｢力なき正義は無能なり｣

あまりにｵﾏｴが優しいから
僕はｵﾏｴを､ひとり占めに出来ない
空を見上げて､黙って泣いていた
あのときのｵﾏｴは､いまはもういない

あまりにｵﾏｴが陽気だから
僕はｵﾏｴを､ただ見てるだけ
海を見つめて､遠くに行きたいなんて
ポツリと呟いた､ｵﾏｴはもういない

あまりにｵﾏｴを愛しているから
僕はｵﾏｴを､抱きしめられない
ふたりで歩いた､あの道も落ち葉が舞う
寂しい悲しい､季節を待ってるようだ


私が早稲田大学に入学した年…世間知らずの青臭いｶﾞｷでしたが､精一杯の気持ちで作詞･作曲した､original楽曲､｢あのとき…｣の歌詞です｡内容は決して創作ではありません｡


<彼女>が逝ってから数年間の浪人時代(上智や立教に籍を置いたりしてましたが…)を経て早稲田に合格し､極真会館に入門して一段落ついた頃の事です｡私は改めて<彼女>と遊んだ､また<彼女>の葬儀の日に行った鎌倉由比ヶ浜をひとりで訪ね､また<彼女>と歩いた池袋東口のsunshine通り(当時はまだsunshine60もsunshinecityも建設中の頃でした)を徘徊し､そして<彼女>を想いながら､この楽曲を書き上げました｡


｢彼女はもういない｣…｡
高校卒業を目の前に<彼女>は亡くなったのです｡中学1年で別々の小学校から一緒のclassになりました｡事件を幾度も起こし､施設を出たり入ったりしていた私は､｢ｺﾞﾐｸｽﾞみたいな厭なﾔﾂ｣というﾚｯﾃﾙを貼られ､誰にも相手にされませんでした｡
そんな私をいつも庇ったり冗談言ったり､ｷｬﾋﾟｷｬﾋﾟしながら離れなかった<ｹﾝｶ相手>が<彼女>でした｡<彼女>とは偶然にも3年間､ずっと同じｸﾗｽでした｡
ところで､私は中学2年からずっと長い間､Nさんという同学年の女性に片思いをしていました｡Nさんへの想いは大学を卒業し､数年後に容子と出会うまで続く事になります｡
<彼女>の名は遥子といいます｡

私は遥子をこれっぽっちも異性と思った事はありません｡ただ彼女は小学生の時に東京から転校してきたからなのか､田舎臭さがない垢抜けて可愛いshortｰhairの子でした｡いつも陽気で笑ってました｡
ひょんな事から鎌倉に行きました｡最初はgroupでいく予定が狂って2人で行きました｡北鎌倉から山に登り､降りたら長谷寺の近くで長谷寺の大仏をに合掌してから､由比ヶ浜に降りました｡確かに彼女は空を見ていました｡訊くと､遥子は呟くように言いました｡
｢あれ鳩かなｶﾓﾒかな､2羽仲良く飛んでるよ…｣
彼女の家庭も複雑でした｡親が離婚したばかりでした｡2羽のｶﾓﾒと両親が重なって見えたのか､涙を浮かべていました｡悲しそうな遥子の顔を目にしたのは初めてでした｡
そして…､私たちが初めてkissをしたのはそのときです｡kissとはいっても尖った唇で彼女の口元というか頬に触れたかどうか程度でしたが｡
｢海ってどこまでも続いてるんだよね｣
｢当然じゃん｡湖や池じゃねえんだぜ｣
｢遠くの国に行きたいね｣
遥子がいうので｢どこに行きたいって?｣と私が訊くと｢Africaとか行きたい｣と彼女は答えました｡
｢ﾊﾞｶか!? せめてHawaiiくらいにしておけよ｣
なんて言った記憶があります｡江ノ電に乗って鎌倉に向かう途中､陽子は突然､真面目な顔で言いました｡
｢ｺｼﾞちゃんて､何故いつもknife持ってるん?｣
遥子はいつも私を<ｺｼﾞちゃん>と呼んでいました｡あの頃､私は博徒だった父の子分で<振り師>の四郎さんから貰った緑のｶﾞﾗｽの柄がついたJackｰknifeを持ち歩いていました｡
｢死にたくねえからに決まってるじゃん｣
｢もうｺｼﾞちゃんを殺そうなんて人いないよ｡梁川さんがお兄さんなんでしょ｣
遥子は私が小学生時代､2度も名字が変わった事を知っていたし､私と梁川○○(当時､地元の不良や暴走族の裏番で､梁川の親父さんは在日愚連隊のbossであり私の父の<義兄弟>でした)が実の兄弟だと思っていたみたいでした｡
これが中2が終わる春休みの話です｡
あれ以来､私は凶器を携帯するのを止めました｡この頃から私は真面目になっていきました｡というより､突然変異のごとくｶﾞﾘ勉に変貌するのです｡

中学卒業後､私は越境で隣県のT高校､遥子は県内のS高に進学しました｡通学の方向も違うし､中学卒業以来､遥子とは1度も逢っていません｡
T高は実に授業が厳しい県でもﾄｯﾌﾟｸﾗｽの進学校でした｡しかし校風は極めて自由で寛大でした｡学生服着てﾊﾟﾁﾝｺ屋でﾀﾊﾞｺをふかしながら遊んでいても怒られないほどの学校でした｡
私の初恋で片思いだったNさんはT高の姉妹高であるT女子高生に進学していました｡ですから､たまに登下校時や図書館で見かける事が少なくありませんでした｡1度も話した事がない相手でしたが､Nさんへの思いは募るばかりでした｡
一方､受験勉強に追われ､私は遥子のことを次第に忘れていきました…｡