家出少女
第三話:初夜
健太郎は大阪のミナミでのスカウトで17歳の家出少女、香織と出会い、今は彼女に「いいものを見せてやる」との言葉だけを残し、エレベーターで彼が住む最上階の12階へ向かっているのでした。
「ねえねえ?健ちゃん?いいものって何?」
「ふふーん。さっきも言っただろ?」
「それは着いてからのお楽しみだよ。」
「ほら、そんなことよりも12階に着いたぞ?」
「へー、すごーい。高級マンションの廊下ってこうなってるんだ。」
「廊下に赤いじゅうたんが敷かれてあって、まるでホテルみたい・・。」
「ほらほら。いつまでも感心してないで、俺の部屋はこっちだよ。」
「あ。待ってー。」
健太郎は自分の部屋の玄関の前に着くと、ICチップカードを取り出し、玄関の鍵を開ける。
「へー。こういうところの部屋の鍵って、カードになってるんだー。」
「さ。お嬢様。お待たせしました。どうぞ。中へお入りください。」
そう言って健太郎は、ゆっくりと玄関のドアを開く。
「うわー!すっごーい!健ちゃんってこんなところに住んでるんだー。」
「あ。これって間接照明っていうんでしょ?」
「ねえねえ!健ちゃん。これって何?インターフォン?」
まるで子供のように健太郎の部屋をはしゃぎ回る香織。
「ああ。それは、有線だよ。」
「これ使えば、音楽が好きなだけ聴けるのさ。」
健太郎は自慢気に有線の電源を入れて音楽を流し始めた。すると、Mr. ChildrenのTomorrow never knowsが流れ始める。
「あ。私、これ知ってる。お兄ちゃんがこれよく聴いてたもん。」
「いい曲だろ?」
「うん!」
「よし、じゃあ、さっき言ってたとっておきのものを見せてやるよ。」
そう言うと、健太郎はベランダのカーテンを一気に全快にした!
「キャ!」
すると、ベランダからは眩しいほどの黄金色の光が差し込み、香織は思わず「キャ!」と叫んでしまう。
「ほら。香織?こっち来てよく見てみな。」
香織は健太郎に言われるがままに、ベランダの側に近づいた。
「うわー・・・。」
なんと、そこには、沈み行く夕日がミナミの町並みを照らし、そこから見える景色は、全て黄金色に輝いていた。
「すっごーーい!」
「ふふん。だろ?」
「この時間に見る景色が一番最高なんだ。」
「うん。本当に綺麗だねー。」
「ほら、もっとこっち来て好きなだけ見てみな。」
「うん・・・。」
香織は沈み行く夕日をいつまでもいつまでも眺めていました。すると、香織の瞳からは一筋の涙が零れる・・。
「・・・・私、やっぱり、大阪に来てよかった。」
「え?今、なんて?」
「うんん。何でもない。気にしないで・・。」
「おいおい。泣くほど感動するやつがあるか。」
「いいのいいの。これは悲しくって泣いてるんじゃないもの。」
と、言って夕日の光をバックに香織は満面の笑顔でそう返事を返してきた。
そして、しばらくして夕日は完全に沈み、黄金色の景気は夜のミナミへと変貌する。
「さて。ショータイムはおしまいだ。」
「それよりシャワー浴びて来いよ。こっち来てみな?」
香織は、健太郎に案内されるがままに、脱衣所の方へと向かう。
「ここに、バスタオルが入ってるから。適当に使ってて。」
「着替えは後で持ってくるから。」
「うん。ありがと。」
そして脱衣所のカーテンを閉めて健太郎は出て行く。だが、すぐにカーテンが開いて香織は、健太郎を呼びつける。
「ねえねえ。健ちゃん健ちゃん。」
「ん?どうした?」
そう言って健太郎は脱衣所に近づくと、香織は突然、健太郎の頬にキスをした。
「お・おま・・!」
「へへへー!覗かないでね?」
と香織は言ってすぐにカーテンを閉めてしまった。
「香織・・・。」
それからしばらくして風呂場からは、シャワーの音が聞こえてくる。
「香織―?」
「なあに?」
「着替え、俺の白の上下のスエットしかないけど、ここ置いとくぞー?」
「うん。ありがとー。」
そうして健太郎は、脱衣所から出ようとしたその時、健太郎はさっきまで香織が身に着けていたブラジャーに目が止まった・・。
「ゴクリ・・・。」
「あいつ、結構着やせするタイプなんだな・・。」
そこに置いてある香織のブラは結構大きかった・・。
「・・・・・。」
「あかん!あかん!何を考えているんだ俺は!」
「あの子はまだ17歳だぞ!」
「それに俺たちは恋人同士でも何でもない・・。」
そう自分に言い聞かせ健太郎は脱衣所を後にする。
「よーし!今日はあいつにとっておきのうまいもんを食わせてやるか!」
「俺様特製「ほうれん草のチーズお好み焼き」を!」
※ 作り方は、ナナシーレシピを参照
そうして、健太郎は張り切って料理に取り掛かる。それからしばらくして香織が出てきた。
「ふー!サッパリした!」
「おお。そっか。サッパリしたか!それはよかっ・・・」
と、健太郎が答えようとして彼女の方を振り返った時、思わず言葉が詰まってしまった。
「え?どうしたの健ちゃん。」
そこに立つ風呂上りの香織は、さっきまでの香織とはまるで別人のように綺麗だった。
「あ、ああ・・。いや!な、なんでもない。」
「ん?どうしたの?」
「あー!さては、私の風呂上りの姿を見て惚れたなー?」
