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医療ナビ:小児の医療過誤 問題解決への取り組みは。

 ◆小児の医療過誤 問題解決への取り組みは。

 ◇情報伝え信頼関係築く 実態理解へ講習会も

 医療過誤をめぐる訴訟は年約1000件に達する。医療訴訟にいたる事態が発生したのは患者にとって不幸なだけではない。リスクの高い医療を回避したいと医師不足を招きかねない。特に、小児は医師も予測できない容体の急変を起こしやすく、訴訟になる可能性が高い。問題解決に向けた動きを探った。

 11月、福岡市で開かれた小児医療過誤を考えるシンポジウム。小児医療や法医学の専門家、市民ら約60人が参加した。

 「子どもは大人のミニチュアではない。そのことへの理解が必要だ」--。小児の医療過誤に詳しい小林弘幸・順天堂大医療安全推進部長(総合診療科)はこう強調した上で、7歳男児で起きた事例を紹介した。

 男児は下腹部の痛みを訴え午前中に開業医を訪れ、鎮痛剤の投与を受けて帰宅した。痛みは治まらず、夜になるとさらに強くなった。再び開業医を訪れて検査すると、睾丸捻転(こうがんねんてん)と判明した。睾丸が何かの拍子にねじれ、睾丸への血管がふさがれ壊死(えし)する病気だ。男児は睾丸の摘出手術を受けた。男児は詳しい症状を説明できないうえに、腹痛にはさまざまな要因がある。診断が遅れた例と言える。

 子どもの体内の水分量は大人に比べ少なく発熱や脱水で水を使い切り重症化しやすい。組織は弱く、手術では繊細な技術が必要。乳児は投薬量のミスも起きやすい。子どもは症状を的確に説明できない。その結果、医療過誤の原因になる診断や治療のミスが起きる。親から見ると子どもの症状が突然悪化し、医療過誤を疑ってしまう。

 シンポを企画した澤口聡(とし)子(こ)・福岡女学院大教授(小児法医学)は「小児の医療過誤は専門家が少ない。それが、原因特定を難しくし、患者や家族の不満につながっている。この現実を、医師と市民が共有することから始めたい」と説明した。参加者は「対応に悩んでいたので参考になった」と語った。

 ◇急がれる補償制度の整備

 最高裁によると、小児科の訴訟件数は他の診療科に比べ少ない。小児科医と患者の家族の間に、信頼関係が構築されているためとみられる。だが、救急では互いに初対面で、患者の容体も深刻だ。小林さんは「医師が患者や家族への配慮を心がければ訴訟を減らせる。医師と患者、家族の意思疎通が鍵を握る」と話す。

 聖マリアンナ医大の北川博昭・医療安全管理対策室長(小児外科)が勧めるのは、米ハーバード大が作成した医療過誤マニュアルの活用だ。特徴は、医師にまず謝罪することを求めている点だ。

 北川さんは「ミスの有無は別にして、救命できなかったことや重症化させたことを率直に謝る姿勢が患者や家族の信頼を得る。患者の不信は、どの医師もつらい。互いに納得できる解決ができれば、医師も仕事への意欲を維持できる」と話す。

 医療過誤が起きた際の裁判外紛争解決(ADR)システムの整備も注目される。日本では、医師会や弁護士会などが取り組んでいるが、欧米は法律に基づき制度を整備している。特に、ADRと無過失補償制度を組み合わせたフランスの制度は、患者側が十分な補償を受けられる仕組みとして評価されている。

 日本小児外科学会は5月、初めて医療安全講習会を開いた。病院での治療事例を開業医に伝え、的確な診断や治療、患者搬送の仕組みを作り、医療過誤を減らすことを目指している。小林さんは「親向けにも市民講座を開き、小児医療の特性と実態を伝えたい」と話す。

 ヌノ・ビエイラ国際法医学アカデミー会長は「医療過誤を皆無にすることは難しい。米国では小児の医療訴訟が増加傾向だ。患者に十分補償するシステム、医師側には正確な分析と情報開示を通じた再発防止策の構築を求めたい」と提言する。【永山悦子】

毎日新聞 2008年12月9日 東京朝刊

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