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家出少女

第五話:香織は俺が守る

家出少女香織(17歳)と健太郎(21歳)は、健太郎がガイドを勤める大阪のミナミの町観光旅行と称した二人の初デートは無事に終わり、そして二人は今、夜のクラブへと向かっているところでした。

「ね、ねえ・・。健ちゃん。さっき黒人の人が歩いてたよ?」

「ん?」

「ああ、そうだよ。ここはアメリカ村と言ってな?外人とかしょっちゅう歩いてるところなんだ。」

「だがな。香織?」

「ここはさっき香織が見てきた昼間のミナミと違って危険なところだから俺から離れるんじゃないぞ?」

「う、うん・・・。」

すると健太郎の左腕にしがみつく香織の手に力が入る。

「よし。香織。ついたぞ。」

「え?ここ?」

「ああそうさ。ここの階段を地下に降りて行ったところにクラブはある。」

「へ、へぇー・・。」

「何か、中から大っきな音楽が流れてきてるね?」

「おう。中はもっとうるさいから、こうやって・・」

「耳元で話さなきゃ何も聞こえないんだ。」

そう言って健太郎は香織の耳元でささやく。

「け、健ちゃん・・・。」

思わず香織は顔が真っ赤になってしまい。向こうの方を向いてしまう。

「ほら。香織ー。置いてっちまうぞー。」

「あ!待ってー!健ちゃーん!」

再び香織は健太郎の左腕にしがみつき二人はクラブへと入って行きました。

そして健太郎たちはクラブの受付へと向かいます。すると健太郎は受付の人に向かって気さくに話しかけました。

「よう!吾郎!元気してたかー。」

「あ!泉さん!お久しぶりっす!」

「今、席空いてるかー?」

「ええ。まだ、さっき始まったばっかっすから。」

「おう。そうか。」

そう言って健太郎は受付を済ませると、クラブのドアの方へとスタスタと歩いていく。

「さっきの人、健ちゃんの知り合いの人?」

「ん?ああ、あいつか?」

「あいつも昔、俺の店で働いていた後輩だよ。」

「ふーん。」

「それより、香織。このドアの向こうがクラブだ。びっくりするぞー?」

そう笑顔で香織に話しかけると健太郎はドアにゆっくり手をかける。初めてのクラブに香織には緊張が走った。

そして、健太郎はドアをゆっくりと開ける。

すると、中から大音量の音楽が流れてきた。

「な、何・・。これ・・・。」

「あー?どうしたー?」

大音量の音楽に香織の声はかき消されてしまう。

香織と腕組をする健太郎は、香織をリードするような形でカウンターの方へ歩いて行った。

「マスター。バドワイザーと、えーっと、カルアミルクひとつ。」

「おー。健太郎かー。お前がここに来るなんて珍しいなー。」

「お?その子、お前の彼女か?」

「ああ。まあな。」

そう言って健太郎は笑顔で返事を返す。

「け、健ちゃん・・。私、やっぱこういうところ・・。」

「ん?なんだよ。楽しいところじゃねーかよ。」

「お?香織。あそこに席が空いてるぞ?」

「ほら。こっちこっちー。」

