できないのです。

※ちなみに、デイヴ・ウェックルも「スティックが振動することによってドラムが振動する」と、自身の教則ビデオの中で言っています。

■STEP2 剛性別の音色の特徴

低剛性
43_a1.jpg 43_a2.jpg 43_d1.jpg 43_d2.jpg
スティックに青い絵の具を塗って接触面が分かりやすいようにしてあります。
難易度
レベル

10
■アクセント
●スティックと手指の接触面積が、限りなくゼロに近い状態でアクセントをつけるには、手からスティックを「勢い良くはじき投げる(?)」事が必要不可欠。
●その結果、極端に速いスティックスピードが、打面との接触時間を短くするので、「バーン」 「ドーン」とサスティーンの効いた、破裂音的なアクセント音が得られる。
●この低剛性アクセントから、どのタップに移行するにも、「フリーグリップ」ができていないと物理的に不可能。
●スティック自体の振動を妨げないため、スティックのバイブレーション(振動)が、ヒット後もしばらく残っているのも特徴的。
難易度
レベル

■タップ
●打面に当てる瞬間に、スティックと手指の接触面積を、限りなくゼロに近づけるのが理想。
●スピードはあまり必要ないので、「叩く」というより「リバウンドしたボールを拾う」ような感覚。
●この低剛性タップから、高剛性アクセントへ移行する場合は、けしてアクセントのためにスティックを振り上げない。
●これもスティック自体の振動を妨げないため、スティックのバイブレーション(振動)が指に伝わる。

普通剛性
43_b1.jpg 43_b2.jpg 43_e1.jpg 43_e2.jpg
スティックに青い絵の具を塗って接触面が分かりやすいようにしてあります。
難易度
レベル

■アクセント
●しっかりとした支点によるリバウンドなど、国内のドラム教本などに記してある通り。
●音色的には、いかにも“正しい音”という感じで、チップとヘッドの接触時間もごく普通。
●「ドーン」、「ターン」 という、楽器が本来持っている素直なピッチ感と響きを得やすい。
難易度
レベル

■タップ
●これの叩き方も、国内の教本通りでOK。
●音的には、「タカタカ」、「トコトコ」という感じで、ヘッドの音が素直に出る。

高剛性
43_c1.jpg 43_c2.jpg 43_f1.jpg 43_f2.jpg
スティックに青い絵の具を塗って接触面が分かりやすいようにしてあります。
難易度
レベル

■アクセント
●叩くと同時にスティックを握るというより「叩く前にしっかり握って、叩いた瞬間には、もう手がゆるんでいる」のが基本。
●ヘッドを凹ませるつもり(実際には、ヒット時には指がゆるんでいるので凹みませんが…)で、ヘッドの膜振動にゆがみを生じさせる。
●打面とチップの接触時間が、多少長めになるため「ドン」「バン」と衝撃音的に響く。
●極端に超高剛性にすると、ヘッドの膜振動にゆがみが多く生じるため、音がひずむ。
難易度
レベル

■タップ
●これも叩くと同時にスティックを握るのではなく、叩く前にしっかり握っておくのが重要!
●叩くというより、「つつく感じ」に近い。
●握っているのでリバウンドはしないが、非常に弱いタッチなので、手指が痛くなるということはない。
●この高剛性タップから低剛性アクセントに移行するのが一番難しく、「フリーグリップ」ができていないと物理的に不可能。


■STEP3 剛性のコントロールをするための第一歩

 またまたそんなこと言っても、「いちいち一打ごとにグリップを変えて演奏なんてできるかー!?」と、思ってしまった方も多いのではないしょうか?

 よく、人それぞれ手の形や大きさも違うから、「自分にあったグリップを見つけよう!」などと言われているため、「自分のグリップはこれだ。」と、グリップをたった一つの形に、決めてしまっている人も多いかもしれません。

 そういったドラマーにとって、剛性コントロールを行うのは、確かに至難の技になるでしょう。
 (ジム・チェイピン氏も、教則ビデオの中で、「グリップを一つに決めるのはおかしい!」と言い、使用用途に応じた、多種多様なグリップを、たくさん紹介しています。あのビデオでの中でも、「要注目!」と言える部分ではないでしょうか?)

 そこで、どうしても必要なテクニックがあります。 それは、フリーグリップシステムです。

 なぜなら、フリーグリップシステムができないと、スティックの剛性そのものを低くすることができないばかりか、スティック剛性を瞬時に変化させる事も、物理的に不可能になるからです。

 またフリーグリップシステムは、モーラー奏法やフレディグルーバ―・システムができないと、実演奏には使用できません。 ですので、実はそれらの奏法ができないと、剛性コントロールそのものが出来ない
のです。

 日本的奏法でグリップだけを変化させて剛性コントロールを行なおうとしても、ほとんど「音」には反映されません。ですから、日本的奏法のままでも「剛性コントロールが出来る」なんて勘違いはしないようにして下さいね。

 スティック剛性のコントロールも、身体と切り離して考える事は不可能なのです。グリップだけ真似しても実演奏に生かせる日はやってこないので、ぜひとも身体と併せて練習を行って下さいね。

 ドラムを始めたばかりの、「超初心者」は誰もが「高剛性」です。 しかし、練習を繰り返したり、ドラムスクールで習ったりしていくうちにどうしても、一番安易な普通剛性に落ち着いてしまうドラマーばかりが目立ちます。 普通剛性は、とても簡単でマスターもしやすいので、あえて普通剛性での練習は必要ないのではないでしょうか?


■STEP4 実際の組み合わせ、その特徴と代表的なドラマー

 この表はあくまで目安で、実際には音量も剛性も、もっと微妙な範囲で変化します。 音量を「大」「小」だけとか、剛性を「高」「普通」「低」という風に荒っぽく区切ってしまえるほど、単純ではないのですが、読む人にわかりやすいように、あえてこのような表にしました。

イントネーション(アクセント)
高スティック剛性 普通スティック剛性 低スティック剛性













●最強の組み合わせ。 イメージ的には、なぜか初心者なのに超パワーがあって、超テクもあわせ持ったパンクドラマー(?)、もしくはバディ・リッチ
●「ドン!」「カン!」「ズン!」と鳴り響くアクセントのあとに、ピッチ感の強いタップ音が続く

バディ・リッチ(solo中)
ジーン・クルーパ
デニス・チェンバース(solo中)

●現在、日本のドラムスクール界で、最も正しいとか、音楽的だとされているのが、この組み合わせ。  その影響か(?)、日本のドラマーに最も多く見られる

●タップもアクセントも、音が全く乱れない。 いくらアクセントを付けても、ロック、ポップスではマスキングに弱いため、遠近感が出せない。 また、ジャズでは、カチカチし過ぎて、ジャズではなくなる(?)

●何のマスキングもない、スタジオ等での個人練習時には、とても良いサウンドと錯覚しやすい

●最も簡単な解決策は、アクセントをスティックを握り締めて力で叩けば良いが、体力が持たない。 または手の皮が剥けてしまうかも?

ラリー・フィン
ビル・ブラッフォード(最近)

●この組み合わせは物理的に難しいせいか、ハイテクニックなプレイではあまり使用されない
●サウンド的には、「パーン!」、「ドーン!」、「バーン!」と、サスティーンの効いた破裂音的なアクセント音の合間に、ピッチ感の強いタップ音が続く

バディ・リッチ(曲中)
スティーヴ・ガッド
エルビン・ジョーンズ(昔)








●軸輪のある、ハッキリした音と、ドライブ感もあわせ持つ、近代ドラミングのお手本のようなサウンド
●「ドン!」「カン!」「ズン!」というキレの良い音の中に、キレイなタップ音が続く

スティーヴ・スミス
ヴィニー・カリウタ
デイヴ・ウェックル(奏法改革前)

●最近のウェックルに代表されるのが、この組み合わせ。 音はナチュラルで明るく、開放感がある
●アクセント音の「パーン」「ドーン」というサスティーンの中に、キレイなタップ音が続く

デイヴ・ウェックル(現在)
ジョー・モレロ







●最も遠近感あふれる組み合わせ。「ドン!」「カン!」「ズン!」と鳴り響くアクセントの間に、フワフワしたピッチ感の少ない、優しい音が続く
●この組み合わせの場合、フル、アップ、タップ、ダウンの理論は全く適用外! 剛性を強くするために、指の接触面積を多くするだけで、自然にアクセントとなるため、振り幅がアクセントとタップでほとんど変わらない
●タムフィルインの際に、デニス・チェンバースや、ジェフ・ポーカロが、「スティックの高さがほとんど変わらないのに、アクセントがついている」と、不思議に思った事がありませんか?

デニス・チェンバース(曲中)
ハービー・メイソン(現在)
ジェフ・ポーカロ(タムフィルイン時)

●音にインパクトがある組み合わせではないので、メインでは音楽的に少々使いにくいが、アクセント(高)→弱音(普)のドラマーがmpで演奏する時や、パワーを下げてジャズなどのプレイをする時に使われる
●どんなにアクセントを入れても、「タン」「トン」した音になってしまうので、インパクトが得にくい
●メイン使用は、マービン・S・スミスくらいか!?


マービン・S・スミス

●一種独特なスピード感あるプレイになったり、スリリングな、アブナイ感じのグルーヴになる組み合わせ
●この組み合わせの場合も、フル、アップ、タップ、ダウンのストローク理論が、全く適用外になるのも特徴的
●50年代~60年代のジャズドラマーに最も多く見られた
●ジェフ・ポーカロは、ハイハット、ライド系のプレイにこれを用い、フィルになるとアクセント(高)→弱音(低)へと、使い分けが目立っていた

ピーター・アースキン
ジェフ・ポーカロ(H.H ライド)
トニー・ウイリアムス(マイルス時代)
ハービー・メイソン(70年代)
フィリー・ジョー・ジョーンズ


日本的奏法は、表の 茶色の部分 しか使う事ができない奏法なのですよ!


ドラマー別剛性表

 ボクサーが「速くて突き刺さるようなパンチ」と、「重くのしかかってくるようなパンチ」を使い分けて、対戦相手を翻弄するように、超一流ドラマーもスティック剛性コントロールによって、聴き手の耳を翻弄しているのです!


■STEP5 スティックの音と振動

 実際に指の接触面積で剛性をコントロールする事で、どのくらいスティックの音が変わるのかを、次の動画で確認して下さい。

動画:練習台で剛性
練習台で剛性
★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 500Kbps 1.69MB)
動画がうまく見れない場合は…
譜面

Q.その音って、練習台を叩いてるんだから、練習台が鳴ってるんじゃないの?

A.もちろん練習台を叩いているわけですから、練習台の音も少し出ています。 しかしこの動画では、なるべくスティックの音が目立つように「重量のある集積材の上に、ゴムパッドを貼り付けた練習台」を使っています。 そのため、重量の軽いスティックの方が強く発音しています。
本当は木製の練習台よりも、コンクリートや平らな石の上にゴムパッドを敷いて叩く方が、スティックの鳴りをより目立たせることが出来るんですよ!

 いかがですか? スティック剛性をコントロールする事で、かなり出音が変わるのをご確認いただけたと思います。

 これだけスティックの出音が変わるという事は、一つのスティックで、「何種類ものスティックを使い分けているのと、同じ効果」がある事に気付いて頂けたでしょうか? こんなに出音が変わっているのに、スティックの振り上げの高さがほとんど変わらなかったりするので、違和感を覚えた人も多いかもしれません。

 これを、入校された生徒さんの目の前で行っても、「何かスティックに仕掛けがありませんか?」と言われてしまいます。ですので、生徒さんのスティックで、この実演を行うようにしているんですよ! どのスティックでも同じように、剛性で音色を変えることは可能なのです。(ただし音の質や変化の幅は、スティックの材質や形状によって異なります。)

 この動画の一番最後に行っている方法は、ヴィニー・カリウタがよく行う方法です。 ニール・ソーセン氏(フレディ・グルーバーに30年師事している愛弟子)がK's MUSICに来訪した際、この方法について聞いたところ、「フレディがヴィニーに教えた方法だ!」とニール・ソーセン氏は言っていました。

 ヴィニー・カリウタも「意図的」に、スティック剛性をコントロールしているのですよ!

※正確なリズムを養うという名目で、「練習台を叩く時、メトロノームに合わせて叩いて、その音を消す」という練習を多くのドラマーが行っていますが、音の立ち上がりの問題から、どうしても「やや高めの普通剛性」になってしまう練習法だということに気付いていますか?(低剛性では、叩いてからやや遅れて音が立ち上がるため、ピッタリ合ってもメトロノームの音は消えません。)


◆上の動画で使っている練習台について… (2004/07/05 追加)

最近、『ドラミング無料相談』に「いったい、どういう練習台を使ったら、あんな音が出るのですか?」という質問を多く頂きます。

「集積材を使った…」等と書いたためか、上の動画で使っている練習台が「非常に特別なもの」で、「特別な練習台でないと、あのようなスティックの音の違いは出ない」という誤解を招いてしまったようです。

最近入校された生徒さんから「え!この練習台だったんですか!?」と言われることも多いのですが、スティック剛性による音の違いは、リアルフィール等の、どのような練習台でも出ます。

上の動画で使用している練習台には、タネもシカケもありませんよ!(笑)

この練習台を…動画では、このようにして使ってます!
43_pad1.jpg
練習台のオモテ側
43_pad2.jpg
練習台のウラ側
43_pad3.jpg
(DWの16インチ・フロアタムの上に載せてます)

■STEP6 実際のバンド演奏で使えるの?

 そんなこと言っても、ギター、ベース、キーボード等の音にマスキングされてしまう、実際のバンド演奏では、「そんなビミョーな違いが出るわけない!」と思い込んでいる人も、多いのではないでしょうか?

 しかし、それはまったく逆なのですよ!
マスキングが大きくなればなるほど、他楽器の色々な周波数が混じるので、逆にその差が明確になってくるのです。

 また、ドラム練習室より、大ホールになればなるほど、剛性の差が明確になり、実演奏に生きてきます。 逆に、せまいスタジオで何のマスキングもない「ドラムだけの状態」では、普通剛性にした方が良い音に聴こえてしまうので、注意が必要です。

 現在の日本のドラム教育界で「音楽的」とされているタッチは、せまい練習スタジオ等では上手に聴こえるのに、音が響く大きなホールや、他の楽器音に大きくマスキングされてしまう、実際のライブやレコーディング等の現場になった途端に、「とても線の細いサウンド」になり、まったく通用しなくなってしまいます。 その理由は、彼らの言う、「良い音」、「音楽的な音」の基準が、通常の演奏の状態とは遠くかけ離れている、「シーンと静まりかえった狭いスタジオ」で追求、研究されたものだからではないでしょうか?
 これはドラムに限らず、ギターや鍵盤、管楽器のレッスンプロにおいても、まったく同様の人達が多いと思います。 レッスンプロ同士が集まって、バンドを結成することが多いのも、彼らの音に対する考えや、価値観が近い所以でしょう。

Q.「マスキング」って何?

A.簡単に言えば、1つの音が、他の音によって聴こえにくくなるマスク効果のことをいいます。 実際の演奏では、ドラム単体だけで演奏することはほとんどないので、常にギターや、ベース、キーボードetc,の音にマスキングされた状態になります。 タッチもそうですが、チューニングや楽器選びも、「マスキングされた状態で判断するべき」だと、K's MUSICでは考えております。 静まりかえった狭いスタジオの中で、ドラムだけで「良い音」を追求してしまい、バンド演奏になったとたんに「何の存在感もない音」にならないように、気をつけて下さいね!

 ではここで、「実際にマスキングされた状態」での、シンバルレガートの動画をご覧下さい。

動画:4ビート剛性

★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 500Kbps 1.28MB)
動画がうまく見れない場合は…

 いかがでしょうか? 冒頭で述べた通り、この音は、わずか「数千円のマイクで録音」し、それをさらに「1/30まで圧縮した音」です。

 それを音楽を聴くにはとても適していない「パソコン用スピーカーから聴く」という「かなりの悪条件」にもかかわらず、その違いを分かって頂けたことと思います。(もしどうしても分からなかった場合は、もう少し良質のスピーカーに買い替えるか、パソコンのOUTから、オーディオに繋いでみて下さいね!)

 練習熱心なドラマーほど、耳が「フレーズ」を聴く方にいってしまって、「音色」が本当の意味での興味の対象になりにくい、という傾向があるようですので、特に注意して下さいネ!!
 音色の面白さや、重要性の本当の意味を感じられると、名演と言われる演奏も、もっと掘り下げて聴くことができますよ!

■STEP7 「ひずみ音」てダメな音なの!?

通常のドラム奏法の常識では考えられない、あり得ないことですが、超一流ドラマー達の音楽表現の多くは、その常識の外から生まれています!

 みなさんは、「超初心者が力任せに叩いた」ような、「ひずんで潰れてしまったタッチ」をどう思いますか? このようなタッチは、一般的に「汚い」、「うるさい」、というイメージがつきまとうせいか、音楽的に使ってはいけないと考える人も多いようです。 しかし、K's MUSICは声を大にして言います!

ひずみ音を積極的に使ってこそ、本当の音楽表現だ!と・・・

 アマチュアドラマーの多くや、駆け出しのプロドラマーでさえ、雑誌記事等のメディアの影響からか、「タッチはキレイでなくてはいけない」、という先入観を植え付けられてしまっている様です。ましてや、「ひずんで潰れたタッチ」など、言語道断と思っている人も多いのではないでしょうか?

 しかし超一流ドラマー達の音楽表現には、ひずみ音が欠かせないのを知っていましたか?

 超一流ドラマー達は、「ひずんで潰れたタッチ」を、音楽表現のために使いまくっているのですよ!!

 デニス・チェンバースや、ヴィニー・カリウタの生演奏を聴きに行ってみて下さい。 瞬間的すぎてわかりづらいかも知れませんが、雑誌記事やメディア等で言われている、「キレイなタッチ」という先入観を持たずに、よーく聴けば、ひずんで潰れているタッチの多さに、ビックリしてしまうと思いますよ!

 確かに、ひずんでいる一音だけを取り出して聴いてみると、到底、音楽的に使えるようには思えません。
しかし、普通剛性のようなクリーントーンを、「タンタンタンタン」と聴かせたあとに一発、高剛性や低剛性によるアクセントを使って、「ーン!」とか「!」と叩くと、人間の耳(正確には「脳」ですが)は錯覚を起こして、その「キレイなクリーントーンのまま、突然大きくなった」と感じてしまうのです。

 つまり、タンタンタンタンーンと同じ音でアクセントが入るより、タンタンタンタンーン」とか、タンタンタンタン」など、違うアタック音でアクセントが響いた方が、より効果的に聴き手に訴えかけるのです!

 超初心者は、やみくもに叩くせいで、効果的に使えていないというだけで、その「ひずんで潰れたタッチ」自体が悪いというわけでは、決してないのです。叩き方も、超初心者はやみくもですが、フリーグリップさえ使えれば、どこも痛くなったりはしないのですよ!

 また、なぜドラムの音がひずむのかを、みなさんは知っていましたか?

 当然のことですが、タイコにはヘッドが張ってあります。ヘッドが振動するのは、叩く事によって膜振動が起こるからです。その膜振動を起こすための入力の際(ヒットの際)には、必ずヘッドに「ゆがみ現象」が起こります。
ですので、ヒットの際には、ヘッドはゆがんで波をうってから、通常の膜振動に戻っているのですよ!
 高剛性のアクセントでは、「スティックの硬さによるヘッドの耐入力オーバー」、低剛性のアクセントでは、「スティックの落下スピードによるヘッドの耐入力オーバー」が起こるため、この「ゆがみ」が極端に大きくなるのです。
そうすることで、ドラムから、ひずんだ音を引き出せるのです!

 つまり、高剛性と低剛性のアクセントは、「通常よりも非線形倍音に近い波形」を、ドラムのアタック音により多く与えることで、瞬間的に「マスキング中で際立って遠鳴りする音」を発生させる奏法なのです。

 スネアドラムが、他のタムなどに比べて、バンドの中で音ぬけが良いのも、「ひずんだ音やノイズ成分」がスナッピーによって多く作られているからなのですよ!


◆ひずみで彩りを加えよう!◆

クリーントーンである普通剛性は、確かに「一番正しい音」かもしれません。 ですがよーく考えてみて下さい。 それは声に例えてみれば、「NHKニュースの声」と言えるでしょう。 しかし、その声と発音でもし「俳優がセリフ」を言ったとしたら、果たして人々を感動に誘うことができるでしょうか?
 「NHKのニュースアナウンサー」の声や発音は、日本語として一番正しい事は明らかです。しかし、その声で感動できる人は、ニュースアナウンサーを目指し、その声が一番素晴らしいという価値観を、「教育によって植え付けられた人々」以外にはいない、と言えるのではないでしょうか?

 これと全く同様にして、レッスンプロやその生徒さん達は、「普通剛性のクリーントーンこそが一番正しい音」と、信じて譲れない人も多い事でしょう。なぜなら「クリーントーンだけが正しい音」という価値観を、レッスンで植付け、そして植え付けられてしまっているからです。
 ですが、それを声で例えるなら、前述の「NHKのニュースアナウンサーの声」のようなものです。 しかし人々を感動に誘う、表現力豊かな名俳優や、声優達の声は、その正しい声(クリーントーン)だけでは決して成立しないのです。 クリーントーン以外に「汚く歪んだ声」や「小さくささやく声」を瞬間、瞬間で使い分けて、人々の感動を呼んでいます。

 それは音楽においても全く同じです。 「汚く歪んだ音」や「聞き取りづらい小さい音」の中に、「正しい音」を混ぜるからこそ、よりその音を生かす事ができるのです。 超一流と呼ばれるドラマー達は、日本のドラム教育界では、「絶対やってはいけないとされているタッチ」を瞬間、瞬間に使いまくる事で、表現力豊かな演奏を可能にしているのですよ! 一見、音楽的ではないと思われがちなタッチをいかに使うかが、本当の意味での音楽性なのではないでしょうか? 実際それを行うことで、ジェフ・ポーカロやピーター・アースキン、バディ・リッチなどのドラマーは、人々の賞賛を浴びています。

 もちろんこれは、ドラムに限った話ではありません。 一見クリーントーンに聴こえるリー・リトナーやパット・メセニー、ウェス・モンゴメリー等の、ジャズギタリストの音も、本当はひずんでいるのを知っていましたか? 彼らはアンプの設定や、オーバードライブ等のエフェクターで、ほんのわずかに、ひずませた音作りをしているのですよ! 一見クリーントーンに聴こえますが、ひずみをわずかに加える事で、倍音を豊かにし、ホールを包み込むような、甘いサウンドを奏でているのです。(この事に気付かずに、バンドの中で本当のクリーントーンを出して、音がペケペケしてしまっている、アマチュアのジャズギタリストを時折見かけますが・・・)
 他にもジャズピアノのハービー・ハンコックや、デイブ・ブルーベックの音、管楽器のマイルスやコルトレーン、果てにはクラシックピアノの巨匠のホロビッツまで、よく聴き込めば、普通の奏者よりも、ひずんだ音を要所、要所でより多く使っている事を、確認できるはずですよ!

