家出少女
第一話:家出少女との出会い
俺の名前は、泉健太郎(いずみけんたろう)21歳。職業は・・・まあ、あんまり人に自慢するような仕事でもないが、俺はキャバクラのウェイターをしている。だが、俺はこの仕事に誇りを持っている。俺がこの店に勤め始めて早や2年の月日が過ぎており、後輩も何人か出来、俺は後輩からも慕われる先輩になっていた。
このキャバクラのウェイターという仕事は、新入りのウェイターは先輩ウェイターよりも早く店に出勤して軽く店の掃除をやらなくてはいけない。これも一人前のウェイターになるための修行の一環で、社長に言わせれば、「水商売は掃除に始まり掃除に終わる」とのことらしく。お店の掃除を一生懸命やり、汚れに気づくことが、お客様の気持ちに気づくことに結びつくのだと。
俺は主任の役職をもらっていたので、掃除をする必要はない。俺は店が始まる直前に出勤してそのまま仕事が始まることになる。そんな俺の役目は、ホステスさんのケアやヘルプ回しが主な仕事内容だ。
ヘルプ回しとは、店内の隅に立ち、お客様に気づかれないように、それぞれのテーブルを見渡して、盛り上がってるテーブルとそうでないテーブルをさりげなくチェックする。盛り上がっていないテーブルを見つけた場合は、その席に付いているホステスさんを下げて、そのお客様の趣味に合ったホステスさんをうまく付けて回るのが、ヘルプ回しという仕事だ。
この仕事を一人前にこなすには、お客様の性格を瞬時で見抜くことはもちろんのこと、60人以上もいるホステスさんの一人ひとりの性格まで把握していなくてはいけなく、ヘルプ回しひとつで店の売り上げが左右されると言っても過言ではない。そんな重要なポストの仕事を任されていた俺はこの仕事に誇りを持っていた。
そんな仕事をしている俺なのだが、今は昼下がりの大阪のミナミの繁華街に立っている。仕事開始までまだ時間があるので、もう少し部屋でゆっくりしていればいいような気もするが。これも俺の大事な仕事のひとつなのだ。
今、俺がここに来ているのは、いわゆる“スカウト”という仕事をするため。このスカウトは、店から与えられた仕事ではない。だが、このスカウトというシステムは、町行く女性に声をかけてスカウトが成立した場合、店からは給料とは別にスカウト手当てというのが支給される。スカウトの特典はそれだけではなく自分がスカウトしたホステスさんの指名率、つまり成績が上がれば、その売り上げのうち10%の手当てが俺の元にも入ってくることになる。
つまり、たくさんホステスさんをスカウトすればするほど、俺の収入も跳ね上がることになり、俺は基本給23万のところスカウト手当てと主任手当てを合わせて50万ほどの高給を稼ぎ出していた。俺が住むマンションはオートロック付きの12階建ての高給マンション。俺はそのマンションの最上階の角部屋に住み、部屋は全面じゅうたん張りで家賃は15万もし、部屋の広さは15畳ほどある。自慢ではないがベランダから見る夜景は最高だ。
そんな俺は今日も自分の金ずるを稼ぐため、昼下がりの大阪のミナミの繁華街にスカウトをしに来ていた。
俺のスカウト方法は独特で、女の子の前で面白い話をして興味を持ってもらい。そのまま喫茶店に直行。そこで、自分でパソコンで作成した店の簡単なパンフレットを渡し、その場で簡単な面接を始め、手ごたえがあった場合のみ、そのまま店に連れて行き、そしてさらに詳しい面接を行う。俺はパンフレットの他にゲーセンで作った名刺まで用意しそれを女の子に渡していた。
というのも、喫茶店に連れ込むことに成功したとしても、そのまま店に連れて行くことまでは叶わないことがかなりの確立であり、俺はそんな時に備えて実費で携帯番号をプリントした名刺を用意していた。そうすれば忘れた頃に携帯が鳴ることもある。
俺は自分の持ち味である、ユニークなキャラとパンフレットや名刺を活用し、60%を誇るスカウト率を叩き出していた。これは店では若手ではダントツでトップの成績。だが、店長のスカウトはさらにその上を行く。遊びでも仕事でもトップでなければ気が済まない俺はいつかは、店長を超えてやることを目指していた。
そんな俺なのだが、今日は調子が悪かった。
何をやっても女の子たちにウケない。
道行く女の子連れの前にササッと割り込み、「コマネチぃぃー!」をやってみても、「何あれ〜?ダッサー。夏実、こんなのほっといて行きましょ!」と言って逃げられてしまう。
「あれ?おっかしいなー。俺のギャグのセンスも落ちてしまったのか?」
と、思ったその時、次のターゲットを発見!俺のレーダーは道の隅にしゃがみこむ、一人のかわい子ちゃんを決して見逃さなかった。
「よ・よ〜し!今度こそ!」
「へーい。そこの、かーのじょ!そんなところで何してんの?」
「・・・・・・。」
俺は気さくに話しかけてみたのだが、返事はまったくと言っていいほど返ってこない・・・。
「おーい。生きてますかー?何か返事してよー?」
