最高裁の違憲判決を受けて審議されていた国籍法の改正案が5日、成立し、日本で育ち「国籍を認めてほしい」と待ち望んだ子供と、その母親に救済の道を開いた。一方で、実際に父親ではない日本人男性がうその認知届を出す「偽装認知」への懸念も根強い。
「日本人と認められることがうれしい。これからは堂々としていられる」。東京都内のフィリピン人の母親(39)と、中学3年の長女(15)は法改正を喜んだ。早速、日本国籍取得を届け出る。
弟(9)と日本で生まれ育った。学校では言葉遣いを間違うと、同級生から「あいつ外人だから」とささやかれた。「でも、ここで生まれちゃってるし、周りからどう言われても、変わると思っていた」
法務省は6月の最高裁判決直後、改正作業に着手した。だが、ブローカーらが日本人の「認知屋」を紹介し金を受け取るなどの偽装認知も懸念され、先月に入って、与野党に市民団体などから反対や不安の声が寄せられるようになった。
このため、自民党有志議員らも慎重な審議を衆院法務委に申し入れた。森英介法相は11月18日の記者会見で「性善説に確かに立っている」と発言。法務省は偽装認知について慎重に審査する方針だ。
法務省の試算では法改正で新たに国籍が取得できる外国人は年間600~700人。最高裁の違憲判決翌日から今月3日までにも129人が国籍取得を届け出ており、改正法施行後の年明けにも手続きに入る。
中央大法科大学院の奥田安弘教授(国籍法)は「偽装の不安があるからといって、国籍取得を認めないのは誤り。市町村が父親の認知届を厳しく審査して、真実の認知を拒むケースもある。心から国籍取得を願う人たちに不利益を及ぼしてはならない」と話した。【石川淳一】
毎日新聞 2008年12月5日 東京夕刊