 最近のプロのレコーディングでは、ボーカルの声に、なんと「ギター用のディストーション」をほんの少しかけて「歌声に迫力を加える」、なんて手法も平気で行われています。 そうとは知らず、皆さんの中には、そんな歌声を聴いて、「なんて迫力ある歌声だ!」なんて感動したりしている人も、多いはずですよ!

 日常においてもそうです。どの国のどんな人でも、「楽しい時」や、「悲しい時」、「喜んだ時」、「怒った時」には、「男も女」も、「大人も子供」も、よく聴けば、「普通より声がひずんでいる」のですよ! また、小さな声での会話で、「大きな声」を表現しようとした時にも、無意識に声をひずませて表現していませんか? そんな会話を、うるさい電車の中でしている人達がいた時、そのひずんだ声だけが、ハッキリ聴こえてきたりするのは、先にも述べた通り、ひずんだ倍音のある音は、「マスキングをかきわける力」が、強いからです。
他にも例を挙げればキリがありません。
「NHKニュースの声」の様な正しい日本語ばかりでは、「感情表現が成立しない」のと同様に、音楽でもキレイな正しい音ばかりでは、「音楽表現が成立しない」のです!



■STEP8 不安定音(ゴーストトーン)も積極的に使おう!

 ひずみのある高剛性、低剛性のアクセントトーンと対照的なのが、低剛性を使った「不安定音(ゴーストトーン)」です。 スネアドラムを叩けば「ササササ」、タムなら「モモモモ」、という感じで、これだけではやはり音楽的に使えませんし、どんなに良い楽器を使っても、その意味がありません。

 しかし、アタック音がほとんど無い「不安定音」は、本当に良くない音なのでしょうか? 実はピーター・アースキン、トニー・ウイリアムス(マイルス時代)、フィリー・ジョー・ジョーンズ等、彼らのドラミングを完全コピーして演奏してみても、まったく違ってしまうのは、「不安定音」のタッチが出来ていないためなのですよ!!

 また不安定音は、バンド演奏のマスキングの中では、叩いた瞬間に音が出るのではなく、マスキング効果によって、叩いてから「やや遅れて音が立ち上がる」のです。 ですので正確に言ってしまえば、「リズムが不正確に聴こえるはず」ですが、実際には聴き手側にリズムが狂って聴こえません。

 その理由は「マスキングによって、音が滑らかに立ちあがるため」、聴き手側が最も気持ち良く聴こえる位置に、リズムを感じとってしまうからです。 結果、よほどリズムが狂ってしまわない限り、「気持ち良いグルーヴ」に聴こえてしまうのです。

 一流の役者の小声の台詞は、日本語にまだ慣れていない外国人はあまり聞き取ることができませんが、日本語に慣れた日本人は、その台詞に感動します。
 ゴーストトーンを使わない演奏は、日本語にまだあまり慣れていない「中国人や韓国人」の日本語発音と同じではないでしょうか?

 不安定音は、音楽の中でまさしく、役者の小声と同じ役割を受け持っているのです。

岩瀬立飛さんに脱帽!

by K's MUSIC 主宰 小野瀬 健資

岩瀬立飛さんのグリップを見た事がありますか? カンのいい方なら、あのグリップに「何か意図的なもの」を感じた人も、多いのではないでしょうか? タッピさんは写真のように、指でワッカを作って、その中にスティックを差し込み、1~2発叩くごとに、手の中でわずかにスティックを持ち直します。 そうする事で、低剛性にし、あの優しいタッチを可能にしているのです。 正直「その手があったかー!」と最初に見た時は驚きました! 日本のドラマーで剛性を操れるドラマーを見たのは、私の知る限り山木さん、ポンタさん以外では、タッピさんが初めてでした。
ただしこのワッカを作る方法は、スティック剛性の持ち替えがかなり難しくなりますので、高剛性を使いたい場合はあまり効果的ではないかもしれません。 ですがタッピさんのように高剛性を使わない、小さめの音量のジャズをやるには、とても効果的な方法です!
これはあとから知った話ですが、タッピさんはピーター・アースキンについていた事があると聞きました。 もしかしたら、彼に「アクセントじゃなくて、スティックの剛性なんだよ!」みたいなヒントをもらって、独自に考えぬいた結果、あの独特なグリップができあがったのではないかと思っています。 ピーター・アースキンは、持ち替える際にロスの少ない「フリーグリップ」を使用するため、もっと普通の(?)グリップに見えますが、物理的にはタッピさんと、ほとんど同じになっているからです。

岩瀬立飛さんは、ピアノやベースのフレーズよりも、「歌い方」に敏感に反応する、素晴らしい音楽性を持ち合わせたドラマーさんです。 そのタッピさんの頭の中のイメージを具現化する、大きな武器の一つが、「岩瀬立飛さんオリジナル」のスティック低剛性だと、私は思っています。

立飛さんのグリップ

こうではない


■STEP9 実際の演奏の具体例

 では実際に、剛性をコントロールしている動画をご覧下さい。 ここで行っている動画は、次の譜面のように剛性をコントロールしています。 リズムを叩いている時のライドシンバルの音も、注意して聴いてみて下さい。

動画:ロックビート
ロックで剛性コントロール
★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 500Kbps 1.59MB)
動画がうまく見れない場合は…

 スティックの太さを変えると、音も違うと感じている人は多いと思います。 剛性コントロールを使えば、たった一種類のスティックでも、何種類ものスティックを持ち替えながら演奏するのと同じ、いや、それ以上の効果が得られるのです!

 つまり、ひずみアクセント用に直径が17ミリのスティック、普通のクリーントーン用に14ミリ、弱音のゴーストトーン用に、10ミリのスティックを、瞬間、瞬間に使い分ける以上のものがありますよ!

ただし、スティック選びの際に、叩きやすさを優先していいという意味ではありません。 前述の通り、どのスティックでも剛性を使う事により、音色をコントロールすることはできますが、やはりスティックごとに、音の質は異なってきます。
  ドラマーは、音よりも叩きやすさでスティックを選ぶ人が、なぜか多いようです。 例えばプロギタリストの場合、「弾きやすさより」も「音」でピックを選ぶことが目立ちます。 ドラマーもそれを見習って、「音」でスティックを選んでみてはいかがでしょうか? きっと世界が広がると思いますよ! シンバルだけでなく、スネアもタムも、スティックで音が変わってしまうんですから!

 ドラムという楽器は普通に叩けば、クリーントーンしか出ないように作られています。 逆に言えば、どんなに、ひずみトーンやゴーストトーンだけを使って演奏しようとしても、クリーントーンが必ずどこかで入ってしまいます。 ですから、クリーントーンの練習は必要ないのではないでしょうか?

<One Point Advice>

この動画の前半部分のように、フル、ダウン、タップ、アップの理論に当てはまる多くの日本人ドラマーの分析、コピーは、みなさん簡単に行えると思います。 ですが、ジェフ・ポーカロやデニス・チェンバース、デイブ・ウェックル等、超一流のドラマー達をコピーしようとした時、フル、ダウン、タップ、アップに当てはまっていない事が多いため、コピーしても全然違ったニュアンスになってしまった経験はありませんか?
彼らは、「タップストロークの連続なのに、様々なアクセント」がついていたり、「ダウンストロークなのに弱音」だったり、「アップストロークの際、アクセントだらけ」だったり、等々、フレディ・グルーバーシステムや、フリーグリップシステム、そしてスティックの「剛性コントロール」を実践できないと、ニュアンスをコピーできないドラマー達なのです。
この動画では、小野瀬が「あえてわかりやすく実演」していますので、それをヒントにして、もう一度チャレンジしてみて下さいね!



■STEP10 まとめ

 それではここで、冒頭で紹介した「小野瀬のジャズ演奏の動画」をもう一度ご覧下さい。

動画:JAZZバッキング
Jazzバッキングビデオ
★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 500Kbps 1.32MB)
動画がうまく見れない場合は…

この動画をよく見て、STEP 9の要領で、「剛性コントロール」を自分なりに分析してみて下さい。 わかりやすいように、わざと極端に色々な剛性を織りまぜてありますので、ここまでのことが本当に理解できたなら、分析ぐらいはできると思いますよ!

剛性コントロールと、そのメカニズムを理解しないで、ただグリップで「音が変わるらしい…」と取り組んでみても、実演奏には、ほんの少ししか生かせません。 ぜひ自分で何度も動画を見て研究し、実践してみてくださいね!


 ※最後に、これから「スティック剛性コントロール」にトライしようという方のために、注意点を挙げておきます。
  • 必ず“支点移動グリップ”である「フリーグリップ」をマスターしたあとに、剛性コントロールの練習を行って下さい。なぜなら、日本的奏法に見られる「一箇所に支点を作って握る」という動作を行った時点で、物理的にどうしても「普通剛性」にしかなりえないからです。
    日本的奏法のままで、「剛性のコントロールをやっている」と思い込んでいるドラマーも多いようですが、「クリーントーンである普通剛性にしかなり得ない奏法」の中で、いくら剛性コントロールを行っても、ドラムから「不安定音」や「ひずみ音」は引き出せません。
    超一流ドラマー達が行なっている剛性コントロールは、「不安定音」や「ひずみ音」を音楽表現のために積極利用するというものですから、まったく次元が異なります。

  • スティック剛性コントロールの練習は、スタジオのPA等を使って、必ず「大音量で曲をかけて行なう」ようにして下さい。ドラム単体では、剛性コントロールでサウンドを変えても、マスキング効果がないため、その違いがかなり分かりづらくなります。
    (今回の動画で音楽と一緒に演奏しているのも、剛性コントロールによるサウンドの違いを分かりやすくするためです。)

  • 「低剛性」はヘッドにスティックが当たった瞬間に、どれだけ指の接触面積を減らせるかが、カギとなります。
    ほとんどのドラマーが自分では脱力しているつもりでも、「普通剛性」か、「やや高剛性」になっているのですよ!
    ですので、「想像を絶するくらいの極端な脱力」ができないと、スティックと指の接触面積を減らし、低剛性にすることは不可能です。 この一番難しい「低剛性のスティックコントロール」ができるようになる事で、音色の幅が増え、サウンドをより多彩に操れるようになるのです。
    安易にできたつもりになってしまっては、何よりあなた自身のプレイの幅を狭くするという事に気付いてくださいね!


  • また、この剛性コントロールで最も注意してほしいのは、「スティックがヒットした瞬間の剛性をコントロールする」、という点です。 「ヒットした瞬間」は時間的にとても短いため、どうしても、振り上げや振り下ろし時の剛性をコントロールしてしまいがちです。 振り上げや、振り下ろし時の剛性をいくらコントロールしたところで、出音には反映されず、何の意味もなくなってしまいます。

  • つまり、スティック剛性コントロールは…
    1. 支点移動を可能とするフリーグリップ
    2. 様々な入射角度からヒットできるモーラー奏法
    3. マスキング
    …という3つの条件が揃っていないと、まず「練習自体」ができません。

    これらの条件を満たしていないのに、できたつもりになっている人の出音は、ただの強弱にしかなっていませんので注意して下さいね!

 1980年頃、現在の日本的奏法が発表される以前には、ポンタさん、青山純さん、山木秀夫さんを始め、日本でも大勢、世界に誇れるドラマーを生み出していた時代がありました。

 今、あなた達現代のドラマーがやるべきことは、その偉大な先輩ドラマーを超えることです。

 現代ドラマーに忘れてほしくないのは、音楽表現も奏法も、バディ・リッチやジェフ・ポーカロなど、偉大なる先人達が原点だということです。

 彼らが造りあげた「世界一優れた音楽表現のための奏法」は、現代ドラマー達に世界水準の表現力と、素晴らしい未来を与えてくれます!



またまた緊急報告!! 「ニセK's奏法」にご用心!

 「日本式モーラー奏法」どころか、「ショルダームーブ奏法」、「ボディショット奏法」、「指サスペンショングリップ」、「フリーグリップシステム」等、今までのドラミングアドバイスの奏法と内容を、あたかも前から知っていたかのように、実演できなくても、「全く別の言葉に置き換えて」レッスンを行うレッスンプロが増えてきているそうです。

 K's MUSICは、多くの「日本のドラマーの未来のため」に、ドラミングアドバイスでノウハウを公開しています。 それを「一部の人達のプライドを満たすための道具」とされてしまっては、結局一番損をするのは、全国のアマチュアドラマーさん達です。

 なぜなら、「K's MUSICの奏法」と、「日本的奏法」とでは、物理的原理が、かけ離れすぎているため、見た目だけを真似しても、実演奏に生かせるようにはならないからです。
 それどころか、ヘタをすると身体を壊しかねません。K's MUSICドラム人間科学の奏法には、人体力学を知らずに実践してしまうと、身体を壊しかねないものがたくさんあるのです。

 悲しい事ですが、今回の「スティック剛性コントロール」も、また彼らが「別の言葉に置き換えたレッスン」を行うようになってしまうかもしれません。
 アマチュアドラマーさん達の未来のために公開するはずのドラミングアドバイスが、そういう人達の行動で、逆にアマチュアドラマーさん達にとって、「マイナス!」になってしまうようであれば、ドラミングアドバイスを公開し続ける意味がありません。

 もしあなたが、ニセK's奏法と思われるレッスンをされるようなことがあった場合には、「その先生が本当にそれを実演奏に生かすことが出来ているかどうか」を、あなた自身が「厳しい目をもって確認」するようにして下さい。

 私達が独自のノウハウを公開することで「ニセK's奏法」が蔓延し、それが元でアマチュアドラマーさん達のマイナスになってしまうようであれば、今後のドラミングアドバイスの制作と公開は、悲しいことですが「中止」にしなくてはなりません。今後、K's MUSICがドラミングアドバイスを続けていけるかどうかは、全国のアマチュアドラマーさん達の意識次第です!

42. フリーグリップと、しゃっ骨&とう骨

(2004/02/15アップ。17修正)

 いきなりですが、まず次の動画をご覧下さい。

動画:デニス・チェンバース式
超高速シングルストローク

デニチェン式高速シングルストローク
★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 480Kbps 1.08MB)
動画がうまく見れない場合は…

 この動画の中で行われている32分音符の高速連打は、全てシングルストロークで行っています。スティックがほとんど振り上がっていないにも関わらず、パワーが出ているのがお分かりいただけるでしょうか?(あえてシングルストロークの時はリムショットを使用していません)

 この動画はK's MUSIC主宰の小野瀬健資が、デニス・チェンバースの肘から先にある、しゃっ骨、とう骨と、5本の手の骨の使い方を再現して演奏したものです。

 主宰の小野瀬は普段このようなドラミングは全くしませんが、ドラミングアドバイスの為にあえて再現してもらいました。

 ここで言う「再現」とは、見た目のフォームやラインを真似するというものではなく、体内再現、つまりは、骨や関節や腱の使い方、さらには重心位置等の体内で起こしている運動を再現化するという、極めて人体力学的な再現方法です。

 このような超高速シングルストロークを習得する場合、日本では、やれ手首のスナップ強化が必要だの、シングルストロークで使われる筋肉を鍛える事が必要などという、鍛錬系の発想で方法論が説かれていますが、その方法論でパワーとスピードを両立できたドラマーは果たして本当にいるのでしょうか?

 デニス・チェンバースも小野瀬も、ツライ鍛錬を積んで死ぬほど練習をして(笑)このようなプレイを可能にしたのでしょうか?

 デニス・チェンバースは、巨漢で筋力が相当強いから、このようなプレイが可能だと思いこんでいる人が多いようですが、実際は身長160センチほどのとても小柄な人です。(間近で彼を見たことがある人は、あまりのギャップにびっくりしませんでしたか?)

 彼の場合、13インチのスネアを中心にして、12インチのハイハット、メインタムは10インチはおろか8インチを使用することも多いので、ビデオ等では遠近感が狂って(笑)身体がとても大きく見えてしまうだけなのです。

 ちなみに小野瀬は「これはモーラー奏法の応用だから、筋肉や手首のスナップは全く関係ないよ~」と笑って、練習もせず、ほんの2テイクで撮影は終了しました。

 今回はデニスチェンバースの十八番フレーズのタネ明かしをしてしまって、彼には大変迷惑な話かもしれませんが(笑)、しゃっ骨&とう骨の動きを中心に、前回のフリーグリップの応用を解説していきたいと思います。

Q.モーラー奏法で均一なストロークは無理なんじゃないの?

A.モーラー奏法を身に付ける初歩の段階ではアクセントの入ったストロークから練習するのが効果的です。しかし、それだけではありません。全盛期にあったトニー・ウイリアムスなどは、高速シングルストロークやダブルストローク、シンバルワークに至るまで、すべてモーラー奏法で行っていたんですよ!

ただ、国内では実戦応用できる人が皆無に等しいため、モーラー奏法の初歩の段階の認識から抜け出せないのが現状のようです。そのため「モーラーでは必ずアクセントが入ってしまう」という認識が一般では多いようです。

ヒント:スティックのラインや見た目よりも、身体の内部、つまり骨や関節や腱などに目を向けよう!

 読み進める前にお願いですが、まだ前回のドラミングアドバイス「フリーグリップシステム」を読んでいない方は、必ず読んでから今回の内容を読み進めてくださいね!

今回のキーワードは「フリーグリップ・システム」における
肘から先の骨の使い方です。

■STEP1「前腕部って、ど~なってるの??」

 デニス・チェンバース式の高速シングルストロークを行うには、前腕部をどう使うかということが重要になってきます。

 あなたは前腕部の構造を正確に把握していますか?

前腕部の骨格構造を誤解していませんか?
骨が一本の前腕 骨が平行な前腕 骨が交差している前腕

 もしかして、今まで写真1や2のように誤解していませんでしたか? 前腕部には「しゃっ骨」と「とう骨」という2本の骨があり、あなたがスティックを持って構えただけで、その2本の骨は交差して、ねじれているのですよ!

つまり、日本国内で正しいとされている

スティックをまっすぐ振り下ろす奏法 = しゃっ骨・とう骨をねじって固定したまま叩く

ということがお分かりいただけると思います。

 ですから、その根もとである「ヒジ」もしくは、先端部である「手首」に物凄い負担がかかってくるのです! 逆に言えば、しゃっ骨・とう骨のねじりを固定させる筋肉を鍛えない限り、通常のプレイさえつらくなります。そのつらさを克服する為には、さらにつらさを伴う練習やトレーニングに膨大な時間を割かなければなりません。
(ドラムに必要な筋肉は日常生活では鍛えられない、と国内では正論立てられてしまうのも無理はないですね!!)

 このしゃっ骨・とう骨という二本の骨をねじって固定したまま動かしてしまっては、肘から先をリラックスさせることは絶対に出来ません。リラックスさせるためには、しゃっ骨・とう骨を固定せず、自由に開放してあげる事が必要なのです。
(もし、それでもあなたの先生が「真っ直ぐ叩け」と言うならば、その根拠を聞いてみてください。もしかしてその先生は宇宙人で前腕に骨が一本しかないのかもしれませんね(笑))

Q.骨格図等を見ると2本の骨は平行になっているけど?

A.その骨格図の「手」はどうなっていますか? 手の平側が前になっていませんか? 手の平が前になっているのなら2本の骨は平行で良いのです。逆に、手の甲が前になっている場合は2本の骨が交差しているはずです。

 私たち人間は、しゃっ骨・とう骨という2本の骨を交差させなければ、手の甲を上向きには出来ません。ぜひ確認してみて下さい。



●ここで実際に、ご自身の腕を触りながら、しゃっ骨・とう骨の存在と、その位置関係を確認してみて下さい。

 まずここでは、小指側につながっているのが「しゃっ骨」、親指・人差し指側につながっているのが「とう骨」という事を覚えてくださいね。

手の平を上にしたり、手の甲を上にしたりしてみて下さい。
貴方のしゃっ骨と、とう骨は、写真のように回転を繰り返すはずです。
42_04.jpg ←→

=しゃっ骨
=とう骨
42_05.jpg
42_06.jpg 42_07.jpg 42_08.jpg

<注意!!>この時注意してほしいのが、必ず、しゃっ骨を軸として回転させるということです。これを身に付けるにあたって、まずは上の写真のようにテーブルの上にヒジまで乗せて、小指側のしゃっ骨を軸にして反転させる練習をしてみましょう。

これを親指・人差し指側の、とう骨側から外側へ押す動きと勘違いしている教本等をよく見かけます。(例えばスネアとフロアタムの往復移動等)こうしてしまうと、上腕骨との連動がなくなり、ドラムをプレイするどころではありません。(なにより、痛いですよ!)

 あなたの前腕は、しゃっ骨と、とう骨という2本の骨が存在しているおかげで、回転運動を行う事が出来るのです! 我々人間は、缶ジュースを飲んだり、箸やフォークで食べ物を口に運ぶ時など、なにげない日常の生活の中で誰でもしゃっ骨を軸に、とう骨を回転させて生活しているのですよ!

■人体力学トリビア:しゃっ骨とう骨・ねじりと開放

空手やボクシングのパンチでは、しゃっ骨・とう骨を平行にして構え、当てる瞬間にねじる事で大きな打撃力を得られます。一方、空手の手刀は、しゃっ骨・とう骨をねじって力を溜め、当てる瞬間に開放する(平行に戻す)事で大きな打撃力を得ます。他にも、野球のバッティングやゴルフのスイング、卓球のラケットを振る動作にも、しゃっ骨・とう骨の「ねじりと開放」による力が利用されているのです。

しゃっ骨・とう骨を平行にしたまま、あるいは、ねじったままで大きな力を出そうとする場合、ゆっくりと大きな力を出すことは出来ますが、瞬間的に大きな力を出す事は出来ません。なぜなら、それは人体のしくみ的に絶対不可能なことなのだからです。


■STEP2 スティックをもってみましょう!

 次に、しゃっ骨・とう骨の回転でドラミングを行うための、具体的なグリップについてです。

 次の写真をご覧下さい


よく教則本等で見られるグリップフリーグリップ
フレンチグリップ
(手の平側から撮影)
42_09.jpg 42_10.jpg
※ちなみにバディ・リッチは、このグリップを
アメリカン、ジャーマン、逆手にも使います
アメリカングリップ 41_19.jpg 41_16.jpg
ジャーマングリップ 41_20.jpg 41_17.jpg
特徴

骨格を考えず、ただ腕のラインに真っすぐにするため、手首が不自然に曲がってしまい、回転運動は不可能になる。

しゃっ骨・とう骨の回転は、しゃっ骨が軸となるため、小指側を真っすぐにする。

フリーグリップと骨の関係は以下の通りです。

フレンチグリップ アメリカングリップ ジャーマングリップ
42_15.jpg 42_16.jpg 42_17.jpg

 けっして、これらのグリップを“難しい”グリップと思わないで下さい。なぜなら、力を抜いて手首を自然体にしてスティックを持てば、結果的に、こういうグリップになるのですから。

 難しいと思うのは、すでに日本の多くのドラマーが間違った方法に毒されてしまっているからではないでしょうか? まずは今までの間違った先入観を捨て去りましょう!

日本的奏法にご用心
この考え方は、絶対に間違っています!!
人間の手腕はパワーショベルとは違います!
あなたはロボット? ショベルカー

 まずは、このような考え方を改めることから始めて下さい。人間はロボットではありません。もっと複雑な構造をしているからこそ、人間らしい、しなやかで優しい動きが出来るのですよ! アームショット、リストショット、フィンガーショットなどのように、別々に分けて考えられないのです!

