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2008-12-07 12:10:57 stanford2008の投稿

桜井淳所長から京大原子炉実験所のT先生への手紙-原爆の線量評価と被爆評価の研究者の考え方の相違-

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T先生



いただいた「「広島・長崎原爆放射線量新評価システムDS02に関する専門研究会」報告書」(KURRI-KR-114, 2004)を熟読・吟味してみました。10年前、私がワーキンググループリーダーを務めたモンテカルロ研究の会合で、星正治先生(広島大学原爆放射線医科学研究所)から連続エネルギーモンテカルロ計算コードMCNP(Monte Carlo N-Particle Transport Code)を利用した爆発時放射線シミュレーションの報告を受けたことがあり、この報告書にも同様なことが記されており、大変懐かしく感じました。当時、そのような研究結果まで含める必要があるのか、また、あらぬ誤解を招かないためにも、避けた方がよいのではないかと、迷ったものです。


新評価システムDS02を構成する計算コードシステムの内容(p.125)は、世界でもトップクラスであって、二次元放射線輸送計算コードによる前進計算(forward)のみならず、三次元モンテカルロ計算コードでの随伴線束計算(adjoint)までしており、なかなかのレベルだと受け止めました。T先生もそのような計算システムを使いこなしているとなると、日本でもトップクラスの計算科学研究者のひとりと位置づけられ、私のレクチャなど聞く必要は、なかったのではないでしょうか。


原爆の線量評価の研究者は、評価結果を吸収線量のグレイ単位(Gy)で整理しており(p.196)、被爆評価の研究者は、グレイ単位の値に放射線の種類(中性子線・ガンマ線・ベータ線等)によって異なる加重係数を乗じたグレイ当量(Gy・Eq)に整理しています。目的によって、考え方が異なるのでしょう。原爆の被爆評価の場合、原子力施設での被ばく評価や原子力発電所の災害評価での被ばく評価の考え方と異なり(JCO臨界事故のような特別な事故を除く)、加重係数も原子力研究に利用されているものとはやや異なる"急性放射線症"に特有のものであり、私のこれまでの原子力研究での認識とは、やや異なるものもありました。原爆急性放射線被爆評価と原子力研究被ばく評価を分けて考えないと、おそらく、吉岡先生のような混乱に陥るのでしょう。


工学の世界は、物理の世界と異なり、厳密性の維持だけではなく、評価誤差が優先される近似の世界です。計算コードにはそのような例は枚挙に暇がありません(たとえば、伝統的な決定論的放射線輸送計算コードでは、中性子エネルギースペクトルには、遅発中性子の影響は、考慮されてきませんでした)。吉岡先生がそのような真実を認識したならば、ことごとく、"無意味"と指摘し続けることでしょう。それから、計算科学では、厳密性と高速処理は、両立しないこともあるため、実用性を考慮して、厳密処理をいくぶん犠牲にして、処理速度向上を最優先することもありますから、そのような視点を持つことも欠かせません。


ところで、JCO臨界事故の被ばく評価では、"急性放射線症"の考え方が適用され、被ばく線量をグレイ当量で表示してありましたが、中性子線の加重係数は、意外と小さく、1.7が採用されているようです(一般には、公開されていませんが、医学関係の学会論文誌の論文には、記載されているかもしれません)。低エネルギーの中性子線の寄与を重要視したためと推察されます。人間の体は、大部分水ですから、入射した中性子線が水素原子核と衝突・減速され、中性子エネルギースペクトルが、非常に、軟らかく(低エネルギー成分が多くなること)なってしまうためではないかと推定しています。いちばん多く被ばくした人は、16Gy・Eq程度ではなく、その倍くらい被ばくしていた可能性もあるのではないでしょうか。1.7の根拠が知りたいものです。



桜井淳

2008-12-06 21:59:47 stanford2008の投稿

桜井淳所長から京大原子炉実験所のT先生への手紙-チェルノブイリ4号機反応度事故の反応度過小評価-

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T先生



チェルノブイリ4号機反応度事故の印加反応度の大きさについては、これまで、何度か触れてきましたが(本欄バックナンバー参照)、いただいた文献を読む限り、すべての文献において過小評価、それも、著しく過小評価しており、炉物理研究者は、そのことの意味に気づいているのかどうか、不思議でなりません。


特に、T. Wakabayashi, et al. ; Analysis of the Chernobyl Reactor Accident(II)-An Examination of the Improvement Measures concerning the Accident of the Chernobyl Power Plant-, Nucl.Eng.Design, Vol.106, pp.163-178(1988)における反応度事故計算コードEUREKA-2による正味印加反応度値は、過小評価どころか、小規模な反応度事故さえ説明できないほど小さな約1ドル(ボイド反応度約4ドル-ドップラー反応度約3ドル=約1ドル)であり、著者の若林利男氏(当時、動燃)は、炉心の大規模な破壊の現実をどのように考えているのか理解できません(1ドル程度では炉心は壊れません)。



