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家出少女

第四話:デート

大阪のミナミでスカウトをしていた健太郎は、ひょんなことから17歳の家出少女、香織と運命的な出会いを果たしてしまう。そのまま二人は健太郎の部屋で一夜を過ごすことになるのだが、香織の複雑な事情を知った健太郎は、香織が立派に独り立ちするまで面倒を見てやることを心に誓い、そして夜が明けるのでした。

トントントントン・・・。

「・・・ん・・んん。」

キッチンから聞こえてくる包丁の音で健太郎は目を覚まします。

「ん・・ん・・・香織・・・?」

寝癖頭のまま、ムクリと起き上がった健太郎はベットを見渡すが、そこに香織の姿はなかった。だが、キッチンの方からは何やら味噌汁のおいしそうな香りがする。

「あ。健ちゃん。おはよー。」

「ん・・。ふあぁ・・おはよー。」

「何してんだ〜?」

「見ればわかるでしょ?朝ごはん作ってるの。」

「へー。ちゃんと料理とかできるんだ。」

「当ったり前でしょ?私、これでも料理上手なんだから。」

「・・・これ、どうした?」

「え?冷蔵庫にハムとネギと豆腐が入ってたから。それ使わせてもらっちゃった。」

「たまごは切れてたから、近くのコンビニで買って来たの。」

「ついでにヨーグルトも買ってきちゃった。」

「香織、もうあんまり金持ってないんだろ?こういう余計なことするなよ。」

「・・・・。」

そう健太郎が言うと香織は突然静まり返ってしまい、そして香織は両手で顔をふさぎ「エッグエッグ・・」と泣き出してしまう。

「ひどいよ。健ちゃん・・。」

「私はただ・・昨日の夕飯のお返しがしたかっただけなのに・・・」

「エーンエーン!」

「お、おい・・。そんな泣くことかよ?」

「俺、そんなにひどいこと言ったか?」

「エーンエーン・・。」

「わ、悪かったよ。謝るよー。」

「だから、泣き止んでくれって・・。」

「エーンエーン・・。」

「よ、弱ったなー・・。」

健太郎は香織の肩に優しく手を置き香織の顔を覗こうとする。すると、手の隙間から見える香織はニヤリと笑っていた。

「あーー!!こいつ!嘘泣きしたなー!!」

すると、香織は両手を開いてニッコリ微笑む。

「エヘヘー!」

「エヘヘーじゃないよ。ったく!」

「それより、もう大丈夫なのか?」

「へ?」

「うん!私ならもう大丈夫!昨日、思いっきり泣いたらスッキリしちゃった!」

「立ち直りが早いのは私の特権なの。」

「さ。そんなことより。朝ごはんにしましょうよ。」

と言って香織は、炊飯器からお茶碗にご飯をよそいテーブルに朝ごはんの準備を始める。

「へー。ご飯もちゃんと炊けるんだなー・・。」

「当ったり前でしょ?私、こう見えて料理は得意なの。」

「そっかそっか。」

そう答えた健太郎は、次の瞬間、香織の指にたくさん貼られているバンソウコに気がつく。だが、健太郎はそれは見なかったことにした。

「いっただきまーす!」と香織は元気よく言い、健太郎も彼女が作った朝食をいただいた。

それから二人は朝食を済ませ、香織は炊事場で食器を洗いながら健太郎にこうたずねてきた。

「ねえ?健ちゃん。」

「んー。」

「今日はお仕事なの?」

「いいや。今日は店が定休日だから休みだよ。」

「そっかー。じゃあ、今日はゆっくりできるね?」

「うんー。」

健太郎は食後の一服をしながらそう答える。

「今日はどうするの?」

食器を洗い終わった香織は、水道の蛇口をキュッと閉めて手を拭いてから健太郎の側に寄った。

「んー。何して過ごそっか?香織は何がしたい?」

「そんなこと急に言われたって・・。」

「んーそうだなー。」

健太郎は腕組しながら考える。

「よし!じゃーさー。」

「今日は俺が香織をミナミの観光旅行に連れてってやるってのはどうだ?」

「え?」

「香織、まだミナミの町、あんまり詳しくないんだろ?」

「これから香織は、この町で俺と暮らしていくんだから。少しはミナミの町にも慣れておかなきゃな?」

「えーうれしーい!でも・・・。」

「でも、どうした?」

「私、さっき自分の服洗濯しちゃって、まだ乾いてないの・・。」

「んだよ。そのままでかけりゃいいじゃん。」

「え?だって、私、スエット姿だよ?」

「ん?その方が動きやすいじゃん。」

