「無保険の子ども」が生じた背景に、子どもを抱えた貧困世帯の存在があることを忘れてはならない。経済協力開発機構(OECD)諸国の子どもの貧困率の統計では、日本の子どもの7人に1人が貧困の水準にある。かつて「一億総中流」と言われたが、非正規労働者の問題を含め、貧困は確実に拡大している。
児童手当などの家族給付は、他の先進国と比べて低水準で、所得制限や対象年齢など多くの限定がある。税金による所得再配分も十分機能しておらず、子どもの貧困を生みやすい土壌がある。
また、子どもをめぐる議論は「無責任な親のために税金を使うのか」という極端な自己責任論に陥りがちだ。極めて高い教育費など家族の過度な負担を当然とする「政策の貧困」を見直し、すべての子どもを下支えする福祉制度が求められている。貧困は子どもの健康、教育などさまざまな生活基盤に影を落とす。将来にわたって貧困から抜け出せないという「不利が不利を呼ぶ」連鎖を、社会の力で断ち切らなくてはいけない。
改正国民健康保険法で、子どもには期限6カ月の短期保険証が交付される。自治体は、半年ごとの納付相談を単なる保険料取り立ての場ではなく、生活改善のための総合的な情報提供の場にしてもらいたい。保険料の滞納者には多重債務者も多く、法律相談など多様な支援が必要だ。病気の悪化による高校中退などを防ぐためにも、18歳以下への対象拡大が今後の課題になる。
経済や雇用環境が急速に悪化する今こそ、「子どもの貧困」解消に正面から取り組む時期だ。現状の日本はその機運に乏しいが、政府や自治体が行動計画を立て、貧困率の削減に向け取り組むのが緊急の課題だ。
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この企画は、平野光芳が担当しました。
毎日新聞 2008年12月20日 東京夕刊