「(法律が変わるのは)うれしい。病気すると、どうしても我慢できない時がある。いざという時に保険証がないと……」。両親の困窮から約3年半にわたって「無保険」状態におかれた神奈川県横須賀市の中学1年生の少女(13)は、19日の改正国民健康保険法の成立にほほ笑んだ。これまで親が保険料を滞納した場合、医療費の全額自己負担が必要となり、貧しい家庭の子どもたちは病院に行けなかった。関係者からは法改正を評価するとともに、さらなる課題を指摘する声が上がった。【平野光芳、深尾昭寛】
少女の父親(46)は、建設関連の仕事を転々とするうちに保険料支払いが滞った。市役所の窓口に呼び出され「あなたは悪質な滞納者だ」ときつい言葉を浴びせられたこともある。「子どもだけはどうしても助けたかった。まさか、こんなに早く法律ができるとは思わなかった」と、法改正に安堵(あんど)の表情を浮かべた。
困窮世帯の支援に取り組んできた大阪府寝屋川市の内科医院「徳本クリニック」の事務長、田中宏さん(64)も「さまざまな声が国を動かした」と評価した。改正法の施行は来年4月。「冬場は風邪を引きやすい。自治体は法改正の趣旨を尊重し、一刻も早く子どもたちの手元に保険証が届くように配慮してほしい」と前倒しの保険証交付を求めた。
無保険世帯の支援を行う徳島県の住民団体の竹田節夫事務局長(59)は「対象年齢は18歳まで広げる必要がある」と今後の課題を挙げた。今回の救済範囲が義務教育以下にとどまり高校生を含まなかったからだ。さらに「病院に行けないというのは子どもだけでなく、お年寄りなど生活弱者も同じことだ」と、後期高齢者医療制度にも運動を拡大する考えだ。
大阪府内で「無保険の子」の実態調査を初めて行い、問題解決の端緒を開いた大阪社会保障推進協議会の寺内順子事務局長は「『子どもは親だけでなく、国や自治体、社会が育てる』という当たり前の主張が、多くの人々に支持された」と喜んだ。「保険証が届いても、医療費を負担できなければ医療は保障されない。ワーキングプア世帯など弱者への支援が急務だ」と、景気が冷え込む中での弱者対策の重要性を強調した。
毎日新聞 2008年12月19日 大阪夕刊