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経済

再送:白川日銀総裁記者会見の一問一答

12月19日18時41分配信 ロイター


再送:白川日銀総裁記者会見の一問一答

 12月19日、白川日銀総裁記者会見の一問一答。写真は同日の記者会見で(2008年 ロイター/Yuriko Nakao)

 [東京 19日 ロイター] 白川方明日銀総裁は19日、政策金利の引き下げを決めた金融政策決定会合後に記者会見を行った。詳細は以下の通り。
 ──本日の決定会合の結果を景気認識を踏まえた上で説明してほしい。
 「(前略)こうした決定の背景について説明すると、まず我が国の景気については、悪化しており、当面厳しさを増す可能性が高いと判断した。すなわち輸出は海外経済の減速を背景に減少している。企業部門では企業収益が減少を続けており、業況感も悪化している。こうしたもとで、設備投資は減少しており、短観の設備投資計画も下方修正が目立っている。家計部門では雇用・所得環境が厳しさを増す中で、個人消費は弱まっている。こうした内外需要のもとで、生産は大幅に減少している」
 「物価面では生鮮食品を除くベースの消費者物価は10月の前年比がプラス1.9%となっており、石油製品価格の下落を主因にプラス幅が縮小している。先行きは石油製品価格の下落や食料品価格の落ち着きを反映して低下していくと予想される。経済・物価の先行きについては、物価安定のもとでの持続的な成長経路に復していくとの見通しに関する不確実性は高まっている」
 「こうした見通しに関するリスク要因をみると、景気については引き続き下振れリスクに注意する局面にあると判断している。これまでの各国政府や中銀による対策を受けて、短期金融市場ではいくぶん改善が見られているが、国際金融資本市場は全体として依然強い緊張状態にある。こうしたもとで、世界経済には下振れるリスクがある。また、我が国の金融環境についても、CP・社債市場での資金調達環境が悪化しているほか、中小・零細企業に加え、大企業でも資金繰りや金融機関の貸し出し態度が厳しいとする先が増えており、全体として厳しい方向に急速に変化している。こうした状況が一層厳しさを増す場合には、金融面から実体経済への下押し圧力が高まる可能性がある。物価面については景気の下振れリスクが顕現化した場合や国際商品市況がさらに下落した場合には物価上昇率が一段と低下する可能性がある」
 「以上の情勢判断を踏まえ、政策金利を引き下げるとともに、本日決定した長期国債の買い入れにかかる措置や企業金融の円滑化に向けた措置により、緩和的な金融環境の確保を図ることが必要と判断した。日銀としては我が国経済が物価安定のもとでの持続的成長経路に復していくために今後とも中銀としてなしうる最大限の貢献を行っていく方針だ」
 ──日銀も米連邦準備理事会(FRB)同様に、事実上のゼロ金利、事実上の量的緩和に踏み込んだと考えて良いか。 
 「FRBの措置だが、他国の中央銀行の金融政策なので、私から論評は差し控える。日本の経験に照らして、今回FRBの措置に対する印象を申し上げたい。そのことが質問に対する答えとなろう。まず誘導目標金利だが、かつて日銀が採用したゼロ金利政策と異なり、金融調節によって、市場金利をできるだけゼロ%に近づけるという決定は行われていない。FRBについて事実上のゼロ金利導入という見出しが多かったと思うが、必ずしもそういう決定は行われていないと思う。既にフェデラル・ファンド金利は準備預金の対象外の機関であるGSEの影響によってゼロから0.25%のかなり低い水準で推移しており、それに沿って誘導目標が設定されているといえる。市場金利については、極めて低い水準ながら、プラスの金利水準を維持しつつ、誘導を図るという方針であることは、今回FRBが準備預金の付利金利を0.25%に設定したことに表れていると思う」
 「私自身はゼロ金利と比べると、今回FRBが0.25%に設定したということを興味深く思った。金融機関にすれば、FRBというリスクの無い金融機関に運用すれば0.25%の金利が得られるので、マーケットでは0.25%以下で運用するインセンティブが無い。勿論、やろうと思えば付利金利をもっと下げることができたわけだが、0.25%にしたということの背後に、FRBがどういうことを考えたのかについては興味がある。FRBのバランスシートについては、仲介機能が大幅に棄損したさまざまな金融商品の買い入れを行うなかで、FRBのバランスシートの規模が約2兆ドルまで膨らんできている。今回、こうした政策の継続が改めて示されたが、かつて日銀が行ったような中央銀行の当座預金量にターゲットを設けて流動性を拡大していく、そのことのマクロ的な景気刺激を狙うという手法はとられていないと思う。これが今回FRBがとった措置だ。日銀は今回、コールの誘導目標金利を0.1%、当座預金の付利金利を0.1%とした。大きくとらえれば、ゼロに近い水準だが、かつての量的緩和の元で実現したゼロ金利というのは、徹底して量を出し、その結果、金利が徹底的にゼロに近づくことを追求したが、そうした意味での量的緩和、ゼロ金利政策は採用されていないと理解している」