「・・大阪の人って、スエット姿で外歩くの平気って本当だったんだ・・。」

「ん?どうした?」

「うんん。何でもない。こっちの話。」

「でも、そのままじゃ寒いだろうから俺の皮ジャン貸してやるよ。こっち来てみな?」

そう言って健太郎は香織をクローゼットまで連れて行き、自分のお気に入りの皮ジャンをスエットの上から香織に着せた。

「うわー。なんかゴワゴワしててカッコイイねー。」

香織は全身が映る鏡の前で、何度も自分の姿を確認する。

「ほら。これもかぶりな。」

そう言って健太郎は自分のお気に入りの帽子を香織に手渡した。香織はその帽子をかぶり、また鏡で自分の姿を確認している。

「へー。結構似合ってるじゃん。」

「そう?似合う?」

香織は照れくさそうに健太郎に聞き返す。

「うんうん。バッチリだよ。」

そう健太郎が答えると、香織はニコッと満面の笑みを健太郎に見せた。

「よし!じゃあ行くか!」

「うん!」

そうして健太郎がガイドを務めるミナミの町観光旅行は始まった。

「ほら?」

「ん?」

香織はキョトンとした顔をして健太郎をみつめる。

「なんだよ?俺と腕組みしたかったんじゃなかったのか?」

そう健太郎が言った次の瞬間、香織は健太郎の左腕を思いっきり抱きしめ、健太郎の左肩に頬ずりまでしてきた。

「ばか。それはしがみつき過ぎだ。」

「それじゃ、歩きにくいって。」

だが、香織は健太郎の左腕にしがみついたまま、離れようとしない。

「よーし!そっちがその気なら!」

そう健太郎が言うと、そのまま香織をお姫様抱っこする。

「わわわわ・・。け、健ちゃん。何するのよ。恥ずかしいよー・・。」

「下ろしてー下ろしてー!」

周囲の通行人はそんな二人に視線が集まり香織は顔が真っ赤になった。

そして健太郎は香織を下ろしてから、

「よし!あの角まで競争だ!」

と、言って先に走り出してしまった。

「あー!待ってー!健ちゃーん!!」

そう言って香織も健太郎の後に続けて走り出す。

そうして健太郎と香織の初デートは始まった!

二人はゲーセンに行って射撃ゲームをしたり、レースゲームをしてみたり、UFOキャッチャーにプリクラ。ゲーセン遊びが終わったと思ったら、次はCDショップに行ってCDの視聴をする。それからマクドナルドに行ってビッグマックを食べたり、ハーゲンダッツでアイスクリームを食べたり。二人は思いつく限りの遊びを楽しむ。

「はあはあ・・。ミナミって楽しい町だね?」

「だろ?」

「まるで、遊園地みたーい!」

「気にいったか?」

「うん!」

「あ!健ちゃん。あれ何?」

香織はドン・キホーテの観覧車を指さして健太郎にそうたずねてきた。

「ああ。あれはドン・キホーテだよ。」

「この前、出来たばかりなんだ。」

「へー。街中に観覧車があるってすごいね?」

「なんか、本物の遊園地みたい!」

「乗ってみたいか?」

「うん!」

「あー。その前に服買いに行かないか?」

「え?」

「香織、あの服しか持ってないんだろ?俺が何か服買ってやるよ。」

「え!ほんと!?うれしーい!」

「俺に任せとけって!バッチリ、コーディネートしてやるから。」

「ありがとう!」

そう言って二人は服屋へと向かう。だがそんな時、どこからともなく健太郎にとっては聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おーい!シムラー!」

「シムラー!うしろーうしろー!」

「ん?健ちゃんどうしたの?」

「あ、あの下品な声は・・。」

すると、健太郎の前に180cm以上はあるであろう長身のごっつい男が現れた!

「おいー!シムラー。シカトすんなよー。」

「竜太!何度言ったらわかるんだ!俺は志村じゃねーっての!」

「俺には泉健太郎って名が・・・」

そんな健太郎の話などお構いなしにその長身の男は勝手に話を始める。

「おお?誰だぁ〜?このかわい子ちゃんは?」

「お前の新しい彼女か?」

「そんなんじゃない!」

「へぇー。お前の趣味もずいぶん変わったもんだなぁー。」

「ねぇー?お嬢ちゃん?こんなダサイ奴ほっといて、俺と楽しいことしない?」

男はそう言って香織に話しかけてきた。だが、香織は健太郎の後ろに隠れてしまう。

「竜太!いい加減にしろ!!」

「こいつは俺が命をかけて守ると決めた女なんだ!!」

健太郎はその長身の男に向かって狼のような鋭い目つきで睨んだ!

