教育

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

新教育の森:様変わり、中学校の給食事情 おかずをネット予約、前払いで督促不要

ボックスランチ型の学校給食を食べる東京都立川市の中学3年生。はしは家から持参する決まりだ
ボックスランチ型の学校給食を食べる東京都立川市の中学3年生。はしは家から持参する決まりだ

 好みのおかずを選べる。夜中でもネットで予約できる。最近の中学校の学校給食は、以前とは様変わりしている。ただし、給食費は前払いで、納付しないと食べられない。多忙な保護者に配慮し、給食費督促の必要もないという。【山本紀子】

 ◆ボックスランチ導入

 「初めは味にばらつきがあり、まずいと感じる日もあった。3カ月たち、今は毎日おいしく感じます」

 今年10月から給食を始めた東京都狛江市教育委員会の学校給食担当者は話す。ボックスランチと呼ばれ、民間業者が調理して弁当箱に詰めたもので1食300円。AとBの2種類があり、片方は卵を全く使わないアレルギー対応のメニューになっている。

 10月のある日のメニューは「鮭(さけ)のムニエルのトマトソースかけ」と「魚のホイル蒸し」。どちらも魚を使ったのは「魚は肉と比べて人気がなく、片方を肉にすると肉だけに選択が偏るため」(市教委)だという。

 生徒はボックスランチを食べてもいいし、自宅から弁当を持参してもよい。日によって給食を食べる人数が異なるため、事前に食材の量を確定せねばならず、最低7日前に予約が必要だ。保護者は事前に18回分5500円(手数料込み)を払い込む。入金確認後に予約可能となり、食べる日とメニューに印をつけたマークシートを学校に持参するか、パソコンや携帯電話からアクセスするネット上で予約する仕組みだ。

 前払い制は未納を防ぐ強力な手段だ。市教委は「給食費督促の負担がないので学校現場も歓迎している」と話す。

 東京都国分寺市や東久留米市など最近給食を始めた自治体の多くは、民間業者が作った前払い方式の弁当を配っている。最大の利点は、各校に調理室を設置して独自に調理するより費用が安いこと。配膳(はいぜん)の手間がないため、昼食時間が短い中学校のカリキュラムにも合う。

 「各校で調理したできたての食事を食べるのが理想だけれど、給食だけにお金をかけるわけにはいかない。民間業者の弁当を食べるのは、合理的な結論だと思う」。2年後から全市で順次、弁当形式の給食を導入する神奈川県相模原市で「市立中学校給食あり方懇話会」委員を務めた近藤郁恵さん(48)はいう。

 近藤さんは現在、中学1年生の娘に毎日弁当を作って持たせている。「3人目の子どもなので、弁当作りには慣れている。でも、働く母親としては、給食があると助かるのが本音。自分で作るとどうしても、子どもの嗜好(しこう)に合わせてしまう。給食だと食材も多様で栄養バランスも計算しつくされているので、期待できます」

 ◆親の愛情弁当も併用

 小学校は全員に給食を供給するのが一般的だが、なぜ最近の中学は希望者にしか出さないのだろう。相模原市教委学校保健課の三樹隆久さんはいう。「本当は全員に給食を出すほうがシステムを構築しやすい。でもこれまで弁当を作ってきた親の愛情も尊重したい。食材への不安から自分で作りたいという保護者もおり、業者と保護者の弁当併用になるのです」

 ◇実施率にばらつき、神奈川県と大阪府10%台 自治体に重い財政負担 調理は業者でも、必要な配膳室・人件費・委託費

 小学校の給食は全国でほぼ100%、全員に供給されているが、中学の実施率は都道府県によってバラバラだ。文部科学省の調査によると06年現在、100%実施は富山県と愛知県。多くの県は90%台で、50%以下は兵庫県や三重県など5県ある。中でも神奈川県(12・7%)と大阪府(10・2%)が際立って低い。

 文科省学校健康教育課は「学校給食法は、小中学校で給食を出すように努めることを定めている。国としては完全給食を望むが、判断するのは学校設置者の自治体」と語る。材料費は保護者、調理の委託費や栄養士の人件費は自治体が持つと決まっており、大きな財政負担に足踏みする自治体も少なくない。