 ──当座預金目標を設定しないまでも、事実上の量的緩和ではないか。
 「言葉の定義の問題だ。定義は自分の好みですれば、色々な定義ができるが、とりあえず従来日本で言われていた量的緩和というのは、先ほど言ったように、当座預金の量にターゲットを定めて、これを大幅に拡張することで、流動性がどこかでマクロ的な景気刺激効果を生むことを期待する政策、それを量的緩和と呼んだ。当時、海外の学者が提案したのは、そういった意味での量的緩和だった。今回は米国はそういう意味での量的緩和は採用していないし、日銀もそうした意味での量的緩和は採用していない。ただ、何度も言ったように、金融市場の安定維持のために、それから市場金融の円滑化ということで、流動性を積極的に供給することは続けている。ただこれは、金融市場の安定化とか、個々の企業金融の安定を図っていく、その結果として、当座預金が増えていくというもので、少し意味合いが異なっていると思う」
 ──金融機能強化法が成立したが、これについての日銀の見解は。
 「金融機能強化法は、金融機関等の業務の健全、かつ効率的な運営や地域における経済の活性化を図ることによって、信用秩序の維持と国民経済の健全な発展に資することを目的としているというふうに理解している。一方、わが国の金融システムの現状を見ると、国際金融資本市場の動揺が金融機関経営や、金融仲介機能に影響を及ぼしつつあり、金融機関経営における資本基盤の充実があらためて重要になってきているというように思う。こうした状況を踏まえ、金融機関が自らの自己資本基盤を強化していく際、この制度を利用していくことが資本政策上、1つの有力な選択肢になりうると思う。日本銀行としては、現在の金融経済情勢において、わが国の金融機関が十分な自己資本基盤の下で、金融仲介機能を適切に発揮していくことを期待している」
 ──翌日物金利を今回0.1%へと引き下げたが、その水準が適切と判断したその理由は。
 「まず今回、経済・金融の情勢について、非常に厳しいという判断でどのメンバーも一致している。そういう状況の下で、金利面から景気の刺激効果を狙っていくということであるが、その際、出発点の金利水準が0.3%なので、おのずとその低下の余地というのは限られてくる。その時に意識したことは、短期金融市場の市場機能を維持しておきたい、日本銀行の政策的な手段によって短期金融市場の機能がさらに低下していくということは避けたい──その両者のぎりぎりのバランスの中で、0.1%という水準が適切であるというように判断した」
 ──野田委員は利下げに反対したのか、利下げ幅に反対したのか。
 「詳しい議論の内容は議事要旨で発表するが、利下げに反対されたということ」
 ──CPの買い取りは国会等では慎重な発言をしてきたが、ここに来て行うことを決めた要因は何か。また、公表文の中には「政府との関係を含め」との文言もあるが、これは政府によって損失を保証してもらうというようなものを含んでいると考えていいのか。
 「国会を含めていつも申し上げてきたのはこういうこと。中銀の基本的な役割は流動性の供給ということ、これが第1点。第2に、信用リスクを取る施策については、これはさまざまな観点から検討を行った上で物価安定と金融システム安定という日銀に課せられた使命を達成するため、その実施の適否を経済・金融の状況に即して判断すべきということと申し上げてきた。現在の金融市場、企業金融の状況は足もと急速に悪化している。そういう中で中銀としては極めて異例のことだが、しかしこの現在の厳しい状況の中で、中銀としてぎりぎりどのような貢献ができるかということを考えた結果だ。主要国で個別の信用リスクを取った政策というのは、全てを承知しているわけではないが、私が記憶している限りでは日銀がABCPの買い入れを行ったこと、あるいは金融政策ではないが銀行保有株式を買い入れたことにに続いて、今回のFRBの措置がある。今回、欧米の金融資本市場の状況は日本に比べるとより状況が厳しいと思うが、欧州の中銀はそこにはまだ踏み切っていない。そういう意味で今回、日銀にとって非常に重たい決定ではあるが、しかしこれは中銀としての主体的な判断として行った方がいいと思ったものだ」