 繰り返しになりますが、日本的奏法のように、ひじの屈伸運動で叩いてしまっては、しゃっ骨・とう骨を利用する事もできませんよ。

Q.どうして上の図と写真のように考えてはいけないの?

A.物の道理として、支点を作ってある場所(打面)に力を加えると、その「反作用」で、支点にも「同じ力」が必ずはね返ってきます。ですから機械工学などでは支点箇所を増やして構造を複雑にしてまで「反作用によって起こる反発力を分散させる技術」が常識として使われています。

高速でピストンが上下動する自動車等のエンジンでは、エンジン内部の支点箇所が少なくなってしまうとパワーが上がりません。F1に代表されるスピードを競うレーシングカーでは、エンジンもサスペンションも支点箇所を増やして慣性の影響を受けなくさせる技術が当然として使われています。しかし、パワーショベルのような支点箇所が少ない機械は、ゆっくりと大きな力は出せても、素早く動かす事は絶対に不可能です。

 さて、しゃっ骨・とう骨の回転で叩くグリップの代表例を上げましたが、ここで思い出して欲しいのが、前回の内容にあった、「スティックと手にかかる慣性モーメントを最大限利用するためには、ワンモーションの中でも(一打単位でさえ!)手の形は必ず変化する必要がある」ということです。

 ですので、今回紹介した写真の形を死守(?)して叩くなどという勘違いは、けっしてしないで下さいね!

こんな時代だからこそ要注意!

 昨今、デイヴ・ウェックルやスティーヴ・スミスに続いて、パット・トーピーもモーラー奏法を取り入れた事もあり、モーラー奏法やフレディ・グルーバー・システムが日本国内でもさらに注目を集めて来ているのは大変喜ばしいことですが、ただ安易にスティックのライン等を教えている、勘違いな“日本式(?)モーラー”を見かけるので、充分注意して下さいね!

最近K's MUSICに入校された生徒さんからだけでも、この3例の報告を受けています!


ケース1:腕を開いているだけで、上腕骨・しゃっ骨・とう骨の回転が見られない“日本式モーラー奏法”
case1_a.jpg case1_b.jpg case1_c.jpg case1_d.jpg case1_e.jpg case1_a.jpg

 しゃっ骨の回転運動がないため、4分音符しか叩けなくなってしまう例。ポンタさんの「8の字スティックワーク」を誤解してしまうと、こうなるので要注意!! ポンタさんの奏法は、そんなに甘いものではありません!


ケース2:フレンチグリップから、いきなりジャーマングリップでヒットしている“日本式モーラー奏法”
case2_a.jpg case2_b.jpg case2_c.jpg case2_d.jpg case2_e.jpg case2_f.jpg

 しゃっ骨を軸として前腕部が回転していないため、スピードばかりかパワーまでダウンしてしまう本末転倒な例。デイヴ・ウェックルの教則ビデオを誤解して練習すると、こうなるので要注意!!


ケース3:手首→ヒジ→肩関節という順番で身体動作を行なう“日本式モーラー奏法”
case3_a.jpg case3_b.jpg case3_c.jpg case3_b.jpg case3_a.jpg

 ダンス要素の強いコースタイルのモーラー奏法を、そのまま安直にドラミングに応用しようとした例。手首をひねった際に、相当な負担がかかってしまうので要注意!!


 この数年だけで、これだけの日本式モーラー奏法が生まれてしまいました(涙)。最近当スクールに入校された生徒さんからだけでも、このような報告を頂いているので実際にはもっと沢山の日本式モーラーが生み出されてしまっている危険性がありますので、注意して下さい!

 また、レッスンプロの中には、モーラーがわからなかったり、自分が実演出来ないのを「君にはまだ早い!」という一言で隠す人もいるそうで、ドラミング無料相談にSOSも殺到しています。

 だまされずに、自分の目と耳で判断して下さいね。


■STEP3 バディ・リッチの秘密

 それでは、ここで次の動画をご覧下さい。

動画:バディ・リッチのシングルストローク
バディ・リッチのシングルストローク
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(MPEG-1 480Kbps 2.10MB)
動画がうまく見れない場合は…
ちょこっと言い訳(笑)

デニス・チェンバースの動きは身体理論的に見て、まだ曖昧な部分が多いため再現しやすいですが、バディ・リッチはあまりにも身体理論の理屈にかない過ぎていて、小野瀬でも100%は再現しきれないのです。m(_ _;m


 これはバディ・リッチが、彼の楽団の名曲『ウエストサイド・ストーリー』の後半部に必ず行う、バディ・リッチ十八番の、全編シングルストロークによるドラムソロの再現です。

 このシングルストロークに隠された秘密に気付けましたか?

 フレンチ・アメリカン・ジャーマンと一般的に言われる、どのグリップで演奏しているように見えたでしょうか?(日本的奏法の、フレンチ・アメリカン・ジャーマンで考えないで下さいね!)

 答えを言ってしまうと「すべて」です。振り上げと振り下げで、グリップは多種多様に変化するのです。

 ですので、本来はフレンチ・アメリカン・ジャーマンという考え自体を持たない方が良いのですが、わかりやすく説明するために、便宜上使う事とします。

人体力学トリビア2:「体内再現」とは!?

「体内再現」とは、人体力学に基づいて、骨や関節や腱、内臓等、身体の“内部”にあるものの動きを再現する事を言いますが、「意味不明」だという方のために、分かりやすく説明しましょう。

例えば、「肩」と「ヒジ」と「手首」を同時に動かそうとした場合、すべてを完全に同時に動かすことは、物理上不可能です。では、それをどういう順番で動かすのか? また、ヒジを伸ばす時に、重力で伸びるのか、円運動によって生じる回転反動力で伸びるのか、はたまた筋肉で伸ばすのか…etc...を探り、再現することです。

※戦国時代、本当に命を落とす危険性と隣り合わせの中で伝わって来た「人体力学」とは、単に「見た目」や「型」を追求するものではなく、骨や関節や腱、内臓の状態、重心位置等を達人と同じにすることで、人体の可能性を100%引き出すためのものでした。武道に限らず、スポーツや、もちろんドラムにおいても「達人」と言われる人の動きは、本人が意識している、いないに関わらず、必ずと言って良いほど人体力学的に理にかなったものになっています。

 次の表をご覧下さい。

しゃっ骨・とう骨の回転とグリップの変化
しゃっ骨・とう骨の回転とグリップの変化

 このように、しゃっ骨・とう骨の回転を使う事で、グリップは多種多様に変化するのです。そしてバディ・リッチは、その原理を使っているために、スティックワークが見た目には派手にならざるを得ないのです。

 しかし、ここまで説明をすれば、彼のスティックワークがけっしてショーマンシップなどではなく、実用性重視であることが分かって頂けたのではないでしょうか?

Q.デイヴ・ウェックルが教則ビデオの中でフレンチ→ジャーマンと説明しているけど?

A.もう一度、ビデオをよくご覧になって下さい。

フレンチ(振り上げ) → アメリカン(ヒット時) → ジャーマン(ヒット後)

のようになっていませんか? 回転しきってからヒットするのではなく、その途中でヒットすることに意味があるのですよ!

 また、答えを言ってしまうと一番最初の動画のデニス・チェンバースのシングルストロークは、しゃっ骨を軸にして、とう骨を小刻みに回転させて行っているのですよ!

 高校の物理で「角運動量保存の法則」を習った人が多いと思いますが、デニス・チェンバースはこの物理を利用して高速スティックワークを行っているに過ぎません。

 小刻みに速く動かす場合も、大きくゆっくり動かす場合も、実は物理的なエネルギーは同じなのですよ!

■STEP4 実際のプレイに生かしましょう!

 では次の「フレンチ」「アメリカン」「ジャーマン」というすべてのグリップを用いた動画をご覧下さい。

動画:しゃっ骨・とう骨回転利用の実用例
しゃっ骨とう骨回転実用奏法
★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 480Kbps 850KB)
動画がうまく見れない場合は…

 この動画は、あえて全編ダブルストロークのみを使ったソロなのですが、その事にお気付き頂けたでしょうか?

 通常、このようなドラムフレーズはあり得ませんが、グリップの変化が分かりやすいように、あえて小野瀬に全編ダブルストロークで実演してもらいました。

 わざと大げさに実演していますので、どのような回転で行われているか、何度も見て探ってみて下さいね! 今までの内容をしっかり理解すれば、この動画から実際のプレイで使うヒントをたくさん得られるはずです。「自分でわかる」というのは、マスターする上で何より大切な事だと思います。

 ただ読むだけで終わっていては、あなた自身のプレイに反映される日は永遠にやってきませんよ!

Q.手首をねじって叩くと痛いのですが・・・

A.しゃっ骨を軸にして、とう骨を回転させる際に、手首の方から回転させる事も確かに可能ですが、それでは身体に負担がかかり、腱鞘炎になってしまいますので注意が必要です。手首をねじって叩くと身体が痛い等と思っている人は、このパターンです。

しゃっ骨・とう骨を回転させる際には、もっと身体の根元の部分であるヒジの方から動かすようにしてください。その結果、手首がねじれて見えるのです。

< ま と め >

 いかがでしたでしょうか?

 しゃっ骨・とう骨という2本の骨の存在を今まで知らなかったという方も意外に多かったのではないでしょうか?

 けっして「こう叩かなければならない」というつもりはありませんが、身体がこのように出来ている以上、それを素直に認めて、更にご自身のプレイの可能性を広げてみては?とK's MUSICは考えます。

 それでは最後に、これから練習しようという方への注意点を挙げておきますので、参考にしてみて下さい。

― 注 意 点 ―

  1. けっしてスティックをしっかり持たずに行って下さい。
    あくまでフリーグリップが基本となっている事を忘れないで下さい。

  2. あくまでしゃっ骨を中心として・とう骨の回転で行って下さい。
    無理に手首をねじってグリップを変えるのとは全く違います。

  3. 日本的奏法と混ぜないで下さい。(とても危険です!)
    ヒジの屈伸に頼った日本的奏法と混同してしまうと叩くどころではなくなってしまいます。ショルダームーヴ奏法やボディショット奏法と合わせて行うことも必要です。
    (この理由については、ここをクリック!)

 以上の点に注意してしゃっ骨・とう骨の役割を把握し、「フリーグリップ・システム」へと応用して下さい。

 万が一練習していて痛くなった場合は、間違った動かし方をしているか脱力出来ていないのが原因ですので、すぐに練習をやめて下さい。無理に動かして身体を痛めたとしてもK's MUSICでは一切責任を負いかねますのでご了承下さい。

2005年12月15日

41. フリーグリップシステム

(2003/12/17アップ。12/29動画を改良。2004/02/21書式を改良)

 多くのドラマーが一番、分析、研究しているのがグリップと言ってもいいほど、教則本や教則ビデオ、セミナー記事等で必ず触れられる項目となっています。前回までのショルダームーヴ奏法やボディショット等の胴体奏法よりも、グリップについて分析、研究している人の方が多いのではないでしょうか?

 そこで、今回は海外の超一流ドラマー達が共通して行う「フリーグリップシステム」について解説していきたいと思います。

この、フリーグリップシステムのキーワードは、手指にかかる「慣性力」です!!

■STEP1 支点・力点・作用点

 グリップのセミナー記事でもよく言われる「支点」という考え方がありますが、実際のところはどうなっているのでしょうか? まずは日本的グリップとフリーグリップシステムの支点・力点・作用点を比較してみましょう。

日本的グリップの、振りおろし中とショット時における手の形
日本的グリップ振りおろし中 日本的グリップショット時
日本的奏法では親指と人指し指を固定して、しっかりとした支点を作り、中指・薬指・小指で握りこむ動きが目立ちます。

フリーグリップの、振りおろし中とショット時における手の形
フリーグリップ振り下ろし中 フリーグリップショット時
フリーグリップシステムでは、通常は支点となるはずの親指と人指し指自体も動いているのが特徴です。

 「ホントかよ!?」と思ってしまった人も多いかもしれませんが、皆さんもすでに海外の超一流ドラマーのビデオ等で、目にしてるはずですよ!!

 それでは、実際に日本的グリップとフリーグリップのストロークを、次の動画でご覧下さい。特に注目して頂きたいのが、親指と人指し指(もしくは中指)の使い方の違いです。

動画:日本的グリップのストロークと
フリーグリップのストロークの違い

日本的グリップとフリーグリップによるストロークの違い
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動画がうまく見れない場合は…

 いかがですか? 日本的グリップでは親指と人指し指を固定して、中指・薬指・小指で握りこむ動きが目立ちますが、フリーグリップシステムは支点となるはずの親指と人指し指自体も動いていますよね。ということは、親指と人指し指は支点ではないということになります。(この動きを、手首のスナップと勘違いしてしまっているセミナー記事や教則本をよく見かけます。また「小指でスティックを巻き込む」というようなグリップとも、フリーグリップは全く別物です。勘違いなさらずに読み進めて下さいね!)

日本的グリップとフリーグリップの「支点・力点・作用点」の違い
日本的グリップの場合
日本的グリップの支点・力点・作用点
フリーグリップの場合
フリーグリップの支点・力点・作用点
「親指と人差し指(もしくは中指)を支点」にというのは一般的によく言われている考え方です。 フリーグリップシステムには明確な支点は存在せず、慣性力によって支点位置は支点ゾーン内で刻々と変化します。

フリーグリップでは、主に印の関節が慣性力によって動くのが特徴です。

特に、親指の根元の関節が動くことが重要となります。

(注:×印は「親指の根元」ではありません!)
親指根元関節(手) 親指根元関節(骨)

 え!?と思われた方も多いのではないでしょうか? しかしこれは紛れもない事実なのです。

■STEP2 定形を持たないフリーグリップシステム

 どうしてこのような勘違いした日本のグリップが生まれてしまったのでしょうか?

 ではここで質問ですが、みなさんがビデオ等でグリップを確認する時、「どの瞬間で判断」していますか?

 「打面をヒットした瞬間」は見えにくいせいか(1コマが1/30秒のビデオ等では映像がブレてしまい、確認は不可能です)「振り上げた瞬間」や「スティックがリバウンドし終わった瞬間」を静止画にして、グリップを判断する人がほとんどではないですか?

 事実、セミナーや教則本等でも、この瞬間の見え方にもとづいて「誰それ風グリップ」というふうに解説されているのを、本当によく見かけます。

「実はここに大きな落とし穴があるのです」

 振り上げた瞬間やリバウンドし終わった瞬間のグリップで判断してしまうのは、そもそも「ワンモーションの中でグリップの形が変化しない」という思い込みがあるからではないでしょうか?

(ここで言う「グリップの変化」とは「叩く瞬間に握る」というような日本的奏法とは全く異なります)

ここで、この動画をご覧下さい

動画:脱力した腕を振ると
手の形は自然に変化する

脱力した腕を振ると…
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動画がうまく見れない場合は…

 動画のように、完全脱力して腕を上下させると、腕を振り上げた時と振り下ろした時で、自然に手の形が変化します。(肘の屈伸を使ったり、自分で手首を動かしてしまうと、動画のようにはならないので、要注意!)これにスティックを添えると、最初の動画の後半部のような動きになるわけです。

 海外の超一流ドラマー達のグリップは、このように振り上げた時と振り下ろした時で変化する「フリーグリップシステム」が基本になっています。

 いくら静止画にしてグリップを確認しても、動きの中でグリップが変化するという発想がないかぎり、超一流ドラマー達のグリップ原理は見えてこないのです。
(ジェフ・ポーカロやヴィニー・カリウタなどのグリップが、スティックを握っているというよりも「指の先だけでつまんでいる」ように、または「手に吸いついている」ように見えたという方は、なかなかスルドイですよ!)

 実は彼らのグリップには、定まった支点箇所は一切ありません。なぜなら、明確な支点箇所を作ることはリバウンドの力を自身の指の力で妨げるばかりか、慣性力学の法則にも反するために、必ず力む結果となるからです。

 ヒットの際にスティックと手にかかる慣性モーメントを最大限利用するためには、ワンモーションの中でも(一打単位でさえ!)手の形は必ず変化する必要があるのです。

 物の道理として、支点を作ってある場所(打面)に力を加えると、その「反作用」で、支点にも「同じ力」が必ずはね返ってきます。ですから機械工学などでは支点箇所を増やして構造を複雑にしてまで「反作用によって起こる反発力を分散させる技術」が常識として使われています。

 高速でピストンが上下動する自動車等のエンジンでは、エンジン内部の支点個所が少なくなってしまうとパワーが上がりません。F1に代表されるスピードを競うレーシングカーでは、エンジンもサスペンションも支点個所を増やして慣性の影響を受けなくさせる技術が当然として使われています。

 しかし、パワーショベルのような支点個所が少ない機械は、ゆっくりと大きな力は出せても、素早く動かす事は絶対に不可能です。

 超一流ドラマー達は、スティックを振り上げた時と振り下ろした時で「支点箇所がそれぞれ異なり、持ち方(グリップ)まで変化」しています。つまり「その時々の振り幅やスピード」によって起こる慣性力だけに任せた支点移動を常に繰り返してスティッキングを行なっているわけです。(彼らがもし、明確な支点個所を設けてしまったら、実力の半分も発揮できないのは、物理上明らかです)

 そして、この特定の支点箇所を作らず、慣性力にまかせるグリップを行なう上で、最も重要となるのが「極端な脱力」です。通常は、いくら脱力といってもある程度の筋肉の緊張は必要だと考えられがちですが、フリーグリップでは「腕全体の重さ」も「パワーとして生かす」ため、ほんの少しの緊張もあってはならないのです。

5年以上も前の話になりますが、このレッスンを日本のトップスタジオドラマーに対して行った時
そのドラマーから
「今以上に脱力したら、スティックを持つことも出来ません!」
という言葉が飛び出したほどです。

(後に、この方が業界内にK's MUSICの話を広めて下さったおかげで、何人もの有名プロがK's MUSICに入校されました。大変感謝しております。)

 日本屈指のトップドラマーでさえ「これ以上の脱力なんて無理なんじゃないだろうか?」と最初は思ってしまうほどの脱力が必要になるのですよ!! ですから、みなさんがフリーグリップの有利性を生かしきるためには、想像を絶するくらいの脱力が必要かもしれませんね!

■STEP3 日本的グリップと、フリーグリップシステム

 もうお分かりだとは思いますが、脱力して腕を上げ下げした場合、振り下ろした時の指の形は伸びていますよね?

脱力した手 オープングリップ
フリーグリップシステムにおいては、ショットの瞬間は指が伸びているのが基本となります

 この「ショットの瞬間に指が伸びる」という感覚は、今まで日本的奏法で練習を積んで来てしまった人ほど、違和感を感じてしまうでしょう。なぜなら、日本的奏法は、叩く瞬間に「指を握る」もしくは、振り上げたままの指の形をキープして手首で叩く(日本的リバウンド奏法?)のが基本となっているからです。

 この事に代表されるように、フリーグリップと日本的グリップでは、共通点は全く存在しません。ですので、今からフリーグリップを習得しようという方は「全く別のグリップ」と、しっかり認識した上で練習する事をおすすめします。

Q.指を離すとスティックが飛んで行ってしまうのですが?

A.フリーグリップの練習段階では、スティックが飛んで行くのを何度も経験しながら、脱力の感覚を覚えていくのが有効です。(デイヴ・ウェックルも奏法改革後は「調子の良い時ほどスティックが飛んでいってしまう」と言っていますね)

ただし、スティックが飛ぶ方向に注意して下さい。従来の日本的奏法にみられる「ヒジの屈伸」主体のストロークで指を離すと、力が前方向にかかるため、スティックは前に飛んで行きますが、「フリーグリップ」に有効なギャザリングモーション等に見られる上下運動+回転運動の動きでは、スティックは下方向に飛んで行こうとします。

すると、下にはドラムの打面があるので「スティックが跳ね返って再び手の中に戻ってくる」のです。(実際には手からスティックが離れるわけではありませんが、完全脱力が身に付いてくると、こういうイメージになります)ですから、スティックが下方向に飛んで行くのはOKです。

ともあれ、グリップといえども、身体の動きと切り離して考えることは不可能です。フリーグリップをマスターするためには、ストロークを始めとする、身体動作全体を変える必要があります。

 以下、フリーグリップと、従来の日本的奏法の特徴を、箇条書きで挙げてみますので、練習する際の参考にして下さい。

フリーグリップシステム
■見た目の違い
●スティックを振り上げた時に指が曲がり、振り下ろした時に指が伸びるのが基本。
●振り上げた時と、振り下ろした時で、常に不定形にグリップが変化している。
●日本的グリップの支点である親指や人差し指(中指)等も常に動いている。

■利点
●明確な支点が存在しないため、力を必要としない。
●スティックの剛性コントロールが可能なため、遠近感のあるサウンド表現が可能。
●フロアタム等、張力の弱い楽器でも、大音圧でのルーディメンツが可能。
●ショット時の反動を、手の中にある全ての関節に分散するため、マメが出来たり腱鞘炎になったり等のダメージがない。

■欠点
●日本国内では、ポンタさん・山木秀夫さんと、K's MUSICのレッスン生以外でフリーグリップが出来る人が殆どいないため、身近には手本となるドラマーがいない!
●手に反動が伝わりづらく、ショットの「手ごたえ」が体感しずらいので、マスターするのが大変。
●筋肉を殆ど使わないので、筋肉の感覚を頼りに練習する事が出来ない。そのため習得には繊細な身体感覚が必要。
●日本的グリップでは支点とされている指も慣性力によって常に動き続けるため、極端な脱力が必要。脱力出来ていないと、まったく別のものになってしまう。
●スティックの振り幅が10cmや15cmでもフォルテシモの音圧・音量が出せてしまうため、見た目的には、パワーのないドラマーと勘違いされてしまうかも?
従来の日本的グリップ
■見た目の違い
●スティックを振り上げた時に指を伸ばし、そのまま振り下ろすか、振り下ろした時に握るのが基本。
●基本的に、指を閉じるか開くかの、2種類の形しかない。
●親指と人差し指(中指)の支点位置は固定されて動かない。

■利点
●手の平の触覚や筋感覚を頼りにできるため、とてもマスターしやすい。
●音量の小さいタップストロークなどに、とても適している。
●音符の間隔があいている(4分音符など)時に、タイミングをとりやすい。
●振り上げるスティックの高さ=パワーとなるため、本当はパワーがなくても、見た目的にはパワーのあるドラマーに感じさせる事が出来るかも?

■欠点
●ショットの反動を、スティックの支点位置と手首の2箇所だけで受け止めるため、長年の間に支点位置にはタコが出来やすく、手首は腱鞘炎になりやすい。
●明確な支点が存在するため、大きく振り上げると、スティックの力が前方向に流れてしまう。結果、速いスピードではパワーが極端に下がる。
●遠心力を利用しようとすればするほど、それと同じだけの求心力が支点位置に発生してしまう。そのため、支点位置を強く握らざるを得ず、摩擦熱によって指に水ぶくれ等のダメージをきたしやすい。
●常にスティックの剛性が高くなり、アクセント以外で音色変化がなく、遠近感に乏しい平坦な演奏になってしまいがち。
●フロアタム等、張力の弱い楽器でのダブルストローク等でタッチがつぶれたり、極端にパワーが落ちる。

■STEP4 完全脱力や効果的な手の使い方のための予備知識

 次に、スティックを持つ前に自分の手の構造について再確認しておきましょう。(以前の一言レッスンと内容が重複しますが、フリーグリップシステムを行う上で非常に大切な事ですので、もう一度しっかり把握してください)

 あなたの手には5本の指がありますね?では各指の長さはどこからどこまでですか?

