「無床化は絶対に行わないこと」。県医療局の新経営計画案を受け、入院ベッドを廃止する無床診療所化の対象になった県立病院・地域診療センターがある地元6市町村の首長、議長らが3日、達増拓也知事らに提言書を渡し、計画案に強く反対した。
首長らは、突然の計画案公表に加え、04年2月に策定された「県立病院改革プラン」で県立病院が診療所化されてから、長くてまだ2年半しか過ぎていないと反発する。06年4月に紫波、花泉を病院から入院ベッド19床の地域診療センターに移行したのをはじめ、07年4月に大迫、伊保内を、今年4月に住田をそれぞれ診療所化したばかり。住田町の多田欣一町長は「4月の病床削減時、県は医療サービスは維持すると言った。約束をほごにされた思いだ」と憤る。
こうした批判を覚悟の上、県医療局は非公開で新経営計画案を検討。来年度からの実施を急ぐ背景には、県立病院の厳しい財政事情がある。
新経営計画案や医療局などによると、国の医療費抑制政策のあおりを受け、県立病院は02年度に医業収益が急減。18億円の赤字を計上した。それまで100億円以上確保していた内部留保残高は同年度、90億円台に転落。翌03年度には逆に累積欠損金が100億円を突破した。そこで県医療局が立案したのが改革プランだった。
施設規模の適正化や医療資源の集約化で、単年度収支の均衡を目指した改革プランだったが、黒字化できたのは05年度だけ。相次ぐ診療報酬や薬価基準のマイナス改定などで、06年度から再び赤字になり、07年度には内部留保残高が37億6900万円まで落ち込んだ。県医療局は「現状のままでは数年後には枯渇する」と話す。
県立中央病院の望月泉副院長は「そもそも地域診療センターは、民間では考えられないほどコストを要している」と指摘する。改革プランは5病院の無床診療所化を掲げたが、地元住民らは「地域から入院ベッドが失われる」と反対運動を展開。それぞれ19病床を残し地域診療センターに移行することで妥協し、結局は中途半端な経営形態だけが残った。県医療局の細川孝夫次長は「前回(改革プラン策定時)は、地元の(ベッドを)残してくれという声を踏まえただけ」と話す。
この結果、5センターだけで07年度は7億2200万円の赤字を計上した。最大の要因は人件費。紫波の場合、常勤医3人のほか、3交代で勤務する看護師が18人。19病床の紫波では入院患者数よりも多い状況だ。
各地域診療センターの一般会計からの繰り入れを含む医業収益に対して人件費の割合は、▽紫波116・1%▽大迫115・8%▽花泉132・7%▽九戸146・0%--(07年度、08年度から診療所化の住田は除く)。県医療局の根子忠美・経営改革監は「一般に自治体病院の場合、6割程度に抑えるのが望ましい」と高コスト体質を認める。
九戸村の岩部茂村長は「医師は不足しているのに看護師らスタッフはそろっている。患者が減る分、赤字になるのは見えていたはず。職員配置など柔軟に対応できなかったのか」と疑問を呈す。【山口圭一】=つづく
毎日新聞 2008年12月5日 地方版