 「政府との関係だが、CPを買い入れることは、結果として個別企業の信用リスクを負担するので損失が生じる可能性はある。その場合には、最終的に国庫納付金が減少するということになる。したがってこうした措置から生じうる損失については最終的に日銀としての会計処理や決算上の取り扱いの面で政府との関係を含めた検討が必要になるということ」
 「一点補足すると、中銀の財務の健全性、通貨への信認ということの意味について少し話をしたい。中銀の財務の健全性という言葉を使うと、時として中銀が庭先をきれいにしておきたいというふうな意味合いで語られることがあるが、決してそういうことではない。どの中銀もそうだが、一国の中でお金を無制限で発行できるという権能を与えられているのは中銀だけ。こういう権能は中銀に付託されている。その見合いにどういう資産を取得するかということは最終的にこれは国民から預かっているお金をどういうふうに運用するかという側面があり──運用という言い方は必ずしも適切ではないが──しかし、これは中銀が国民からの信任を受けてそういったことをやっている。もし財務の健全性に疑念が生じると、通貨への信認が失われる。そうした場合にはロスが発生し、その結果、例えば中銀が財務的に政府に依存せざるを得ないというふうに人々が思うと、金融政策の運営自体についても、信認が揺らぐ可能性があるし、もう少し素朴な意味でも信認が失われる可能性がある。FRBは今回、いろいろな措置を講じているが、あればほとんどいずれもいろいろな信用補完措置をとっている。このことは新聞報道等でFRBがCPを買い入れたということだけが割合報道されているが、同時にFRBが十分な信用補完措置をとっているということは比較的知られていない事実だと思う。それが財務の健全性ということが決して抽象的な念仏ではなくて、非常に重要な考えだと思っている」
 ──翌日物金利を0.1%に引き下げたが、今までと比べてどれ程の変化があるのか。今後一段と引き下げる可能性はあるのか。
 「景気の刺激効果と市場機能への配慮、そうしたことも含めて、総合的に勘案して0.1%に決定をした。金利引き下げを0.1%まで行うと、さすがに一部で市場機能が低下する現象が起こるかもしれない。しかし、金融取引に伴う諸コストや手数料をカバーし得るかどうかという点では、プラスの金利を維持することにより、ぎりぎり金融活動の基盤や取引インセンティブが残るというように考えている。いずれにせよ、景気と金融市場の機能のバランスを図った」
 「一段の引き下げの可能性は、金融政策なので、将来の政策について絶対にこういうことがないとか、絶対にこういうことがあるということはもちろん言えない。ただ、今回金利を引き下げる時に、短期金融市場の機能を維持していくということについてずいぶん議論を行い、その結果、当座預金の付利を0.1%にしたいうことである。ゼロに近い世界はあまり例がないので、比較することが難しいが、FRB(米連邦準備理事会)の場合は今回、当座預金金利を0.25%にして、しばらくの間この水準を続けるという形で判断をした。正確に言うと、市場機能を考えた場合に0.1%がいいのか、0.25%がいいのか、そこの証明はできないが、さまざまな要素を考慮した上で日本についてはこのような判断を今回行ったということだ」
 ──長期国債買い入れの増額幅を、今回2000億円とした理由は。
 「従来2000億円刻みで引き上げたため、2000億円は自然な刻みだというように思う。長期国債について、銀行券と長期国債の残高の格差というのが問題になってくる。国債の買い入れオペについては、このところ短期の買い入れが非常に増えていたということと、政府の国債買い入れ償却に日銀が応じたことで国債が減ってきた。今回、期間の長い国債も買い入れて、かつ期間別の買い入れを行うということになると、同じ買い入れ金額であっても、期間の長いものが入ると、日銀のバランスシートにそれだけ長く残る。少し長い先の姿を想定しながら、この程度の買い入れであれば、銀行券との関係でその範囲に収まるし、資産サイドの期間の構成という面でもバランスが取れるということで、今回2000億円にした。当面、この2000億円を増額するということは考えていない」
「CP以外の面でどのような対応を考えているかについては、今回、基本的な検討のポイントを執行部に対し指示し、それを踏まえて執行部がこれから検討をするということなので、現時点ではそれ以上のことはない」