 全国最低の大阪府は、高度成長期に学校建設に追われたことと、市町村の財政難が原因と見ている。府内では昼食を持参しない子もおり、欠食が問題化している。府は、府公立中学校スクールランチ等推進協議会を設け、市町村への財政支援も念頭に、給食のあり方を検討し始めた。

 神奈川県も横浜市や川崎市など大きな自治体が軒並み、給食を提供していない。横浜市は「中学生ともなれば、どういう栄養を取るのか自分で選択してほしい」と話す。

 給食実施にはいくらかかるのか。中学校30校で業者弁当を導入する相模原市では、初期投資として各校への配膳室設置で9億円を負担する。さらに毎年給食を続けるための人件費や委託費に年10億5000万円を見込んでいる。各校に調理室を作り、できたての食事を出す「自校方式」を望む市民の声は強いが、調理室設置には1校あたり3億円計90億円もかかり、現実的ではないという。

 ◆あえて自校式を選択

 一方で、92年度から12年間かけ全中学27校に給食室と食堂を建設したのは千葉県船橋市だ。自校式への要望が強いうえ、市内の交通事情が悪く、弁当輸送方式では給食の時間に間に合わない恐れもあって決断した。自宅から弁当も持参できるが、給食人気は高く摂取率は97%にも上る。市栄養士の水野昌代さんは「食堂で教員も異学年も一緒に席につくので、リラックスした雰囲気で食事が楽しめる」と話している。

 ◇冷め切って薄味だけど、評判まあまあ 汁物なし/予約忘れても予備あり--業者弁当

 業者の作る弁当は好評なのか。予約し忘れたら、どうなるのか。00年度からボックスランチ型の給食を出している東京都立川市で、ある中学を訪ねた。

 「いただきます」。生徒たちが6人ずつ、机を向かい合わせに並べ直して、昼食が始まった。献立はフライドチキンに野菜のクリームあえ、ゆでた温野菜だった。汁物は運ぶのが難しいため、みそ汁やスープは一切出ないが、生徒たちは「気にならない」と慣れた様子だった。

 骨付きの鶏肉にかぶりつくのが恥ずかしいのか、はしで肉をほぐしていた女子生徒は「毎日食べてるけど、味はまあまあ」。別の男子生徒は「おかずが冷えていて冬は悲しい」。食中毒防止のため、副菜は急速冷却して詰めており、湯気のたつ食べ物は望めない。健康的な薄い味付けだが、「物足りない」との声もあり、ご飯用のふりかけを持参する男子も目立った。

 友達からフライドチキンをもらって食べていた男子は予約を忘れたのだという。「うっかり忘れが時々ある。でも誰かがおかずを分けてくれます」。各校には2食分、業者の作った弁当の予備が配達されているため、現金265円を払って予約なしで当日食べることもできる。自宅からの弁当組は2割程度で、コンビニ弁当組は見かけなかった。

 立川市では5300円のランチカードを購入し、学校に備え付けた予約機で予約する仕組みだ。システムが老朽化し、管理や保全に手間がかかるのが課題だという。一方これまで8年間、給食費未納による欠損はゼロだという。

==============

 ◇中学の給食実施状況(%)

北海道  96.1

青森   81.5

岩手   80.8

宮城   92.4

秋田   97.7

山形   66.9

福島   91.3

茨城   99.1

栃木   99.4

群馬   98.9

埼玉   99.5

千葉   98.4

東京   86.6

神奈川  12.7

新潟   94.3

富山  100

石川   90.5

福井   95.0

山梨   97.9

長野   99.0

岐阜   99.5

静岡   96.6

愛知  100

三重   41.8

滋賀   48.0

京都   62.8

大阪   10.2

兵庫   45.1

奈良   69.2

和歌山  50.4

鳥取   77.0

島根   91.6

岡山   93.3

広島   62.0

山口   89.8

徳島   97.8

香川   97.3

愛媛   98.6

高知   57.0

福岡   59.3

佐賀   74.5

長崎   78.1

熊本   99.5

大分   96.5

宮崎   97.9

鹿児島  99.6

沖縄   99.4

〓〓〓〓〓〓

平均   79.9

 (06年文科省調べ)

毎日新聞 2008年12月29日 東京朝刊

教育 アーカイブ一覧

 
みんなで決めよう!08年重大ニュース

特集企画

おすすめ情報