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ワーキングプアに閉塞感赤木智弘さん 32赤木智弘さん 32 フリーライター。フリーターとしての実体験を基に、格差問題を論じる。昨年11月に初の著書「若者を見殺しにする国」を出版。
――派遣社員だった加藤智大(ともひろ)容疑者(25)は雇用に不安を抱いていたようだ 彼が携帯サイトの掲示板に「人が足りないから来いと電話がくる 俺(おれ)が必要だから、じゃなくて、人が足りないから」などと書き込んでいたのが気になった。私が昨年、論文「三一歳、フリーター。希望は、戦争」を発表した時の心境に似ている。 私は就職氷河期に専門学校を卒業し、正社員になれないまま10年ほどフリーターとして過ごした。一度ワーキングプアになると、努力してもなかなか抜け出せない。本当に戦争を望んでいるわけではないが、今の格差の構造は、戦争でも起きて、みんなが一からやり直ししないと変わらないとの思いはある。加藤容疑者も、そのぐらい絶望的な閉塞(へいそく)感に押しつぶされそうになっていたのではないか。 ――加藤容疑者の場合、閉塞感を打ち破る方法があの事件だったのか 事件そのものには全く同意できないが、抱いていた不安は理解できる。不特定多数の人を狙ったのは、誰を恨めばいいか、彼自身にもわからなかったからではないか。 ――雇用は改善傾向にあるのだろうか 改善されているのは主に新卒の雇用で、非正規労働者の正社員化は進まない。非正規労働者のまま取り残される世代は、逆に孤立感を深めるだろう。派遣社員は、別の仕事場へ移れば職場で築いてきた人間関係も失う。加藤容疑者が欲しいとこだわっていた「彼女」とは、安定した生活の象徴だったのかもしれない。 ――事件を契機に派遣労働の見直しが進んでいるが 国の方針転換やグッドウィルの廃業などを機に、日雇い派遣のあり方については見直しが進むと思うが、非正規労働問題の氷山の一角でしかない。事件は自分とは無関係だと思っている人にも、非正規労働の抱える問題について考えてもらいたい。 ◇ 事件や社会問題には様々な〈顔〉があります。新企画「アングル」では、各方面の識者に多角的な視点から分析してもらい、読者の方々に考えるヒントを提供できれば、と考えています。第一弾は、東京・秋葉原で起きた無差別殺傷事件。逮捕された加藤智大容疑者(25)の心理や事件の背景を読み解いてもらいます。 (2008年6月27日 読売新聞)
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