 答えは「図1」です。

手がこの形の時 実はこうなってます
開いた手 開いた手の骨格
「手のひら」の中にある骨の長さに注目!

 いかがですか? おそらくあなたが考えていたよりもはるかに長くないですか? 実は「手」や「手のひら」は生活や文化的に存在するだけで、骨格的にはどこにも存在しないのです。「手首から先」にあるものは「指」だけです。

 指先の骨はもちろん、手のひらの中に隠されている骨も私達は動かすことができます。手首を曲げる、ということは「指の根元を曲げている」ということがおわかり頂けたでしょうか?

 次は手首を実際に動かしてみましょう。あなたの手首は上下左右や回転などあらゆる方向に動かせますね? しかしスティックを持つと「ドアのちょうつがい」みたいにしか動かせなくなる人が大勢います。

腕の筋肉

 手首をドアのちょうつがいのように何度も繰り返してムリヤリ動かすのは大変な苦労です。人体のしくみから見てもとても不自然です。

 だって手首を動かしているのは『らせん状にからみあった筋肉構造』なんですよ!(図2)。

 もしあなたの指や手首が「本当にちょうつがいみたいにしか動かなくなってしまったら…」と想像してみて下さい。とっても生活しづらいですよね?

関節がちょうつがい?

自然体の手

 今度は、テーブルの上などにリラックスした手を置いてみましょう。左の「画像A」のようになっていますね? これが自然体の手首の形です。

 次は右の「画像B」みたいに手首を外側に曲げたポジションにしてみましょう。そしてその形のまま手首を動かしてみてください。

 どうでしょうか? すごく不自然ですよね!? (国内のセミナー記事では「自然な形で…」とは言っているものの、なぜかスティックを持った瞬間にこの形になっています)

不自然な手

 この形をとってしまうだけで筋肉に緊張が走り、脱力をする事は出来ません。もちろん、脱力が大前提となるフリーグリップシステムを行う事は絶対不可能です。

自然体の手 自然体のアメリカングリップ 自然体のジャーマングリップ
自然体の手 自然体グリップA 自然体グリップG

不自然な手 日本的アメリカングリップ 日本的ジャーマングリップ
不自然な手 不自然グリップA 不自然グリップG

 自然な形でスティックを持つという本当の意味は「手の形に合わせてスティックを持つ」ということではないでしょうか?

 よくよく考えると当たり前の事なのですが、「ドラムを叩く」「スティックを持つ」と思った瞬間に、不自然な形をとる(とってしまう)ドラマーが非常に多いようです。
(国内のセミナー記事や教則本等で紹介されているグリップには、不自然な形を教えているものが、とても多く出まわっている影響かもしれませんね(T-T))

■STEP5 まとめ

 いかがでしたか? 今回は超一流ドラマー達と同じグリップをマスターする上での最初のステップとも言えるフリーグリップシステムについて解説しましたが、最後に、なぜK's MUISCがフリーグリップをここまで推奨するかという、その重要な理由について書きましょう。

 ここでは、自分に正直に問いただしてみて下さい。

 メチャクチャ速いフレーズや、長時間のフルパワーが続くとき、楽に出来ていますか? 本当は「ちょっと苦しい」「ちょっとツライ」と感じているのではないですか?

 そのとき、なぜ、苦しいのか、ツライと感じるのか、その理由について考えた事はありますか?

最も簡単に小学校の「理科」で考えてみましょう。

日本的グリップと奏法では、スティックの先端に、まず遠心力をかけます。

すると、スティックを持っている支点部分に、
遠心力と同等のエネルギーの「求心力」が必要となります。
(「求心力」が無ければスティックは前方に飛んで行ってしまいます)

そこで、支点部分に指で圧力をかけて求心力を発生させます。

圧力をかけてスティックを振ることで、支点部分の皮膚に摩擦熱が発生します。
その熱量は遠心力のエネルギーに比例し、強く叩けば叩くほど熱量は高くなり、
低温やけどのような状態になって、皮膚に水泡をおこす事もあります。
(小さい頃鉄棒で遊んで手の皮が剥けた事がありませんか?それと同じです)

摩擦によって発生した熱エネルギーが、スティックにかかる遠心力に対し、ブレーキの
役割をしてしまう
為、手首や腕を使ってさらに大きな遠心力をかける必要にせまられます。

最初に戻る(悪循環)

 本来なら、エネルギーは、すべてドラムを鳴らすために使われるべきなのですが、日本的奏法では、そのエネルギーの大部分が、自分自身の身体に反動として返って来てしまうのです。

 よくよく考えてみれば、スティックはとても軽いものです。片方のスティックで携帯電話の約半分という軽さです。その、軽い軽い棒切れを動かすために、やれ手首のスナップだの、筋肉を鍛えろだのと言うのは、おかしな話だと思いませんか?

つまり、貴方がスピードフレーズやフルパワー演奏で大なり小なり苦しく感じてしまうのは、
自分自身が作り出してしまった慣性モーメントのエネルギーを
自分自身で受け止めなければならないために、苦しく感じているのですよ!

 せっかく発生したエネルギーを、音楽演奏のためには利用できないばかりか、貴方は「自分自身が作り出してしまったエネルギーによって苦しんでいる」という事なのです。

 それに対して、超一流ドラマー達が実演奏で使っている「フリーグリップ」は、慣性力までをも味方にして演奏するという、身体にとっての究極の「省エネ奏法」なのです。

 では最後に、日本的グリップとフリーグリップシステムのパワーの差を動画でご覧下さい。

 ボルトがガタつく寸前にチューニングされた、超ローピッチなフロアタムでの実演です。

動画:日本的グリップと
フリーグリップのパワーの差

実演:小野瀬健資
フロアタムでルーディメンツ
★画像をクリックして下さい★
(MPEG-1 500Kbps 1.85MB)
動画がうまく見れない場合は…

 いかがですか? フリーグリップシステムを使えば、通常ではあり得ないほどのローピッチのフロアタムでも大音圧で演奏することも可能なのです。

 さて、超一流ドラマー達のグリップの「基本」は、意外な(!)所にありませんでしたか?

 今回はフリーグリップシステムの初歩の説明にとどまりますが、支点移動を繰り返すわけですから、多種多様な応用グリップが存在します。(今回の動画も多少応用を効かせています)応用グリップに関しては、今後のドラミングアドバイスで詳しく説明していこうと思います。(繰り返しになりますが、グリップといえども身体の仕組みと切り離して考える事は出来ません)

40. ボディショット奏法

(2003/08/12アップ。12/29動画ファイル関連を改良。2004/02/29微改良)

 前回の「ショルダームーヴ奏法」では、胴体を有効利用する奏法の中でも比較的分かりやすい「肩」を使った奏法の原理と意味を解説しました。今回は「胴体奏法シリーズ第2弾」として「骨盤」や「股関節」の動きを利用した奏法を紹介します。

 さて、本題に入る前に、お願いです。前回、海外の超一流ドラマーのライブ演奏ビデオ等を見るときに「音を消して」見るという「実験」をお願いしましたが、実際に試して下さいましたか?

 くどいようですが、「目でスティックや手首の動きを追う」見方はとりあえず止めて、スティックや手首より「指」に、指よりも「ヒジ」に、ヒジよりも「肩」に、更には今回のテーマである骨盤(お尻や腰)をよぉ~く観察してください!

 なぜなら、ここから先に書かれている事は、ご自身の目でビデオを見直して、海外の超一流ドラマー達が確かにその動きを行っているのを確認しない限り、ほとんどの日本人ドラマーには絶対に信じられない話だと思うからです。

 ご面倒でも、この先を読む前に、「お尻や腰」に注目してビデオを見直してみて下さい。ビデオを見もせずに「信じられない」と言ってしまっては、なにより貴方自身が損をする事になってしまいますよ!

(注:教則ビデオ等の“レクチャー場面”ではなく、あくまでも“実演奏の際の身体の動き”を見て下さい)

■STEP1 ビデオを見てから(あるいは見ながら)読んで下さい。

 さあ、あなたの好きな海外の超一流ドラマー達のドラミング中のお尻や腰は、どのように動いていましたか?微動だにせず、日本で言うところの「正しい姿勢」で叩いていたドラマーはその中にいましたか? いませんよね(笑)

 実際には、表現やテクニックが高度になればなるほど、また、大音量になればなるほど、お尻や腰が動いていたと思います。これは彼らが、骨盤を動かす事でスティックワークを行う「ボディショット」という奏法によって演奏を行っている証拠でもあるのです。

Q.黒人のドラマーは背筋をピンと伸ばしているけど?

A.黒人や女性は骨盤の基本位置が前傾している人が多いため腰椎が前に押し出され、結果として「背筋をピンと伸ばした正しい姿勢」で演奏しているように見えてしまいます。

 けれども、「背筋を伸ばす」代表選手のように言われるオマー・ハキムもボディショットを多用しますし、その時にはしっかり骨盤が動いて背中も丸まっています。ビデオをもっともっと細かくチェックしてみてください。

 今回はこの「ボディショット奏法」を行うにあたって「骨盤」と「股関節」がどのように使われるのか、その原理と意味を解説していきましょう。

 ところで、一口に「骨盤」「股関節」といっても、殆どの方は、その形や位置をハッキリとはイメージ出来ないのではないでしょうか? それぞれの場所や役割を正しく知って活用しないと、すぐに腰痛などの身体の故障に繋がってしまいます。まずは骨盤や股関節の位置や形を正しく知る事から始めましょう。

■STEP2 骨盤と股関節の構造を再確認しましょう

骨盤透視図

赤丸の部分が脚の付け根である「股関節」です。なぜか日本のドラマー界では股の部分の「そけい部」が脚の付け根と認識されているようですが、大変な間違いです。フットワークをする際はもちろん、ドラムイスに座った状態で骨盤(お尻)を動かすのは「股関節」なのです。
股関節位置(ドラム)

ドラム演奏時、脚の付け根である股関節は赤丸の位置にあります。いかがでしょうか?たった今まで脚の付け根はそけい部だと思い込んでいた人もいるのではないですか? 股関節は意外と奥にあるのです。(お尻にあるといっても過言ではありません)この股関節の正確な位置を知ることでフットワークは勿論、骨盤を使う「ボディショット奏法」が容易になるのです。

 なにより大切なのは股関節や骨盤の正しい構造を知ることです。股関節が肩関節と同様の「球関節」で、本来は回転の動きに向いている関節だということを知っていましたか?(だからフットワークも回転運動になるのです)

 そして骨盤の下にある坐骨は、揺りイスの脚と同じように丸いカーブを描いているので、イスの上で骨盤を立たせたり、寝かせたりしても安定が得られるようになっています。

 この「骨盤の揺りイス」を動かすための関節こそが「股関節」なのですが、殆どの日本のドラマーは骨盤を動かす(動いてしまう?)際に背骨(腰椎)から動かしてしまっているために、それが腰痛の原因になってしまうのです。

 「ボディショット奏法」を行う際には必ず背骨が動いていますが、その時に背骨の根元である股関節が先に反応していなければ正しく活用する事は出来ません。

Q.手を大きく(強く)動かせば骨盤なんて勝手に動くんじゃないの?

A.はい、確かにそうです。しかし手が先に動いて、その反動で骨盤が動く現象と「ボディショット奏法」とは全く別物です。

 手の反動が骨盤に来てしまうとバランスを崩しやすくなりますし、身体の故障の原因にもなります。(日本のドラマーに本当によく見られる症状です)

 ボディショット奏法は骨盤や下半身(脚)から起こした力をスティックまで波及させる奏法です。(結果的に腕の運動量を軽減させることが出来ます)

 『股関節→骨盤→背骨』という順番を考えずに、むやみに背骨を動かすと、腰椎に大きな負担がかかって必ず腰痛になります。そうならないためにも画像等をよくご覧になり、実際にドラムイスに座っての再確認をお願いします。

■STEP3 バディ・リッチのイスの秘密

 ビデオ等でご存知の方も多いと思いますが、昔のドラムイスは、お世辞にも安定性が良いものではありませんでした。座面の大きさも最近は13インチ位が主流ですが昔は11~12インチだったのです。

 しかし、ドラムイスの進化に反して(?)、バディ・リッチなどは晩年まで「筒型」の不安定なイスを使用しており、ドラムソロの途中で動いてしまったイスを手で引き戻す姿も残された映像の中にたびたび見られます。

 なぜバディ・リッチほどのドラマーが演奏中に位置がずれるような旧式のイスを“愛用”していたのか不思議に思いませんか? バディ・リッチは長いキャリアの間にドラムセットを何度も替えており、「使い慣れているから」というだけで旧式の「筒」のイスに固執したとは考えにくく、常に「より良いイス」を探していたはずです。

見た事がない人も多いと思いますが、筒型のイスってこんなに不安定なんですよ!
筒型イス

 1950年代頃までのドラムイスは、写真(左)のように筒型のものが主流をしめていました。(1970年頃まで生産されていました)

 このドラムイスはペダルやシンバルスタンドを中に入れて運ぶハードウェアのケースも兼ねていたのです。

 つまり、演奏時には中が空洞となるため、かなり不安定で、演奏中にドラマーが後ろに引っくり返る事故も少なくありませんでした。

 ちなみに2002年6月号のドラムマガジンでは、このイスが「実用無視の発想のイス」と紹介されてしまうほど極端に安定性が悪かったのですヨ!(もちろん高さ調整なんて出来ません!)

ゴミ箱のイス?

 たしかに、バディ・リッチは3ステージに2回ほど、ソロの途中で瞬間イスを叩きながら、おどけた顔をして観客を笑わせたりもしますが、まさか、それだけのために、この不安定なイスを使っていたわけではないでしょう。

(※「見た目」や「ショーマンシップ」のためと考える人が多いようですが、通常、客席からはドラムイスは見えません!

 つまり、バディ・リッチにとって「あの筒型のイス以上にドラム演奏に適したイス」は見つからなかったという事ではないでしょうか?

 それでは、なぜバディ・リッチのイスは不安定である必要があったのでしょうか?

大腰筋イラスト その答えは「大腰筋」(右図参照)にあります。大腰筋とは脊柱と大腿骨をつなぐ、外からは認識しにくい身体の奥にある骨格筋の一つで、骨盤の操作や姿勢の維持に使われる事から、近年スポーツ医学の分野で特に注目され、徐々に脚光をあびてきました。今では優れたアスリートになるために必要不可欠な筋肉として常識となっています。

 「何だか難しいな~」と思ってしまった人に分かりやすく説明し直すと、日本古来からの表現で「あいつは腰が入っている、入っていない」とか「腰を入れろ、抜くな」などという言葉を耳にした事があると思います。

 戦国時代から人体力学が盛んだった我が国では、「大腰筋」の活用法を「腰を入れる」という言葉で表現し、「何事も腰を入れる事から始まる」といわれる程、すでに大腰筋の重要性を説いていたのです。東洋オタクとしても知られるバディ・リッチは当然その事を知っていたのではないでしょうか?

 普通のイスは「座って休んでいる状態」を長時間続けても快適な様に設計されていますが、ドラムイスは「その上に乗った状態で手足を動かし、重心位置も刻々と変わる身体」を支えるもので、「必要とされる機能」が全く違います。

 立っているときには、身体のバランスを修正し続ける為に誰でも無意識にある程度「腰」が入っているものです。しかし「さあドラムを演奏するぞ!」とドラムイスに座ったとたんに自身でバランスを取ることをやめてしまうために、いわゆる『腰が抜けた状態』になっている人が実に多いのです。

 立った状態でバランスを取るためには必ず大腰筋が使われています。ドラム演奏において骨盤を動かす際にも、この大腰筋がとっても大事なんです。腹筋、背筋や大腿四頭筋(フトモモの筋肉)でも骨盤は動かせますが、ドラム演奏における小さくスピーディな動きには対応できません。

 大変多くのドラマーが「完全に腰が抜けた状態」で演奏しているために『腰が抜けた音』にもなりやすくなってしまっているのではないでしょうか? ドラムを演奏する際にはたとえ座っていても「立っている」つもりでないといけないのです。そうすることで、スピーディーなプレイでも音圧の効いた迫力のある音で演奏できるようになるのです。

 不安定なイスでドラムをプレイする際には「転倒への危機感」が常に伴います。そのため人間はバランスを取ろうと、誰でも本能的に大腰筋を使ってしまうのです。バディ・リッチは、あえて不安定なイスを使うことで「腰抜け状態」になってしまうのを回避していたとは考えられないでしょうか?

 その結果、大腰筋もフル活用され、あの素晴らしいキレと迫力のあるドラミングが可能だったのです。

(※K's MUSICでは、あえて不安定なイスを使用することで「腰が入った状態」を身に付けるレッスンも行っています)

STEP4 ボディショット奏法の基本的なポジション

骨盤を動かすことで30cm以上もスティックを動かすことが出来ます
アップポジション
直立ポジション
(アップポジション)
レディポジション
斜めポジション
(レディポジション)
ダウンポジション
寝たポジション
(ダウンポジション)

 骨盤のポジションを写真中央の「レディポジション」から始めると、アップポジションにもダウンポジションにもすぐ移行出来て便利です。

 日本国内では写真左のアップポジション(骨盤を一番起こした状態)のまま演奏する事が「良いフォーム」とされていますが、これは日本的奏法には「骨盤の動きを利用する」という発想が無いからではないでしょうか?

Q.骨盤を寝かせると後ろに倒れてしまうのですが?

A.腹筋に力が入った状態で骨盤を寝かせると、たしかに後ろに倒れてしまいます。骨盤を寝かせる際には腹筋から力を抜いて横隔膜を上げることが必要不可欠です。

 また、骨盤の角度が変化することで股関節(脚の付け根)の位置が変わることにも着目して下さい。このことはフットワークにも大きく影響してきます。(第8回参照)


◆骨盤のアップダウンだけでもショットは可能です◆

 骨盤のアップポジションとダウンポジションには約30センチの高低差がありますから、骨盤の上げ下げだけでアクセントショットを行う事が可能です。この動作にショルダームーブ奏法(フレディーグルーバーシステムの“エロンゲーティングストローク”)を組み合わせると、スティックが手前に引き寄せられる為、さらに強力な「腰の入った音」を出す事が可能です。(第24回参照)

 下の動画は、最も基本的なボディショット奏法に通常のモーラー奏法を組み合わせたエクササイズを収めたものです。

動画:ボディショット+モーラーによる5ストローク
ボディショット動画
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MPEG-1 500Kbps (2.31MB)
動画がうまく見れない場合は…

 このボディショット奏法により上半身の重さをフルにスティックに伝えることが可能となります。国内では、スティックをあまり振り上げていないのに大音量・大音圧で演奏するドラマーは「手首が強い」「スナップが強力」だとされていますが、けっしてそうではありません。彼らは「ボディショット奏法」を使って音圧を出しているのです。

 また、「重さ」というと、どうしても「ゆっくりしたプレイ」にしか使えないと思われがちですが、大腰筋を使うことによって1/50秒という短時間で重さをかけることも可能です。

 超一流ドラマー達が大音量・大音圧とスピーディーなプレイを共存できるのは、大腰筋あってこそと言えます。

 ところで、「ボディショット奏法の達人」は身近な所ではPONTAさんではないでしょうか? ビデオが手元にあったら、(なかったら買ってでも!)ぜひチェックしてみて下さい。

 PONTAさんの腰は、演奏中の激しい音楽表現部分やドラムソロが激しくなるほどに動きを増し、フレーズに応じて自由自在な変化を見せます。その様子は「骨盤ダンス」とでも言いたくなるほど見事です。

 他にも、1992~3年頃までの青山純さんはアクセントショットの殆どを「ボディショット奏法+ショルダームーヴ奏法」で行い、スティックをあまり振り上げずにスネアからタムまでを大音圧で演奏していました。

 海外では“骨盤を小刻みに振動”させるデニス・チェンバース、“回転運動”主体のスティーヴ・ガッド、“ハイテクニックな演奏になると極端な骨盤のダウンポジションを多用”するヴィニー・カリウタ等、超一流と呼ばれるドラマー達は誰もが骨盤を有効に使ったドラミングを行っていますので、是非ビデオ等でチェックしてみて下さい。

Q.骨盤を動かすと正しい姿勢が崩れるのでは?

A.そもそも『正しい姿勢』とは何かということが問題ですが、身体が「静止している時」と「運動をしている時」とでは『正しい姿勢』は全く異なります。

 日本的奏法理論の最大の欠点は、実演奏中のフォームには必ず「動きの流れ」があり、それによって『慣性力が伴うという事実』を全く見逃してしまっている点にあると言えるのではないでしょうか?

 静止時において背筋をピンと伸ばしているのは確かに「正しい姿勢」です。しかし、それを安直にドラミングに応用しようというのは「ノーガードこそがボクシングフォームの理想」と言うようなもので、大変無責任な“漫画的発想”です。

 また、日本的奏法では“身体のブレ”や“猫背”は「言語道断」とされているようですが、バディ・リッチをはじめとしてスティーヴ・ガッドやジェフ・ポーカロ等の超一流ドラマーは実際に、その言語道断なことをして最高峰のドラムプレイを成立させています。

 ドラムセットには多くの楽器が立体的に配置されているのですから、演奏中に胴体が動いたり重心位置が変化するのは当然と考えて『正しい姿勢』を見直してみてはいかがでしょうか?


※最後に、これからボディショット奏法にトライしようという方々のために、注意点を挙げておきます。
  • むやみやたらに骨盤を動かすのではなく、「大腰筋を使って、股関節が動いた結果、骨盤が動く」ということを忘れないで下さい。

  • 腰痛になった場合は、以下の3つの原因が考えられます。

    1. 骨盤よりも先に腕を動かしてしまい、その反動で骨盤が動いてしまっている。
    2. 背骨の腰椎部を先に動かすことで、骨盤を動かしてしまっている。
    3. 大腰筋ではなく、腹筋・背筋やフトモモの筋肉を使って骨盤を動かしてしまっている。

※骨盤を動かすという行為は、大腰筋を動かす感覚があり、背骨や腕よりも先に股関節が動いていれば身体に負担はありません。もし腰が痛くなったりした場合は、上記の3つの原因のどれかに当てはまっているはずですから、すぐに練習をやめて下さい。

 やみくもに骨盤を動かして身体に故障が出たとしても、K's MUSICでは一切責任を負いかねますので、ご了承下さい。


仲村康男プロ
★画像をクリックすると、ドラムソロ動画が見られます★

 さて、今回のボディショット奏法でも重大な役割を果たした『骨盤』『股関節』『大腰筋』の構造や動きは、当然ながらフットワークにはもっと直接的に影響してきます。

 たとえば、股関節が「球関節」である以上フットワークは「回転運動」を基本に考えなければならないのはもちろん、「大腰筋」は足の裏の「足底筋」と繋がっていますから両者を分けて考えることは出来ないのです。

 スティックワークと同様、フットワークに関しても、今後のドラミングアドバイスの中で詳しく解説していきますので、どうぞ、ご期待下さい。

39. ショルダームーヴ奏法

(2003/06/12アップ。6/15,2004/02/29修正改良)

 皆さんは、ドラマーのライブ演奏ビデオ等を見る時、どこに注目していますか?おそらく多くの方が「目で“スティックや手首の動き”を追う」という見方をしているのではないでしょうか?