桜井淳

2008-12-05 17:26:39 stanford2008の投稿

桜井淳所長から京大原子炉実験所のH先生への手紙-『科学・社会・人間』No.106の感想-

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H先生



いただいた『科学・社会・人間』(No.107, pp.33-48(2008))のエッセー(吉岡斉「核災害による放射線影響の評価について」)を熟読・吟味してみました。これは、同人誌のエッセーですから、学会誌論文のような査読付論文ではないため、厳しいことを言うのは、酷です。学会誌論文には引用できません。そのため、ここで、第三者として率直な感想を申し上げておきましょう。


人によって読み方は、異なるものと思いますが、私は、以下の八箇所での吉岡先生の批判に違和感を持ちました。項目の下に簡潔にコメントを記しておきました。


【六ヶ所村再処理工場の想定事故の根拠、pp.34-35】

原子力発電所や再処理工場の使用済み燃料貯蔵プールの安全管理には、絶対的な信頼性が要求されており、もし、貯蔵プールからの大量冷却水漏洩や冷却系冷却能力低下・故障が生じれば、崩壊熱のために、使用済み燃料は、溶融します。そうすれば、大量の放射性物質が施設内外に放出されることになります。よって、安全評価や災害評価においては、考慮すべき代表的な事故です。設置許可申請書において、記載していないのは、不必要だからではなく、現実的に、非常に困る想定になるためです。批判の対象になっている原子力資料情報室の上澤千尋先生の想定事故(事故原因は、特定せず、燃焼度55000MWD/tで冷却期間1年間の貯蔵燃料3000tの1%の30tが溶融し、各組成核種が放出されると想定、「原子力資料情報室資料」No.381, p.6より)は、災害評価の考え方として、不自然ではありません。ですから吉岡先生の批判は的外れです。


【静的な施設の事故発生確率の解釈、p.40】

確率論的安全評価研究者の間では、「停止中の原子炉は安全か」という問いかけがありますが、この場合の原子炉とは、軽水炉を想定しており、たとえば、原研では、過去にそのような研究を実施しており、論文が発表されていますが、結論は、運転中のものと大差ないというもので、決して、静的な施設が安全でも、事故発生確率が低いわけでもありません。よって、山名元『間違いだらけの原子力・再処理問題』(ワック株、2008, p.99等)を引用しても、論証にはなっていません。ですから吉岡先生の批判は的外れです。


【プルサーマル炉心での想定事故におけるプルトニウムの環境放出の解釈、p.40】

吉岡先生は、p.40における大橋弘忠先生(東大)の反論が正しいとして、原子力資料情報室の作成した検討結果を批判していますが、何が正しくて、何が間違っているのか、いまのところ、判断基準がありません。ですから吉岡先生の批判は的外れです。


【チェルノブイリ4号機事故におけるプルトニウムの環境放出の解釈、p.41】

たとえ、「プルトニウムによる放射能汚染密度は、チェルノブイリ近傍(10-40km)ではセシウムの2桁ほど下回るにとどまるが、遠方(200-250km)では、4桁も下回る」(p.41)なる第三者の論文の一部を引用しても、参考資料にはなるものの、事故時の諸条件によって、大きな差が生じることが推定され、チェルノブイリの事例だけでは、論証不十分です。ですから吉岡先生の批判は的外れです。


【自身のディフェンス能力、pp.43】

吉岡先生は、「筆者は原子力工学の専門家ではないこともあり、核施設の苛酷事故リスクについて緻密な議論を展開する能力を持たない。言い方を換えれば、政府審議会の場において、苛酷事故リスクを主たる論拠として核施設の廃止を主張し、なおかつ、その主張をディフェンスする能力を持たない」(p.43)と自己弁護していますが、ならば、批判する能力は、まったくありませんので、お止めなさい。ですから吉岡先生の批判は的外れです。


【瀬尾コードにおける急性放射線症の取り扱い方法、pp.35-37】及び【瀬尾コードの利用価値、p.44】

瀬尾コードにおける急性放射線症の取り扱い方法は、吉岡先生がかんぐっているような故・瀬尾氏による理解力の欠如に拠るものではなく、WASH-1400(1975)においても同様の取り扱い方法になっており、吉岡先生がこだわっている原爆での急性放射線症の取り扱い方法と異なり、原発災害評価では、被ばく線量に寄与する放射線は、放射線線量から被ばく線量の算出に大きく影響する加重係数の大きな中性子線やアルファ線ではなく、加重係数1のガンマ線やベータ線であって(想定条件によってはアルファ線の影響も多少考慮しなければなりません)、利用に当たって、工学的には、有意な差は生じず、支障がありません。ですから吉岡先生の批判は的外れです。