「あ。健ちゃん。待ってー・・。」

健太郎は席に着くなり、バドワイザーのビンを口につけてビールを飲み始めた。

だが、香織は初めて来たクラブの迫力に圧倒され、ずっと下を向いたままだった。

「ん?どうした?香織。」

「け、健ちゃん・・だって・・・。」

「ほら。それ飲めよ。」

「え?」

「これってお酒なんじゃ・・。私、まだ未成年だよ?」

「んなもん。かまいやしねーよ。」

「ほら。グッと行ってみろ。」

「え?じゃ、じゃあ・・・。」

香織はドキドキしながらカルアミルクが入ったグラスを口に持って行く。だが、グラスを口に付けたところで香織の動きは止まった。

「ほら?どうした?グーっと行ってみろ。」

この時、健太郎は少し酒に酔っていた。

そんな健太郎の押しの言葉に観念したのか香織は目をつぶりながら、そのカルアミルクを一口飲んでみる。

すると健太郎は笑顔で、

「どうだ?」

と香織に話しかける。

「あ・・。これおいしい・・。」

「だろ?」

そう言って健太郎はニッコリする。

「ほら。香織、あそこのステージを見てみろよ。」

「あいつら楽しそうに踊ってるだろ?」

そう言って健太郎はバドワイザーのビンを口につけてビールをグビグビッと飲み始める。

「ほんとだー。」

「香織も踊ってくるか?」

「え?」

「いえいえいえ。私は。」

と言って香織は思いっきり両手を振ってNOのサインを出す。

「そうか?楽しいぞー?」

と、その時、派手な服装をした色黒の男が健太郎の席に寄ってきた。

「へーい!ノッテるかーい?」

「おー。拓郎じゃねーかよー!」

「うわ!泉さん!お久しぶりっす!」

「け、健ちゃん誰この人?」

香織は小声で健太郎にたずねる。

「ああ。こいつか?」

「こいつも昔、俺の店で働いてた後輩だよ。」

そう健太郎が答えると卓郎は香織に話しかけてきた。

「へーい!ノッテるかーい!」

「ど、ども・・。」

そう言って香織は照れながら返事を返す。

「おいおい。そいつはやめとけよ。」

「こいつは今日クラブデビューしたばかりの17歳なんだ。」

「じゅ、17歳って!泉さん、いつからこんな子を・・。」

「ほっとけよ。」

その時、健太郎は完全に酒に酔い頬はうっすらと赤くなっていた。

「それより。お前は今どうしてんだ?プロのダンサーにはなれたのか?」

「ま、まあ。一応・・。」

卓郎はまだ健太郎が17歳の女の子と付き合っていることが信じられないようだった。

そして卓郎はまた香織に話しかけてくる。

「お嬢ちゃん。次は俺のステージなんだ。見ててくれよ。」

「え?」

そう言い残すと、卓郎はステージの中央へと向かっていく。

「健ちゃん。どういうこと?」

「ああ。あいつ、ああ見えて結構ダンスうまいんだ。よく見とけよ。面白いから。」

「う、うん・・・。」

ステージの中央まで進んだ卓郎はその場で小刻みにステップを踏み、両腕を広げながら孤を描くように踊り出す。すると卓郎の周りは卓郎一人が踊れるだけのスペースが広がっていった。すると周囲の客は卓郎の存在に気づき始める。