「ち、ちげーよ!誰がお前みたいなガキなんか・・・。」
「ぶーー!もう!私はガキじゃないってば!」
「ご、ごめん・・・。」
なぜかその時は、健太郎は素直に謝っていた。
「よ、よし。そんなことよりも晩メシができたぞ。」
「え?どれどれ〜?」
「うわーー・・・!すっごーい!」
「これ何ていうの?私、こんなの見たことなーい。」
「えっへん!よくぞ聞いてくれました!」
「これは俺が昔、学生の頃にバイトしていたお好み焼き屋で開発した、俺様特製「ほうれん草のチーズお好み焼き」っていうんだ!」
「へぇー。なんかすっごくおいしそうだね?」
「ほら。こっち来て一緒に食おうぜ?」
「うん!」
こうして、二人はおいしい夕食のひと時を過ごすのでした。そして夜もすっかり遅くなり、部屋は間接照明だけになり、二人は健太郎のベットで横になります。健太郎は彼女に気を使ってか、彼女に背中を向けて横になる。
「じゃあ、そろそろ寝るぞ?」
「うん。お休み・・。」
そんな香織からの返事を確認してから健太郎は間接照明も消して部屋の中は漆黒の暗に包まれた。
そしてそれから約10分ほどの沈黙の時が流れる・・。
「ねえ・・。健ちゃん?もう寝た?」
「ん?まだ起きてるよ。」
「どうした?眠れないのか?」
「うん・・・。」
「そっか・・。」
「ねえ?健ちゃん?」
「ん?」
「どうして健ちゃんはあれから私こと何も聞かないの?」
「そりゃー。無理強いってのは俺の流儀に反するっていうかなんというか・・」
「もういいよ。健ちゃんには全部話すよ・・。」
「だから、そのまま聞いててくれる?」
「うん。いいよ。」
「私ね?実は、今から半年前に家出したの・・。」
「え?半年前って・・高校はどうした?」
「お願いだから。そのまま聞いててくれる?」
「う、うん。」
「実は私、お父さんから凄い家庭内暴力を振るわれていたの・・。」
「お酒に酔って帰って来るお父さんは、夜中なのに私を叩き起こして殴るの・・・」
「!!それは、ひどい父親だ。お母さんはどうしてたの?」
「私のお母さんは、1年前にお父さんとお兄ちゃんと私を残して病気で死んじゃった・・」
「そっか・・。」
「でね?」
「その時、ちょうど私、ネットの出会い系サイトですっごく優しい人と知り合ったの・・。」
「その人は、毎晩のように私の話を聞いてくれて慰めてくれた・・。」
「そっか・・。いい人にめぐり合えたね?」
「でね?私、今から半年前にうちを飛び出して彼を頼って、夜行バスに乗って大阪に出てきちゃった。」
「香織の実家はどこにあるの?」
「私の実家は千葉県・・。」
「え?千葉県!?それって関東地方じゃん・・。」
「でね?」
「うん。」
「大阪に出てきた私は、その出会い系サイトで知り会った彼と付き合うことになって、今まで彼の部屋で同棲してたの。」
「でも・・。そんな彼と喧嘩しちゃって・・・。」
そこまで言うと香織は、健太郎の背中におでこをつけて「エッグエッグ・・」と泣き始めてしまう・・・。
「ねえ・・・?」
「健ちゃん?」
「私、これからどうしたらいいのかな?」
「・・・・・・。」
泣きながら救いを求める香織の言葉に健太郎は言葉を失ってしまった・・・。
さらに香織の鳴き声は大きくなっていく・・。
しばらく考えた末、健太郎はくるりと回転して香織と向かい合わせになって、香織の顔を見つめた・・。
するとそこには、香織のグチャグチャに泣きじゃくる顔が月明かりに照らされて輝いていた・・・。
(かわいそうに・・。まだ、こんなにあどけなさが残る子供のような顔をしているのに・・。)
(本当だったら、この年頃の娘なら高校に通ってクラスメイトの気の合う友達と仲良くふざけあったりしているような年頃なのに・・・。)
そんなことを思った健太郎は次の瞬間、泣きじゃくる香織の顔を自分の胸に包み込み・・。
「よーしよし。香織は何にも悪くない・・」
「ほら・・。好きなだけ泣きな・・。」
「もう我慢しなくていいんだよ?」
そう言って健太郎は彼女を優しくポンポンと叩く。
すると次の瞬間。香織はまるで幼子のように「エーーーン!エーーーン!」と思いっきり声を大にして泣き始めてしまった。
そんな香織を健太郎はしっかりと抱きしめ。
「大丈夫。大丈夫!俺がいつまでも側についててやるから!」
と健太郎は何度も何度も彼女を励ましていました。
それから、約30分ほど彼女は心の底から泣き続け、彼女は泣き疲れてしまったのか深い眠りに着いてしまいます。
そんな彼女の寝顔を見ながら、健太郎はこんなことを考えます。
「しっかし・・。これは、どうしたものか?」
「今更、実家にも戻れないし、同棲していた彼氏とも別れてしまったのなら、彼女はこれからどうやって生きて行けばいいというのだ・・。」
「水商売をやらすにしてもまだ17歳じゃ無理だし・・。」
「でも、それを自分で見つけ出すことが彼女自身が「自分の人生を生きる」ということなんだ。」
「それなら、俺は彼女が独り立ちするまで、しっかり面倒みてやろう。」
と、健太郎は心に誓い眠りに着くのでした・・。
つづく
※ この物語は管理人の実体験を元に一部脚色して書いています。