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クローズアップ2008:児童ポルノ根絶・世界会議 閲覧も漫画も犯罪 日本対応遅れ

 ◇単純所持合法、日本の対応遅れ

 ブラジル・リオデジャネイロで開かれた「第3回子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議」(11月25~28日)では、児童ポルノ画像を入手するだけでなく、それを見ることや過激な漫画などの表現物も規制対象とする厳しい行動計画が策定された。日本では、自分が見るためだけに持つ「単純所持」や表現物は規制対象外で、その対応の遅れが改めて目立つ会議になった。

 「児童ポルノは子どもの権利侵害の中でも非常に深刻。インターネットの普及で脅威は国を超えて拡大している」。11月25日、日本も含む125カ国約3000人が参加したリオ会議の冒頭で、ユニセフ(国連児童基金)のアン・ベネマン事務局長は各国が連携して対策を進めるよう訴えた。

 会場では、ブラジルのルラ大統領が単純所持などを処罰する自国の法律に署名し、「このような犯罪を放置することは人類の恥だ」と厳しい姿勢をアピールした。

 会議では、携帯電話やファイル交換ソフトなどの通信技術が児童ポルノの製造や流通に悪用されている現状を問題視。<加害=先進国、被害=途上国>といった構図が崩れ、被害児童が世界全体に広がっていることが報告された。「人身売買に加え、児童ポルノの問題が出始めた」(ネパール)、「ネットカフェが増え、子どもが有害サイトにアクセスしやすくなった」(ケニア)など危機感を持つ声が聞かれた。

 こうした現状を踏まえ、会議は児童ポルノを絶対許さないとする「容認ゼロ方針」を徹底。新たな行動計画では、画像の製造や提供、所持、購入にとどまらず、見ること自体も犯罪とみなすことを決めた。また、漫画やアニメなど「仮想の画像や性的搾取の表現」も児童ポルノに含まれると規定した。行動計画に法的拘束力はないが、参加国は自発的な取り組みを求められる。

 日本は第1回会議で買春ツアーや児童ポルノ発信の多さから名指しで批判され、99年に児童買春・児童ポルノ禁止法(児童買春禁止法)を制定。01年には横浜で第2回会議を開き対策を強化してきたが、今も単純所持は合法だ。表現の自由との兼ね合いから、日本では被害児童が実在しない表現物は規制の対象外としている。単純所持を規制していないのは主要8カ国(G8)で日本とロシアだけ。表現物も米、独、仏は既に規制している。

 ユニセフのニルス・カストベルグ中南米局長は「横浜会議から7年もたつのに非常に問題だ。見ること自体を含めた禁止について真剣に検討してほしい」と、日本に厳しい目を向ける。【鵜塚健、リオデジャネイロ庭田学】

 ◇捜査、世界各国が連携

 「日本から発信されている児童ポルノがある」。埼玉県警がファイル交換ソフト「eMule(イーミュール)」を使った児童ポルノ事件の捜査に着手したのは、リオ会議を4カ月後に控えた今年7月。捜査の端緒となった情報は、開催国ブラジルの捜査機関から国際刑事警察機構(ICPO)を通じ警察庁に寄せられた。この事件は75カ国が連携して捜査を進めている。

 イーミュール上の共有フォルダー(保管場所)には児童ポルノ動画が保存され、利用者が自由に入手できる状態になっていた。県警は11月、フォルダーに自分の所持する動画を保存していた男3人を児童買春禁止法違反容疑で逮捕した。

 この中のある動画には、世界各国から1日平均約200件ものアクセスがあったとされ、日本の児童の画像が海外に流出したことになる。回収は不能だ。【曽田拓】

 ◇国会混乱、協議されず

 与党は今年6月、性的好奇心を満たすための単純所持を処罰化する児童買春禁止法改正案を国会に提出した。民主党も「有償または反復した取得」に限定して単純所持を規制する改正案をまとめ、今の臨時国会で自民、民主が修正協議することで一致していた。ところが、麻生内閣発足以降、衆院解散含みで与野党の対決機運が高まり、民主党は法案提出を見合わせ、協議も開かれていない。

 国内が「単純所持」の処罰化で足踏みする間、リオ会議では児童ポルノを「見ること」も「表現物」も犯罪とすべきだと踏み込み、日本はさらに後れを取る形になった。与党側からは「世界は先に行ってしまうが、国会の状況を考えると仕方がない」とのあきらめが漏れる。【堀井恵里子】

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 ■ことば

 ◇子どもと青少年の性的搾取に反対する世界会議

 途上国での児童の人身売買や買春ツアーが問題化したことを背景に96年、ストックホルムで初めて開催された。政府や国際機関に加え、非政府組織(NGO)も同等の立場で参加する。参加団体によると、07年1年間で世界で14万件のサイトが子どもの性的虐待画像を載せ、毎年15%ずつ増加しているという。

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 ◇リオ行動計画の骨子

・性犯罪者の登録などによる再犯予防の徹底

・子どもの権利を扱う独立調査機関の設置

・仮想の画像や性的搾取の表現を含めた児童ポルノの製造、提供、所持、入手、アクセス、閲覧を犯罪とみなす

・プロバイダーや携帯電話会社に児童ポルノサイトの削除などを求め、法的措置を取る

・被害児童のケア、リハビリの特別プログラムを導入する

毎日新聞 2008年12月2日 東京朝刊

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