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新型インフルエンザの火種:インドネシアから/中 見逃されてきた死

 「南スラウェシ州では人は死なない。不思議だ」。鳥インフルエンザにかかわる専門家は口をそろえる。強毒性鳥インフルエンザH5N1型ウイルスによる死者が112人に達するインドネシアで、33州の一つの南スラウェシ州では死者が06年の1人しかいない。

 唯一の死者はアキラという14歳の少女だった。州都マカッサル市に住む父バソさん(60)の話は冒頭の疑問を否定するものだった。バソさんは末娘のアキラさんとともに妻スキイさん(当時57歳)ともう一人の娘(当時17歳)も失っていた。

 同州保健局によると06年6月、アキラさんの姉アンドリウィナさんが発症した。自宅で看病したスキイさんとアキラさんも倒れた。40度近い高熱を出した3人は別々の病院に入院した。3人は熱帯地方特有の感染症であるデング熱と診断され数日の間に亡くなった。

 たまたまアキラさんが運ばれた先が、州内唯一のインフルエンザ専門病院のワヒンディ病院で、アキラさんが入院2日目に重い肺炎を併発したことから、担当医師が鳥インフルエンザを疑い血液検体を保管していた。死から2カ月後の調査でH5N1型ウイルスが検出された。

 市保健局のスカルディ感染症監視担当官は「ほかの2人も鳥インフルエンザに感染していた可能性が高い。当時は住民も医師も行政も、鳥インフルエンザに関する知識が不足していた」と語る。

 監視体制支援のためマカッサル市に赴いた国立感染症研究所の砂川富正医師は「インドネシアでは、アキラさんの家族のように見逃されてきた死も多いはずだ」と見る。

 バソさんは、窓枠や自転車の修理をしながら残った9人の子供と暮らしている。「鳥インフルエンザは本当に怖い病気だ。できるだけ早く有効なワクチンが開発され、一人でも多くの命が救われることを望んでいる」と話した。【関東晋慈】

毎日新聞 2008年12月10日 東京夕刊

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