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世界経済危機 日本の罪と罰

当ブログは、このごろ毎月200万PVを超えるようになった。それは私が望んだことでもないし、よけいなイナゴが群がるのはうっとうしいのだが、今井賢一氏や小幡績氏からコメントが来たり、経済学者にEメールで賛同(あるいは批判)していただいたり、献本をいただいたりすると、私の意見も少しは学問的に認知されたのかなと思う。本書も献本だが、著者の意見と私の意見が似ているからだろう。きのうも、ある経済誌の企画会議で、「マクロ経済論争」について次のようなチャートを描いたところだった:上のほうが長期の「自然率」を重視する新古典派に近く、下のほうが短期のマクロ調整を重視するケインズ派に近い。リンクを見てもわかるように、私は後者を評価していない。理論的に古く、長期のモデルを欠いているからだ。ところが「リフレ派」は、異なる意見に対して「学生でも落第だ」などと人格攻撃を行なう傾向が強く、浜田氏も野口氏と名誉毀損事件を起した(裁判には至らなかったが)。こういう議論は学問的な論争を混乱させ、きわめて後味の悪いものだった。

著者はこのチャートでもわかるように、マクロ的な安定化政策を否定して利上げを主張し、不良債権処理も「間接金融システムを延命する裁量的介入」として否定する「極左」である。これは世間的には珍しいが、理論経済学の中では林氏のように本流に近く、世界的にもPrescott、Lucas、Sargentなどの大学院生のアイドルは極左が多い。私は著者ほど明快には断定できないが、世の中でケインズの亡霊がよみがえりつつある現状では、あえてこういう極論を主張することも意味があるだろう。

本書は、日本の「輸出立国モデル」が円安バブルとともに崩壊したと考える点では水野和夫氏と同じだが、「アメリカ金融帝国主義の終焉」という類の議論は一蹴する。金融技術やITにおけるアメリカの優位は圧倒的で、それに代わる国は見当たらないからだ。過剰な金融緩和による円キャリー取引をアメリカの住宅バブルの「共犯者」と考え、円高を「資産大国」になるチャンスと考える点では榊原氏と共通しているが、「食糧自給率の向上」はナンセンスと切り捨てる。経済学的には通説的な理解だが、法学部卒の人にもわかるようにやさしく書かれているので、マクロ政策で頭がいっぱいの官僚諸氏には一読をおすすめしたい。
コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
Unknown (Unknown)
2008-12-14 01:26:01
そもそも「マクロ××学」って存在してていいもんなんでしょうかね。マクロ素粒子物理学とかマクロ分子生物学なんてものはないと思うんですが。気象なんかはマクロ的かもしれないですけど、結局乱流ミュレーションが現実に追いついていません。
 
 
 
Unknown (pk-uzawanian)
2008-12-14 08:40:23
経済学の目的をどう考えるか?で評価は変わってくると思います。
通常は「希少資源の効率的配分」ですが、私は「状況適応力の向上と公正な分配」だと考えるようになりました。この目的をどう比較可能なようにするのかはわかりませんが、「希少資源の効率的配分」は「状況適応力の向上」に含まれます。状況適応能力の向上は、制度設計も含みます。そもそも市場を作り出す能力が無いと、効率性を比較し向上させることも難しい。また、いったいどんな市場に対してどんな規模の組織が目的に対して適切なのか?GMの問題も米国市場における寡占化が影響を与えていると思います。小さければ潰せば済むことですが、大きすぎて潰せないからです。しかし、世界市場の規模で考えるとGMは潰せます。
どちらを選ぶかは、米国政府が自国での適応力評価と分配をどう考えるかだと思います。
 
 
 
浜田宏一氏 (池田信夫)
2008-12-14 11:57:15
彼は私のゼミの先生なので、悪口をいうのはしのびないけど、学会での彼の発言は目に余りました。「インフレ目標が定説だ」という根拠のない思い込みにもとづいて、「こんなことも理解できない人がいる」と実名をあげて綿々と罵倒していた。そもそも人為的インフレを「インフレ目標」と呼ぶことが間違いで、これはインフレを抑制する目標とは理論的にも実務的にもまったく違う。中央銀行がインフレ期待を変える手段はわかっていない。

名誉毀損事件のときも、野口氏が「輸入物価や技術革新によって価格が下がることは望ましい」といったのを、相対価格と物価水準を混同する「よいデフレ論」だとして批判したのですが、物価統計では相対価格の変化もCPIとして集計されるので、両者の差は相対的なものです。こういうレトリックは、浜田氏の権威を利用するリフレ派の素人によって拡大再生産され、それをB級メディアがもてはやした。

浜田氏はイェールにいった直後に奥さんが逃げて、子供が自殺したとき、ひどい鬱病になって、そのあと変になった。彼の『国際金融』という教科書にも、まえがきに子供の自殺の話が出てきて驚きます。個人的には人格者ですが、思想的にはセンチメンタルな心情左翼。フリードマンのことを「失業者への思いやりがない」と批判していました。
 
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