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重い歴史を背景に何かと関係のきしむことが多かった日中韓の首脳が、一つのテーブルを囲み長時間、地域や世界が直面する問題を語り合った。
近隣の首脳が一堂に会し率直な意見交換をすることは、地域を安定させるために不可欠だ。それがこの3カ国の間ではなかなかできなかった。
アジアの中で、新興・途上国の集まりである東南アジア諸国連合(ASEAN)が域内の協力を深めてきたのに比べ、その数倍の経済力を持つ北東アジアの3カ国は、ぎくしゃくした関係が続いた。
ASEAN首脳会議の場で、初めて3カ国首脳だけが会談したのは1999年11月。以後の会談もそうした場所を借りたあわただしいものだった。小泉政権時代、首相の靖国神社参拝が原因で見送られたこともあった。
日中韓はそれぞれ2カ国で話し合うと、歴史や領土など難しい問題を避けて通れなくなる。3カ国ならば議論の中心を前向きな話題に移すことができる。そんな効用に気づいて、初めて単独の会議を開く機運が生まれた。
日中の「戦略的互恵関係」、日韓の「成熟したパートナーシップ」という言葉に象徴されるように、近年、3カ国の関係が「友好」「親善」外交を卒業してきたことも背景にある。
3カ国の目の前には、世界金融危機や環境、軍縮など対応が迫られる地球規模の課題がある。北朝鮮の核問題、ウォン安に苦しむ韓国への支援策など地域の課題も山積している。
3首脳は、これらの課題について意見を交換し、「首脳会議が地域の平和と持続可能な発展につながる」などとする共同声明を発表した。
99年の3者会談の時、韓国の金大中大統領は「排他的な地域主義でなく、世界化とともに進む地域協力が必要だ」と強調した。首脳同士の信頼関係が、二国間問題に限らず地域の問題、そして世界的規模の課題に積極的に取り組む土台をつくるのだ。
各国首脳が頻繁に会って本音をぶつけ合うのは、例えば欧州では当たり前のように行われている。遅ればせながらも日中韓3カ国の首脳が自然体で会談し、それを定例化することに合意したことは評価したい。
今後の課題は、会議を儀式化しないことだ。アジア地域だけでも、アジア太平洋経済協力会議(APEC)やアジア欧州会議(ASEM)など、多国間会議が増えている。しかし、ややもすれば合意文書を作り上げて成果を強調するだけになりがちだ。
せっかくの日中韓首脳会議を儀式にしてはならない。3人は2時間ほどで集まれるところにいる。地の利を生かし、臨機応変の対応を望みたい。3首脳に話し合ってほしい課題はまだまだたくさんある。
先週末の国会で、補給支援特措法と金融機能強化法の改正案が、与党の「3分の2」以上の多数による衆院再可決で成立した。
重要法案と位置づけた両法案の成立で、この国会の山は越した。麻生首相はそう考えているかもしれない。
しかし、与野党の論戦が活発に行われたとはとても言えない。
とりわけ、インド洋での給油活動を延長する補給支援特措法改正案の審議は、著しく緊張感を欠いた。昨年、国会承認やイラク作戦への油転用疑惑で激しい論戦が交わされたのを忘れたかのように、審議や採決の日程をめぐる駆け引きばかりが目立った。
民主党の対応も筋が通らなかった。解散・総選挙への思惑から、衆院では法案を駆け込みで通したのに、参院では一転、引き延ばしにかかった。
だが、この国会の審議を空洞化させた、より大きな責任は首相にある。
国会冒頭、首相は民主党を激しくなじり、対決をあおった。まずは解散にうって出て、本格的な政権運営は総選挙で小沢民主党と決着をつけてから。そう決意してのことだったろう。
だが、世界的な金融危機と選挙情勢の悪化が首相の戦略を狂わせた。
解散もできない。かといって、民主党との間に話し合いの機運はない。その結果、首相には「3分の2」による衆院再可決に頼るしか、政策を前に進める方法がなくなった。
第2次補正予算案の今国会提出を断念した理由のひとつは、関連法案を成立させるには「60日ルール」で再可決するしかなく、それには日数が足りないからだった。
首相が「景気最優先」を看板に掲げるのなら、大胆な妥協で民主党に協力を求める道もあり得たのに、自らその扉を閉ざしてしまった。
年明けの通常国会が、さらに茨(いばら)の道になるのは間違いない。「3分の2」政治には与党の結束が欠かせないが、そこが怪しくなっているからだ。
世論の評価が低い定額給付金と、骨抜きになった道路特定財源の一般財源化には自民党にも反対を唱える勢力がいる。17人が採決で反対に回れば、再可決に必要な数に欠けてしまう。
求心力を失った首相から距離を置く動きは与党内で強まるだろう。票目当てのばらまき要求も増す。民主党との対決どころか、与党との妥協にきゅうきゅうとする政治に陥りかねない。
再可決頼みの政治に展望はない。やはり総選挙で民意の支持を受けた政権を早くつくるしか、道はないのだ。
「仮に3分の2を失っても、私は何も恐れはしない。国民の信が私の背にあれば、粘り強く野党を説得し、答えの出せない不毛な対立に終止符を打てる」。首相就任直前、論文でそう宣言した初心に首相は立ち返るべきだ。