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兵馬俑 定説巡り論争「始皇帝と無関係」研究者提起

2008年12月23日11時13分

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写真西安市の秦始皇兵馬俑博物館の1号坑。無数の兵馬俑が並ぶ

写真西安市郊外で出土した武士俑。大半が右寄りのまげをしている=写真はいずれも西村写す

 中国を代表する歴史遺産、兵馬俑(へいばよう)坑が来年、発見から35周年を迎える。秦の始皇帝の副葬品というのが定説だが、「別の人物のものだ」とする研究者の主張が注目され、論争が広がっている。(西安〈中国陝西省〉=西村大輔)

■出土武器「時代遅れ」

 定説に異議を唱えるのは江蘇省政府の元職員で、独自に始皇帝陵や兵馬俑を研究する建築学者、陳景元氏(70)。定説に65の疑問を提起した本を香港で出版し、中国中央テレビなどが取り上げて話題となった。

 陳氏はまず、始皇帝陵の東約1.5キロに位置する兵馬俑坑は、副葬坑としては遠すぎると指摘する。また、出土した武器のほとんどが青銅製。中国では紀元前5〜3世紀の戦国時代から鉄の兵器が出回ったのに、紀元前3世紀後半の人だった始皇帝の兵士たちが、もっぱら時代遅れの武器を使ったとは考えにくい、と主張する。

 始皇帝は貨幣や度量衡などとともに、馬車の車軸の長さを約1.4メートルに統一したが、兵馬俑坑の馬車の車軸はばらばら。さらに、始皇帝は正装や旗などはすべて黒を基調と定めたが、兵馬俑が極彩色に塗られているのは史実に合わないと言う。

 「兵馬俑=始皇帝の副葬品説」の最大の証拠とされるのは、始皇帝時代の宰相の名で年代を記した矛(ほこ)が現地で発見されたことだ。矛には「呂不韋○年」と刻んである。だが陳氏によると、こうした矛は数点しか見つかっていないうえ、兵馬俑が立つ地面と矛の間には数十センチ〜約2メートルの泥層が積もっていた。

 完成後の兵馬俑が年月を経る間に何度も洪水に見舞われ、後代の侵入者が矛を置き去った――。陳氏はそんな可能性を踏まえ、「始皇帝副葬品説」とは別の仮説を立てる。

 彼が注目するのは、始皇帝の5代前の恵文王の妻で、後に幼い息子が王位に就いた際には摂政として権勢を振るった宣太后だ。陳氏は、兵馬俑の近くの未発掘の墳墓が、古文書に記述のある宣太后の陵墓なのではないか、と主張する。

 仮説の補強材料として、陳氏はこんなことを挙げる。兵馬俑のうち、大半の武士俑は、頭のまげが右側にずれている。この習慣は秦では珍しいが、宣太后の出身国・楚の風俗だという。度重なる戦争や大規模工事で始皇帝時代の財政は切迫したが、宣太后時代は太平で、立派な埋葬ができた、とも推測する。

 これに対し、兵馬俑坑で30年間発掘を指揮した考古学者、袁仲一氏(76)は「こんな大規模な副葬坑は始皇帝以外に造れない」と反論する。

 袁氏によると、始皇帝陵の周辺で見つかった副葬坑の出土品と、兵馬俑の造形の特徴は酷似し、坑ごとの出土品に刻まれた文字にも共通点がある。陳氏が宣太后のものだと指摘する墳墓は、規模が小さく兵馬俑とは不釣り合いの上、兵馬俑坑から女性らしい副葬品が見あたらないのも不自然だと主張する。袁氏は「始皇帝のものであることは学界の共通認識。調査の積み重ねで証拠もそろっている」と話す。

 陳氏が定説を覆せるかどうかはわからないが、一定の評価をする専門家もいる。復旦大学の陳淳教授(考古学)は「陳景元氏が指摘した車軸の長さや武士俑の右寄りのまげなどの問題は再検討に値する。秦代研究の根拠とされる『史記』は、秦代から見てかなり後世に書かれており、懐疑的な姿勢で利用する必要がある」と話している。

    ◇

〈キーワード〉兵馬俑(へいばよう)坑 中国陝西省西安市郊外で74年に発見された秦代の副葬坑で、陶製の人形「俑」を埋めた場所。三つの坑の広さは計約2万平方メートルで、等身大の兵士をかたどり、一体一体の顔が違う武士俑約7千体、馬俑約600体、馬車約100台、武器約4万点が確認された。秦代の兵器や風俗、技術などがわかる第一級史料。87年に世界文化遺産に登録された。発掘作業は現在も続く。

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