 「そんなの当たり前だよ」と言われそうですが、せっかく買ったビデオを“スティックや手首の動きを見るだけ”に使っていては、大変もったいないのではないでしょうか? 練習熱心なドラマーほど陥りやすいようですが、それでは見落としてしまっている「動き」が沢山あるはずですよ!

 ためしに「音を消して」ビデオを観る「実験」をしてみて下さい。あなたが何度も繰り返し見慣れていたはずのビデオでも、ずいぶん印象が違って見えると思います。

 そして、次は、スティックや手首よりも「指」に、指よりも「ひじ」に、ひじより「肩」に、さらには「胴体」に注目して動きを観察してみて下さい。「あれ?」と思うような、今まではまったく気付かなかった「動き」が沢山見えて来るはずです。

 今回は、その中でも比較的わかりやすい「肩の動き」を有効に使った「ショルダームーヴ奏法」について、その「原理」と「意味」を解説していきましょう。

 「ショルダームーヴ奏法」の達人は、なんといってもバディ・リッチではないでしょうか。ビデオが手元にあったら、(なかったら借りてでも!)ぜひチェックする価値があると思いますよ!

 バディ・リッチの肩は、ドラムソロの最中等のハイテクニックな場面になればなるほど“一瞬も止まる事がない”ほど動いており、フレーズに応じて「左右の肩が同時に上下」したり「交互に上下」したり、さらには「回旋」したりと多種多様な動きを見せます。(まるで肩がダンスをしているかのようです!)

 もし、「それって、ただの“クセ”とか“ショーマンシップ”なんじゃないの?」と思う人がいたら、同じように肩を動かしながらドラムソロをやってみて下さい。音やフレーズがギクシャクするだけでなく、とても叩きづらくて、まともな演奏など出来ないはずです。

 では、なぜバディ・リッチは、肩を動かしながらスムーズな演奏が出来るのでしょうか?

 それは、あの肩の動きが、けっしてクセなどではなく、フレーズ・ダイナミクス・移動・スピード等すべてを無理なくスムーズに行なうために、ショルダームーヴ奏法を最大限に活用している結果だからなのです。

 それにしても、なぜ、あんなに肩を動かす必要があるのか不思議に思いませんか? また、このような動きをするドラマーは皆さんの周りにはいないのではないでしょうか?

 実は、このような肩の動きこそが、ドラムセット全体に適用範囲を拡張した「応用モーラー奏法」を使ってドラミングを行っている際の特徴であり、逆にいえば、バディリッチの演奏は大部分が「応用モーラー奏法」によって行われているという証拠でもあるのです。(第30回参照

Q.音楽に集中して演奏すれば、肩なんて自然に動くんじゃないの?

A.はい、その通りです。演奏中、肩でリズムをとるドラマーは、当然肩が動いています。しかし、それは肩が単に動いているだけであって、ショルダームーヴ奏法とはまったく違います。

 ショルダームーヴ奏法とは、肩の動きを積極的に使ってダイナミクスを付け、確実に「音」に反映させる奏法のことです。


 ショルダームーヴ奏法に関しては、バディ・リッチが一番分かりやすいとは思いますが、“ゆっくりな回転動作中心”のデイヴ・ウェックルやポンタさん、“上下運動主体”のパット・トーピー、“小刻みに振動”させるデニス・チェンバース等、超一流と呼ばれるドラマー達は、だれもが肩を有効に使ったドラミングを行っていますので、ぜひビデオでチェックしてみて下さい。

(注:教則ビデオ等の“レクチャー場面”ではなく、あくまでも“実演奏の際の身体の動き”を見て下さい)


◆肩の構造を再確認しましょう◆

ろっ骨と肩の構造
肩の付け根は、ノドの下の「胸骨」にあるのをご存じでしたか?この部分が先に動かなければ、肩関節は大きく動かせません。
宇宙人の骨格?
人間の肩はろっ骨についているわけではありません。しかし、このように勘違いしているドラマーが日本には多いのでは?


 もしかして、“肩関節は胴体(ろっ骨)に固定されている”と思い込んでいた人もいるのではないですか? 実は、肩(肩甲部)の可動範囲は皆さんが思っているよりもはるかに広く、動きの自由度も大変高いのです。

 それなのに、「肩はこんなに動かせる」という事実を無視してドラミングを行うのは、足かせをつけたままで必死に走ろうとしているようなものではないでしょうか? もっと自由に、思い通りにドラミングを行なうために、まずは、肩の可能性を知ってみませんか?

◆ショルダームーブ奏法の基本的なポジション(上下方向)◆

肩は上下に15cm以上も動かす事が出来ます!

 肩の位置を写真中央の「レディポジション」から始めると、アップポジションにもダウンポジションにもすぐに移行出来て便利です。日本国内では、写真左端のダウンポジション(肩を一番下げた状態)のまま演奏する事が「良いフォーム」とされていますが、これは、日本的奏法には「肩の動きを利用する」という発想が無いからではないでしょうか?

 肩のアップポジションとダウンポジションには、約15cm以上もの高低差がありますから、肩の上げ下げだけでショットを行う事も可能です。この方法は、スティックを平行移動させる事が容易に出来るので、シェルショット(31回参照)を行う場合にも便利です。

肩を上下に動かすだけでショットが可能です!

 実用例として、8ビート等の“バックビートを肩を中心に行う”という方法があります。実際に、ジェフ・ポーカロなどは肩を前方向に回転させ、そこに指のタップストロークを合わせるだけで強力なバックビートを実現しています。さらに、その動きに手首や肘などの動きを加えれば、チャド・スミスやディーン・カストロノヴァのような奏法になります。

◆ショルダームーヴ奏法の基本的なポジション(前後方向)◆

肩は前後に約20cmも動かす事が出来ます!
Q.肩を動かして叩くなんて、逆に体に良くないんじゃないの?

A.リラックスして身振り手振りで会話を楽しむ友人達を「観察」してみましょう。とっても自然に肩が動いている事に気が付くと思いますよ!

リラックスした状態で腕を動かしている時、人間の肩は大きく動いています。逆に緊張した状態では、肩が固まって腕だけが動こうとします。

 肩は、上下方向だけでなく、前後方向にも約20cm動かすことが出来ます。ドラムセット上を前後に移動する際、肩を固定して腕だけを動かそうとすると、腕の曲げ伸ばしが大きくなり、身体に負担がかかりますが、肩の移動を利用すれば、相対的に腕の曲げ伸ばしを小さくし、力を分散することで身体への負担も減らす事が出来ます。


実は、どんなドラマーでも無意識に肩を使っているのです。

クラッシュを叩く

 一番分かりやすい例がクラッシュシンバルです。もし肩を上げる事が出来なければ、絶対に叩く事は出来ません。それどころか、ライドシンバルやタムタムすら演奏出来なくなってしまいます。

 つまり、どんなに自分では「肩を動かしていない」と思っているドラマーでも、演奏中は必ず肩が動いてしまっているのです。

 しかし、演奏中に肩の動きを意識せず、まして「肩を動かすべきではない」とまで考えているドラマーは、受動的で不合理な肩の使い方しか出来ないために、スピードやパワーだけでなく、音楽的な表現力も乏しくなってしまいます。

クラッシュを演奏

 たとえば、下記の譜面のようなフレーズを考えてみましょう。実際に、このようなフレーズが不得意だという方も多いのではないでしょうか? 実はこの場合、1番合理的なのは“肩をずっとアップポジションで”演奏する事なのです。

39回譜面

 どちらにしても、肩を動かさなければドラムセットの演奏は出来ないのですから、より積極的・合理的に肩を使ってみたらどうでしょうか? 「腕よりも先に肩を」ドラミング上必要なポジションに動かしてやれば、より楽に、より速く移動を行うことが可能になりますし、片側6キロ以上もある「腕と肩の重み」をも味方にする事が出来る(27回参照)のです。

 「自分のドラミングは今が限界だ」などと、決してあきらめないで下さい。たとえ、ショルダームーヴ奏法を完全にマスターしなくても、「肩は動かせる」という事に気付いただけで、あなたの可能性は大きく広がるとK's MUSICは考えます。

※最後に、これからショルダームーヴ奏法にトライしようという方々のために、注意点を挙げておきます。

  1. 大原則として「必ず肩が先に動く」のだという事を忘れないで下さい。手首や肘が先に動いて、後から肩が動くのではなく、「まず肩が動いて、その動きが腕の先端に伝わっていく」と考えて下さい。

  2. 肩を動かすという行為は、脱力さえ出来ていれば身体に負担はありませんが、力んでむやみに肩を動かすと身体に大きな負担がかかりますので、必ず、充分に力を抜いた状態で行ってください。

  3. もし、肩が痛くなったりした場合は、力んでしまっているか、無理な動かし方をしているはずですから、すぐに練習をやめるようにして下さい。むやみに肩を動かして身体に故障が出たとしても、K's MUSICでは一切責任を負いかねますので、ご了承下さい。

 さて、分かりやすくするために今回は「肩のみ」にしぼって説明しましたが、肩甲部は鎖骨を通してろっ骨に接続しており、ろっ骨は背骨の周囲に形成されています。そして背骨の下端である仙骨は骨盤の一部であり、骨盤にある股関節は脚の付け根である…というように人間の身体は、すべてが繋がっています。

 従って、実は、腕の動きを足の裏(土踏まず)の動きと切り離して考えることは出来ないのです。このあたりは、今後のドラミングアドバイスの中で詳しく説明していきますので、どうぞ、ご期待下さい!!

プロドラマー広井隆kun

38. 聴力の盲点と弱点

 前回のドラミングアドバイス(本能を刺激する音=身体共鳴)が、予想外の大反響を頂きました。「目からウロコが落ちた」「スランプから抜け出せた」等、わざわざ感謝のお電話を下さるプロドラマーの方も多数おられ、私達K's MUSICとしても喜ばしい限りです。そこで今回は“身体共鳴”について、科学的な側面から解説しようと思います。

頭骨・背骨と、共振する音の周波数

●絶望的な話ですが、鼓膜で捉えた音を脳に伝える有毛細胞は、年齢と共にどんどん減っていきます。そして死んだ細胞は二度と再生する事はありません。医学の世界でも「人間は生れた瞬間から聴力が衰えてくる」ことは、すでに常識。10年後、あなたの聴力は今より確実に衰えています。

●個人差もありますが、人間の鼓膜は、約100dB以上の大音量では歪んでしまい、その歪んだ音しか脳に伝えることができません。つまり、100dB以上の大音量になるバンド演奏中に、鼓膜(耳)だけで全ての音を把握するのは、絶対に不可能です。

●音楽家にとっての「耳を鍛える」とは“脳の音色識別能力”を向上させるということになります。そのためには、鼓膜の空気伝導以外の音色識別能力である、骨伝導聴力が必要になります。

●右の図は、医師で聴覚心理音声学の権威として知られる、アルフレッド・トマティス博士の骨伝導聴力に関する研究成果の一部です。この医学的研究から言えることは、音の周波数の高低によって人体の共振する部位は異なっているという事実です。

●あなたが奏法を変えることで、あなた自身の骨盤を強く共振させる音が出せるようになれば、それは同時に聴き手の骨盤をも共振させる音が出ているという事なのです。つまり“身体共鳴”とは、聴き手の本能に直接働きかけることで自律神経にまで影響を与え、迫力や感動を聴き手に実感させることができる方法です。

●ドラマーに限らず、マジメに音楽を学ぼうとする人ほど、興味がフレーズやパターンにいってしまって、音色が二の次になる傾向があるようなので注意が必要です。

●音は脳に伝わって初めて認識されます。“脳の音色識別能力”をより向上させるためには、意識して全身の振動を感じることです。そうすることで感性が増し、先鋭になります。ドラミング(音楽表現)の向上には、こうした“意識改革”が必要不可欠です。

●「音楽的な耳を持とう」という言葉は、なぜか、音楽的な耳を持てなかった人達が共通して口にするようです。ですから、その理論も根拠のない理想論に終始するケースがほとんどではないでしょうか?

K's MUSICでは、人間科学の理論に基づき、「音楽的な耳を持つための具体的な手段 」をレッスンしています。

(2003年1月)

37. 本能を刺激する音=身体共鳴

 当然の事ですが、音は耳で聴きます。鼓膜の振動が有毛細胞を経て脳幹に伝えられ、脳で音を認識しています。

 ところで、本当に音は鼓膜に伝わる空気伝導だけで聴いているのでしょうか? よく“腹に響く低音”と表現されたりしますが、この時実際にその「人間の骨盤が骨振動を起こしている事実」をご存知ですか? “頭のてっぺんに響くカン高い音”の場合は実際に「頭蓋骨が骨振動を起こしている現象」です。

 この「骨伝導」を使う以外にも体毛,眼球等の高周波知覚や、精巣,子宮を含む内臓の低周波ゆらぎ知覚等でも音楽を認識する能力が本来私達にはそなわっているのです。ライブ演奏を会場で聴く方が、CD等よりも強く印象に残るのは、鼓膜の空気伝導以外にこの「身体共鳴現象」が強く発生するためです。

 中でも低周波音は骨や内臓を直接振動させる力を持っています。“低周波公害”という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、低周波音は落雷,地震,津波等の地鳴りや猛獣のうめき声等、どれも人間の生命を脅かすものに強く含まれています。

 それゆえ私達人間のDNAには“低周波音の身体共鳴”を“生命の危険信号”として自律神経が認識するようプログラムされています。超一流ドラマー達はこの“危険信号”をドラムの音から引き出す事で、聴き手に身体共鳴現象を強く起こし、迫力や安定感を感じさせているのです。

 デニス・チェンバース,ハーヴィー・メイソン,バディ・リッチetc...彼らの演奏を“生で体感”すると圧倒されてしまうのもこの理由です。

 「良い耳を持て!」とはよく言われますが、音の認識をする際に耳の鼓膜の空気伝導と同じくらいの割合で「身体共鳴」を感じられるようになれた時、あなたの楽器選び,チューニング,音楽表現にまでも好影響を及ぼします。「身体共鳴」を感じられるという事が、ミュージシャンにとって本当の意味での「良い耳」なのではないでしょうか?

 ドラミングにおいて“うるさく感じるだけのパワー”と“全身を揺さぶる音圧”では、人間のDNAに対する効果が異なってしまうため、音楽表現的にも全く別のものです。ドラマーだけに限らず「根本的に何かが違う…」と聴き手に感じさせるミュージシャン達は皆、この「身体共鳴現象」を応用しているのです。

 皆さんも呼吸法にこの身体共鳴理論をからめた音楽表現を自分のものにしてみてはいかがでしょうか?


わかってるA氏
●パワーを上げても耳に痛い音にならず、聴き手の“本能に訴えかけるプレイ”が可能になり、言葉に表せない迫力を伝えることが出来る。また身体共鳴を残してパワーを下げることで、実際のバンド演奏の中でも“抜けの良いmp”を表現することも可能。(ドラマーだけに限らず、ギタリストのラリー・カールトンやヴァン・ヘイレン、ジェフ・ベック。ベーシストのアンソニー・ジャクソン等も、この“身体共鳴”を使うミュージシャン達です)

わかってないB氏

●「きれいな音を出したい」「音楽的なタッチを目指したい」と必要以上に“左脳”で考えすぎるタイプのドラマーが、このジレンマに陥りやすい。耳の鼓膜を過剰に意識し、そこで音を捉えようとするため身体の共鳴に意識が行かなくなってしまうのである。こうなるとパワーを上げれば上げるほど耳に痛い音になるので、パワーを下げる事で音をきれいにまとめ上げようとする傾向になりがち。しかしこの方法では実際のバンド演奏で音が埋もれてしまったり、線の細いドラミングになってしまう。事実、多くのドラムレッスンプロ及びそのスクール生、マジメな個人練習大好きドラマーにこの傾向が強いと思いませんか?(ドラマーだけに限らず、スケール練習や運指練習大好きギタリストやベーシストも同様ではありませんか?)

身体共鳴に関して、こちらで、より詳しく解説しております

(2002年11月)

36. モーラー奏法の注意点

2004/03/26『緊急報告』を追加

 デイヴ・ウェックルが、彼自身の新教則ビデオや各地で行なっているドラムクリニック等でモーラー奏法(モーラーシステム、モーラーテクニック)の優位性を力説している影響もあり、日本のドラマー達やドラム教育機関など、いたる所でモーラー奏法が研究され始めているようです。いわばようやくモーラー奏法の「練習スタート地点に辿りついた」と言っても良いでしょう。長年にわたり海外のドラム奏法普及に努めてきたK's MUSICとしても大変喜ばしい出来事です。

 そこで今回は、これからモーラー奏法を勉強していこうと考えている皆さんに、いくつか注意点を提示しておきたいと思います。

1.モーラー奏法による音色変化

 まず一つめは「音」についてです。モーラー奏法においては、前後左右・上下に動かしながら流動的にストロークを行なうため、必然的にドラムヘッドに当たるスティックの角度と打点が1打ごとに変化しています。この効果を積極的に利用することで、音色音量ともに抑揚感ある演奏表現が可能となるのです。

 つまりスピードやパワーばかりに目を奪われがちなモーラー奏法ですが、「遠近感のある音楽表現効果を含んだ上での奏法」という事を認識して下さい。ダイナミクスのついた音、抑揚のついた音楽表現がいらなければ、モーラー奏法を使う必要はありません。

2.モーラー奏法をドラムセットで応用するには

 二つめはセット応用についてです。サンフォード・モーラー氏が、このモーラー奏法を確立させた1920年代頃、彼自身の置かれていた音楽的な環境には、現在あるポピュラーミュージックのようなスタイルは当然無く、軍隊のマーチングやオールドスタイルのジャズが中心となっていました。

 したがって使用されていたドラムセットも、そのプレイスタイルも現在のものとは大きく異なり、スネアドラムを中心とした演奏形態(ドラミング)をとっていたのです。当時の音楽的な背景から考えれば、彼にとって必然的に生まれたスネアドラムのための奏法であったと言っても良いでしょう。

 しかし、これからモーラー奏法を勉強していこうと考えている皆さんは、はたしてスネアドラムでのプレイスタイルが中心となっている音楽だけを聴き、同じように演奏することを目標(目的)としているのでしょうか?ほとんどの方が、そうではないとお答えになると思います。

 現存するモーラー奏法関連の資料では、『モーラーブック』をはじめ、ジム・チェイピンやデイヴ・ウェックルの教則ビデオ、そして最近では米国モダンドラマー誌に掲載されたモーラー奏法の特集記事など、そのどれもが「スネアドラム上の解説」にとどまっており、残念ながらタムやシンバルなど複数の楽器間の移動が伴った「現代的なドラミングフレーズ」については、ほとんど触れられていません。

 スネアドラムプレイが中心になっている「オールドスタイルのジャズドラム」を志している方は、そのまま流用できますが、複数の楽器を様々な形で使う「現代的ドラミング」を志している方は、始めから応用モーラー奏法をドラムセット上で使えるようにしておくことをお勧めします。

3.応用モーラー奏法とは何か

 バディ・リッチ,ヴィニー・カリウタ,スティーヴ・スミス,デニス・チェンバース,ニール・パート,デイヴ・ウェックル等々、海外の超一流ドラマー達は演奏時のほとんどをモーラー奏法でこなしています。しかし現在入手可能な文献からは、その「事実」を理解し「説明」することは不可能でしょう。

 おそらく、それぞれのドラマー達が「全く別の奏法」で演奏をしているようにしか見ることができず、むしろモーラー奏法よりも今までの日本的奏法と近いものに見えてしまうという方も多いのではないでしょうか?

 つまり、応用モーラー奏法とは、日本的奏法のようなスティックラインや腕のモーションを見た目で捉えたものではなく、「物理的原理を最優先して行なっている奏法」と言えます。

4.日本的奏法とモーラー奏法の共存

 最後に、従来の日本的奏法で長年練習してきた人達へのアドバイスです。

 「モーラー奏法」と、国内で独自の発展を遂げてしまった「日本的奏法」では、その物理的原理があまりにかけ離れすぎています。つまり、日本的奏法とモーラー奏法の共存は物理的に不可能なのです。

 したがって日本的奏法にモーラー奏法を取り入れようとする練習は、従来のような「勘違い奏法」をまた生み出すだけで、時間とお金が無駄に費やされてしまう結果になります。

 現に「モーラー奏法は音がまとまらない」「身体に負担がかかる」「腕をひねる動きが老体にはきつい」という“苦情”も耳にしています。これはモーラー奏法と、原理の全く違う日本的奏法を混在させようとした当然の結果でしょう。

 真剣にモーラー奏法を習得したいと考えているのならば、奏法改革を成し遂げたデイヴ・ウェックルでさえそうであったように「スティックの持ち方」から再度やり直すこ とをお勧めします。

 従来の奏法では成し得なかったプレイを「容易」にし、テクニックにとらわれずに「音楽をより感じる」ことを可能にするモーラー奏法の恩恵を授かるには、今までの理想と価値観を全て捨て去る勇気が必要です。

モーラー奏法の進化



↓2004/03/26追加↓
2004年2月緊急報告!!
◆勘違いな“日本式モーラー奏法”に要注意◆

 残念なことに、危惧は現実となってしまいました。2年前(2002年5月)に、このページで指摘していた通り、物理的な原理を無視して、表面的な動きだけを安易に真似した勘違いな“日本式モーラー奏法”が、国内のあちこちで生み出されてしまっていたのです。

 最近(※)K's MUSICに入校された生徒さんからだけでも、すでに3例の報告(下記参照)を受けています。

(※2004年2月時点)

 今後も“新種”の報告があり次第、ここに追加していきますが、これらの勘違いな“日本式モーラー奏法”では、モーラー奏法本来の効果(高速フレーズ内の音色変化やアクセントプレイが容易になり、より音楽的な演奏が実現等々)が実感できないばかりか、かえってスピードやパワーが落ちて下手になったり、最悪の場合は身体に故障を招く原因にもなりかねません。どうぞ、ご注意下さい。


■ケース1:腕を開いているだけで、上腕骨・しゃっ骨・とう骨の回転が見られない“日本式モーラー奏法”
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 しゃっ骨の回転運動がないため、4分音符しか叩けなくなってしまう例。ポンタさんの「8の字スティックワーク」を誤解してしまうと、こうなるので要注意!! ポンタさんの奏法は、そんなに甘いものではありません!


■ケース2:フレンチグリップから、いきなりジャーマングリップでヒットしている“日本式モーラー奏法”
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 しゃっ骨を軸として前腕部が回転していないため、スピードばかりかパワーまでダウンしてしまう本末転倒な例。デイヴ・ウェックルの教則ビデオを誤解して練習すると、こうなるので要注意!!


