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【コラム】

筆洗

2008年12月14日

 世の中には偏見や知識がないことにより、誤って伝わっていることがいくつもある。正していくのは容易ではない。でも何かきっかけがあれば、きっと変わっていく▼漫画家の中村ユキさんはこんな願いを込めて『わが家の母はビョーキです』を描き上げた。統合失調症の母親との三十一年間に及ぶ生活を題材にしている。発症時、まだ四歳だった。当然ながら、病気を理解できなかった▼偏見を恐れて誰にも相談できず、母親と二人だけで苦しんだ日々。繰り返し絶望感にとらわれたことも、告白している。自分が病気や行政の支援の仕組みを、詳しく知らなかったためでもある▼正しい知識や情報が入るにつれて、心も体も楽になった。母親も「地域生活支援センター」という居場所を見つけ、徐々に回復していった。薬を変えた効果も大きかったようだ。漫画の後半、二人の笑顔が増えていくのがうれしい▼胸を打つのは、母親の「お母ちゃん、ユキを産んだときが生まれて一番幸せだったのよ」という言葉。中村さんの元気の源になるのだろう▼六年ほど前に結婚し、母親と同居中。「今は幸せ」と言い切ることができる。「わが家のトーシツライフ十カ条」を実践しているからでもある。<困ったときはまわりに相談><家族各々(おのおの)が自分の楽しみを持つ><思いやりと共感と感謝>…。歳月の重みを感じる。

 

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