住民と板挟み 医師葛藤 無床化に揺れる現場

宿直で診察した患者に出す薬を探す曽根さん=17日夜、九戸地域診療センター
 岩手県医療局の県立病院・地域診療センターの無床化計画で、現場の医師が揺れている。対象の1つ、九戸村の地域診療センター(19床)には毎日、二戸市の県立二戸病院の常勤医が診察と宿直応援に通うが、夜間急患はほとんどないのが実態。「宿直なんてばかばかしい。基幹病院を忙しくするだけ」。無床化の必要性を感じる一方で、住民の不安も理解できる。医師不足が医療現場にもたらす混迷は深い。(盛岡総局・安野賢吾)

 すっかり日が落ちた午後6時。二戸病院整形外科長の曽根信介さん(53)はタクシーを降りると、すぐに白衣をまとって2階の診察室へ向かった。

 待っていたのは男性患者。風邪の診断をし、今度は1階の薬剤室に戻り、自ら処方した薬を選び出した。「薬剤師の代役もする。診療所の宿直ならではの仕事」という。

 九戸地域診療センターには常勤医が1人いるが、体調不良で勤務は平日午後のみ。午前と土日を含む宿直は主に約20キロ離れた二戸病院の医師らが担う。曽根さんは外来応援に月2回、宿直に月1、2回入る。

 医療局は「有床診療所が過重労働を招いている」と説明するが、実態は少し違う。「九戸での宿直を挟むと30数時間の連続勤務になるが、宿直に限れば全くつらくない」と曽根さんは言う。

 九戸の平日夜の外来は平均0.9人。夜間は技師不在でエックス線撮影もできず、重症者も救急車も二戸病院に行く。宿直医は入院患者回診も必要なく、夕食を取って朝を待つ日も少なくない。

 取材したこの日も午後6時の診察が最初で最後の患者。夜間の急患だけで1日30人近くになる二戸病院とは大違いだ。

 「まるで休みに来ているよう。失礼な言い方だが、ばかばかしいとも感じる」と曽根さん。

<休み月2回>
 問題は二戸病院での業務へのしわ寄せだ。

 二戸の整形外科医は曽根さんを含め2人。1人が診る外来患者は1日約40人で、20数人の入院患者も担当する。夕方以降も手術や入退院の家族説明などに追われる。急患による呼び出しが3、4回に及ぶ土日もある。

 「宿直や診察の応援で、二戸でやるべきことができない。もう1人の医師は二戸での呼び出しが増え、完全な休日は月2回だけになっている」

 二戸病院は周辺の一戸、軽米の両県立病院も支援する。常勤医30人の応援回数は年間延べ880回にも上る。

 佐藤元昭二戸病院長は「医師はへとへと。内科では激務を嫌って開業医になるなどし、2005年に12人いた医師が9人に減った」と言う。

 九戸などの常勤医が増えれば改善するが、現実は厳しい。「地域医療をやりたい」と勤務を希望した県外の複数の医師からも「入院患者の面倒は大変」と断られた。

 佐藤院長は「無床になれば医師は来る。懸命に地域医療を支えているが、もう限界に近い。無床化は不可避」と訴える。

<異なる状況>
 現場の医師の思いは複雑だ。訴訟リスクや基幹病院の外来患者の多さなど、改善してほしい点は多く、「無床化の優先順位が高いわけではない」と語る医師もいる。

 二戸病院勤務が18年になる曽根さんも「無床化反対の住民の思いは分かる」と話す。「入院ベッドが不要とされた村民は『おれたちの村は軽んじられている』と感じているのではないか」

 医療局が無床化を計画しているのは九戸など5カ所の診療センターと県立沼宮内病院。住田診療センターは2人の常勤医の宿直が月平均約14回に達するなど、抱える状況はそれぞれ異なる。

 無床化をめぐって葛藤(かっとう)する地域医療の最前線。医療局が年明けに始める地元説明会では、実態を正確に伝えることが求められる。
2008年12月20日土曜日

岩手

文化・暮らし



河北新報携帯サイト

QRコード

東北のニュースが携帯でも読める。楽天・東北のスポーツ情報も満載。

≫詳しくはこちら

http://jyoho.kahoku.co.jp/mb/