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【暮らし】

ホームレス 『なぜなった?』『なぜ襲撃?』 教員らの『全国ネット』がセミナー 

2008年12月11日

 全国各地で「ホームレス」問題に取り組んできた支援者や教員、ジャーナリストらが今春、「ホームレス問題の授業づくり全国ネット」を結成し、学校での授業を広げていこうと活動を始めた。先月、東京で開催したセミナーでは、なぜ野宿生活になるのか、少年たちが野宿生活者を襲撃する事件の背景に何があるのか、子どもたちの理解を深めるために、さまざまな手法の授業が紹介された。 (野村由美子)

 空き缶の入った大きなポリ袋を持った講師が「いくらになると思いますか?」と“生徒”に問い掛ける。学生や主婦、教育関係者ら参加者七十人のうち四十人が生徒役で授業を受けており、次々袋を持ちながら答える。「三百五十円?」「五百円かな」「千二百円はほしい」

 ゲストに招かれた、野宿生活をする男性が「私は六時間かけて二袋いっぱいを集める。十四キロくらいになって八百円ちょっと」と回答。参加者は驚いたり、うなずいたり。講師は、マンガの教材も使って「野宿生活をする人たちが昼間寝ているのは、夜働いているから」などと伝えた。

 全国ネット結成の背景には少年たちによる野宿生活者への相次ぐ襲撃があった。代表の一人、野宿者ネットワーク(大阪)の生田武志さんは「表に出ないが、襲撃事件があまりにも頻繁で、止めるために何かできないかと。野宿生活者について何も知らず、大人の偏見を受け継ぐ子が非常に多いが、学校でほとんど教えられていない。授業を広めたい」と話す。

 現在二百四十人が参加するメーリングリストやホームページで授業の提案や情報提供を始めており、より多くの人に知ってもらおうとセミナーを実施した。

 セミナーでは講師がそれぞれの手法で授業を進めた。共通する趣旨は「怠けているから野宿生活になる」などの誤った偏見を消し、差別をなくすため「どうやって暮らしているか」「なぜ野宿になるのか」などをまずは知ってもらうこと。社会的な問題としてとらえる、当事者と出会う、「なぜ少年らが野宿生活者を襲撃するのか」を考えてもらうことも狙う。

 関西の中学校教員は野宿生活者を排除するフェンスなどの写真を子どもたちに示し、日常の風景が意識に与える影響や、野宿生活者への偏見がどこから生まれてくるのかについて考えていく取り組みを披露した。

 当事者に学ぶ授業を紹介したのは、東京都教員の清野賢司さん。野宿生活をする人や経験者四人を招き、話を聞いた。清野さんは「当事者は勇気を出して子どもたちの前に来てくれる。彼らが普通のおっちゃんだと子どもたちが気付き、差別はおかしいと考えてもらえたら」と話した。

 生田さんは社会構造の問題として講義。失業、貧困から野宿生活になる過程、一度なってしまうと、住所やお金、偏見など一人の努力では解決できない問題が、元の生活に戻るのを阻む大きな壁になることを分かりやすく解説した。襲撃事件の深刻な現状も伝えた。

 代表の一人、フリージャーナリストの北村年子さんは襲撃する少年の心を考える授業を。参加者はテーマに沿って思い付くことをつなげていく「ウェビング」という手法で「なぜいじめるのか」→「イライラ」→「つらい」など、気持ちを連想して掘り下げた。

 北村さんは、野宿生活者に向ける少年たちの怒りの下には、つらい、悲しいといった抑圧された感情があると説明。「家庭や学校で少年たち自身が追い詰められ、力を振るわれる中に置かれていないかも問い掛けたい。負けてもいい、不完全を受け入れて生きていく強さを、まさに野宿者の人から学んでほしい」と語り掛けた。

 全国ネットでは来年二月八日、三月一日に大阪でもセミナーを実施する予定。活動を支える会員や寄付も募っている。問い合わせは野宿者ネットワーク=電090・8795・9499。

 

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