かれんさんの恋人
第二話:ヒーロー誕生!
夕食を食べ終わった卓也は自分の部屋に戻ってきていました。
「モグモグモグ・・・」
小人の大魔法使いかれんは、卓也が持ってきた夕飯の残りもののハムを口いっぱいにほおばって食べていました。
「モグモグモグ・・・人間界の・・・食べ物も・・・中々いけるの。・・モグモグ。」
かれんはお腹が空いていたのか、ハムを食べるのに夢中の様子。
「ところで君って小さいね?」
「モグモグ・・・何を言ってるのじゃ・・モグモグ。」
「お前たち人間が大き過ぎるのじゃ、モグモグ・・」
「ふーん。」
「ところで君ってさ。何の目的で人間界に来たの?」
「モグモグ・・わしの名前は「君」じゃない。かれんじゃ・・。」
「じゃあ、かれんは何の目的で人間界にやって来たのさ?」
ちょうどその頃、かれんにとっては大き過ぎるハムを平らげていたところだった。
「ふー!もう、お腹いっぱいじゃ・・。」
「ん?わしが来た目的か?」
「かれんは、俺のフィアンセってことらしいけど、まさか俺を連れ去ったりしないよね?」
「ふん!そんな野蛮なことはせんよ。」
しばらく、かれんは考え込んで、それから話をし始めました。
「さっきも言ったと思うが、わしは魔法の国からやってきた大魔法使いじゃ。」
「うん。それはさっきも聞いたよ。」
「で、じゃな?今はその魔法界と人間界で大変なことが起きようとしている。」
「え?」
「魔界の奥深くに封じ込めたておいた魔界のプリンスの結界の魔力が今は弱くなっておっての、その魔界のプリンスが今1000年の眠りから復活しようとしているのじゃ。」
「あーはっははははー!」
「まっさかー!漫画じゃあるまいし!」
そう言って、卓也はその場で爆笑します。
「な、何がおかしいんじゃ!わしは真剣じゃよ!」
「魔界のプリンスが復活したら、この人間界も滅んでしまうんじゃぞ?」
「それに奴らの部下たちはすでに復活し始めているんじゃぞ!」
「あはは。で?なに?」
「そんな怖い悪魔相手に俺が戦えとでも?」
「そのとおりじゃ。卓也は選ばれた勇者なんじゃよ。」
「あーはっはっはっはー!!冗談はよしてくれよ。」
「俺はただの高校生だぜ?そんな奴ら相手にどうやって戦えっていうんだよ?」
「それにそんな怖い奴らなんだったら、俺なんかに頼むんじゃなくて、警察や軍隊に助けを求めた方がいいだろ?」
「ばか!奴らを甘く見るな!」
「今の地球上の全兵器をもってしても、奴らの下っ端の部下ですら1分ももたんよ。」
「だったら。なおさら、俺なんかじゃ適いっこないじゃん。」
「そこでじゃ!」
かれんは突然何やら呪文のようなものを唱え出します。すると、ポン!という音と共に腕時計らしきものが卓也の目の前に現れる。
「なんだよ。これ?」
卓也はその腕時計らしきものを手に取って眺め始める。
「それは、魔法界に古くから伝わる強力な魔力を秘めたメルディアクロックというものじゃ。」
「へー。もしかしてこれ付ければ変身できるとか?」
「そのとおりじゃ。」
「なんかアニメとかに出てきそうなやつだね?」
「アニメ?なんじゃそれは?」
「なんか面白そうじゃん。でーこれってどうやって変身すんの?」
「左腕にはめて強くなった自分をイメージするだけで変身できる。」
「よし!じゃあ、ちょっとやってみるよ。」
左腕にメルディアクロックをはめた卓也は、部屋の中央に立って目をつぶり、強くなった自分をイメージし始めた。すると・・・。
次の瞬間、卓也を中心にビカッーー!っと強烈な光があふれ出す!