 ──かつての量的緩和はベースマネーを増やすことを狙ったが、そういう発想は今回はとらないということか。FRBは長期国債を買って長期金利を押し下げ、それに加えて色々な民間資産を買うことでリスクプレミアムをつぶしていくという姿勢と思うが、日銀の今回の決定はそういう発想があるのか。
 「ベースマネーについての質問だが、量的緩和の経験について日銀はこれまで何回か総括的な評価を展望リポートその他でしてきた。経済現象について完全な実験はできないが、これまでの経験に基づいての、暫定的評価はベースマネーという量の増加、それ自体の効果については、金融システムの安定という点については、相応の効果があったということだ。他方、景気・物価を刺激するということでは、厳密に効果が無かったという証明もできないが、明確な効果を判定し難かったというのが暫定的評価と思う。将来どうかというと、政策委員会のメンバーも変っているので、私が将来の政策委員の議論までここで、どうこう言うことはできないが、本日の議論を含めて、ベースマネー拡張によって、景気刺激を狙っていこうというような考え方の人はいなかったように思う」
 「長期金利押し下げを狙ったものかという質問だが、そうした効果は狙っていない。今回の措置はあくまでも、長めの資金を供給する際に、長期国債オペを活用することにより、短期のオペを頻繁に繰り返す、その結果、短期の金融市場に対する影響が大きくなるという事態は是正したほうが良いということであって、これはあくまでも金融調節上の話であって、長期金利を下げることを狙ったものではない」
 ──リスクプレミアムの縮小についてはどうか。
 「結果として国債の需給のバランスがあるゾーンで変化することは、勿論あり得ると思うが、リスクプレミアムの変化、引き下げを狙ってやっていくというものではない。今回、期間別管理を行うが、あるゾーンだけ買っていくということではないので、したがって、ある特定のセクターだけ集中的に買うとかいう話ではない」
 ──FRBが政策金利を下げたことでドル円相場で円高が進んだ。金利差逆転したことが意識されているという報道もあったが、この点で、今回の政策決定が為替相場をどのように意識したのか。もう1点。利下げを織り込むような動きがこの2日ほどみられたが、市場とのコミュニケーションについてどう感じていたか。
 「為替相場の変動は経済に対して、さまざまなルートを通じて影響を与えていくということはご承知の通り。輸出入や交易条件、投資採算、それからマインドなどいろいろな面で為替相場の変動は影響を与える。今回、円高は短期的には景気を下押す要因としてもちろん作用していると思う。足元の景気悪化のひとつの要因として円高は影響していると思う。ただ、われわれの景気判断は円高のその部分だけを取り出して議論しているわけではないので、全体の景気悪化の背景のひとつとして円高は考慮されているということ」
 「コミュニケーションの質問だが、市場参加者は中銀の金融政策の先行きについて常に予想して、そのことが長期金利にも反映されてくるということは、これは市場の自然な姿と思う。中銀からすると、自らの経済情勢の判断と経済情勢に対する中銀の政策運営の考え方が市場に対して十分説明されることによって、できるだけ円滑な金利形成がなされることが中銀によっての理想だと思う。個々の長期金利の形成のされ方について私の立場でコメントすることは差し控えたい」
 ──ベースマネーを増やすことで景気刺激を狙うという議論はないと言っていたが、前回の量的緩和政策では時間軸政策があったが、今の政策委員会メンバーで、時間軸政策について議論、評価があるのか。
 「当時の政策委員会メンバーが行った時間軸政策の評価は既に展望リポート等で公表している。その評価というのは、景気が持ち直してくる過程、その局面において、低金利を維持するという約束が中長期金利を引き下げる効果が若干あるという評価だと思う。今のメンバーがどう考えているかは、私が今ここで答えるのは筋違いかなという感じがする。私の印象は若干あるが、ここで答えるのは不正確になるので控えたい。時間軸というのが意味を持つのは、前回の経験でいくと、景気が悪いときにはいずれにせよ中央銀行が金利を引き上げるとは誰も思っていないので、その時に時間軸効果というのは、それほど大きなものではないと思う」
 ──量的緩和という言葉はかつての日銀政策を表すものとして定着していると思う。今回、採ろうとしている政策をどう呼んだらよいのか。
 「質問に答える前に、今回の措置だが、目標金利を0.1%に設定して、その上でいろいろな資産を買ってバランスシートを拡張していくということを必ずしも狙っているものではない。金融市場の安定は勿論図っていくし、企業金融の支援も行うし、CP買い入れは行うが、これはあくまで、そうした目的に沿って実行していくものであり、バランスシートの規模拡張自体に目標を置いているわけではない。結果として拡張することはあるかもしれないが。ネーミングだが、日銀はそういうことが不得意な組織で、キャッチーな言葉があるわけではない」