「じょ、じょーだんだよ。そーんなムキになんなーってー」

「それよりシムラー。これ見てみろよ!」

その長身の男は健太郎にスーツの胸のバッチを自慢げに見せてきた。

「え?お、お前・・それって・・・。」

「あーはっはっはー!俺、とうとう本物の極道になっちまったんだよー!」

「おー!そーかぁー!お前、とうとう本物の極道になれたのかぁー!」

「おう!そうよ!」

「俺は闇の帝王に向かってまっしぐらなのさ!がーっはっはー!」

「ところでお前はよー。ミナミの帝王ってやらにはなれたのか?」

「お、俺のはまだこれからなるところなんだよ!」

「おー。そっかそっかー。まー適当にがんばれや。じゃあな!」

「お前に言われなくても俺はそうするよ!」

「ああ。そうそう。俺はこの辺一帯をしめてるから、何かあったら言ってこいよ。」

「誰がお前の力なんか借りるかよ!」

「おう!じゃーなー!」

そう言ってその長身の男は去っていった。

「びっくりした・・。あの人、何だったの?」

「ああ。あいつか?」

「あいつは、俺が今勤めている店に同期で入った奴だよ。」

「あいつとはいつもよく店の裏で喧嘩してな。」

「だが、あいつとは妙に気があっちまって。」

「で、それから腐れ縁の仲ってやつだよ。」

「だが、あいつは半年ぐらいしてから、突然、「俺は闇の帝王になる!」とか何とか言って店を辞めてっちまったよ。」

「へぇー。健ちゃんって色んな友達がいるんだね?」

「まあな?」

「だが、竜太にだけは関わらない方がいいぞ?」

「うんうん!私、あの人、ちょっと怖いもん。」

「よし!そんなことよりも洋服屋に行こうぜ?」

「で、その後に、あの観覧車に乗ろう。」

「うん!」

そうして健太郎は香織に服を買い与え、日はすっかり沈ずみネオンが光る夜のミナミをバックに、二人はドン・キホーテの観覧車に乗っていた。

「うわー・・。ミナミって夜も綺麗なんだね?」

「ああ。そうだろ?」

「でも、香織にはまだこの夜のミナミは早いかな?」

「えー。どうして?」

「どうしてもー。」

「ぶー!健ちゃんまたそうやって私のこと子供扱いするぅー。」

「ま。いっか。」

「今日は健ちゃんが私に服を買ってくれたし。」

そういって香織はニッコリと微笑みながら、健太郎に買ってもらった服の包みを抱きしめた。そして、香織は健太郎に寄り添うような形でもたれ掛け、頭を健太郎の左肩につけた・・。

「ねえ?健ちゃん?」

「ん〜?なんだ?」

「うんん・・。やっぱ、なんでもない。」

「なんだよ。気になるじゃんかよ。」

「・・・・・。」

「ねえ?健ちゃん?」

「ん?」

「・・・。」

「・・私たちって恋人同士みたいだね?」

「う、うん・・。まあな?」

「事情を知らない人から見れば、そう見えるだろうな。」

「ねえ?健ちゃん?」

「ん?」

「キスしよっか?」

「え?」

「香織・・。」

そうして健太郎は香織の方を見ると、香織は目を閉じてキスの体制をとっている。

「お、お前なぁー・・俺たちはそういう・・。」

だが、香織はキスの体制を崩そうとしない。

「わ、わかった・・。ちょ、ちょっとだけだぞ?」

そうして健太郎はゆっくりと香織の顔に自分の顔を近づけていった・・。香織の胸の鼓動は一気に高まる。健太郎もドキドキしていた。

だが、健太郎は香織の唇ではなく香織のおでこにキスをした。

その瞬間、香織は目を開いてしまったが、すぐに優しい目となり、香織の瞳にはうっすらと涙が浮かびあがり香織は健太郎を優しく抱きしめる。すると、健太郎も香織の肩に腕を回し香織を優しく抱きしめた・・。

そうして観覧車は一周し、再び二人は地上へと戻る。

「どうだった?今日の俺のミナミの町案内観光旅行は?」

「うん!すっごく楽しかった!」

「ねえねえ?健ちゃん。これからどうするの?」

「もう、すぐにおうちに帰っちゃうの?」

「んー。そーだなー。」

「あ。そうだ!」

「え?なになに?」

「香織は夜遊びとかしたことあるか?」

「え?夜遊び?」

「うんん。私、そういうのあんまりしないよ?」

「じゃあさ!これからクラブに行ってみないか?」

「え?クラブ?何それ?」

「あー。そっかー。香織はクラブに行ったことないんだな?」

「うん。」

「じゃあ、ちょうどいいじゃん。」

「これから一緒にクラブに行こうぜ?」

「え?え?クラブって何なの?」

「ふふーん。それは着いてからのお楽しみってことで。」

「あー。またそれー?」

「じゃあさ。いったん俺んちに戻って、さっき買った服に着替えてクラブへ行こうぜ?」

「えー?」

「私はこのままがいいなー・・。」

「ん?そうかー?まあいいや。」

「じゃあ、これからその服、コインロッカーに預けてクラブに行こうぜ?」

「うん!」

こうして香織は期待を胸に健太郎と共にクラブへと向かうのでした。

つづく