｢力なき正義は無能なり｣

私は｢破天荒｣とか｢無頼派｣という言葉が好きです｡堅気ではあるけれど､ﾔｸｻﾞ･遊び人のような自堕落な生活から脱け出せない放蕩者｡暴力主義者でもあり､冷酷な個人主義者と常に世間の嫌われ者…｡
しかし､実は｢仁義｣と｢人情｣の狭間の中でいつも苦しみながら生きる不器用なhumannistではあるのですが､偽悪者故に､そんな純(ｳﾌﾞさ)はおｸﾋﾞも見せず必死に｢悪人｣を演じようとする｡

皆さんが知るところで言えば､まさに萩原健一(ｼｮｰｹﾝ)が典型的な無頼派と言えるでしょう｡
私はそんなｼｮｰｹﾝが好きです｡musicianとしても役者としても｢噛めば噛むほど味が出る｣不思議な魅力を持った存在です｡
私は基本的にmusicianはsong･lighterしか認めない主義です｡
｢いちご白書｣はあのｶﾊﾞ男がﾃﾞｶい鼻を更におっ広げて唄うよりoriginal･lighterの松任谷由実(ﾕｰﾐﾝ)唄う方が100倍､いや10000倍はいい｡｢なごり雪｣はあの男ｵﾝﾅのｻﾒだかｲﾙｶが澄まし顔で唄うより伊勢正三が唄ってこそ､楽曲本来の味がある｡｢たどり着いたらいつも雨降り｣もそうだ｡鈴木ひろみつの似非ROCK調は確かに大衆受けはするだろうが､やはり作者の吉田拓郎が唄うべきだった｡

しかし…｡唯一､他人の歌を唄って完全に自分のものにしてしまうvocalistがｼｮｰｹﾝでした｡
80年前後､女の子相手の女々しいLOVESONGを裏声混じりに唄って｢IDLE･FOlKSINGER｣と持て囃された長渕剛｡しかし80年代半ばに人気が凋落しmusicianとしての挫折に貧した時､ｼｮｰｹﾝの歌唱法を徹底的に真似して喉を潰し､そして再び蘇った事実は知られざる逸話です｡
河島英五の｢酒と泪と男と女｣は彼の代表作であり､ｼﾐｼﾞﾐとした弾き語りは名曲と言っても間違いないでしょう｡ところが､この男女間の悲しくも切ない機微を唄った楽曲が､河島英五の高校時代の作品と知った時､私は少なからずの失望を抱きました｡<恋愛>の<ﾚ>の字でさえ分からない青二才が精一杯背伸びして作った唄に､自分の気持ちをidentifyさせる事など到底不可能に思われたのです｡
そんな時､ｼｮｰｹﾝが唄う｢酒と泪と男と女｣が突然のように胸に迫って聴こえてきました｡敢えてmelodyを崩しながら､時には唸るように､また時には叫ぶように唄うｼｮｰｹﾝの歌唱法は､見事に男との悲哀を浮かび上がらせてくれました｡

いま､私はｼｮｰｹﾝの80年代初期のLIVEｰALBMを毎日のように聴いています｡DVDは既に絶版で数万円のpremiumがついた商品ですが､それだけの価値は十分にありました｡
あのBOROの｢大阪で生まれた女｣も､何故かｼｮｰｹﾝが唄うと､薄汚れた早朝の大阪の繁華街がまるで絵画のように浮かんできます｡そして粗末な四畳半のｱﾊﾟｰﾄ｡東京に去っていく恋人をすがるように追い掛ける彼女の姿…｡自然と涙が溢れてどうしようもなくなってしまいます｡
1985年｡私は容子と別れてからもずっと容子に逢いたいと思い続けてきました｡何故､容子と結婚しなかったのだろう! 堪らない後悔にうちひしがれた事もありました｡容子と結婚するはずだった｡極真芦原道場の黒帯だった容子は編集者でもあり､私には最高の相手と思えてならない時期がありました｡
いまでこそ､本当に私が望んでいた女性と知り合い､彼女との将来に夢を馳せるなかで､すっかり容子の思い出は色褪せてしまいましたが…｡
そんな私が､ｼｮｰｹﾝが叫ぶ｢大阪で生まれた女｣をendlesで聴きながら､あの1985年前後の容子との生活が脳裏に甦り､自然と涙を流していたのです｡

松田優作はｼｮｰｹﾝを尊敬していました｡矢沢永吉が唯一影響を受けた日本人vocalistもｼｮｰｹﾝでした｡ｼｮｰｹﾝの歌唱法やperformanceは高く評価され､また役者としての演技力は常にtopclassといわれてきました｡いつも誰かにｶﾞﾝつけているような､清濁合わせのみ､だけど意外に酒には弱く､本来の姿は女性にも弱い男です｡
しかし､ｼｮｰｹﾝの人生は波乱万丈でした｡喧嘩で何度も検挙され､麻薬もやり､車で人身事故を起こし､TV関係者への脅迫で逮捕されたりもしました｡当然のように女性関係も派手でした｡
しかし､考えようによれば､そんな破天荒で無頼派な生き方をしてきたからこそ､世の中の悲哀を唄いこなす事が出来たのかもしれません｡否､そうに決まっています｡犯罪も含めて､常識人ではおよそ縁のない経験の積み重ねが､彼の唄に｢魂｣を宿し､鬼気迫る演技を可能にした事は否定出来ないでしょう｡

ｼｮｰｹﾝのように無茶苦茶な無頼派人生を送るのも悪くはないなと…､そんな事を半分本気で考える時もある私です｡


K･HAGIWARA

(了)