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家出少女

第二話:健ちゃん

大阪のミナミでスカウトをしていた健太郎は、ひょんなことから家出少女と出くわしてしまい。二人は今、健太郎の住むマンションへと向かうところであった。

「えっと・・君、あ。そーいや、まだお互い名前も聞いてなかったな?」

「俺の名前は泉健太郎(いずみけんたろう)21歳。職業はキャバクラのウェイター」

「君は?」

「え?私?うーん。うーん・・・」

どうして自分の名前を言うのに考える。

「私の名前は、美穂(みほ)。」

「みよじは、中山で、中山美穂っていうの。」

「え?マジ?それじゃミポリンと同姓同名じゃん!」

「うっそーん。私の本当の名前は、相川香織(あいかわかおり)っていうの。」

「な・なんだよ。脅かすなよなー。」

ププ・・クスクス・・・。

彼女はその場で笑い転げてしまう。

「って今度は、何なんだよ?」

「え?だって、さっき驚いた顔がおかしくって。」

「あははは!」

「ったく!」

「ところで、ミポリン・・じゃなくて、相川さんは・・・」

「うんん。私のことは、香織って呼び捨てでいいよ。」

「・・じゃ、じゃあ、香織は何か嫌いな食べ物とかはあるか?」

「え?私?私はあんまり好き嫌いはしないよ?どうして?」

「あー。もうじき、夕飯の時間だろう?だから、帰りに何か食材を買って帰ろうと思ってな。」

「え?手料理をご馳走してくれるの?」

「うん。なんか変か?」

「うんん。だって料理ができるって意外だったから。」

「えっとー・・。確か、冷蔵庫にアレとアレが残っていたから・・。」

「よし!今夜はアレにするか。」

「俺のマンションはこの道をまーっすぐ5分ぐらい歩いたところにある」

「で、この道を左に曲がると、俺の行き着けの八百屋さんがある。」

「俺んち行く前に、その八百屋さんに寄っていこうぜ?」

「へー。健ちゃん。ミナミの町に詳しいんだー。」

「あったり前だろ?俺、もうこの町、2年も住んでるんだぜ?」

「それに俺はミナミの帝王を目指している男だ。」

「え?何それ?ミナミの帝王って?」

「あー。香織はミナミの帝王を知らない子なんだ。」

「日曜の昼とかにやってないか?」

「うんん。知らなーい。」

「まあ、いいや。それより八百屋に着いたぞ。」

「あら!いらっしゃい!健ちゃん!」

「あら?また、新しい彼女連れてるの?」

「や・やめてくれよ。ヨネさん。この子はそういうんじゃないってば。」

「この子はー・・。俺のいとこの姪っ子のー・・。えーっと、つまり親戚の子だよ。」

「あら?そう?」

「ところで、今日は何を買って行くの?安くしとくわよ。」

「んー。じゃあ、そのキャベツとそこのネギちょうだい。」

「はーいよ。いつもありがとさん。」

「ところで、彼女とは週に何回やってるのかしら?」

「ば・・ち、違うって言ってんだろ!ヨネさーん!」

「はいはい。じゃあ、またよろしくね?」

「ああ。」

「へー。健ちゃんって、やっぱ、健ちゃんって呼ばれてるんだ?」

「ま、まあな・・。」

「さっきのおばさん面白い人だったね?」

「何、言ってんだよ。大阪のおばさんはあんなもんだよ。」

「・・て、大阪に住んでたら、そんなの当たり前だろ?どこから来たんだ?」

「え?ああ・・。えっと、あのーそのー・・・。」

「いいよ。無理答えなくたって。」

「俺、そういう無理強いは嫌いだから。」

「うん!ありがと。」

「私、健ちゃんのそういうトコ大好き!」

「け、健ちゃんって・・。さっき会ったばかりなのに、ずいぶん馴れ馴れしいな。」