 ──夏場まで商品市況が上昇していたがその後大幅に下落している中で、物価の大幅な変動がないよう日銀としてどのようなメッセージを考えているか。
 「振り返ってみると、世界的にこの半年でずいぶん様子が変わったとあらためて思う。この夏場まで国際商品市況が上昇、インフレリスクの高まりが議論になったが、足もとでは物価上昇率が急速に低下してきている。上がる過程を考えて見ると、多くの中央銀行が注目したのは、価格転嫁を超えていわゆるセカンド・ラウンド・エフェクトが起こるかどうかという点。言い換えると中長期的な予想物価上昇率が上がっていくのかどうか。これが上がっていけばセカンド・ラウンド・エフェクトが起きてしまうことになる。これは結果的にはなかった」
 「これから逆のプロセスが始まるのだが、価格転嫁が起きた前年との比較でみれば物価上昇率が大幅に低下する。これは物価指数の上昇率が低下し場合によってはマイナスになることはあるが、上昇局面と同じようにこのことがセカンド・ラウンド・エフェクト、物価の中長期的な下落予想が起きるかどうかが最大のカギだと思う。どういうメッセージを送るのかという質問だが、中央銀行としては中長期的に物価が上がっていくとか下がっていくとか予想が生まれないように注意深く政策運営をしていくことが大事だと思っている」
 ──国会答弁で、流動性リスクと信用リスクの区別が難しい状況になってきているとおっしゃっていたが、その意味を詳しく説明していただきたい。
 「まさに今そのことが各国の金融市場に起きている。世界の短期金融市場で非常に短い金利は低下してきたが、ターム物はある程度下がってきたがまだ高止まっている。なぜ高止まっているかというと、ある部分は流動リスクであり、ある部分は流動性リスクであり、これらは非常に分かちがたいという気がする。内容的にはこれは分かれるものだが、現実にはこれを数量的に分解することは難しい」
 ──現時点での日本の財政政策をどうみるか。
 「財政運営について経済理論がどう変遷を遂げたかを、まず言いたい。戦後間もなく、ケインズ経済学の影響から、徐々に財政政策を活用するという思想が入ってきたが、1960年代から70年代前半にかけて、そうしたケインズ的財政政策が結果としてスタグフレーションを生んだという反省から、財政政策を景気安定化政策としては使うべきでないという考え方がずっと支配的であると思う。ただ最近は、若干の変化があり、金利水準が非常に低下して金融政策を活用する余地が乏しい、あるいは金融システムの機能が低下している、そういう状況で、財政政策を一定の範囲で使うケースはあるというのが、これは私の意見でなくて、経済理論の世界での変遷だと思う。財政について難しいのは、こうした理論的な整理は整理としてあるが、財政政策の運営というのは、国会のプロセスを経て実現するものなので、理想的な形で運営されないと、結果として財政の赤字が拡大してしまうということ。先ほどの財政の考え方、つまり金利水準が非常に低い、あるいは金融システムの機能が低下している時に、財政政策を活用する余地があるという考え方自体は、私はそういう面があると思っている。ただし、それはあくまで財政政策を適切に運営して、財政規律を維持していくことが大きな大前提だ。その中で、適切な形で運営できるかどうかということが、各国に問われている課題だと思う」
 ──10月31日の決定会合で政策金利を引き下げて、今月2日には新たな企業金融の円滑化措置の導入も決めた。それから時間もたっていないので、ある程度その効果を見極めたいとの思いもあったと思うが、今回の措置に至った短期間の変化についてどのような背景があったのか。今回の措置を決定した時期についても。
 「経済が普通の状態の時にはある政策を実施して、その効果をある程度見極めて次の政策をとっていくということだろうと思う。この数カ月間の変化は日本に限らず世界中がそうだが、非常に急激だったと思う。これは企業経営者の方にお会いしても、金融機関の方にお会いしても、それから海外の方にお会いしても、どなたもがこの数カ月間の変化は急激であって、自分の人生の中でこれだけ急激な変化というのは経験したことがないという感想をよくおっしゃっているが、私自身もそういう感じを持っている。それだけ変化が激しかったから、われわれの方の対策の方も矢継ぎ早になったと考えている」
