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【感染症と人の戦い】国立感染症研究所情報センター長・岡部信彦

2008.12.21 03:28
このニュースのトピックス金融危機

 ■新型インフル 過去の教訓生かせ

 米国発の金融危機が瞬く間に世界中に飛び火したように、新型インフルエンザがもし発生すれば、人から人へ、感染は大きな波紋を広げていく。今や経済活動や人的交流のルートはグローバルに広がり、複雑に入り組んでいる。人口過密で人の動きも大きい大都市は、格好の「ウイルス伝播(でんぱ)の地」となるだろう。

 特に新型インフルエンザは人に免疫がなく、飛沫(ひまつ)や接触を通じて容易に感染が広がる。もし発生すれば、一部の感染者だけに封じ込めておくことは不可能で、感染の拡大や蔓延(まんえん)を招くことは必至だろう。そうなれば、人の動きに制限を加えて社会活動を通常より小さくし、人同士の接触の度合いを減らす「ソーシャルディスタンシング(社会的距離を空ける)」を対策計画に盛り込み、被害の広がりを最小限にくいとめる努力が必要となる。

 この「ソーシャルディスタンシング」対策がどれほど重要なのか。20世紀最初の新型インフルエンザである「スペインかぜ」の流行の嵐に見舞われた当時のアメリカの3都市の事例から教訓を引き出してみたい。

 スペインかぜがアメリカで流行しだした1918年秋。米東部のフィラデルフィア市では10万人あたりの死亡率が他都市と比べて大変高かった。同市では死亡者が増え始めた9月末、すでに流行の兆しがあったにもかかわらず、市内で戦時公債購入を呼びかける20万人規模の大パレードが催された。

 その結果、パレード開催を境に感染は急速に拡大。さらに悪いことに、当時は第一次世界大戦で多くの医師や看護師が戦地に赴いており、現場の混乱に拍車をかけたようだ。市当局は数日後、教会や学校、劇場や娯楽施設の閉鎖を命じたが、時すでに遅し。死者の急増を食い止めることはできなかった。

 対照的だったのが、アメリカ中部にあるセントルイス市だ。市内で死者第1号が出たあと即刻、市長が非常事態を宣言。葬儀や集会を中止にすると同時に娯楽施設や学校も閉鎖。1カ月半にわたって「ソーシャルディスタンシング」を徹底し、ピーク時の死亡をフィラデルフィアの8分の1にとどめることに成功した。ピッツバーグ市でも同様の対策を取ったものの、学校の閉鎖が少し遅れたため、死亡はフィラデルフィアの半分と、セントルイスよりも少し結果が悪かった。

 抗インフルエンザウイルス薬、ワクチンなどがなく、医療レベルも現代より格段に低かった当時の事例から学ぶべきは何だろうか。それは医療の対応に加え、できる限り外出者を抑え、人込みをつくらないよう、政策的に備えることが必要だということだ。

 厚生労働省の新型インフルエンザ対策ガイドラインの改定案には、感染者が一人でも発生した都道府県では、国あるいは自治体からの情報を基に学校閉鎖を行う可能性もあることが盛り込まれた。

 新型インフルエンザの流行は2〜4カ月で沈静化する。セントルイスのように、ほんの1カ月半だけでもいい。生活が少し不便になるのを我慢することが健康回復への対策なのだ。こうした過去の教訓を生かし、いつか来る新たなインフルエンザ発生への備えを進めていくべきだ。(おかべ のぶひこ)

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