今から約90年近く前のこと。ウサギにコレステロールを食べさせたら、大動脈にコレステロールが沈着して動脈硬化がおこった。そこでコレステロールが動脈硬化の原因だ──と最初に言いだしたのはロシアのアニスコフ(Anitschkow)らの医学者たちでした。実はこの学説には大きな問題点があったのですが、そのまま今日に至ってしまったのです。なぜならウサギは草食動物であり、植物にはコレステロールはありません。そのためウサギにコレステロールを含むエサを与えると、それがそのまま反映してコレステロール値は急上昇してしまいます。一方人間は肉なども食べますから、食物から摂るコレステロール量に応じて体内でつくる量を増減し、コレステロール値を一定に保つ仕組みができあがっています。ですからほとんどの人は食物からコレステロールをとっても、それですぐにコレステロール値が上がることはないのです。 |
『J-LIT(日本脂質介入試験)』という臨床試験があります。これは総コレステロールと死亡者数、心筋梗塞死亡者数、ガン死亡者数の関係について“コレステロール低下剤服用中の全国52,421人を6年間、追跡調査した”という大規模なものです。これらの調査結果のなかで、コレステロール値が極端に高すぎる場合は別にして、「コレステロール値が低くなるほど死亡者数が多くなる!」というデータが今、注目を浴びています。とくにガン死亡者数ではその傾向が顕著です。このことはガンのリスクが回避できれば、かなり長生きできるということにもなります。さらに次のような驚くべき結果がみられました。 ●コレステロール値が高くても低くても、死亡のリスクは大きくなり、むしろ低いほうがそのリスクは、より大きくなる。 ●総死亡のリスクが小さいのは、200〜280mg/dlで、この範囲内の数値であればリスクは変わらない。 なかでも日本人の死因の20年以上トップであるガンについてだけみると、 ● コレステロール値が低いほど、ガン死亡者は多い! ●180mg/dl未満のガン死亡者は、280mg/dl以上の人の5倍だった! これと同じようなデータは、他にも有名なところでは※『八尾研究』などいくつも発表されています。 つまり“コレステロール値が高めのほうが長生き”ともいえます。
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欧米の死因をみると心臓病、中でも動脈硬化が原因でおきる心筋梗塞等での死亡者が多いのが特徴です。コレステロール値が高くなると心筋梗塞等のリスクが大きくなることは医学的にも明らかにされています。一方、日本ではガンによる死亡者がトップで、心筋梗塞と脳梗塞をあわせた死亡者数の2倍以上にも達しています。この死因の大きな違いは、日本の食生活環境が欧米と全く違うためといわれており、外国のデータをそのまま当てはめず、日本人独自のデータが必要なことは明白です。つまり日本人としては動脈硬化の予防だけにとらわれず、脳やガンのことなども考慮する必要があるということです。
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