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トキ:海を渡る…想定外100キロ移動

本州で確認されたトキ=環境省提供
本州で確認されたトキ=環境省提供
トキの目撃地域
トキの目撃地域

 野生復帰を目指し、新潟県・佐渡島で放たれたトキ10羽のうち1羽が海を渡り、約100キロ離れた本州で確認された。ケージの中で大切に守られ、27年ぶりに大空を舞ったが、「かごの中の鳥」の印象と違い、たくましい。謎に包まれたトキの生態が少しずつ分かりつつある。【足立旬子、畠山哲郎】

 ◇トキフィーバー

 かつて全国各地にいたトキは、乱獲や開発で絶滅。9月25日に放たれたのは、同じ遺伝子を持つ中国産トキの子孫10羽だ。その後、オス、メス各1羽が行方不明になり、島内で一斉調査をしたが見つからず、関係者を不安にさせていた。

 吉報は思わぬところから届いた。11月8日、メスが山形県境に近い新潟県関川村で見つかった。賓客の訪れに、人口約7000人の過疎の村には、人が押し寄せ、ちょっとしたフィーバー状態だ。

 トキ担当に任命された田村健一・生涯学習課長は「村が注目されるのは歓迎だが、トキがどこかへ行っては大変」と困惑気味。全戸に「やさしく静かに見守りましょう」と書いたチラシを配った。

 村には棚田が広がり、餌となるドジョウのいる小川が流れ、営巣木のナラが茂る。箕口秀夫・新潟大教授(森林生態学)は「トキの生息に適している」と分析する。11月下旬に入っても住民に目撃されている。

 ◇追い風に乗った

 慌てたのは環境省だ。絶滅回避のため81年、野生のトキ全5羽を捕獲して以来、人工飼育の状態での情報しかない。渡り鳥のように大陸間移動しないことは知られていたが、放鳥して間もない時期に本州まで飛んだのは想定外だった。

 トキの生態に詳しい研究者によると、「野生のトキに関するデータに乏しく、一般的なトキの飛翔(ひしょう)距離は不明だが、トキは移動しない留鳥で海は渡らないとされていた」と指摘。佐渡から本州の対岸まで約50キロ。そこから関川村までも50キロほどあり、このメスのトキは約100キロも移動した格好だ。10月6日に新潟市の干潟でトキを見たとの情報があり、かなり早い段階で海を渡り、その後本州を北上した可能性がある。

 佐渡トキ保護センターの初代所長だった近辻宏帰さん(65)は「追い風に乗り、上空から見える山影に向かって飛んだのでは」と解説する。

 このメスは全地球測位システム(GPS)機能付きの発信器を装着していない。トキは警戒心が強く、すぐ林に身を隠す。コウノトリが昼間も人前に姿を現すのとは対照的だ。環境省は山形県に目撃情報の提供を呼びかけ、猟友会に誤射しないよう注意喚起した。

 ◇どうなる繁殖計画

 環境省の目標は15年までに佐渡島で60羽のトキ定着だ。島内で群れを作り自然繁殖を期待していたが、貴重な1羽が本州に渡り、オスの1羽は依然、所在不明だ。

 佐渡とき保護会の佐藤春雄顧問(89)は「1羽で子孫は残せない。関川村を選んだ理由を調べ、そのままにするか、佐渡に戻すかを考える必要がある」と指摘する。

 関川村は厳冬期、積雪が1メートルを超える。トキがそうした厳しい環境に耐えられるか懸念する声もある。環境省はトキの衰弱が激しくなった場合、保護し、佐渡に戻すことも検討している。

 近辻さんは「囲いの外に出たトキは意外にたくましく、かつて各地にいたトキの素顔を伝えるメッセンジャーだ」と話す。

毎日新聞 2008年12月1日 10時34分(最終更新 12月1日 12時59分)

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