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周産期医療:都立府中病院産婦人科部長・桑江千鶴子さんに聞く /東京

 ◇重症妊婦すべて受け入れ--「スーパー総合」都が導入へ

 「スーパー総合」は機能するのか--。都内で9~10月、脳出血の症状を訴えた妊婦を総合周産期母子医療センターが受け入れられない事態が相次いだ問題で、都周産期医療協議会は先月28日、重症妊婦の搬送をすべて受け入れる「スーパー総合周産期母子医療センター」(仮称)の導入を決めた。既存のセンター3~4カ所を「スーパー総合」にするというが、都立府中病院産婦人科部長の桑江千鶴子さんは「周産期医療に大きな影響を与えるのでは」と懸念する。現場の最前線に立つ桑江さんの話を聞いた。【須山勉】

 ◇現実追いつかず、人材不足拍車も

 --「スーパー総合」をどう見るか。

 「すべて受け入れる」というが、ベッドが満床だったり、手術中だったら現実的にどうするのか。受け入れられず、患者に悪い結果が出れば「すべて受け入れると言ったじゃないか!」と言われ、裁判にされる恐れもある。それにより貴重な人材が疲弊し、傷つき、辞めていけば、ただでさえ人手不足の周産期医療に重大な影響が出る。現場の人間から見ると、いい考えとはどうしても思えない。

 --発端は、総合周産期母子医療センターが妊婦の搬送を受け入れられない事態が相次いだからだが。

 似たようなケースは日常的に起きている。ハイリスクの妊婦を受け入れる施設は都内でも不足している。府中病院でも妊婦を他へ搬送しなければならなくなった時、医師が1人はりついて受け入れ先探しの電話をかけまくる。1日で見つからず、数日間かけ続けることも珍しくない。

 --脳内出血を起こした妊婦が亡くなったケースでは、産科でなくER(救急治療室)で対応すべきだったとの指摘もあったが。

 でも産科医の手が空いていない状況で妊婦が搬送された場合、救急だけで対応することはありえない。赤ちゃんがおなかにいる状況で脳の手術はできない。まず、産科医が帝王切開をして赤ちゃんを出さなければ先に進めない。今のERはあくまでも窓口に過ぎず、患者を受け入れたら結局各科に回しているのが現状だ。ERに運べばなんとかなるという議論はおかしい。

 ◇情報提供、迅速・詳細に

 --どうすればいいのか。

 すぐできる対策として提案したいのは「周産期医療情報システム」専従の人間を日中・夜間とも配置し、もっと細やかで正確な情報を提供することだ。

 現在は医師が情報の更新をしていることが多いが、忙しい当直時間帯は更新できない。情報は時々刻々変わるので、医師以外で情報を把握・入力する人を配置し、現在は医師同士でないと交換できないと思われている細やかな情報(妊娠週数、胎児情報、手術室の空き、脳外科など対応の可否など)を一覧できるようにすれば、受け入れ先探しをする医師もどのセンターに電話をかけるべきか分かる。まずここにお金をかけるのが現実的だと思う。

 --周産期母子医療センターの数も限られている。

 センターの「タガ」をもっと緩めるべきだ。例えば脳出血を起こした妊婦への対応は、脳外科のないセンターより産婦人科も脳外科もある普通の総合病院の方が有利だ。

 多摩地域は約400万人もの人口がいるのに、周産期センターは四つしかないうえ、うち二つは小児病院で脳外科などがない。センターの施設基準は満たしていなくても、同じような対応ができている病院は保険上優遇するなどし、積極的に周産期医療を担ってくれる医療機関を増やすべきだ。

 --そもそも産科医不足が背景にある。

 産科医をすぐに増やすことはできない。数が少なくて休みを十分取らせることができないなら、せめて給与面を改善してほしい。特に都立病院の医師は「タダ働き」が多い。緊急で病院に出ていく時の特殊勤務手当は、低額なうえに基本給の25%までで打ち切られている。あとはどんなに緊急出勤しても手当がつかず、民間病院と大きな格差がある。

 公務員としての制約も多いうえ、事務系管理職はすぐ異動し、いい病院づくりができていない。若い医師が行きたがる都立病院にしなければ、医師不足はさらに進むのではないか。

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 ■ことば

 ◇総合周産期母子医療センター

 リスクが高い妊婦を受け入れるための医療機関で、NICU(新生児集中治療管理室)やMFICU(妊婦の集中治療管理室)などが整備されている。都内では9カ所(105床)が指定されている。

 ◇周産期医療情報システム

 都内にある総合周産期母子医療センターの産科ベッドやNICUの空き具合を医療機関がパソコンの端末で一覧できるシステム。

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 ■人物略歴

 ◇桑江千鶴子(くわえ・ちずこ)さん

 信州大医学部卒。東京医科歯科大、都立荒川産院などを経て、82年から都立府中病院勤務。02年から同病院産婦人科部長。東京医科歯科大産婦人科臨床教授も務め、周産期医療のあり方や女性医師の継続就労について積極的に発言している。

〔都内版〕

毎日新聞 2008年12月2日 地方版

 
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