58歳の女性。52歳で閉経しましたが、最近、卵巣の摘出手術を受けました。卵巣から出る女性ホルモンがなくなると骨粗しょう症になりやすいときき、ホルモン補充療法(HRT)を受けたいと婦人科の先生に相談しましたが、もうすぐ60歳なので必要ないと言われました。私のような場合、HRTは対象外なのでしょうか。
骨を丈夫に保つことは、女性の長い人生の後半期を元気に生きていくための重要なポイントの1つです。しかし、女性の場合、閉経して女性ホルモン・エストロゲンが減るのと合わせて、骨量も急速に減少していきます。その結果、60代に入ると女性では骨粗しょう症や骨折が増え、骨折は寝たきりの原因になることも知られています。
エストロゲンには骨の破壊を防ぎ、カルシウムを骨に蓄える働きがあります。一方、閉経したということは卵巣の働きが終わったということで、その時点でエストロゲンは出なくなった状態。まずは骨密度測定を受けて自分の骨の状態を確かめるところから、対策を考えていく必要があるでしょう。
ホルモン補充療法(HRT)には、足りなくなったエストロゲンを補充して(子宮がある人の場合は子宮内膜を守るために黄体ホルモンを併用)更年期に伴う心身のつらい症状を改善するという目的と合わせて、エストロゲンが関与している体内の各部位の機能を守り生活の質(QOL)を上げるというもう1つの働きがあります。
具体的には、HRTには骨量の減少を抑えて骨粗しょう症を予防する効果が認められているのと合わせて、悪玉コレステロールの低下、血管が硬くなるのを防ぐ、皮膚や粘膜を乾燥から守る、記憶など脳の働きを改善するなどで、多くのデータがあります。こうしたことから、女性にとってはリスクよりベネフィット(利益)が多い治療法として、世界的にも再評価の動きが高まっています。
HRTで乳がんが増えるという不安についても、米国のWHI(Women's Health Initiative)報告のデータを再解析した結果からは、従来言われていたのとは逆に、期間が5年以内なら乳がんは増えないことも明らかになっています。また、始めるタイミングについても閉経後なるべく早い時期(骨や血管がまだよい状態のとき)に始めることが、よい効果につながることも認められています。とはいえ、70歳を越すとリスクが高くなるというデータもあります。
こうしたことから、HRTはなるべく60歳までに始めるのが望ましいとされていますが、これを越えたらやってはいけないというのではなく、個々の患者さんの状態をチェックし、リスクとベネフィットを説明し納得を得た上で行うことがすすめられています。投与方法についても、薬はなるべく低用量に、肝臓に負担をかけない経皮タイプで、天然型のエストロゲンを用いるなど、安全で効果的な方法が提案されてきています。
HRTを希望されるなら、新しい情報を持ち、よく説明してくれる医師に相談しながら、自分に合った方法を見つけていくことが大切です。
しかし、骨を守るにはHRTがすべてではなく、日常生活の中でできる予防対策も大事です。(1)カルシウムの多い、栄養のバランスのとれた食事(2)ウオーキングなど適度な運動の継続(3)戸外で日光に当たる、の3点がその基本とされています。また、骨粗しょう症の治療では、さまざまな有効な薬もあり、広く使われています。
骨に限らず、病気になってからあわてるのでなく、予防に役立つ身近な方法を実践しながらQOLを維持していくことは、これからの長寿社会を生きる女性の心得といえるでしょう。
回答者:安井禮子(NPO法人「メノポーズを考える会」更年期相談対話士・ 医療・健康ジャーナリスト)☆NPO法人「メノポーズを考える会」の電話相談(03・3351・8001)火曜・木曜の午前10時半~午後4時半。
2008年11月28日