【瀬尾コードによる原発災害評価の信頼性、p.44】

上記項目での根拠からして、信頼性は、損なわれていません。ですから吉岡先生の批判は的外れです。


全体に共通していることは、吉岡先生は、根拠のない原子力界の建前論を尊重し、引用していることです。行政側と対峙しないで、故人となってしまった高木仁三郎氏や瀬尾健氏を批判の対象にしているだけでなく(生存している時に批判せず、反論できない故人になってからの批判は、好ましいやり方ではありません)、原子力資料情報室の上澤千尋先生まで俎上に乗せており(論点はあまり本質的でないいちゃもん)、目的が何なのか、理解に苦しみます。特に、瀬尾コードに対する議論の仕方は、石川夫氏(元原研)や「エネルギー問題に発言する会」(原子炉メーカー等の退職者により構成されている組織)のような原子力界の右派と同じです。私が吉岡先生の議論の仕方に許容しがたい違和感を持ち始めたのは『原子力の社会史-その日本的展開-』(朝日選書、1999)からでした。今回はそれよりもはるかに質が悪くなっています。


私は吉岡先生の以下の点について疑念を持っています。いつか学術的・体系的に整理しておかなければなりません。


(1)査読付原著論文が少ない(特に、ファーストオーサーの英文原著論文がない)(学位論文が書けない)

(2)査読付原著論文における論証の不十分さ(文献引用が不適切)

(3)著書における物理的・工学的内容の記載の意識的ごまかし(物理学者や工学者ならば、もっと、ポイントを具体的に記載するはず)

(4)著書に解釈ミスが目立つ(たとえば、『原子力の社会史-その日本的展開-』等)

(5)右往左往する思想(著著を刊行順に読むとそのことがよく分かる)(現在、自身で、"異論派御用学者"と名乗っているようです)


なお、(2)(3)(4)については、本欄バックナンバー参照。



取り急ぎご報告まで



桜井淳

2008-12-05 13:08:03 stanford2008の投稿

世界大学ランキングにおける東大の客観的位置付け-現実的には50-100位と意外と低い-

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"水戸"スタッフは、桜井淳所長の関心事を尊重し、世界大学ランキングやそれに関連する情報・文献を継続的に収集しておりますが、世の中に、絶対的評価の基準などなく、何を優先評価項目にするかにより、ランキングは、大幅に入れ替わりますが、最近の評価例では、


1位 プリンストン大(米)

パリ大(仏)

3位 ハーヴァード大(米)

4位 オックスフォード大(英)

ミシガン大(米)

6位 ケンブリッジ大(英)

イェール大(米)

8位 スタンフォード大(米)

ハイデルベルグ大(独)

101位 東大(日)


というのもあり(ミシガン大とスタンフォード大の評価がいくぶん高い)、これなどは、厳しい部類に入りますが、上位の評価には、客観性が維持されており、評価法の信頼性は、高いと考えられますので、これまで公表されている多くの文献を総合すれば、東大の世界ランキングは、日本で期待するほど高くなく、客観的には、50-100位くらいと位置付けられるものと推察されます(東大は世界的には二流です)。


2008-12-05 10:42:00 stanford2008の投稿

桜井淳所長から京大原子炉実験所のT先生への手紙-AZ-5スクラムボタンを押した理由は短ペリオド-

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T先生



チェルノブイリ4号機の反応度事故(本欄バックナンバー参照)直前にオペレータがAZ-5スクラムボタンを押した理由は、試験終了のためではなくて、ペリオドが短すぎたためと推察されます。この事故のメカニズムを考察する上で、いちばん参考になった文献は、Martinez-Val, et al. ; An Analysis of the Physical Causes of the Chernobyl Accident, Nucl. Technol., Vol.90, pp.371-388(June 1990)でした。この文献のp.373に、At 1h, 23min, 40s, the scram button was pressed because a very low neutron period was observed, but it was too late to stop the accident.とあり、a very low neutron period はa very short neutron period のことで、アラームの出る直前の15秒弱と推定されます。その文献のp.375のFig.3によれば、主循環ポンプ流量率は、徐々に下がり、反応度は、やや上昇傾向にあり、ペリオドは、短くなりつつあったと解釈できますので、自然の成り行きであったと考えられます。


それから、印加反応度についてですが、いただいたどの文献を読んでも、"ポジティブスクラム"と"ポジティブボイド"を考慮しても、合計数ドルと推定していますが(その文献では、ウラン238による高温時のドップラー効果による反応度吸収を3.5ドルと推定しているため、それまで考慮すると、6.5ドルくらい印加されたと推定しているのでしょうが、私は、そのように考えていません)、著しい過小評価であり、その程度では、実際の炉心破壊を説明できないでしょう。


取り急ぎご報告まで



桜井淳

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