「わわわわわ!なんなんだこれ!」
部屋全体に広がった光はやがて弱くなりそして消えていきます。だが鏡に映る卓也の姿は・・。
「おおおおおおおおーー!すっげーー!!」
「なんかガキの頃、見てた特撮戦隊ヒーローみたいじゃん!!」
「赤いヘルメットに背中に赤いマントまである。」
「これってヒーローそのものって感じじゃん!」
「俺、こういうのガキの頃、憧れてたんだー!」
「ふふーん。気に入ったか?卓也よ。」
「うん!これマジすっげーよ!!」
「メルディアクロックを身に着ける人間のイメージにもよるのじゃが、」
「言い伝えによると、人間の頃の1億倍のパワーになると伝えられている。」
「じゃが、選ばれた勇者卓也なら、さらに強くなってるじゃろう。」
「へぇぇぇー!すっげー!」
卓也は全身が映る鏡の前で、仮面ライダーの変身ポーズのような真似をする。
「ピキィーン!へーんしん!」
「悪は絶対許さない!正義のヒーロー勇者卓也参上ぉー!」
何度も何度も卓也は鏡の前で、子供の頃に見たヒーローの真似事をする。
「なあなあ?かれん。これって空も飛べるのか?」
と言って卓也は後ろを振り返ってみたが、そこにかれんの姿はなかった。
だが、ドアの隙間から恵美が不思議なまなざしでジィーーと卓也の方を見ている。
「お、お兄ちゃん・・・・(汗」
「な、なにしてるの?」
恵美は呆れたような顔をしながら、卓也にそうたずねてきた。
「え?え?」
卓也は思わず顔が真っ赤になってしまう。
「あ、ああ。え、ええーっと!こ、これは・・。」
「あーっはっはっはー!」
「お兄ちゃんも、とうとうヒーローに目覚めちゃったのさー!」
「あーっはっはっは!」
卓也はもうやけくそだった、だが恵美はさらに引いてしまっている・・。
「あ・・。」
「いやいや。違う違う。」
「これは今度の文化祭で使う出し物なんだよ。」
「ふーんー。高校の文化祭で戦隊もの?」
「うっ・・・・。」
「ま、まあ、いいじゃないか。」
「お兄ちゃんは、練習で忙しいから恵美はあっち行ってろ。」
「コスプレ遊びもたいがいにしておいてね。」
そう言って恵美はパタンとドアを閉めていった。
それからしばらくして、かれんが姿を現す。
「お、お前!気づいてたんなら、早く教えろよな!」
「おかげですっごく恥かいちまったじゃねーかよ!」
「あー。すまんすまん。」
「楽しそうにしてたから、ついそのまま放置してしまったのじゃ。」
「ったく!」
「で。これって空も飛べるのか?」
「もちろんじゃとも。」
「頭の中で「飛べ」ってイメージしてみるのじゃよ。」
「こ、こうか?」
そう言って卓也は目を閉じ「飛べ」をイメージし始める。すると卓也の体は少しずつ宙に浮かびあがった。
「おーっとっと。すっげー!」
「普通の人間で時速1万kmで飛ぶことができるのじゃが、卓也ならもっと早く飛ぶことができるじゃろう。」
「え?マジ!?」
「じゃがな。気をつけるんじゃぞ。スピードを出し過ぎると・・」
と、かれんの話が終わるまでに卓也は部屋の窓を開けてもう外に出ている。
「こ、こら!わしの話がまだ!」
「んじゃ!俺はこれから空のドライブに行ってくっから!」
「ま、待て!卓也!」
そんな、かれんの忠告も聞かずに、卓也は物凄いスピードで空へと飛び立ってしまった。
「ひゃーーーっほーーーーう!」
卓也はまるでスーパーマンの飛行ポーズのようなポーズをしながらギュンギュン加速していく!
「ったく!しょーがない奴じゃの・・。」
そう言うと、かれんは呪文を唱え光と共に姿を消した。
ゴゴゴゴーーーーー!!!
「これ、マジすっげーよ!」
「あ!あんなところに新幹線が!」
「よーっし!あの新幹線と競争だ!!」
そうして卓也は新幹線と競争し始めた。
卓也の飛行はみるみる加速し、ついには新幹線の速度を超えてしまった。
すると新幹線に乗っていた一人の少年が飛行する卓也の姿に気が付いた。
「ママー。あれなにーー?」
その次の瞬間、卓也はその少年に手で合図をして、空の彼方へと飛び立ってしまい、少年の母親が新幹線の窓から外を覗いた頃には、もうそこに卓也の姿はなかった。
「どうしたの?健ちゃん?」
「えー?さっきそこに誰か飛んでたよ?」
「そんなことがあるわけがないでしょ?」
そう言って少年の母親は新幹線のカーテンを閉めてしまう。
なおも卓也の飛行は続く。
「すっげー!ちょっとスピード上げただけで、もうこんなに加速してるよ!」
「これ。もっと本気でスピード出したらどこまでスピード出るんだろう?」
「よーーし!」
そう言って卓也はスーパーマンのポーズから気をつけのポーズに変え、本気でスピードを出すことにする!
と、その瞬間。卓也の体は光に包まれて一瞬にしてその場から消えてしまった!
そして、なんと。卓也は一瞬にして地球を一周してしまう。それからも卓也は地球を5周ぐらい回ってから、宇宙空間で静止した。
「はあはあはあ!さ、さすがにこれは疲れるな・・。」
「ちょっと一休み・・。」
とその時、卓也は急に吐き気をもよおしてしまい、その場で夕飯に食べたものを吐き出してしまった。
「はあはあはあ・・。ど、どうしたんだ?」
「当たり前じゃ。」
後ろを振り返ると、そこに、かれんが宙に浮かんでいる。
「か、かれん・・。こ、これは、どういうことだ?・・はあはあ。」
「そうなるのも当然じゃ。いくら今の卓也が人間の頃の1億倍以上の強度の体になったからとは言え、あんなにスピードを出してしまったら酸欠になるのも無理はない。」
「そ、そうか・・。な、なんか力も抜けていく・・。」
「ったく!しょーがない奴じゃの。」
そう、かれんは言うと、また何やら呪文らしきものを唱え出し、かれんと卓也は光に包まれ、一瞬にして卓也の部屋に瞬間移動した。
そして卓也はベットへと倒れ込む。
「どうじゃ?これで、わしの言うこと信じてもらえたか?」
「う、うん・・。ま、まだ、実感わかないけど・・。」
「かれんの言うことは・・・本当らしいね・・・はあはあ・・。」
「そ、それに、これがあれば・・・。」
そこまで言うと卓也は気を失ってしまった。
「ったく!変身スーツも解かないで、しょーがない奴じゃの。」
そう言うとかれんは、卓也の胸のボタンを押して卓也の変身スーツを解除しました。
つづく