「『子育てするなら山形県』というが、具体的には見えないし実感もない」。9月1日、県議会厚生文化委員会と保育園長らとの懇談会。保育の現場を知る園長らは、県の子育て支援のあり方に厳しい見解を突き付けた。
子ども夢未来志向を基本理念に掲げる斎藤弘知事。05年6月に策定した「やまがた子育て愛プラン」では、04年の合計特殊出生率(女性が一生の間に産む子供の数)1・47の維持を目標に掲げた。しかし、05年は前年を0・02ポイント下回る1・45。07年には1・42にまで下がった。
07年の出生率の全国順位は16位とまだ上位だが、全国平均は06、07年と連続して前年比上昇。07年の出生率が04年に比べ下がったのは、山形を含め8県のみだ。
結婚、出産、子育てと少子化対策は多岐にわたるが、所管する県女性青少年政策室が、この4年間で重視したのは低予算で済む結婚だった。未婚、晩婚化が少子化の要因とし、男女の出会いの機会を作るNPOに事業費を3年間で総額285万円支給した。しかし、夫婦が何組誕生したかの検証すらしていない。
子育て世帯から要望が多い0~6歳児を対象にした乳幼児医療給付制度については政策が迷走した。06年7月、第3子以降は医療費給付の所得制限を撤廃する一方、第1、2子の制限を574万円から415万円(扶養家族3人モデル)に厳格化。対象世帯が減ったことで市町村から反発を受け、今年7月に所得制限を元に戻した。
減り続ける産科医の数は100人を切り、04年には少なくとも39カ所あった分娩(ぶんべん)可能な病院と診療所は35カ所(10月現在)に減った。保育園の待機児童は05年256人いたが、今年4月現在、いまだ200人以上いる。
県の少子化対策などを提言する「子育てするなら山形県」推進協議会長の国方敬司・山形大教授(経済政策)は「若者の生活設計への意識が大きく変わった今、行政が結婚を促す有効な施策を展開できるか疑問だ。現場から強く求められるのは経済的な支援。財政が厳しくても、基金創設などの工夫は可能なはず」と指摘する。
出生率低下について、斎藤知事は6月5日の会見で「大変残念」と述べた上で釈明した。「これを打てば必ず大丈夫という政策がないところに少子化対策の難しさがある。経済、雇用政策を含めた全般にわたり対応をとりたい」
子供を産みやすい環境を整えるのは難題だが、合計特殊出生率が低落の一途をたどった事実は重い。「子育てするなら山形県」の理念は現実から程遠い。【大久保渉】=つづく
毎日新聞 2008年12月21日 地方版