廃業したカラオケボックスに身を寄せたアドリアーノ・ジョゼ・アントニオさん(中央)。ダビ・ゴンサルベス牧師(左)が支援の食料品を届けにきた=22日午後、岐阜県富加町、岩下毅撮影
廃業したカラオケボックスに身を寄せたアドリアーノ・ジョゼ・アントニオさんの部屋には緑色の照明や機器が残されていた=22日午後、岐阜県富加町、岩下毅撮影(魚眼レンズ使用)
苦しい時こそ助け合おう――。日本で暮らす約32万人のブラジル人の間に、不況で失業した人を支援しようという動きが広がっている。廃屋だったカラオケボックスやモーテルを改修したり、生活物資を提供したり。異国の地で、肩を寄せ合ってクリスマスと年越しを迎える。
「苦しい時は、みんなアミーゴ(友だち)だよ」。愛知県の山中に励ましの声が響いた。職と住まいを失った日系ブラジル人のために、放置されていた築30年近いモーテルの改修が進む。
所有する日本人女性が「困っている人に使ってもらえたら」と、同県刈谷市でレストランを営む日系2世の菊池キヨミさん(48)に提案した。全14室。長野や岐阜などから22日までに5家族がやってきた。
「やっと年を越せそうだ」。3人家族の3世の山田レオナルドさん(30)は、ほっとした表情を見せた。00年に来日。自動車部品工場で働いてきたが、11月に解雇を言い渡された。
モーテルには週末、近くの町で働く日系人たちも集う。20人ほどがボランティアとして掃除を手伝ったり、物資を持ち寄ったりしている。米100キロや即席ラーメン、古ストーブ、紙おむつが届いた。建物を住居として使えるよう署名を集めて、地元自治体に要請中だ。
クリスマスイブには、ささやかなパーティーを開く予定だ。菊池さんは、同様の立場にある日本人も受け入れたいという。「厳しい状況に追い込まれて悪事に走らないように、みんなで支えたい。分かち合えばつらくないから」
浜松市でブラジル人向けのインターネットラジオを主宰する座波(ざは)カルロスさん(44)は「正確な情報を提供することが大切だ」と考え、職を失ったブラジル人を援助する「ブラジルふれあい会」をつくった。事務所の電話はひっきりなしに鳴り続ける。「今月中にアパートを出てくれといわれている。どうしたらいい?」。涙声の女性が、ポルトガル語で問いかけてくるという。
「これからは日本人の友だちをつくっていかないといけない。手を取り合っていけば、新しい関係ができると思う」と座波さんは話した。
ソニーや三菱自動車などの系列工場があり、多くのブラジル人が暮らす岐阜県中部。2年前に廃業したカラオケボックスが、アドリアーノ・ジョゼ・アントニオさん(32)の「住み家」になった。広さは10平方メートル余り。マイクや音響装置がそのまま残る。
昨年秋に来日、ブラジル人向けスーパーで精肉の仕事をしていた。だが、3カ月ほど前に失業、スーパーが用意していたアパートを追われた。地元教会のダビ・ゴンサルベス牧師(27)の紹介で、身を寄せた。「ちょっと狭いけど、寝られるところがあるだけでも幸せだ」
家賃は光熱費込みで月1万5千円。風呂はない。電気ポットでわかしたお湯をバケツにため、外のトイレの中で、コップを使って頭や体にかけて体を洗う。食料は教会の信徒らがスーパーなどを駆け回り、集めてくれた。
アントニオさんは、ハローワークに通って仕事を探す一方、教会の掃除などをしてわずかな収入を得ている。22日の所持金は395円。「お金はいらない。仕事が欲しい。何でもいいから働きたい」
カラオケボックスを管理している吉武知明さん(60)は話す。「こんなご時世だから、できる限りの支援はしたい」(石田博士、高木文子、益満雄一郎)