「おい。あいつ卓郎じゃねーかよ。」

「なんでこんなところに・・。」

店内は次第にざわめき始める。そして次の音楽が流れ出した途端に卓郎はその場でブレイクダンスを踊り出した。

「す、すごーい!健ちゃん!」

「だろ?」

初めて見るブレイクダンスに香織は興奮していた。

「あ。健ちゃん。どこいくの?」

「ん?ちょっと小便。」

「え?健ちゃんは見てかないの?」

「ああ。俺はいい。」

「昔、散々見せられたからな。」

そう言って健太郎はトイレへと姿を消しました。

「あ。泉さん!」

すると、そこに受付の吾郎も来ていた。

「おう。お前も小便か?」

「ええ。それよりあの子誰なんすか?」

「え?あいつか?」

「あいつは俺の新しい女だよ。」

「あ、新しい女って・・。」

「彼女、まだ子供じゃないっすか?」

「泉さん。いつからあんな・・。」

「まあな。色々あってな。」

健太郎は手を洗いながらそう答えトイレを後にした。

「おーい。香織ー。まだやってるかー。」

そう言いながら健太郎は席へと戻って行った。だが、そこに香織の姿はない。

「おーい。香織ー?どこだよー?」

健太郎は店内の見渡すがどこにも香織の姿は見当たらなかった。

そして次の瞬間、健太郎は一気に酔いが冷めてしまう。

「あ、あいつ!まさか!」

そう言って健太郎は走って店の外へと駆け出していった。

外に出た健太郎は必死で辺りを見渡す。

すると一人の女の子が6人組みの男に囲まれて路地裏の方へと連れて行かれようとしているのを目撃した。よく見るとそれは香織だった。

「香織ー!!」

そう言って健太郎は走って行く。

「離してー!離してー!」

「いいじゃんかよー。俺たちと楽しいことして遊ぼうぜ?」

「やだよー!やめてよー!やめてってば!」

そこへ健太郎が現れた。

「おい!お前ら何してんだ!」

「あ!健ちゃん!助けてー!!」

「な、なんだよ。こいつお前の連れだったかよ。」

「ほら。返してやるよ。」

そう言って香織の両腕をつかむ仲間の一人が力を緩めた。

だが暴れまわっていた香織は、急に力を緩められ勢い余って道の端に飛び込んでしまう。そして打ち所が悪かったのか。香織はその場にグッタリと気を失ってしまった。

「お、お嬢ちゃん。だ、大丈夫かい?」

「香織ー!!」

健太郎は走って香織の側に駆け寄り、香織の両肩を持って揺らしながら香織の名前を何度も叫ぶ。

「香織!香織!大丈夫か!香織ー!」

だが、香織は完全に気を失ってしまったのかグッタリして返事は返ってこない。

「わ、悪い。俺たちそういうつもりはなかったんだ。」

「じゃ、じゃあな。」

そう言って6人組みの男たちはその場から立ち去ろうとする。だが。

「おい!!お前ら待て!!」

そう言って健太郎は男たちの前に立ちふさがる。

「わ、悪いって言ってんだろ?」

「俺たちまだ何もしてねーって。」

健太郎は6人組の男たちに向かって狼のような鋭い目つきで睨んでいた。

「な、なんだよ。」

次の瞬間、健太郎は男たちに殴りかかっていった!

「うおおおおおお!!」

「お、おま・・!」

仲間の一人は健太郎のパンチで吹っ飛ぶ。そして、健太郎は他の仲間たちにも飛び掛っていった。

「こ、こいつ。俺たちとやろうってのかよ!」

ドガッ!

また、仲間の一人が吹っ飛んだ。

「て、てめーー!いい加減にしろよ!」

「俺たち6人相手に適うと思ってんのかよ!!」

そうして男たちもキレだし、そこでバトルが始まった!

男たちは健太郎に殴り返し、健太郎も男たちに殴りかかる。だが、仲間の一人に健太郎は体を取り押さえられ、そして健太郎は男6人から袋叩きにされてしまった。

「け!俺たちに適うとでも思ってたのかよ!」

健太郎はうつぶせになって倒れていた。

「く、くっそー・・・・。」

すると仲間の一人は健太郎の財布に手をかける。

「へー!こいつ結構持ってんじゃん!」

「ま、待て・・。お前ら・・。」

そこへ180cm以上はあるであろう長身の男が通りかかる。その長身の男は道に倒れている健太郎に気が付いた。

「おー。シムラー。お前こんなところで何やってんだよ?」

そこに現れた男は昼間のミナミで偶然会った竜太だった。

竜太は両手をズボンのポケットに入れ仁王立ちで立っている。

「で、でけ!こ、こいつ、そいつの仲間かよ。」

竜太はゆっくりと道端に倒れこむ香織に視線をやる。そして男たちに目を向けた。

「ははーん。そういうことか。」

「女取り合ってバトルやらかしてるってわけか。」

「シムラーらしいぜ。」

「なんだと〜?お前も俺たちとやんのかよ?ああん!」

そう言って仲間の一人が竜太に言い寄ってくる。

すると竜太は両手をズボンに入れたまま右足で男の顔面を思いっきり蹴飛ばした!