■ケース3:手首→ヒジ→肩関節という順番で身体動作を行なう“日本式モーラー奏法”
case3_a.jpg case3_b.jpg case3_c.jpg case3_b.jpg case3_a.jpg

 ダンス要素の強いコースタイルのモーラー奏法を、そのまま安直にドラミングに応用しようとした例。手首をひねった際に、相当な負担がかかってしまうので要注意!!


 ここに掲載しているのは、当スクールに入校された生徒さんから報告されたものだけです。実際にはもっと沢山の日本式モーラーが生み出されてしまっている危険性がありますので、くれぐれもご注意下さい!

※“日本式モーラー奏法”に関しては、新規生徒さんから“新種”の報告があり次第、ここに追加していきます。

(2002年5月)

35. 背骨と肩甲骨で叩く!?

 皆さんはドラミングの時、背骨や肩甲骨などの「背中側」を意識した事があるでしょうか?

 まず息を吸ってみましょう。吐いてみましょう。そして手を上げたり前に伸ばしたりしてみましょう。あなたが意識するしないに関わらず、その時、背骨が動いていませんか?

背骨

 人間は腕や脚を動かそうと思った時、まず「背骨が先に反応して動き、その後に手足が動く仕組み」に造られています。これは胴体と手足が筋肉によってらせん状にからみあっているために起こる現象で「胴体協調螺旋運動」といいます。

 背骨は大小24個の椎骨が連なり、下から腰椎(5個)、胸椎(12個)、頚椎(7個)の3つの部分に分かれます。この骨の柱はゆるやかにS字状に湾曲し、手足を動かしたり呼吸する日常的動作の中で「らせん運動」と「ヘビのような動き」を常に繰り返しています。(モーラー奏法などに見受けられる回転運動を主体としたスティックワークはこの原理を取り入れた“結果”であり、けっして手腕だけの奏法ではありません)

 ジェフ・ポーカロやデイヴ・ウェックルなどの超一流ドラマーの“演奏時の背中”に注目してみて下さい。「背骨が伸縮したりねじれたり」さらには「肩甲骨(肩)までもが上下前後に動いている」のを確認できることと思います。しかし、多くのドラマー達は不自然に体を固定させているため、背骨や肩甲骨が大変動きにくくなっているのではないでしょうか。(皆さんはどうですか?)

 頭も全くブレないくらいに背骨を固めたドラミングがもし正しいのであれば、海外の超一流ドラマーのフォームは“悪い見本だらけ”となってしまいます。(しかし彼らをそんな理由で酷評する人はいるのでしょうか?)

 もし、「手足の付け根である胴体や背骨」を無視してしまったら、手足を自由自在に動かす事はおろか“呼吸法を用いた音楽表現”も“躍動感ある演奏”も絶対に不可能です。

 超一流ドラマー達の行う“しなやかで流動的なフォーム”と“躍動感あふれる音楽表現”は「背骨の使い方にある」とそろそろ気付いてみてもいい頃ではないでしょうか?

背骨を反らす
背骨を反らしながら捻る
背骨を反らす
背骨を反らしながら捻る
※背中を上手く使いこなすためには人体力学の「胴体理論」が必要となります
背骨を丸める
背骨を丸めながら捻る
背骨を丸める
背骨を丸めながら捻る

(写真は当スクール生の仙石進一くんです)

※第26回:『動的自然体フォーム』もご覧下さい。

(2001年11月)

34. 指サスペンション・グリップ

 今回は身体構造から“グリップ”について考えてみましょう。まずあなた自身の手を見てください。あなたの手には5本の指がありますね?では各指の長さはどこからどこまでですか?答えは「図1」です。いかがですか?おそらくあなたが考えていたよりもはるかに長くないですか?

手の骨格図

 では「手」はどこにあるのでしょう? 実は「手」や「手のひら」は生活や文化的に存在するだけで、骨格的にはどこにも存在していません。「手首から先」にあるものは「指」だけです。

 指先の骨はもちろん、手のひらの中に隠されている骨も私達は動かせるのです。この長い長い5本の指はスティックを持った時、打面のリバウンドに対して、ベンツやポルシェなどのクルマにみられるサスペンションアーム(路面の凸凹に反応してタイヤをうまく路面に接触させて乗り心地も良くする装置)のような働きができます。

 この「指サスペンションアーム」を利用すればどんなに強く速く叩いても手のどこにもマメが出来なくなるばかりか、手首や腕に対しても打面の衝撃を緩和できるのでけんしょう炎や筋肉痛もありません。さらには打面の衝撃からおこる「ストロークのギクシャク感」も無くなるのでスティックワークも自然にスムーズになります。

 グリップに限らず、奏法の原理やしくみを「目に見えるだけのとても表面的な部分」でいくら研究して解釈しても「本来あるべき奏法」にたどり着くのは難しいものです。ジェフ・ポーカロもヴィニー・カリウタもK's MUSICも「指サスペンションアーム」を最大利用したグリップ(支点移動グリップ)が基本なのです。

手レントゲンA手レントゲンB手レントゲンC手レントゲンD

(2001年7月)

33. 手首とグリップ

 今回は手首の構造とグリップについてです。

 まずは手首を実際に動かしてみましょう。あなたの手首はボール関節のように上下左右や回転などあらゆる方向に動かせますね?

 しかしスティックを持つと「ドアのちょうつがい」みたいにしか動かせなくなる人が大勢います。

 手首をドアのちょうつがいのように何度も繰り返してムリヤリ動かすのは大変な苦労です。人体のしくみから見てもとても不自然です。だって手首を動かしているのは『らせん状にからみあった筋肉構造』なんです(図1)。

筋肉図


 次に「スティックの支点」はどうでしょうか?実はここがちょうつがいになってしまっている人はもっと大勢います。

 フレディ・グルーバー氏も、K's MUSICも、スティックの支点と手首を<ボール関節のように動かす事を基本>として教えています。

 もしあなたの指や手首が「本当にちょうつがいみたいにしか動かなくなってしまったら…」と想像してみて下さい。とっても生活しづらいですよね?

関節がちょうつがい?


 さて今度は机の上にリラックスした手を置いてみましょう。「画像A」のようになっていますね?これが自然体の手首です。

リラックスの手
手首を外側に

 次は「画像B」のように手首を外側に曲げたポジションにしてみましょう。これはとっても不自然ですね? しかもこのまま動かそうとすると痛いですよね?


悪い例(C-a) 悪い例(C-b)  しかしこの「不自然に手首を曲げたポジション」のままでスティックを持って叩いてしまう人が大勢います。(画像C-a,C-b)

 ジェフ・ポーカロもデニス・チェンバースもバディ・リッチも、画像Aの自然体のポジションのままの手首でスティックを持ちます。(画像D-a,D-b)

★ 画像CとDの腕に対する「親指の位置」に注目!
自然体(D-a)自然体(D-b)

あなたの手首も彼らのように自由に動いていますか?

(2001年5月)

32. アレクサンダー・テクニーク

 デイヴ・ウェックルをはじめ、スティーヴ・スミスやニール・パートが現在でもフレディ・グルーバー氏に師事し、ドラミングにおける身体の動かし方のレッスンを受けていることは有名な話です。しかし彼らのような名高いドラマー達がなぜいまだにレッスンなど受けなくてはならないのかと不思議に感じている方も大勢おられるでしょう。

 一流のスポーツ選手は「理にかなった動き」を必ずしているものです。音楽とスポーツではその目的こそ異なりますが一流の人は一流の人達だけに存在する「ある独特な身体動作」(主に背骨や肩甲骨や横隔膜などの動き)を必ず体得している点で共通しています。

 スティーヴ・スミスの話によると、フレディ・グルーバー氏は「人間の身体動作とそのメカニズムについての知識」にすぐれ、現在はその理論をゴルフなどのスポーツ分野にも転用しているとのことです。

(しかしドラミングにおいての原理的な「たねあかし」は簡単にはしてくれないそうですが…)

 ところで海外では一流の演奏家だけに共通する「独特な自然体」に注目し、音楽表現をより高いものにするための身体活用を目指した「アレクサンダー・テクニーク」という大変すぐれたメソッドが、すでに50年以上も前に確立され、実践もされていることを皆さんはご存知でしょうか?

 アレクサンダー・テクニークは主に海外に多くの指導者がおり、オハイオ州立大学音楽部やジュリアード音大他、各地で多くの実績をあげています。

 そこで今回はアレクサンダー・テクニークに関する書籍をご紹介致しますので是非一度文献等お読みになってみてはいかがでしょうか。

 ドラマーだけでなく、全ての演奏家にとって豊かな音楽表現を具現化する非常に有効な手段となるでしょう。(アレクサンダー・テクニークはドラム人間科学と共通した理論を保有しています)


●アレクサンダー・テクニーク関連書籍 (=K's MUSICのオススメ)
音楽家ならだれでも知っておきたい「からだ」のこと
バーバラ・コナブル著/片桐ユズル・小野ひとみ訳 誠信書房/2000年 2,000円

●アレクサンダー・テクニークを音楽演奏に応用するためのわかりやすい入門書 人間の身体の構造と動きについての正確な情報(ボディ・マッピング)を知り、感覚的な識別力と反応能力を高める書。
ボディー・ラーニング
マイケル・ゲルブ著/片桐ユズル・小山千栄訳 誠信書房/1999年 2,300円

●わかりやすいアレクサンダー・テクニーク入門 文章と写真の組み合わせによって、左右両脳で理解を深め、日常生活、職業生活、創造生活のあらゆる領域における「学習」の仕方を学び能力を高める書。
 アレクサンダー・テクニークの学び方
B・&W・コナブル著/片桐ユズル・小山千栄訳 誠信書房/1997年

●体の地図作り 人間に備わっている生来の素晴らしい能力を取り戻してくれるアレクサンダー・テクニーク。体についての誤った認識を正し気づきを高め、心身を自由にして柔軟性と調和を回復するためのマニュアル
 アレクサンダー・テクニークにできること
D・キャプテン著/芳野香・和田実恵子訳 誠信書房/1999年

●痛みに負けない「からだの使い方」を学ぶ 本書では腰痛・関節炎・肩こり・座骨神経痛などの全身に現われるしつこい痛みと症状への対処と予防を通して「からだの使い方」を学び・さらに豊かな心身の調和への扉を開く
 アレクサンダー・テクニーク
W・バーロウ著/伊東 博訳 誠信書房/1989年

●姿勢が変わる・からだが変わる・生き方が変わる からだ全体の調整法、健康法、および姿勢術の原理と技法を紹介。頭、頸、脊椎などを中心とする「からだの使い方」の調整により有害な緊張の習慣を取り除いていく。

(2001年1月)

2005年12月09日

31. 胴鳴りとリムショット

 オープンリムショットという奏法は一本のスティックでリムとヘッドを“同時に叩く”という奏法ですが、厳密には同時に叩ける事などありえません。物理的に「リム」か「ヘッド」のどちらかを先に叩いてしまっています

 皆さんはそれによる「音色」や「音量」の変化にお気づきでしょうか?通常の日本的奏法ではスティックが「リムに当たってからヘッドに当たるというリムショット」になりがちです。

 そこで今回は意図的にスティックをヘッドに当ててからリムに当てる「シェルショット」という奏法について以下にまとめてみましたので、通常のリムショットと使い分けて音楽的奏法の幅を広げてみてはいかがでしょうか。

●シェル・ショット
音色:基音が長く、太い音 音量:mf~ff
●リム・ショット
音色:基音が短く、タイト 音量:mp~mf
シェル・ショット
●スティックをヘッドに当ててからリムに当てる奏法
●ヘッドよりもリムを介して「衝撃をシェル自体に加えて胴鳴りを起こす」事を目的とするため(リム部7、ヘッド部3の割合)、腕全体の上下運動主体の動作となる
●「スティックの先端の振り上げが少なくてもリム部を強打できるライン」なので高速アクセントフレーズにも対応。そのため、フレディ・グルーバーシステムで主に使われる
●シェルがより強く発音し胴鳴りするため、ハイピッチにチューニングされたスネアでもカン高い音にならず、低域成分を多く含んだ太い音になる
リム・ショット
●スティックがリムに当たってからヘッドに当たる奏法
●スティック先端の軌道が「大きく弧を描く奏法」のため、力がリム部より前方に加わる。結果、衝撃の割合がリム部3、ヘッド部7になりやすい
●「スティックの先端を大きく振り上げないとリムを強打できないライン」のため、高速アクセントフレーズには不向き。ゆっくりとした曲やタイトな曲にマッチする
●ヘッドに対しての衝撃が大きく、「リムやシェルに対しての衝撃は小さくなってしまう」ため、ローピッチにチューニングされたスネアでもタイトで多少カン高い音になる

(写真は当スクール生の鶴沢志門君です)

(2000年11月)

30. バディ・リッチ基本奏法

 今回は海外の超一流ドラマー達が“実戦奏法”としているモーラー奏法についてです。

 皆さんが仮に何か一つのフレーズを叩くとします。(ここではパラディドルを例にあげます。できれば実際にスティックを持ってご自身の奏法と照らし合わせてみて下さい)

 通常の日本的ストロークでは腕や手首の振り下ろし1回につき1打が基本です。例えば右手で8つの音を叩くためには同じようなモーションを8回も繰り返さなくてはならない奏法と言えます。それに対しモーラー奏法では「腕自体の回転力」によって腕を外(横)に開き、閉じた所で1モーションとします。

 つまり上腕部を内回転させて腕を開きながら数打(最高12~13打)、そして反転させながら脇を閉じて数打(最高2打)叩く事が出来るため、ほとんどのフレーズをたった「1モーションで叩く事が可能」なのです。もっと単純に言えば、最も簡単に「腕や手首の往復運動の簡略化を図れる奏法」とも言えます。

バディ・リッチ式のモーラー奏法の基本は腕自体を内側に回転させ(写真A)
元に戻す事(写真B)で1モーションとします(レギュラーグリップも同様です)
★写真AとBではヒジに貼ってある赤いシールの位置が変化している点に注目!
ツイスト・イン

この動作(ツイスト・イン・モーション)で
最高12~13打をカバーします
ツイスト・アウト

この動作(ツイスト・アウト・モーション)で
最高2打までをカバーします
(写真は当スクール生の阿部拓歩君です)

 このモーラー奏法という「腕自体の回転力を原理とする奏法」を用いると脇の開閉が目立つ上に打面のあちこちを叩いているようにも見えるため、国内では正しくない奏法と思われがちですが、バディ・リッチが実際に行なうスティックワークは、ほとんどこの奏法によるものです。

(モーラー奏法の見た目の華やかさゆえ、日本ではこれを“ショーマンシップ”と誤解されているのが現状のようですが…)

 本来のドラミングは実に楽に行なえるものですが、見た目だけの姿勢を良くし、無理に力で固定して脇もぶれないようにして叩くプレイを続ければ、手首をはじめ身体全体に大変な負担がかかるばかりか、一定以上のパワーやスピード、そしてダイナミックな音楽表現も難しいものとなります。

これを機に皆さんも御自身の奏法について見つめ直してみてはいかがでしょうか?

本物のモーラー奏法には日本のドラム奏法の常識を覆すほどの真実があります。

30回譜例
ホンモノのモーラー奏法を身につければ、アクセント入りのパラディドルでも音をつぶさずに、テンポ250以上で叩けてしまうのだ!

(2000年9月)

29. リバウンド・フットワーク

 バディ・リッチやデニス・チェンバースらが、フットワークの練習を「フットペダルのバネを外してやっていた」という話は皆さんもご存じだと思います。しかし、その「理由」について考えた事があるでしょうか?

 それは、スティックワークにリバウンド奏法があるように、フットワークにも「リバウンド・フットワーク」という「リバウンドを有効利用した奏法」があるからなのです。

 現在ではほとんどの外国人ドラマーのフットワークが「リバウンド」を中心に構成されています。日本人ドラマーもこれを見習うべきではないかと、K's MUSICは考えます。

 下記の表に詳しくまとめてみましたので、ぜひこれを参考に、両方の奏法の長所を「音楽表現のため」に使い分けてみるのはいかがでしょうか。

リバウンド・フットワーク  音色:地響き的太さ 音量:mf~ff
リバウンドFW ●ペダルボードがリバウンドして「跳ね返ってくる瞬間」に「軽くつつく動作」が主体。
●「ペダルボード」と「足裏」の関係を「意図的に不安定」にさせる
ウェックル式●靴のヘリや角の部分を積極的に使って「ペダルボードと足裏の接触面積」をできるだけ「最小」にする
(ちなみにデイヴ・ウェックルは靴の外側の角でプレイしている→)

●接触面積が最小のため、「ペダルボードが足裏に当たった瞬間」に、「リバウンド現象」が起きて、結果的にそのスピードがビーターに伝わる。
●タイミングさえつかめれば「とんでもない大音量やスピード」でも「信じられない位の小さな力」でプレイが可能。音色はかなり太い。(こちら参照)
●ビータースピードが「異常に速い」ため、小さな音が出せない。

通常のフットワーク  音色:ナチュラル 音量:pp~mf
通常のFW ●母指球を中心にした「ペダルボードを押す動作」が主体(母指球で空き缶を踏みつぶす感じ)
●ペダル全体を安定させるために「ペダルボード」と「足裏」の接触面積を大きくする
●ペダルが常に安定しているため、「8ビートのようなゆっくりとしたフレーズ」にベストマッチ。音色もナチュラルで良い
●しかし、速いフレーズになると「足裏の接触面積の多さ」が「ペダルボードに対してクッションの役目」をしてしまうため、ペダル全体の動きを鈍らせてしまう。結果、ビータースピードが遅くなってしまうために音色も細くなり、パワーも出ない。
  (それでも無理してやろうとするからトレーニングが必要になったり、腰痛の原因にもなってしまうのだ!)

(2000年5月)

28. 支点移動グリップ

 皆さんは、ジェフ・ポーカロやヴィニー・カリウタなどの超一流ドラマー達のグリップを見て、不思議に感じた事はないでしょうか?彼らはスティックを握っているというよりも「指の先だけでつまんでいる」ようだったり、「手に吸いついている」ように見えたりするグリップが目立つのではないでしょうか?

 これは「支点移動グリップ」というもので、スティックと指の間に“特定な支点箇所を作らない”ためのグリップです

 物の道理として、支点を作って力をある場所(打面)に加えた場合、その「反作用」として支点にも「同じ力」が必ずはね返ってきます。ですから機械工学などでは、支点箇所を増やして構造を複雑にしてまでも「反作用によって起こる反発力を分散させる技術」が常識として使われています。

 この道理と全く同じくして、超一流ドラマー達のグリップは、スティックを振り上げた時と振り下ろした時では「支点箇所がそれぞれ異なっているため、持ち方(グリップ)まで変化している」…つまり「その時々の振り幅やスピード」によって起こる、「慣性力だけに任せた支点移動」を常に繰り返してスティッキングを行なっています

 それにより、腕の重さと慣性力を打面側に伝えやすくなり、音楽的な様々な音色と音圧をも同時に表現出来てしまうのです。

 この瞬間的に行なわれる一連の動作は、約1/50秒という短時間で行なわれているためにビデオ等での習得は殆ど不可能ですが、肉眼なら習得可能です。

 この機会に超一流ドラマー独自のグリップ原理について、今までの先入観や思い込みを取り払って、もう一度見つめ直してみてはいかがでしょうか。



支点移動グリップのための3つの基本グリップ

ホールドグリップによるショット -ダウンストローク,タップストローク(P),アップストロークに対応-
ホールドグリップ スティックと手の角度

 青線に注目!手の甲のラインよりもスティックが下方に向いているため、スティックの力が打面のある下方に向かう。良い見本としては、ジェフ・ポーカロのビデオなどが比較的わかりやすい。

悪い例

 通常、写真右の状態になりやすいので注意しよう。こうなってしまうと、スティックの力は前方に流れてしまうのだ!


オープングリップによるショット -フルストローク,タップストローク(mf),アップストロークに対応-
オープングリップ スティックと手の角度

 これも青線に注目!手の甲のラインとスティックがショット時に平行になるのが基本。これもスティックの力を下方に向かわせるためである。

 ビデオでは、スティーヴ・スミス等が比較的分かりやすい。


イナーシャグリップ -スティックのリバウンド時に対応するグリップ-
イナーシャグリップ スティックと手の角度

 リバウンドのためのグリップ。けっしてこのグリップでショットは行なわない。海外の超一流ドラマー達のほとんどがこのグリップをマスターしており、デイヴ・ウェックル,ヴィニー・カリウタ,スティーヴ・ガッド等のビデオを静止画にすると確認出来る。

 写真はリバウンドした瞬間を捉えたもの。リバウンドの力がスティックのみにかかっているため、手首がまだ返っていない点にも注目。

(2000年4月)

27. 腕肩の重さを生かそう

 「重さを利用したドラミングの習得」においてまず大切なのは自分の手足などの重さを自身で完全に知覚する事です

 成人男性の平均的な腕の重さは片腕だけでも3~4キロもあります。これを「野球バット4本分の重さ」と言い換えると驚かれる方もいるのではないでしょうか?

(プロ野球選手が使うバットでも一本0.9キロ程度です)

バット4本
片腕だけで…

 多くのドラマー達がそれだけの重さに気づかず、しかも「手首や肘の屈伸主体の日本独自の基本奏法」で腕全体(バット4本分?)を振っているわけですから、それを支えている背筋や腰はたまったものではありません。特にハイテクニックなフレーズほど「本来ならば不要な慣性力」が「腕全体に生じてしまう」ため、かなりの負担になります。

 一般的には「腕を持ち上げて落とすだけ」とされている様ですが、まず「腕を持ち上げるための力」自体が「筋力」になりますし、ただ「落とすだけ」では“物体の重力加速度”の物理的見地からも「4分音符ぐらいが限界」のはずです。

 しかしフレディ・グルーバー奏法やモーラー奏法(ドラム・コーのものとは全く違います)は「脚、腰、肩などの回転反動力を垂直上昇力に変換」して腕全体を振り上げ、今度はそのエネルギーを“腕全体の重力加速”の「補助加速力」として叩き降ろしています

 さらにデイヴ・ウェックルなどの超一流ドラマー達の演奏フォームは、国内で正しいとされている「写真A」ではなく、「写真B」の「ポジショニング・フォーム」を使用し、腕全体の重さに“肩全体の重さ”をもプラスしています

(当スクール生の小西伴宣君です)
日本独自のフォーム
国内で正しいとされている静止的発想フォームと筋力主体の奏法では、腕や肩の重さを有効利用できないだけでなく、腕を動かすたびに揺さぶられる胴体を固定しようとするために背筋や腰に負担がかかり続ける。
ポジショニング・フォーム
一見不思議に思える超一流ドラマー達に独特なフォームの例。実際のセットドラミングでは、フレーズやダイナミクス等の音楽表現や、重さを有効利用するために最適な重心位置や姿勢は多様に存在する。


  このポジショニング・フォームによって腕と肩全体の重さは「片側だけで7~8キロ」にもなります。つまり片腕だけでもボウリングのボール(しかも一番重い16ポンド)が落ちてくる様なものです

 日本独自の基本奏法でアタックやボリュームを上げてしまうと、どうしても音色の汚さが露出してしまうため、とても音楽的とは言えなくなります。

 皆さんも海外の超一流ドラマー達のように「地響きのような音圧感の中に音楽的色気を表現する演奏力」を身につけてみてはいかがでしょうか


27_bowl.jpg
両肩腕には、これほどの重さ=パワーがある

(2000年1月)

26. 体内座標=動的自然体フォーム

下の写真を見てください。これはフォルテでテンポ85の32分音符をダブルストロークで移動するレッスン時のフォームです。

(当スクール初級科入校後1ヶ月、ドラム歴3ヵ月の松浦周一郎君です)
スネア座標 前方座標 特殊座標

 これは一般的に正しいと信じ込まれている「静止的発想」のフォームではなく、海外の超一流ドラマー達が共通して使う体を流動的に多方向へ移動し続ける「動的発想」による最も自然体なフォームなのです

 人間は目標物に対して手足を動かす場合、両肩や顔をその目標物に向けないと、筋肉の力の伝達を各関節によって妨げられるために力みが発生し、重心やバランスをつかさどる三半規管も脳に正しく情報を伝えられなくなるのでイメージ通りに手足を動かせなくなるのです。

 つまり、一定の姿勢を保持したまま手足だけを長時間動かす事は自然の摂理に反しているので全身に負担がかかるのです

 この「動的発想」のフォームは「体内座標」と言い、主にハイテクニックなフィルインやソロに使用します。写真はパワーを前提とした体内座標ですが、ダイナミクスや移動スピード前提等、多種多様です。「静」と「動」では人間の持つ「自然体」自体が全く異なってしまうのです

躍動的な音楽表現は「躍動的なドラミングフォーム」によって生まれるものです。

体内座標=最も実戦的な人間本来の「動の自然体」による奏法フォームなのです。

(1999年11月)

25. 自然体=日常的動作

 フットワークにおいて「足首の動き」は重要なポイントの一つであることはみなさんもよくご存じだと思います。そのため、バスドラムでパワー,スピードのある演奏をするにはスネやふくらはぎの筋肉を鍛えなくてはならないと信じ込んでいるドラマーも数多いのではないでしょうか?

