東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし・健康 > 暮らし一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

『派遣切り』愛知の現場 失職目前蓄えなし 『生活保護も』悩む

2008年12月4日

 景気後退で、派遣社員や期間従業員など非正規雇用の労働者が契約解除されるケースが急増している。派遣社員には職を失うと住まいを失う結果になる人が多く、貧困問題に取り組む人たちは「大量の『派遣切り』でホームレスや生活保護受給者が急増するのでは」と懸念する。「派遣切りの嵐」が吹き荒れ始めた最前線の愛知県の現場を追った。 (白井康彦)

 愛知県内に住む三十歳前後の夫婦は「生活が苦しい。展望が開けない」と口をそろえる。夫は、派遣会社から大手自動車部品会社の工場に派遣されており、最近、派遣会社から「今の工場の仕事は十二月中旬まで」と通告された。妻は、生後三カ月の長女を抱えて働けない。

 求人誌を見て今年一月に愛知県に来た。住まいは派遣会社が借り上げた2DKの賃貸住宅。夫の手取りの月給は多い月で十七万円ぐらいで、そこから家賃と光熱費などの分が約六万円差し引かれる。妻は「蓄えはありません」と言う。

 給料が手に入るまであと十日ほどだが、夫婦の所持金は数千円。二人とも北海道出身で、帰郷する飛行機代が足らない。夫は「親元から食材が届いたばかり。これでしばらく助かる」と力なく話す。

 次の仕事について派遣会社からは何も言われていない。派遣先の会社の景気がよくなれば、今の工場の仕事を続けられそうだが、自動車業界の減産のニュースが続く中では期待薄だ。

 では派遣会社と縁を切ろうか。そうすると賃貸住宅から出ていかなければならない。住まいはどうなるのか、生活保護を受けることも考えなくてはならないのか、と夫婦は悩む。借金もあり、処理を法律家に依頼しようかとも考える。「こんなに急に景気が悪くなるとは夢にも思いませんでした」と振り返る。

 十一月二十四日にテレビで愛知県弁護士会が「派遣切り・雇い止めホットライン」を実施中なのを知り、夫が早速電話。今は弁護士などからアドバイスが得られる状況にはなった。

    ×  ×

 愛知県弁護士会のホットラインはその日だけの開設で計百四件の相談があった。この夫婦のような深刻な相談がほとんどだった。

 十一月二十八日には厚生労働省が「今年十月から来年三月までに非正規労働者が全国で三万人以上失業する」と発表。都道府県別では愛知が四千百四人で最も多い。岐阜が千九百八十六人で続き、三位は千六百八十人の栃木だった。

 二〇〇四年に製造業の現場への派遣が解禁され、製造業が盛んな東海地方で派遣社員が急増。その派遣社員が大量に失業しつつあるのが現状だ。

 二十九、三十日には「全国コミュニティ・ユニオン連合会」の呼びかけで各地のユニオンが「派遣切りホットライン」を実施。約四百八十件もの相談が寄せられた。「名古屋ふれあいユニオン」の酒井徹運営委員長は、ホームレスになっていた相談者の一人が一時保護所に入れるよう付き添った。

 その人は、大手派遣会社からトヨタ系の部品製造会社に派遣されていたが、派遣契約が解除され、十一月中旬に派遣会社の借り上げの寮を出ることを余儀なくされた。

 「企業が大量に派遣社員を工場に受け入れて簡単に派遣切りができる今の制度はおかしい」という声が愛知県の弁護士、労働団体幹部の間で渦巻く。「ホームレスが急増しないよう、政府や自治体、経済界は緊急対策を打ち出してほしい」という声も聞かれる。

 

この記事を印刷する