男はゴミバケツの方へと吹っ飛び、そしてその男はその一撃で気を失ってしまう。

「け!手ごたえのねー奴らだぜ!」

「健太郎。お前こんな奴ら相手に手こずってたのかよ?」

すると竜太はファイティングポーズを取った。

「ほら。かかってこいよ。」

「こ、こいつ結構やるぞ・・。」

一撃で仲間の一人を倒してしまった竜太に男たちはビクついている。

「ま・待て!竜太!!」

「健太郎・・。」

「お、お前は・・手を出すな!」

「こ・・こいつらは・・・俺が倒す・・」

「無理すんなよ。健太郎。お前はそこで寝てろって。」

「こいつらは俺一人で十分だ。」

「お・・俺が・・。香織を・・守ると・・決めたんだ・・。」

すると健太郎は口に付いた血を右手の甲でぬぐいながらゆっくりと立ち上がってきた。

「けっ。そうかよ。」

「わかった。じゃあ、俺は何もやらねー。俺は黙って見てるだけだ。」

そう言って竜太は再び両手をズボンのポケットに納めてしまう。

「こーいつ。まだ俺たちとやろうっての?」

「もう虫の息じゃねーかよ。」

だが、その時、健太郎の顔は鬼のような形相になっていた。

「お、おい。こいつさっきと雰囲気変わってないか?」

「けっ。あいつがああなっちまったら、あいつらおしまいだな。」

「最初っからそうしとけっての。」

「シムラー、なーにこんな奴ら相手に情けかけてんだよー。」

「一気にたたんじまえよー。」

「なんだとー!おらぁー!」

仲間の一人が竜太につっかかっていく。

だが次の瞬間、健太郎のこぶしがその男の顔面に入っていった!

するとその一撃でその男はその場に崩れるようにして倒れ気を失う。

「こ、こいつ。なんなんだよ!」

すると次の瞬間にはもう他の仲間を殴る体制に入っており、健太郎のこぶしは今まさに顔面へと入って行こうとしているところだった。

そしてその仲間も一撃でその場に崩れ落ちる。

「こ、こいつ、なんかヤベーよ!」

「わ、悪かった。財布なら返すから・・」

そう言って健太郎の足元に財布を放り投げ、男たちはその場から逃げ出す。

だが、健太郎はその仲間たちのリーダー格の男の腕をつかみ地面に振り投げ、そのまま馬乗りになった。

「お、お前らー!ちょー!待てよー!」

そんな彼の言葉もむなしく仲間たちは夜のミナミへと逃げ去ってしまった。

「ま、待て!俺が悪かったから!」

「もう何もしねぇーって!」

だが、健太郎の耳に彼の言葉など何も聞こえていないらしく、次の瞬間には健太郎はこぶしを彼の顔面へ振り下ろしていた。なおも健太郎は何度も何度も彼を殴り続ける。次第に健太郎のこぶしは血が滴り落ちるぐらいに赤く染まっていったが、それでも健太郎は殴るのを止めようとはしない。

そして次のパンチをお見舞いしようと腕を振り上げたその時、竜太がその腕を止めた。

「もう。そいつ完全に伸びちまってるよ。」

「それ以上やったら、そいつ死んじまうって。殺す気かよ。」

その言葉で健太郎は我に返る。

「竜太・・すまん・・。」

竜太は地面に転がっている帽子を拾い上げ砂を払いおろしてからそれを香織の頭にかぶせた。そして竜太は香織を背中に背負う。

「竜太、何を・・。」

「なーんだよ。お前んち、この近くだろ?」

「久しぶりに会ったんだから茶ぐらい飲ませろって。」

「ほら。俺の手につかまれ。」

そう言って竜太は健太郎に左手を差し出す。

「竜太、お前・・。」

「ほら!いいからつかまれ。」

「・・・・・。」

しばらく考えてから健太郎は竜太の手をつかむ。

すると次の瞬間、竜太は片手で軽々と健太郎を引き上げた。

「歩けるか。」

「ああ。何とかな。」

そうして竜太は香織を背中に背負い、3人は健太郎の部屋へと帰っていくのでした。

つづく