プロジェクト「日本」のカギ |
平 松 欧米型の経営理念やインターネットの広がりなどにより、効率性に重きが置かれる時代になりました。その一方で、日本人は、努力することの大切さを徐々に忘れかけているような気がします。
シドニー五輪の女子ソフトボール監督の宇津木妙子さんが言った「練習は裏切らない。必ず結果は出る」という言葉も、『プロジェクトX』から発信された貴重なメッセージだと思います。 |
今 井 社会人スポーツの中でも、女子ソフトは長い間日陰の存在でした。多くの会社で真っ先にリストラの対象になりました。宇津木さんには、自分たちが社会人スポーツを背負っているという使命感があるのです。シドニー五輪で銀メダルを取った後に宇津木さんは選手たちに、「浮かれるな、スターになるな」と言いました。「練習して負けないようにならないといけない。そのために努力を決して怠るな」と彼女は伝えたわけです。 |
平 松 奈良の薬師寺を復元した宮大工の西岡常一さんの話で驚いたのは、歳月の重みで屋根の反りが落ちることを計算して、千年後に設計通りになるように、屋根を支える部分を設計より余分に数センチ高く組んだという点です。千年後を見通す技術の力、名匠の器量とは、大変なものだと思いました。
ドイツではマイスターと呼ばれていますが、日本では今、技能を受け継ぐ人が少なくなっています。大分県では、「豊の匠塾」や「豊のマイスター」認定制度というものを作って、若手の技能士を育成していくことにしています。 |
今 井 それはいいことですね。西岡さんが面白いのは、彼はまれな教養人であったという点です。書、歌、草花の生育にもすごく詳しい方でした。普通なら建築関係の学校に進むところを、西岡さんのおじいさんが農学校に行かせたんです。そこで作物を育てる三年間を過ごしました。そこで、木、特に檜が生きること、死ぬことについて考え抜いたわけです。それが、彼のリーダー観にも結び付いていきました。そういう意味で自然と近いところにいた宮大工と言えるのではないでしょうか。 |
平 松 これからの『プロジェクトX』はどう発展していくのでしょうか。 |
今 井 教育をテーマにしたものをやりたいという気持ちがあります。未来につなげるという意味を含めて、教育関係をどれだけやれるかということが一つの勝負だと思っています。 |
平 松 青少年の健全育成は重要な課題ですから、ぜひ、実現してほしいですね。 |
今 井 もう一つは、地域に密着した話題です。全国の地域に時々出かけますが、商店街などを見るにつけ、地方都市の悲鳴が随分聞こえてきます。たとえ地味でもきちんとやっていこうと思い、最近は分量を増やしています。 |
平 松 東京一極集中の裏で、地方は疲弊して過疎で苦しんでいますから、このテーマもお願いしたいです |
今 井 今は、アメリカと日本のコンピューター産業のことを色々と調べています。そうしたら偶然、昭和三十年代半ばに平松知事が当時通産省で、コンピューターの国産化プロジェクトに関わり、ご活躍されていたということを知りました。 |
今井
自分や自分の親の人生を重ね合わせ、
「日本人というのは捨てたもんじゃないんだ」
という気持ちになるからではないかと思います。
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平松
『プロジェクトX』は我々に、
「こういう人々が日本にいた」ということを思い起こさせ、
勇気と希望を与えてくれます。
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平 松 あのころ、コンピューターの国産化に踏み出すか、それとも自由化によって輸入品に頼るか業界が迷っていた中で、私は日本の産業の将来を考え、技術者たちの国産機開発を必死で支えました。 |
村 上 あの時期に一歩譲っていたら、今の日本のコンピューター産業は成立していなかったでしょう。ものすごく熱い、骨のある官僚たちがいた時代ですね。 |
平 松 この話が「プロジェクトX」で番組になれば、プロジェクトで一緒に戦った部下たちも喜ぶと思います。番組のテーマ「思いは、かなう」の気持ちを抱いて、これからもお互いに頑張りましょう。 |