 しかしよく考えてみて下さい。我々人間は生活する上で常に歩いています。その歩くという動作を別の言葉でたとえると「自分の全体重が片方の足首にかかった時にその足首を伸ばす動作」とも表現できます。たとえば体重60キロの人が歩くとき、瞬間的に60キロ以上になる体の重さが片方の「足首」にかかっているのですが、特に重さや疲労を感じてはいないはずです。

 ドラム演奏時におけるペダリングも同じく足首を伸ばす動作であるはずなのですが、わずか体重の何十分の一の重さしかないドラムペダル(フットボードの踏力は通常2~3キロしかありません)を踏むためにトレーニングをしたり、演奏時に疲労や痛みを感じることは考えてみればとても変な話ではないでしょうか?

 大変多くの方のフットワークが「非日常的なフットワーク」、つまり人間として「日常的に使っていない足首の伸ばし方」になっているように思われます。人間の通常歩行は主に足首まわりの「靱帯」という「筋肉とは別の役割を持つ部分」を使って歩いているのです。そのため、全体重がかかった足首を伸ばしても重さや疲労を感じないのです。

 「歩く」「またぐ」などの「日常的で最も自然な足首の動作」をフットーワークに取り入れたものが「自然体奏法であり正しい奏法」なのではないでしょうか?

 ドラミングだけに必要な筋肉(非日常で使うための筋肉)をわざわざ鍛えるよりも普段歩いているときの“日常的な動きの感覚”で演奏できたら大変楽だと思うのですがいかがでしょうか。また、この方法は超一流ドラマーであるバディ・リッチやデイヴ・ウェックル,ヴィニー・カリウタなどに代表されるフットワークやスティックワークでもあるのです。

(1999年9月)

24. 基本ストローク

 今回は基本ストロークについて考えてみたいと思います。(ここではスネアドラム上のストロークに留めます)下の写真は両方ともスティックを振り上げた瞬間の写真です。

 写真Aは海外の超一流ドラマー達が実際の演奏で用いている「基本ストローク」ですが、日本国内ではあまり知られていないストロークです。しかしニール・パートなどは彼自身の教則ビデオの中でギャザリングモーション(外側から自分の身体側へ力を集める動き)とこのストロークを説明し、円運動ストロークと共にセットドラミングにおける実用性をも説いています

 それに対し、写真Bは日本国内で主に「基本的ストローク」とされているものなので皆さんも良くご存じだと思います。写真下の表にこの2つの「基本的ストローク」の特徴と動き(ライン)を比較してありますので参考にしてみてはいかがでしょうか。

A.海外での基本ストローク B.日本国内での基本ストローク
海外のストローク
●外側から身体側へ腕を引き落とすストロークのため、打面に腕全体の重さをかけられる。
●腕全体の重さに加え、肩の回転力まで使えるので少ない振り幅でパワーを得られる。
●結果、関節稼動が最少になるため、筋力を必要としないでパワー&スピードが得られる。
●腕を引き落とす感覚と完全脱力がつかみにくいため、マスターするまでが大変!
国内のストローク
●身体側から前方に「押す」ストロークのため、打面にかけられる重さは「手首もしくは肘から先の重さ」に限定される。
●そのため、パワーを得るには「大きな振り幅とスピード」が必要になる。
●結果、手首や肘などの関節を「大きく往復運動させるための筋力」を得るためにトレーニングやストレッチが必要。
●筋肉を要するために手首や肘の感覚がつかみやすいのでマスターしやすい!

(写真は当スクール生の津村大輔君です)

(1999年7月)

23. 筋肉を使わない奏法

 バディ・リッチが心臓発作を起こし、4度のバイパス形成手術を受けたのは彼が66歳の時でした。「半年~1年は休業しろ」という医者の言葉と「彼のドラマー人生は終わってしまった」と信じて疑わなかった多くの人々を尻目に、手術後たった54日で手術前と同じドラミングをイギリス公演で披露して驚かせた事は有名な話です

 その上「手術後5週目までは演奏してもカンが鈍っていたからもう駄目かと思ったよ」と信じられないようなコメントも残しています。 (この模様はDCIビデオ:バディリッチ・ジャズレジェンドPART2にも収録されています)

 通常「66歳で心臓手術」といえば高齢のために回復力も筋繊維も衰え、彼のようにデニス・チェンバースをもしのぐ「スピード&パワードラミング」を行う事は不可能なはずです。つまりこれらの出来事は彼の奏法が「いかに筋肉を使わない」物だったのかを実証しています。

 皆さんはバディ・リッチに限らず海外の超一流ドラマーの奏法は「もしかしたらフレディ・グルーバーシステムやモーラー奏法を中心に構成されているのではないだろうか」と感じた事はありませんか? それらは日本人ドラマーには決して見られない奏法です。

(唯一の例外として、日本を代表するトップドラマーのP氏が同じ原理の奏法を使っていますが…)

 特にフレディ・グルーバーシステムなどは「バディ・リッチ奏法の力学原理を構築化した奏法」としてアメリカではかなり有名ですが、日本ではその「奏法原理」どころか「奏法自体」も諸事情によってあまり表面化される事はありません。

 しかしヴィニー・カリウタを始めとして、現在でもデイヴ・ウェックル,スティーヴ・スミス,ニール・パートらの超一流ドラマー達が、フレディ・グルーバー氏の元にその奏法システムを習いに訪れている事からもその優位性が理解できるのではないでしょうか?

 通常の「日本的奏法」では、腕を振り上げる事も振り下ろす(叩く)事も腕の筋肉を使うのに対し、フレディグルーバーシステムでは脚,腰,肩などの「回転反動力」を「垂直上昇力」に変換して腕を振り上げ、「腕肩全体の重さをスティックにかけて叩く」という奏法原理を使っています

(成人男子の腕全体と肩の重さは6kg以上もあり、両腕肩では12kg以上の重さです)

 フレディ・グルーバーシステムやモーラー奏法(コースタイル系のものとは全く異なります)のスティックの軌道に「8の字スティックワーク」のような円運動ストロークが見受けられるのは実はこの「回転反動力を垂直上昇力に変換しているため」です。ですから安易にその軌道だけを練習しても意味が無く、実際の演奏では使い物にならなくなる理由もここにあるのです。

これらの「アメリカ的奏法」は、見た目のラインや姿勢よりも「身体の内部原理」を使った物なのです

(1999年5月)

22. 顔の表情筋と呼吸法

プロドラマーS氏顔A

 どんなに複雑で難解なフレーズでも“冷静かつ余裕のある顔つき”で平然と演奏する…

 もしあなたが少しでもそんな理想を抱いているのなら考えを改めた方が良いかも知れません

 超一流ドラマー達の「バンド演奏中の顔つき」を見て下さい。身体は完全脱力しているのに何故か「顔つきだけに力が入っている」ことに気付くはずです。

 特にスティーヴガッドなどはかなり険しい顔つきで演奏を行うため、「こんなに演奏力があるのに、あそこまで真剣にドラムに向き合うその精神力が凄い!」などと感心している人も多いのではないでしょうか?


プロドラマーS氏顔B

 しかし彼等のその顔つきの理由はそんな“精神論”的なものではありません。ドラミング呼吸法を用いた際に起こる、むしろ“物理的な理由”によるものなのです

 彼らの演奏中の顔つきに共通して言える特徴は「唇」と「頬」の内側に力を入れている事です。これはクラシック系の管楽器奏者が演奏時に使っている表情筋の状態と酷似しています。

 管楽器はその性質上、肺の中の空気を全て吐き切るまで音を出さなければなりません。それと全く同様に、呼吸法を用いてドラミングを行う場合にも“肺の中の空気を全て出しつくして歌う”事が音楽表現の重要なポイントの一つとなっています。


プロドラマーS氏顔C

 その際「口内でのスムースな空気の流れ」を作り出すため、唇と頬の表情筋を使って“息のコントロール”をする結果、顔つきだけに力が入らざるをえないのです。

 つまり、彼らと同種類の呼吸法を使った音楽表現を“冷静かつ余裕のある顔つき”で行う事は「物理的に不可能」なのです。

 だからといって、やみくもに顔に力を入れたり、口を丸く開いたり等の“スポーツ的な顔つき”でも呼吸法は不可能です。その表情筋の使い方では気管が広がってしまうために身体が「過酸素気味の状態」となり、全身に力みが走って音楽表現どころではなくなってしまうからです。


超一流ドラマー達が行う「ドラミング呼吸法」は、顔の表情筋までを有効利用して、
あの独特な音楽表現を醸し出しているのです。
(写真はドラミング呼吸法で演奏する当スクール生達です)
佐藤扶由夫さん顔D 佐藤扶由夫さん顔E

(1999年4月)

21. スピード・フットワーク

 当スクールのドラミング無料電話相談室には「バディ・リッチやデイヴ・ウェックルなどのフットワークを見ると、ひざを上下にあまり動かさないで左右にブレさせる様にやっているのは何故ですか?」とか「ひざを左右に動かしているのに、どうして彼らはフットペダルが踏めるのですか?」という質問も寄せられて来ます。

 そこで今回は円運動フットワークについてです。円運動フットワーク(オーバルモーション・フットワーク)とは、手で行う「モーラー奏法」や「フレディ・グルーバーシステム」の原理をフットワークに応用したもので主に超一流と言われているドラマーのフットワークに多く見受けられます。

 この奏法はひざを左右にブレさせているように見えるのが特徴です。しかしこれは“股関節と足首を同方向に回転させているため”で、「腰内の内臓筋」と「脚の裏の骨格筋」のコントロールがポイントになっているからなのです

EX-1はシングルペダルで行う「テンポ140&7連打&メゾフォルテ」のフットワークエクササイズです。

21回譜例

 このフレーズに「スライド奏法」を用いてもメゾフォルテでは4~5連打までが限度でしょうし、「ヒールアップ奏法」では連打は出来ますが、このテンポでパワーを出すためには100キロ級の体重が必要でしょう。

 また、「アップダウン奏法」を用いればメゾフォルテのパワーは出せますが、テンポ140に達するには“腹筋や大腿部の筋肉をかなり酷使してしまうため”に腰痛などに悩まされてしまう恐れがあります。

 しかし「円運動フットワーク」を用いれば、ほとんど筋肉を使わずにEX-1のフレーズを行う事ができるのです。その上、フットペダルに特別な改造をする必要も一切ありません。

 バディ・リッチやデイヴ・ウェックルなどが回転運動を基本としたフットワークを行う理由は、地球の1Gという重力を最高度に有効利用するため、「足用モーラー奏法」を使っているからなのです。

(1999年3月)

20. グレイシー柔術とドラム人間科学

 当スクールのドラミング無料電話相談で「ドラム人間科学の理論は誰が考えたのですか?」という質問を多く受けます。そこで今回はドラム人間科学の理論の一つである「人体力学」についてお話しましょう。

 人体力学は古代中国で生まれた「筋力に頼らない合理的な身体の動かし方」を体系化した学問で、格闘術(武術)と共に戦国時代以前の日本に輸入され、様々な格闘術に取り入れられて発展しました。しかし残念な事に現在の我が国ではその原理もすっかり忘れ去られています。

ドラム人間科学では、この人体力学を「ドラム演奏時の身体の動かし方」に応用しています。

 ところで皆さんは、先頃来日してプロレスラーと試合を行った 「400戦無敗の格闘家:ヒクソン・グレイシー」をご存じだと思いますが、実は彼も人体力学を使って闘っています。ヒクソン・グレイシー柔術のルーツは日本の柔術(現在の柔道とは違います)であり、筋力パワー偏重の現代格闘技界で人体力学を使っているのは彼だけでしょう。

 ヒクソンが自分より体格的にも筋力的にもはるかに勝るプロレスラーやキックボクサー等と闘ってもけっして負けないのは、人間の身体構造から割り出された、筋力に頼らない合理的な身体の使い方を知り尽くしているからです。(彼はトレーニングマシンはおろか、腕立て伏せやヒンズー・スクワット等の筋力トレーニングもほとんど行っていません)

 ドラム演奏に体格や筋力は関係ありません。スティーヴ・ガッドやジェフ・ポーカロ等は日本人の平均身長と比べても小さく、デニス・チェンバースも身長はガッドと大差ありませんし、ヴィニー・カリウタは長身ですが筋肉マンではありません。

なぜ彼らが超一流のドラマーになれたのか?それは彼らの奏法が「人体力学」的に見て無理のない、筋肉を使わないものになっているからです。

(ドラム人間科学とグレイシー柔術は同一のルーツです)
人体力学継承図

(1999年1月)

19. パラアップ・ストローク

今回は人間の「本能」と「ドラミング」の関係についてです。

 「叩く」=「手を高く構えた状態からすばやく振りおろす」という動作は人間の本能にすでに組み込まれた動きであり、人間が生活し文化や文明を築き上げるにも必要不可欠なものです。赤ん坊がわけもなく床やテーブルを叩いたりする理由も実はここにあります。

パラアップストローク つまり、極論的に考えてしまえばドラミングの習得に「叩く」事を意識した練習など必要ないとも言えるのです

 ドラミングというものは一打叩いたらもう一度スティックを振り上げないと絶対に次の音が叩けません。ということは「適切なタイミング」でスティックを振り上げること(又はリバウンド)ができないと次の音を正確に叩けないという事です。この傾向はフレーズが速くなればなるほど、移動が多くなればなるほど強く表れてきます。

 たとえ初級者でも「次の音をスムーズに叩くために適切な位置」に「適切なタイミングでスティックをすばやく振り上げる事」を連続できたら容易にドラミングを行えるものです。

 叩く(すばやく振りおろす)事は本能で行えますが「すばやく振り上げる動作」は人間の本能の中には存在しない動きなのです。

 皆さんも海外の超一流ドラマー達が共通して使う「パラアップ・ストローク」という「振り上げるタイミングをプログラミングしたストローク」をマスターしてみてはいかがでしょうか?

(写真の彼はパラアップ・ストロークをレッスン中の当スクール生、丸山“サウスポー”央介君です)

(1998年11月)

18. スティックワーク総集編

今回は今までの「ドラミングアドバイス」の中から、スティックワークのまとめをします。

 初めに「構え」です。(詳しくは、第7回をご参照下さい) まず「写真A」のポーズをとって「完全脱力」をして下さい。レギュラーグリップの際は左腕を90度回します(写真B)。そこで“スティックを持つ”のではなく、“指のすきまにスティックを差し込む”のです(写真C)

構え(写真A) 構え(写真B) 構え(写真C)

 そして全身を指先まで完全脱力のまま“両手首をブラブラさせる感じ”で叩く事を体得できたら、「オーバルモーション・ストローク」にチャレンジです。

 オーバルモーションストロークとは、「フル」「アップ」「ダウン」のストロークを行う際、「意図的に振り上げるラインと振り下ろすラインを分ける」事によって筋肉への負荷を大幅に減らし、「スピードとパワーの両立を達成させる奏法」の事で、フレディ・グルーバーシステム等の「要」にもなっています。

 この奏法には実に多くのラインが存在しますが、今回は「ライトラウンド」というラインのみを紹介します(写真D)

ライトラウンド(写真D)
(その他の主なラインについては、第12回をご参照下さい)

 最後に「フォーム」についてです。人間の重心は運動時において刻々と変化します。その“動的な重心移動”から割り出したものが「動的自然体フォーム」です。今回は「スネアポジション」のみの紹介ですが、参考にしてみて下さい(写真E)

スネアポジション(写真E)
(その他の主なポジションについては、第5回第26回をご参照下さい)

 今回紹介した全ての奏法は、奏法改革を最近達成したデイヴ・ウェックルやバディ・リッチ奏法にも共通する「基本」の部分です。彼らは“いかに筋肉を使うか”ではなく、“いかに筋肉を使わないか”をテーマとした「筋肉を使わない奏法」を習得しているのです。

(写真の彼は、当スクール生の木村優一郎さんです。プロドラマーとしてJazz Saxのマルタ氏とも共演中!)

(1998年9月)

17. 呼吸法のメカニズム

 近頃、当スクールの「ドラミング無料電話相談室」に呼吸法に関してのSOSが急激に増えています。いずれも呼吸法の練習をしてから「体が痛い」「リズムが狂う」「手足が動かなくなって以前よりもドラムがヘタになった」などのSOSです。

 そこで彼らに、どんな呼吸法で練習しているのかを尋ねたところ、「クリックや8分音符に合わせて息を吸ったり吐いたりする」という、かなり勘違いな呼吸法を全員が練習していたのです。

 つまり、「ドラミングの呼吸法」とはまったく異なる種類の「出産呼吸法」や「マラソン呼吸法」を安直にドラミングに応用しようとした結果、彼らのドラミング自体に異変をきたしてしまったのです

そこで今回は超一流ドラマー達が行っている「呼吸法のメカニズム」についてふれてみる事とします。

 一般ドラマーのドラミング中の「肺の空気換気量」は安静時の毎分200ml~300mlの約10倍の3000ml前後にも達します。しかし、超一流ドラマー達は「体内を低酸素状態にする呼吸法」を用いて、ドラミング中の肺の換気量を毎分1000ml前後に抑えます。すると「血中酸素の欠乏状態」となり、発汗を伴いながら筋肉の緊張が解けて極端な脱力状態に入れるのです

 それと同時に今度は「脳内酸素の減少」が起こります。すると脳内で快感や怒りなどの情動や、本能的欲求を司る「大脳辺縁系や視床下部」から、モルヒネの6倍以上の快感作用の「脳内物質」が放出されます。そのため、気持ち良さを伴いながら音に対する集中力が一気に高められるのです。

 また、その脳内物質は脳下垂体から血流に乗って全身にも行きわたります。その結果、通常は自律神経でしか行えない不随意筋(内臓筋)などのコントロールを自己の意思でも行い、その反動を手足の随意筋(骨格筋)に伝え、その先端にあるドラムスティックにまで及ばせているのです。

呼吸法メカニズム図

超一流ドラマー達は、「体内酸素量」「脳内物質」「不随意筋」「随意筋」のコントロールを呼吸法をきっかけとして作りだし、異常としか思えない音楽表現と集中力を発揮しているのです

(1998年7月)

16. フィンガーコントロール

 海外の超一流ドラマー達が行うフィンガーコントロールは主に「瞬間的トーンコントロール」と「瞬間的ダイナミクスコントロール」を目的としたもので、一般的に考えられている「スピードを目的としたフィンガーコントロール」とはまったく異なるものです。

まず「瞬間的トーンコントロール」についてです。

 打面ヒットの瞬間、スティックに触れている「指の接触面積」を多くするとスティック自体の剛性が上がるため、アタックの立ち上がりが鋭くなって音が締まり、ピッチも高い音になります。逆に接触面積が少なくなるほどスティック剛性が下がるため、音の立ち上がりが鈍くなり、ピッチも低くなります。

 この両方の特性をハイハットやライドやゴーストノートに一打ずつの瞬間で使い分けて独特のグルーヴ感を生み出していたのが、ジェフ・ポーカロです。

次は「瞬間的ダイナミクスコントロール」についてです。

 下記譜面フレーズのように、アクセント=フォルテシモ,通常音=ピアニシモとした場合、フォルテシモとピアニシモが一つのフレーズ内に同時に存在する事になります。

 通常、不可能と思われるこの瞬間的ダイナミクスを、ピーター・アースキンやデニス・チェンバースらは、手の中側のスティックストローク幅を「指」を使って瞬間調節することで可能とし、彼らの音楽表現の大きな武器としています。

皆さんも「グルーヴ」や「音楽表現」のためのフィンガーコントロールをマスターしてみてはいかがでしょうか?
第16回譜例 ※リムショット及びシンバルへのショルダーショットは使用しない。

※アクセントはフォルテシモ(その楽器の最大音量)それ以外の音は全てピアニシモ(叩くのではなく、スティックの先端で触れる程度)で演奏する。

(1998年5月)

15. 超脱力のグリップ

 海外の超一流ドラマー達のグリップには、親指と中指でスティックをはさむスタイルのミドルフィンガー・グリップが目立つはずです。

 ミドルフィンガー・グリップとは、親指と中指を中心に薬指と小指はリバウンド・ストッパー、人さし指にはリバウンド・コントローラーという役割を持たせた、支点移動スティッキングを行うためのグリップのことで、特に超高速フレーズなどの色付けやサウンド表現には無くてはならないものなのです。

 また、このグリップを行う上で最も重要なのが「極端な脱力」です。通常、いくら脱力といってもある程度の筋肉の緊張は必要だと考えられがちですが、このグリップは「腕全体の重さ」を「パワーとして生かす」ため、ほんの少しの緊張もあってはならないのです。

このレッスンを、日本のトップのスタジオドラマーに対して行った時
(当スクールでは有名プロドラマーへの奏法アドバイスも行っています)
そのドラマーから
「今以上に脱力したら、スティックを持つことも出来ません」
という言葉が飛び出したほどです

 つまり、日本屈指のトップドラマーでさえ「これ以上の脱力なんて無理なんじゃないだろうか?」と思う所以上に力を抜いたとき、初めてミドルフィンガー・グリップの有利性を生かしきる事が出来るのです。

ミドルフィンガー・グリップのバリエーション
ホールド
ホールドグリップ
オープン
オープングリップ
イナーシャ
イナーシャグリップ

(1998年4月)

14. 円運動フットワーク

今回は、人間の身体にとって最も合理的な足の奏法についてです。

(写真の彼は当スクール生の山脇豊土さんです)

 人間の足は骨も湾曲し、各関節も曲がってついているのですが、なぜか日本のドラマー界では「まっすぐついている」と誤解されているため、「写真A」のポジション(自分の正面にペダルを構えるポジション)で演奏されがちです。

 しかしこれは、力の伝達を各関節によって妨げられるために演奏が自然体でなくなるポジションなのです。

ポジションA

ポジションB

 「写真B」は、最も自然体で合理的なポジションを「人間の足の骨と各関節のつき方」から割り出したもので、ヴィニー・カリウタなどに代表されるポジションです。

ポジションC

 「写真C」はペダルコントロールを足の小指側や側面で行うためのもので、デイヴ・ウェックルやデニス・チェンバースに代表されるポジションとなっています。

次は、オーバルモーション・フットワーク(円運動フットワーク)についてです。

 「モーラーシステム」や「フレディグルーバー・システム」の基本的な奏法原理は第12回で説明しましたが、フットワークにも全く同じ物理的原理の奏法があるのです。

 「写真1」の「レフトラウンド・ライン」は急ぎぎみに歩いたりするときなど

写真1

 「写真2」の「ライトラウンド・ライン」はゆっくり歩いているときなどに人間が無意識的に使っている最も自然なラインで、他にも様々なラインが存在します。

 海外の超一流ドラマーのフットワークは日常生活のなかで誰もが使う自然な動きを、オーバルモーション・フットワークによって生かしているだけなのです。

写真2

(1998年3月)

13. 練習方向を考えよう

 海外の超一流ドラマーが演奏している「曲」を聴いてみてください。フレーズやパターンを聴くのではありません。そのドラマーが唄おうとする歌と他プレイヤーとの「調和」を聴くのです。彼らのうねりのある演奏力は、あなたの回りの友達や先輩ドラマーのタイプとは根本的に違うもののはずです。

 周りの人と同じ様な方法でいくら練習しても、そこから飛び抜けるのはとても難しいのではないでしょうか?また、練習熱心なドラマーほど、ルーディメンツや難解フレーズのクリック練習主体で、表現力がおろそかになっているようにも感じます。

 プロ音楽業界が求めているのは「ドラマーとして優れたドラマー」ではなく、「ミュージシャンとして優れたドラマー」なのです。

 表現力を身に付ける第一歩としてまずは、個人練習の時の「ドラム音」よりもバンドの音にマスキングされた「ドラム音」を中心として考え、その音色をもっと良く知る事から始めてください。

 次に、アクセントやクレッシェンドは、バンドメンバー全員がびっくりするほど極端なものから、誰も気が付かない細かいニュアンスのものまで何回もやってみる。

 そして、メンバー達のフレーズやリズムを聴くよりも先に、ギターやベースの唄おうとしている歌を聴くのです。また、どこで息を吸って吐くのかということも、とても大切です

ここまで出来るようになれば、演奏上のリズムのズレ等の
ミスさえ耳をコーフンさせる材料にもなるのです。

皆さんも「歌」と「呼吸」を中心とした
「曲表現」をとことん突き詰めて考えてみてはいかがでしょうか?

