今月2~4日に連載した「2兆円あったら」の企画に総額2兆円の定額給付金に代わる、さまざまなアイデアや意見が寄せられました。給付金のような一時的なものではなく、将来を考えた使い方をしてほしいとの意見が大勢でした。一部を紹介するとともに、連載「勝間和代のクロストーク」でおなじみの経済評論家、勝間和代さんに、日本を元気にするためのお金の使い方を聞きました。【まとめ・山崎友記子】
◆経済
雇用の安定に使ってほしい。雇用が安定していれば、収入も安定し、消費も安定します。消費が安定すれば税収も安定するはずです。かつてのバブル崩壊で、金融機関の貸し渋りや貸しはがしなどで中小零細企業は経営難や倒産に陥って、失業者が増えて活気のない時代が続きました。ようやく立ち直りつつあるかと思ったら、今回の大不況です。同じ轍(てつ)を踏まないように、金融機関の監視や経営不振の企業への融資などに使ってほしいです。=茨城県守谷市、伊藤星美さん(51)
◆医療
産科医不足対策により力を入れてほしい。少子化といわれているが、このような状況で安心して子供が産めるだろうか。産科医激減なら、そこを何とかすることこそ、日本にとって一番大切なことと思います。国づくりの前に人づくり、大事な命、母子ともに安心安全な態勢で受け入れられるように、使うお金だと思います。=大阪府大東市、阪本さわ子さん(57)
インフルエンザの予防接種費用を無料か低料金にしてほしい。接種したほうが良い、という割には、かかる費用はバラバラだし、流行する型に合っているかどうか分からないなんて、それにお金をかける気がしない。本当に必要なら国で負担してほしい。=奈良県大和高田市、岩崎有紀さん(34)
◆教育
私は教育相談にかかわっています。不登校、いじめの相談が増えています。都会の子どもたちは、塾に習い事にと、ほとんど遊ぶ暇もなく、毎日あくせくしています。そこで、小中学校の教育課程で、一定期間、都会の子は地方に行き、地方の子は都会に、交互に入れ替わる制度を作り、都会の子は豊かな自然に触れ、農作業を体験したり、田舎の子は都会の空気に触れる機会を設けてはどうでしょう。人間形成に役立つと思います。=さいたま市岩槻区、久保田寿一さん(70)
公立小中学校の完全バリアフリー化です。エレベーターや点字ブロックの設置、段差解消など、障害のある児童生徒が人の手助けを借りず、自由に校内を移動できるようにしてほしい。障害のある児童生徒の就学には設備の不備が原因でやむを得ず、養護や盲ろう学校に行かなくてはならないケースもあります。共生社会を目指すためには、障害があるなしにかかわらず、みんな一緒に学び遊べる環境を作ってほしい。=埼玉県北本市、井上純一さん(37)
◆エネルギー
2兆円は、日本の将来に夢が持てる政策に使うべきです。エネルギー・温室効果ガス対策、食糧問題、地方活性化対策、雇用促進の観点から「地熱総合利用事業」に使うべきだと考えます。火山国日本の資源を活用し、地熱発電や地熱農園を展開する。付随的に、その廃熱を利用した地域暖房など、自前のエネルギーを100%活用するプロジェクトを提案します。=千葉市美浜区、菊地弘亜樹さん(69)
日本の未来を考えて2兆円を使うなら、少子化対策が優先と考えます。子どもが減れば将来、税収も減り、雇用も広がらない。産科医療を拡充したり、保育所の待機児対策をして、安心して産めるようになれば、子どもが増え、消費も増えて、社会の気分も少しは明るくなるかもしれない。みんなお金が必要かもしれないが、将来性を考えると、少子化対策に使うべきです。
寄せられた提案は、雇用対策が多いようですが、実はその具体策が難しい。雇用の促進は、最終的には民間がやることですし、雇用を創出するには新しい産業を育成しなければならない。そのためには人材の育成が必要で、どれだけのお金でどれだけの効果が出るか分かりにくい。
急場をしのぐには、失業者対策として、生活保護や失業手当をきちんと出して、セーフティーネットを守ることだと思います。
国や政府に知恵がないのなら、私たちの方から見本を見せてはどうでしょう。例えば定額給付金1万2000円をみんなでプールして基金を作る。そこから奨学金を出したり、事業を始めたい人に低利で融資したり、過疎地で産科をやりたい人に役立ててもらってもいい。お金の使い方を上から決めるのではなく、アイデアのある人に手を挙げてもらうのです。
1万人分集まれば、1億2000万円です。給付が始まる前に基金にお金を預けてくれれば、年度内に動き出すこともできます。スピード感を持って対応しなければ、日本は沈んでしまいます。
毎日新聞 2008年12月13日 東京朝刊