 「いつ判断を固めたのかについては、私はいつも金融政策決定会合で何かを決定するときには、ぎりぎりまで考えるというふうにしている。ある段階で決めるということは、その段階以降起きた変化を無視することを自動的に意味している。中銀としては、そういう硬直的な態度は取るべきではない。最後の最後まで、だんだんに判断は固まっていくわけだが、その意味で、決定はきょうであるということ」
 ──以前に量的緩和やゼロ金利政策を行った時とのリスクや景気状況の違いをどう分析しているか。この局面を打開するためには今、何が必要なのか。
 「前回の日本の金融危機は、日本のバブル崩壊後のさまざまな不良資産の積み上がり、その下で生じた金融システムと実体経済のマイナスの相乗作用という性格が強かった。今回の足元の日本の金融問題は、震源地としては世界的なクレジットバブルの崩壊の影響が、日本は当初は相対的には小さかったが、その影響が及んできたという感じがする。ただ、ある段階からはマイナスの相乗作用が働くという点では共通していると思う。前回は、世界経済が拡大をしていたということが1つの大きな違いとしてある。今回は、世界経済が同時に景気後退に入っているように思う。それ以外にも差は色々あるが、とりあえずそういうような気がする」
 「(欧米は)政策的な対応という面では、既に取るべき対策を取ってきていると思う。金融システムの動揺が広がった時に流動性を供給する、公的資金を注入する、金融機関の債務を保証するという3つの措置が基本的に取られた。もちろんこれで十分かという点は国によってはあるし、必要であればそうした線に沿って対策が取られるべきだろうが、メニューとしては取られてきていると思う。財政政策、金融政策の面でも、それぞれ各国の当局は必要な方向には踏み出していると思う。現在の厳しい景気の後退は、それに先立つ2004年から2007年の世界的な経済の拡大が非常に大きなものであったということの裏返しだと思う。この間に、色々な過剰が蓄積されたため、その過剰の調整は避けて通れない。過剰の調整が単に調整という域を超えて、深い調整に陥るということは防ぐ必要があるため、先ほど申し上げた一連の措置がそこに講じられていくと思う」
 ──日銀が次にどういう政策を出してくるか何か怖さを感じるが、総裁はそうした恐怖を感じていないか。
 「中央銀行が信用リスクを負担するという世界に踏み込むのは異例中の異例。これは経済金融情勢がそれだけ厳しいという認識からとった措置。だた怖さというのが日本銀行に対する信認の低下につながるようなことがあれば絶対に避けたいと思っている。財務の健全性、通貨への信認に配慮したいと申し上げたのはそういうこと。ただ今のこの経済情勢の中で我々の持っている手段の中でどれだけ貢献できるか考えた中で真摯に考えた結果、先ほど申し上げたような結果になったということ」
 ──今回政府からさかんに金融政策への期待が示されたが、プレッシャーを感じた局面はあったか。
 「我々自身は常に日本銀行の目的に照らして何が望ましいのか考える以外にない。この原点を踏み外すと経済や通貨に対して大変な圧力となる。色々な発言があった事実は認識しているが、それに対して応えようとかいう気持ちではなく、中央銀行として何ができるかということだけを考えたということ」
 ──1930年代の大恐慌当時との比較だが、今回も各国で利下げによる通貨の切り下げ効果を意識させる場面があると思うが、どうみるか。
 「1930年代は固定相場時代だったが、固定相場を切り下げるという形で通過の切り下げ競争がおきて、その過程で、関税率引き上げの影響もあったが、国際貿易に対して非常な悪影響があった。今回、そうした意味で、固定為替相場を切り下げるという形での為替の切り下げ競争は起きていないと思う。自由な資本移動のもとで変動相場制を採用しているので、金融政策の変更によって為替は変動はしているが、切り下げ競争が起きているとは思っていない」
 ──中長期的な経済の回復シナリオが今回の声明では相当後退して、ほとんどそれについては放棄したようにもみえる。認識は。
 「来月1月の決定会合では展望リポートの中間評価を行う。中間評価の時にはさまざまな予測の指標を使って体系的な点検を行うので、だからこそ中間評価には意味がある。いま時点ではきょうの発表にもあるように、経済の先行きについて厳しい見通しを出している。その意味で、前回の展望リポートはもちろん下方修正されているということだが、数量的なイメージも含めて体系的な点検は1月にさせていただきたいと思っている」
*内容を追加して再送します。

最終更新:12月19日21時57分

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