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インタビュー:県高度救命救急センター医師・秋冨慎司さん /岩手

 最大震度6強を記録し、発生から間もなく半年を迎える岩手・宮城内陸地震では、奥州市胆沢区でバスが転落、8人が重軽傷を負う事故が発生した一方で、死者は少なかった。その陰には機敏な医療活動をした災害医療派遣チーム(DMAT)など災害医療の活躍があった。だがまだ多くの問題や取り組むべき課題がある。災害に備え、システム構築に奔走する秋冨慎司医師に聞いた。【狩野智彦】

 ◇課題は「横のつながり」

 --災害時では、イギリスで開発され世界各地で普及する災害医療支援システム「ミムズ」が力を発揮すると聞きました

 ミムズは、あらゆる危険性を想定して治療や医療マネジメント、多数の負傷者の受け入れサポートなどに関する災害医療時の体系的アプローチのことです。最近知名度が上がった治療優先順位決定(トリアージ)もDMATが取り入れています。大規模災害の現場では「ありえないこと」が起きる。「防ぎ得る死」をどう救っていくかが重要です。

 --岩手・宮城内陸地震ではどう機能しましたか

 青森などからDMATが10チームほど出動し、奥州市のバス転落事故の負傷者治療のため、DMATの一員として県立胆沢病院に入りました。指揮命令系統を確保して治療でき、命を救えたと思います。

 --問題点は

 災害で守るのは自分、状況、生存、社会の四つです。胆沢のDMATなど事故現場に入ったチームは衛星電話がなく孤立し、2次災害を想定しない軽装など安全面が課題と分かりました。また7人の負傷者が一度に一つの病院に来るなど混乱が極まった。一つの命を救うということは大変で、どんな病院でも重症患者は5人で手いっぱい。救助ヘリの情報伝達などもうまくいかず、重症者が1時間近く待機してしまった事態も起きました。

 --今後の課題は

 災害医療で大切なのは、現場や統括本部間で、指揮命令統制、安全、情報伝達、評価、トリアージ、治療、搬送が円滑に徹底できるかどうか。県庁や警察、消防、自衛隊などの関係機関による「横のつながり」も大切です。もし確立すれば、一つの機関内の縦方向の情報伝達が絶たれても、他機関を経由して各方面へ伝達ができる。今までにない新しいシステムなので変えるのに時間はかかりますが、岩手は今、県を中心に全国でも最良な最先端災害医療を確立しつつあります。

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 ■人物略歴

 ◇あきとみ・しんじ

 山口県出身。兵庫医大卒業後、大阪の千里救命救急センター、東大病院などをへて08年4月から岩手医大付属病院・県高度救命救急センターに勤務。05年の兵庫・JR福知山線事故、07年の新潟・中越沖地震、今年の岩手北部地震などにDMATの一員として参加。災害時の関係機関の連絡体制整備などを進める県災害拠点病院連絡協議会で、DMATの運営要綱策定などに力を尽くす。盛岡市在住。33歳。

毎日新聞 2008年12月2日 地方版

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