「俺、その呼び方、あんまり気に入ってないんだがな。」

「え?ダメだった?・・」

「いいよいいよ。香織は特別にその呼び方を許すことにしよう。」

「ありがとう!やっぱ、私、健ちゃんのこと大好き!」

「ねえ?腕組んでもいい?」

「ば、馬鹿野郎!それは、調子に乗りすぎだ。」

「恋人同士だと勘違いされるだろ?」

「ぶーー!腕ぐらい組んだっていいじゃない?」

「ほら。それより行くぞ?」

「あ。待ってー。健ちゃーん。」

それから香織はさりげなく、健太郎のスーツの右腕の端をつかんで、彼の後を着いていくのでした。

「ふふふふ・・。さ、着いたぞ。」

「え?すごーい、ここに住んで・・ってこれってラブホテルなんじゃ・・」

「さ!行くぞ!香織!」

健太郎は香織の腕をつかんで強引にラブホテルに連れ込もうとする。

「え?え?ちょ、ちょっと待って健ちゃん!まだ、私、心の準備が・・・」

突然のことに慌てふためく香織。

「ププ・・クックックッ・・・あっははははー!」

すると突然、健太郎はその場で爆笑する。

「な、何がおかしいのよ?」

「うっそーん!俺のマンションはこのラブホのすぐ真裏にあるんだよ。」

「あーー!私のこと騙したのねーー!」

「あはは。さっきのお返しだよ。」

「もー!びっくりしたじゃない!私はてっきり、健ちゃんが、その・・私のことを・・・」

「ほら。それより、上をよく見上げてみな。」

「あのでっかくそびえ立つマンションの最上階が俺の部屋だ。」

「え?マジ?すっごーい!」

「うん。今度のは冗談なんかじゃないんだぜ?」

「ほら。こっち来てみな?」

「うわーー・・・・。すっごーい!広いロビーね?」

「私、こういうのドラマとかでしか見たことがない。」

香織は、初めて見る高級マンションのロビーに圧倒され。ロビーの中をキョロキョロと見渡し始める。

「ねえ?健ちゃん。この扉どうやって開けるの?」

「なんだ。オートロックも知らないのか。ほら、こっち来てみな?」

「ここに数字が書かれたパネルがあるだろう?」

「ここでこうやって暗証番号をピッピッピと押して最後にこのボタンを押す。」

すると、オートロックは解除されて、ガコーンという音と共に開いた。

「すっごーい!なんか映画みたいだね?」

「え・映画みたいって・・。ほら香織もやってみな?」

「え、えーっと。番号を押して・・。えーっと・・。あれ?暗証番号何番だった?」

「「7743」ナナシさんと覚えればわかりやすいだろ?」

「あ。ほんとだ。「7743」でナナシさんだね?」

「じゃあ、やってみるね?」

香織が暗証番号を押すと、当然のごとくオートロックは解除され、再び扉は開き始める。

「うわー。すっごーい。」

ただオートロックを解除するということだけなのだが、彼女にとってはこれが初めての体験らしく感動しっぱなしであった。

「ほら。そんなことより行くぞ?」

「もうすぐ扉が閉まるから、早くこっちこい。」

「え?え?ゴメーン。」

「ちなみに、こうやって他人が解除したオートロックで中に入ってしまうことを、スルーゲートって言うんだ。」

「へー。健ちゃんって物知りなんだね?」

「まあな。昔はシステム関係の仕事をしていたからな。」

「へー。キャバクラのウェイターをする前は、コンピューター関係の仕事をしていたんだ。」

と、その時、健太郎は左腕の腕時計を見始める。

「お。そろそろだな・・。」

「ふふーん。じゃあ、今度はもっといいもの見せてやろう。」

「え?なんなの?いいものって。」

「それは、見てからのお楽しみなのさ。」

「ほら。着いてきなよ。」

香織は健太郎の言葉にワクワクしながら彼の後をついて行くのでした。

つづく