13回譜例 こんな単純な8ビートパターンでも
5通りや10通りの表現が可能です

(1998年1月)

12. 円運動ストローク

 今回は「パワー」と「スピード」を両立させることが出来るモーラー・システムやフレディ・グルーバー・システムにも共通するオーバルモーション・ストローク(円運動ストローク)のバリエーションについてです

 海外の超一流ドラマー達と日本のドラマーのスティックワークにおける決定的な違いは「オーバルモーションストロークを実戦で十二分に使えるか使えないか」ではないでしょうか?

 オーバルモーション・ストロークとは「フル」「ダウン」「アップ」のストロークを行う際、意識的に振り上げるラインと振りおろすラインを分ける事によって筋肉への負荷を大幅に減らす「ラインどりスティックワーク」の事で、モーラー・システムやフレディ・グルーバー・システムの「要」にもなっている奏法なのです。

 オーバルモーションストロークのラインには実に多くのバリエーションがあり、とてもこのスペースでは紹介しきれませんが、その中で最も代表的なラインとそのラインを主体とするドラマーを下記にまとめてみましたので、ぜひ参考にしてください。

ライト・ラウンド
(右回転)
フロント・ラウンド
(前回転)
ライト・ラウンド
ヴィニー・カリウタ
ピーター・アースキン
フロント・ラウンド
ジム・チェイピン
ゲイリー・ノバック


レフト・ラウンド
(左回転)
スラント・モーションストローク
(Vライン・スティッキング)
レフト・ラウンド
フレディー・グルーバー
ニール・パート
Vライン
ジーン・クルーパ
ジョー・ジョーンズ

(写真の彼は当スクール生の浜田隆吉さんです!)

(1997年11月)

11. 超高速スティックワーク

 今回はアクセントと移動を伴う超高速域でのルーディメンツ応用についてです。

あなたはEX-1のフレーズを「表記通りに演奏」できるでしょうか?

超高速フレーズ譜例

 この32分音符を使ったルーディメンツ応用フレーズは「テンポ120」「フォルテ」の表記さえ省けば最も単純な初歩のパラディドルなのです。このような超高速フレーズを確実に行うには「オーバルモーション・ストローク」という慣性の法則に従った、移動のためのラインどりスティックワークが必要です。

 下の画像はEX-1のフレーズを演奏する際の「右スティック先端の動き」を線で表わしたものです。

写真A 写真B

 「写真A」のフル,ダウン,アップ,タップの4つのストロークを使った最も一般的なラインでは「腕にかかる不必要な慣性力」を殺すために筋肉が使われてしまうので「力み」が先行し、EX-1のフレーズを表記通りに演奏するのは不可能となります(テンポ90ぐらいまでが限度)。

 しかし、英語などの筆記体の文字をドラムセットの空間で描いたようにスムーズなオーバルモーションストロークを使った「写真B」のラインを使えば強力な慣性力をスティックのみにかける事が出来るので超高速のEX-1のフレーズも可能となるのです。

 また、バディ・リッチをはじめとして、超一流ドラマーの中には、スネアドラムだけで大音量の超高速フレーズを行う際にもオーバルモーションストロークを使うドラマーが数多くいます。その理由は、筋力を使う必要がほとんど無くなるために「ハードロックドラマーのパワー」と「ジャズドラマーのスピード」を同時に得ることが出来るからなのです。

 オーバルモーション・ストロークのマスターは、慣性の法則に従ったラインを知ることから始まるのです。

(1997年9月)

10. グルーヴ術

 最近、クリックに合わせて練習をするドラマーが増えていると耳にします。「リズムの存在を認識させる」という目的のみで短期間に(長くても2~3ヵ月)この練習をするのは良いのですが、長期間続けてもそれ以上の効果は無く、逆に実際のバンド演奏では“表現能力が無い平坦なドラマー”になってしまいがちです。

 つまり、この方法はリズムの躍動感やスケール感等のエネルギーをドラマーから奪い取る練習法とも言えるのです。そこで今回はグルーヴ術についてです。

海外の超一流のドラマー達と同質,同次元のグルーヴ感を身につけるには

(1)完全脱力→(2)右脳による音の記憶→(3)呼吸法

という3つのステップを踏まなければなりません。

 まず(1)の完全脱力による筋肉を使わない奏法は「ドラミングアドバイス」第1回~9回を参考にして下さい。

 次に(2)の右脳による音の記憶についてです。人間は「音」のほとんどを右脳で判別して記憶しています。ですから右脳記憶が曖昧だったり、間違ったものの場合、身体に対して的確な指令を脳が出せなくなるためにグルーヴ表現が難しくなるのです。

 そのためには、オーディオ機器の見直しも実は大変重要です。ラジカセ,ミニコンポ,カーステレオ等、音楽の密度感や音場等の解像力が低いオーディオでは音楽表現の細部まで再生されていません。結果として細部の右脳記憶が失われて大ざっぱなグルーヴしか表現できなくなってしまうのです。

 ここまで来たら(3)の呼吸法の習得だけです。まずは基本原理から説明します。コーヒーカップを手に持って「咳」や「くしゃみ」をしたときに身体に「力」が入っていれば何も起こりませんが「完全脱力」していたら中のコーヒーをこぼしてしまうはずです。

 つまり、「完全脱力」の状態では息を吐くだけで手足が勝手に動くのです。呼吸法を使ったドラミングとは人間が呼吸に使う「呼吸筋」の小さな伸縮を最大利用して呼吸で手足を動かす究極の人体力学奏法なのです。

 「完全脱力による筋肉を使わない奏法」が必要不可欠となる理由は、体にほんの少しでも力が残っていると、それが呼吸筋にとって大きな負荷となるため、呼吸で手足を動かせなくなるからなのです。

「完全脱力」「右脳記憶」「呼吸法」を全てマスターしてこそ、
フレーズに合わせて息をしたり唄うだけで手足が自由自在に動く
「グルーヴドラミング」が可能になるのです。

(1997年6月)

09. ルーディメンツ応用(2)

あなたはローピッチにチューニングされたフロアタムの上で、
テンポ120以上のルーディメンツをフォルテで、
しかも身体の力を抜いて楽に演奏出来ますか?

 もしこの条件で出来ないとしたなら、あなたの今やっているその奏法は間違っているかもしれません。せっかく練習したルーディメンツもセット応用時にパワーが落ちたり、速い移動フレーズ等に対応できなかったりしたのでは宝の持ち腐れではないでしょうか?

 K's MUSICでは、ルーディメンツをローピッチのタムでもスネア上と同じく演奏できる奏法でレッスンを行っています。しかもそれは特殊な奏法ではなく、海外の一流ドラマー達の多くが共通して使う筋力を必要としない本物のナチュラルな奏法なのです

 しかし、今の日本ではコースタイルのマーチングドラマーにとっての奏法は完成の域に近づいていますがドラムセットドラマーにとっての奏法についてはまだ間違った常識がまかり通っているようです。

 例えば、大袈裟に90度前後もスティックを振り上げる基本フォームではドラムセット応用時に不必要な遠心力が強い求心力を生んでしまうため、速い移動アクセントフレーズ等が困難になる上、「力み」の原因にもなります。

 また、今まで「絶対」だと信じられてきた フル,ダウン,アップ,タップといったストロークも速い移動アクセントフレーズでは例外となりやすく、その領域では…

(1)オーバルモーションストローク

(2)スラントモーションストローク


(3)パラアップストローク


という3つのストロークの習得こそが最大の鍵となってくるのです。

 われわれがルーディメントをする目標は、コースタイルのマーチング奏法自体を身につける事ではなく、そのテクニックをいかにドラムセットに応用するかということなのです。その意識をしっかりもたないと、何の意味も無い練習に時間とお金だけが無駄に費やされる結果になってしまうことを忘れないでください。

(1997年5月)

2005年06月16日

08. みかんとフットワーク

 皆さんは身体の重心とフットワークの関係について深く注目し、考えた事はありますか?身体をドラム椅子にあずけた状態での重心位置と重心移動はフットワークを確実なものにする上で実はとても重要なのです。

 海外の超一流といわれるドラマー達のフットワークの重心位置と重心移動は、力学的に最も有効な体内座標という「動」の自然体フォームを活用しています。結果、バスドラムをフォルテでスピーディーに演奏していても使っている筋肉はほとんど力を必要としていません。

 その気になればバスドラムのペダルボードにみかんを固定し、みかんを潰さないでバスドラムをフォルテの音量で演奏することも可能なのです。(※こちらのページに動画とその理論を掲載しております

ペダルボードにみかん

 しかし重心を考えない非合理的なフットワークをするドラマーは運動によって足腰の筋肉を鍛えざるをえません。たとえ鍛えたとしてもバスドラムのスピードや音量がある一定以上あがらず、無理してプレイを続ける結果、腰痛などのジレンマに現役プロドラマーでさえ陥りやすいのです。

 また、重心のとり方とフォームは人種や性別によっても全く異なるという事実も意外と知られていません。あなたが東洋人で標準体型の男性なら「黒人」と「女性」と「肥満体型の人」とは骨盤のつき方や骨盤自体の形状が異なるため、外見的に同じフォームでも力学的には全く別なものになってしまうのです

人間の身体構造を本当に理解してこそ、
超一流ドラマー達と同一のフットワークが見えるのです。

(1997年3月)

07. グリップの力学

 今回は海外の超一流ドラマー達の多くに共通するスティックの持ち方、グリップ力学のお話です。

 最初に「構え」ですが、下の写真を見て下さい。(名古屋から月一回の4時間レッスンに通う松田大学君です)

写真A:両手首の脱力
まず、両手首の力を完全に抜いて写真Aのポーズをとって下さい。
写真B:左腕を90度
レギュラーグリップの際は左腕をそのまま90度回します。
写真C:構えの完成形
ここでスティックを手にするのですが「持つ」のではなく、指先まで完全脱力のまま「指のすき間にスティックを差し込む」のです

 ここまで脱力しては叩けないと思われがちですが、ローピッチタムでもフォルテの音量を出せる奏法があるのです。


 次は「支点」についてです。彼らには定まった支点箇所は一切無く、スティックを振ることで発生する慣性やリバウンドの力を最大限に有効利用する結果、一打ずつの一瞬で支点ゾーン内での支点移動を繰り返す「移動支点スティッキング」を用いています。なぜなら、明確な支点箇所を作ることはリバウンドの力を自身の指の力で妨げるばかりか慣性力学の法則にも反するが故に必ず力む結果となるからです。


最後に「スティックの持ち方の概念」についてです。

1.ホールドグリップ 2.オープングリップ
写真1:ホールドグリップ
一般的には写真1のような「ホールドグリップ」を主体に考えられがちですが
写真2:オープングリップ
ハイテクニックな演奏ほど2の「オープングリップ」の使用頻度が増し、上級者になるほど無意識に身についているものです。

 結果的にオープングリップのマスターの度合が、ルーディメンツ等の上達度を決定づけてもいるのです。超一流ドラマー達の奏法は一般のものとは一線を画し、科学的かつ合理主義に徹した本物のナチュラル奏法なのです。

(1997年1月)

06. 商業演奏法の重要性

 音楽を芸術と商業とに分けて考えるのは私自身とても不本意なのですが、今回は便宜上分けて話を進めます。

 数年前、某有名音楽事務所のオーディションにセミプロやスクール講師陣などのドラマーが数十人と集まりましたが全員不合格という結果でした。私は関係者という立場でその様子を見ていたのですが、ジャズ系,ロック系,ソウル系等、皆、個性豊かで高度なテクニックを持ったドラマーばかりでした。

なぜ全員不合格にされてしまったのでしょうか?

 その理由は課題曲に対してジャズやロックなどの芸術音楽的アプローチしかできず、商業音楽に要求される表現性主体の演奏法が出来なかったからなのです

 皆さんは一般的に商業音楽と言われている無名アイドルやCM用BGMの曲などに注目し真剣に聴いたことがありますか?そして、そのドラミングを完全コピーしたことはあるでしょうか?

 商業音楽の演奏法には一種独特な法則が存在し、主に音色感,エネルギー感,無機質感,スケール感,解像度,ドライブ感等の中からどれを優先表現するかという演奏方法が重要になります

 一般的に言われる「シンプルな演奏」とはあくまで譜面上だけの話で、優先表現がなければアマチュアレベルの歌ものバンドにしか通用しません。まして芸術的音楽だけを追及し、そのグルーヴとサンバキックやパラディドル等を使った難しいフレーズが上手に叩ければ仕事が取れると思い込んでいるならば、それは全くの勘違いだと断言しましょう。

 プロ=華々しくカッコイイ職業というわけでは決してありません。本気で音楽を職業にしたいと考えているならば、一流ミュージシャン達でさえ仕事として演奏している商業音楽にも目を向けてみることです。

商業演奏法を完全に身につけてこそ音楽を職業に出来るのです。

(1996年11月)

05. 動的自然体フォーム

下の写真を見て下さい。これはフォルテでテンポ85の32分音符をダブルストロークでタム移動するレッスン時のフォームです。

スネア座標 特殊座標
(当スクール初級科入校後3ヵ月、ドラム歴一年の新田照雄さんです)

 これは一般的に正しいと思い込まれている「静止的発想」のフォームではなく、海外の超一流ドラマー達が共通して使う身体を流動的に多方向へ移動し続ける「動的発想」による最も自然体なフォームなのです。

 人間は目標物に対して手足を動かす場合、両肩や顔をその目標物方向に向けないと、筋肉の力の伝達を各関節によって妨げられるために力みが発生し、重心やバランスをつかさどる三半規管も脳に正しく情報を伝えられなくなるのでイメージ通りに手足を動かせなくなるのです。つまり、一定の姿勢を保持したまま手足だけ長時間動かすことは自然の摂理に反しているので全身に負担がかかるのです。

 この「動的発想」のフォームは「体内座標」と言い、主にハイテクニックなフィルインやソロに使用します。写真はパワーを前提とした体内座標ですが、ダイナミクスや移動スピード前提等、多種多様です。「静」と「動」では人間の持つ「自然体」自体が全く異なってしまうのです。

スネア座標(フォルテ) 右側方座標 左側方座標 前方座標
体内座標=最も実戦的な人間本来の「動の自然体」による奏法フォームなのです。

(1996年8月)

04. 呼吸法=内臓で叩く

 呼吸と筋肉の関係については全く別のものと思われがちですが、脳の呼吸中枢が運動神経を介した指令先は呼吸筋という「筋肉」なのです。そこで今回は「呼吸法」についてです。

 脱力,グルーヴ,ダイナミクスのコントロールからテクニックやフレーズの習得まで、全てが呼吸法でマスター出来てしまうと言ったら、驚かれてしまうでしょうか?国内で呼吸法を熟知して実戦応用できるのは、プロでもごく一部なので無理はないかもしれません。

 今回は、最初の脱力コントロールについてのみ書きますので、参考にしてみて下さい。

 全ての筋肉は酸素を主なエネルギー源としています。ドラム演奏上の「力み」は必要以上の酸素を呼吸によって肺(体内)に取り込んでしまうことに起因しています。分かりやすく言うと、体内の酸素量が上がると脳は筋肉に対して「力をもっと入れろ!」と命令してしまうのです。いくら力まないようにと練習しても力んでしまうのは、この理由によるのです。

 また、息を一気に吐くのは良いのですが、吸うのが素人目にも判ってしまうような息の荒いドラマーは、自身でどんなに力を抜いているつもりでも、その人が宇宙人(?)の身体構造でもしていない限り、相当量の筋力が必要です。結果、たとえプロでも身体に無駄な筋肉がついたり、無意味な練習量につきまとわれてしまうのです。

 解決策としては体内を無酸素状態に近くする呼吸法しかありませんが、バディ・リッチ他、海外の超一流といわれるドラマー達が共通して使う筋肉を使わない奏法を同時にマスターしないと、今度は酸欠状態になる恐れもあります。

内臓を使ってドラムを叩く=それが呼吸法なのです。

(1996年6月)

03. ルーディメンツ応用

あなたは、ローピッチにチューニングされたフロアタムの上で
テンポ120以上のルーディメンツをフォルテシモで
しかも身体の力を抜いて楽に演奏出来ますか?

 もしこの条件で出来ないとしたなら、あなたの今やっているその奏法は間違っているかもしれません。

 せっかく練習したルーディメンツも、セット応用時にパワーが落ちたり、移動フレーズが速く出来なかったりしたのでは、宝の持ち腐れではないでしょうか?

 ドラム人間科学では、ルーディメンツをローピッチタムでもスネア上と同じく演奏出来る奏法でレッスンを行っています。しかもそれは特殊な奏法ではなく、海外の超一流といわれるドラマー達が共通して使っている筋力を必要としないとてもナチュラルな奏法なのです。

 しかし、今の日本ではマーチングドラマーにとっての奏法は完成の域に近づいていますが、ドラムセットドラマーにとっての奏法についてはまだ間違った常識がまかり通っているようです。

 例えば、大袈裟に90度近くもスティックを振り上げる基本フォームでは、ドラムセット応用時に遠心力が求心力を生んで速い移動フレーズが困難になりますし、フル,ダウン,アップ,タップといったストロークも重要ではなくなってきます。また、最近になってようやく注目され始めたモーラー奏法や他奏法も、現段階ではドラムセットに応用出来ない卓上理論に終わっているようです。

 われわれの目標はマーチング奏法自体を身につける事ではなく、そのテクニックをいかにドラムセットに応用するかということなのです。その意識をしっかり持たないと、何の意味もない練習に時間とお金だけが無駄に費やされる結果になってしまう事を忘れないでください。

(1996年4月)

2005年06月14日

02. 右脳って何だ!?

 今回は上達の要、「脳」のお話しです。少し難しい話となりますが上達に大変役立つ話なので真剣に読んでみて下さい。

 人間の大脳は「右脳」「左脳」に別々の能力をもたせて分かれており、実はトップドラマーになるほど右脳をフル活用したドラミングをしているのです

 ドラミングには聴覚や触覚を中心とした様々な「感覚」が必ずつきまといます。右脳はそれを基にした判断を、運動中枢に送り、人体を動かし、瞬時に自分のイメージに最も近い音色やフレーズやグルーヴなどを造り上げる働きをしています。つまり複数の感覚を平行して判断し実行させる「瞬間イメージ連続知覚能力」があるのです。

 それに対し「左脳」は、「計算分析能力」が主であるため、左脳を優先させたドラミングをする人はハイテクニックやグルーヴ等、すべての習得に多くの時間がかかり、結果として上達の妨げになったり、中級以降の伸び悩みにつながってしまっているのです。

 また、この「右脳活用法」は、人体力学と平行して行わないと実戦で何の役にも立たない「卓上理論」に終わってしまう気難しいものでもあります。

 ホームページでこれ以上詳しくお話しできないのが残念ですが、皆さんも右脳について少し考えてみてはいかがでしょうか?

右脳の上達はドラミングの上達そのものと言えるからです。

(1995年10月)


01. 筋肉を鍛えろ!?

 故バディ・リッチが、あれだけ他のドラマーをしのぐパワーとスピードで迫力あるプレイが何故できたのか、皆さんは不思議に感じたことはありませんか?しかも50歳、60歳といえば体力は衰え、十分な筋運動は不可能になっているのです。

 それは、最近よく見かける筋肉を使う(鍛える)という概念ではなく、筋肉を使わない(力の大きいものからの流用)という概念による理論奏法を使ってプレイしていたからなのです。

 この奏法は世界の一流ドラマー達も無意識的に大なり小なり使っているもので、けして特殊な奏法ではありません。モーラー奏法もこの一種で、とても有効な奏法といえるでしょう。

 また、手首を鍛えろとよく言われますが、医学的にみても手首は鍛えられません。今ではプロレスラーでさえ手首のトレーニングは一切行わないのが、常識になっているのです。

 若い皆さん達は今までの人体力学や物理を無視したこじつけの“基本奏法”に惑わされる事なく、限りない可能性にチャレンジして下さい。

(1995年4月)