なおも話しかけてみるも女の子はうつむき口を閉じたまま沈黙を守り続けている。
と、その時、腕の隙間からその女の子の顔を覗いてみると目が真っ赤に腫れていた・・・。
「ところで君、歳いくつよ?」
「・・・17」
「げ!?マジ!?17歳?なーんだよー。それならそうともっと早く言ってくれよなー。じゃあな!」
と言って俺はそそくさとそのスカウトを切り上げて、他のスカウトに移ることにする。というのも、この水商売で働くホステスさんは、18歳以上でない子を一人でも使った場合、その一人のホステスさんのために、店は営業停止処分を食らってしまうからだ。
なので、俺はそのスカウトをすぐに止めて他のスカウトへと移る。
それから1時間ほどスカウトをがんばってみたが、やはり今日の俺は不調らしく、その後のスカウトは全滅だった。
「やっぱ。今日の俺はダメだな。まだ早いけど今日はここまでにしよう。」
そう言って、俺は今日のスカウトを切り上げることにした。だが、あの17歳の女の子は、あれから一時間以上も立つというのに、その場所から離れようとせず、うつむきしゃがみこんだままだった・・。
「あの子、あんなところで何してんだろ?家出?それとも彼氏にデートでもすっぽかされたのか?」
俺はその場から離れようとしない、その女の子に少しずつ興味を持ち始めていた。
「ほら。これ飲めよ。」
と言って俺は彼女に温かい缶コーヒーを差し出す。
彼女はキョトンとした顔をして、俺の方を見ている。
「私、水商売には興味ありませんから。」
「んなことわかってるよ。それに君、17歳だろ?」
「そんな子にホステスなんてやらせられねーよ。」
「んなこといいから、これ飲めってー。こんな冷たい地べたに座ってたら風邪引くぞ?」
それで彼女は少し気を許したのか「ありがとう」と言って缶コーヒーを手に取り飲み始める。
「よっこいしょ。」と言って俺は彼女と少しだけ距離を置いて地べたに座り込み、そこでタバコをふかし始める。だが、二人には会話は一切なく。約10分ほどの沈黙の時が流れた・・。
「何があった?」
「家出でもしてきたのか。」
「いいから話してみろよ。そしたら少しは気が晴れるだろうぜ。」
「・・・・・・。」
「・・・うん。家出してきた。」
彼女は目に大粒の涙を浮かべながら、そう答えてきた。
「やっぱ。そっか!だろ?んなことだと思ったぜ。」
「彼氏とも別れた・・・。」
「え?」
俺は家出か彼氏との喧嘩のどちらかだと思っていたのだが、その両方だったため、少し意標を突かれてしまう。
「よし!なんかメシでも食いにいくか!遠慮ならいらないぜ?俺がおごって・・」
と、俺の話が済むまでに
「いい。お腹空いてない・・・」
との返事が返ってきた。
「じゃ・じゃあ、ゲーセンでも行くか!」
「・・・・。」
もう返事すら返ってこない。今の彼女にとってよほど深刻なことがあったらしい・・。
「ねえ?どうして私に優しくしてくれるの?私とやりたいの?」
「ば・馬鹿野郎!んなこと考えちゃいねーよ。このマセガキが!」
「俺はこれでも女には不自由してねーよ。それに俺はガキを抱く趣味はない。」
「失礼ね。私、これでも17歳よ?」
「そんな17歳が、こんなところで何してんだ。」
「・・・・・。」
「ほらー。また、そうやって深刻な顔するだろう?俺、そーゆー辛気臭いの嫌れーなんだよ。」
「よし!じゃあ、俺んち来るか。」
「え?でも・・・。」
「さっきも言っただろ?何もしねーって!」
「それにその様子ならどこも行くアテが無いんだろ?こーんなところに、いつまでもうずくまって座っていたら恐い兄さんに連れて行かれちまうぞ〜?」
「でも・・。迷惑じゃない?」
「いいっていいって、それに俺んち結構広いんだぞー?夜景なんて最高なんだ!」
「うん。じゃあ行ってみる。」
「よし!わかった。じゃあ、これから俺んちに行こう!」
先に立ち上がった俺は、尻の砂をはらい下ろしてから彼女に右手を差し出す。彼女がその手をしっかりと握ったのを確認して俺はその手を力強く引っ張りあげた。
そして俺はスーツの左ポケットから携帯を取り出し電話をかける。
「あ。店長?俺っす。健太郎っす。」
「おー。健太郎か。スカウトがんばってるみたいだな。」
「あー。でも今日の俺、ぜっ不調っすよー。この前、店長に教えてもらった、「コマネチぃぃー!」って奴もやってみたんすが。全然、ウケなかったすよー」
「あっはははは!お前、あれ本当にやったのか?」
「でー、急の申し出でアレなんすが。俺、風邪引いちゃったみたいっす。なので今日、俺、店休むことにしたっすから。」
「ちょ!待て!健太郎!おま・・」
ブチッ!ツーツーツー・・・
「これで、よし!っと!」
「え?お仕事休んじゃっていいの?」
「いいっていいって。」
「最近みんな俺に頼り過ぎなんだよねー。少しは俺のヘルプ回しの苦労も知れってんだ。」
「よし!じゃあ行くか!」
そう元気よく彼女に訪ねると彼女も元気よく「うん!」との返事が返ってきました。
つづく