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船橋真二郎
坂田健史がWBA世界フライ級王座を統一=ボクシング
暫定王者バスケスにリベンジを果たし、真の王者を証明
2007年07月02日
坂田健史がWBA世界フライ級王座統一戦に勝利、タイトル統一と初防衛に成功【 山口裕朗 】
「終わった瞬間、これは(勝ちは)間違いないなと思った?」という報道陣からの問いかけに対し、WBA世界フライ級王者・坂田健史(協栄)は即答をためらった。そして、これまでの道のりを思い返しているかのようなしばしの沈黙の後、坂田がようやく口を開く。「結果が出る瞬間までは、間違いないというのはなかったですね」。その応答に坂田がこれまで三度味わってきた苦汁がしのばれた。
3年前の6月、当時のWBA世界フライ級王者ロレンソ・パーラ(ベネズエラ)を東京・有明コロシアムに迎え、序盤にアゴを骨折しながらそこから鬼気迫る猛追を見せるも及ばず、0−2の判定に散った。その1年後の9月には、後楽園ホールでのリターンマッチに臨み、主導権は終始、パーラを追い回した坂田にあったようにも見えたが、またしても0−2のきん差の判定に泣いた。
そして昨年12月、パーラの負傷で巡ってきたWBA世界フライ級暫定王座決定戦という3度目のチャンスに「挑戦するのはこれが最後」と悲壮な決意でパリに飛んだ。序盤こそリズムに乗り切れなかった坂田だったが中盤以降、前進。手数でもクリーンヒットでもロベルト・バスケス(パナマ)を上回り、第5ラウンドに喫した不運なダウンによる失点すらも補って余りあるファイトを見せたはずが、判定は坂田に無情な1−2。三度、力を出し尽くし、勝利を確信しても、結果だけがいつもついてこなかった……。
そうした苦難の道のりを経た今年3月、宿敵パーラを下してようやく手にした世界のベルトである。もう誰にも渡すつもりはない――。バスケスにリベンジを果たしたリング上で、坂田が声を張り上げた。
「今日で本当のチャンピオンになれた気がします。世界を獲るまでの道のりがすごく長かった分、このベルトの重み、価値がすごく分かります。少しでも長く、ずっとこのベルトを保持していたいのでこれからも勝ち続けます!」
立ち上がりを制したのはバスケス
坂田のコンビネーションが冴えた【 山口裕朗 】
WBA世界フライ級王座統一戦が7月1日、有明コロシアムで行われた。同級正規王者の坂田と暫定王者バスケスとの昨年12月以来、7カ月ぶりのリターンマッチは、序盤の攻防がポイントになるだろうと見られていた。つまり、スロースターターである坂田がベルトを統一するには、立ち上がりから持ち前のアップテンポなボクシングを展開することができるかどうかにかかっている、と。
しかし、そんな坂田の機先を制するように、立ち上がり1ラウンドはバスケスが制する。開始のゴングが鳴り、左構えのバスケスはあいさつ代わりの右ジャブを突くと、力感あふれる左ストレート、右フックで幾度となく坂田を襲う。「1ラウンドは正直、ヒヤッとした」とは、協栄ジムの金平桂一郎会長の試合後の述懐。それほどにバスケスのパンチには力強さが感じられ、反撃のタイミングを計りきれない坂田の顔が跳ね上がるシーンも見られた。それでも、「1ラウンドに思い切って振ってくることは、先生(大竹重幸トレーナー)からも言われていたことだったから」と、この先制攻撃は想定の範囲だったと試合後の坂田。ラウンド中盤以降にもバスケスの重厚な左ストレートを何度かもらったが「落ち着いてしっかりと相手を見れていたので、自分としては問題なかった」と、坂田はこのラウンドを振り返っている。
流れを引き寄せた坂田の粘り強い前進
出血しながらも気迫の接近戦【 山口裕朗 】
第2ラウンドに入ると坂田は左を突きながら、バスケスのプレッシャーをかいくぐって前進する。中盤にはその左をきっかけにワンツーを浴びせてバスケスをロープに詰めたが、バスケスも引かずに連打で押し返し、ここは主導権を譲らない。バスケスに対するポジショニングがやや正面になったために時折パンチをもらい、バスケスのアタックを許した坂田だったが、それでも流れを引き寄せるべく、粘り強い前進とステップバックを繰り返し、終了間際には左フックをカウンターでクリーンヒットした。
続く第3ラウンドも坂田の粘り強い前進が続く。序盤こそ、バスケスの左ストレートを浴びながら、という展開ではあったが、間合いをつかみ始めたか、中盤にはヘッドスリップでこのパンチを外しながら、バスケスの懐に入り込むようになる。終盤に入り、散発ながら右ストレートを再三クリーンヒットさせた坂田がバスケスを動かす流れをつくると、徐々にリズムに乗り始め、4ラウンドには大竹トレーナーが戦前、ポイントの一つに挙げていた坂田の「忙しいボクシング」が展開されることになる。
「3ラウンド辺りから、動きの中でリズムをつくれたと思いますし、中盤くらいから気持ちに余裕ができてきたので、打って離れてっていう自分の出入りのボクシングができたと思います」(坂田)
その出入りの激しいボクシングで、バスケスをコントロールし始めた坂田は、第5ラウンド、バスケスを何度もロープ際に追い込んだだけでなく、終了間際には反撃に転じたバスケスのワイルドな左右のフックをことごとくダッキングでかわし、会場を沸かせる。
そして迎えた第6ラウンドには、立ち上がりに坂田の左ボディーをもらったバスケスが後退。下がる暫定王者を追い、坂田が右ストレートをボディーに突き刺すと、バスケスは一気に失速する。再三、バスケスをロープに追い込んでいく坂田が正確なショートの連打を浴びせるようになると、いよいよ反撃の手数も乏しくなったバスケスを前に、坂田の優位は動かしがたいものになったと思われた。
これまでの道のりを体現するようなファイト
「これで胸を張れる」と喜ぶ坂田【 山口裕朗 】
それでも、かつてWBA世界ライトフライ級王座を制した2階級制覇王者バスケスもただでは終わらなかった。第7ラウンドには流れを断ち切らんと、ステップと右のジャブを駆使して展開をつくり直そうと試みる。このラウンドこそリズムに乗った坂田の前に終盤、追い込まれ、ロープに詰められて何度も右をもらったが、続く8ラウンド半ばに放った右フックで坂田の顔を跳ね上げ、後退させる。
手数の減った坂田だったが、ここからが真骨頂。定評あるスタミナはフィジカル面だけの話ではなく、メンタル面のタフネスぶりも折り紙付だ。体勢を立て直すと、逆にいきなりの右フックをバスケスの顔面に打ち込み、反撃に転じる。多彩な左右のショートを上下に散らし、再びバスケスを追い込んでいった。
ベルトを手放せない思いはバスケスも同じこと。第9ラウンド以降、立ち上がりほどの力感はないもののバスケスも意地で手を返す。だが、坂田がそのバスケスのパンチをかいくぐり、ステップバックと前進を繰り返し、バスケスを逆にロープに、コーナーに追い込んでいく様は、まるでこれまでの道のりを体現するような戦いぶりだ。あきらめず、何度もアタックを繰り返し、ついに世界のベルトを手にした坂田の姿がそこにあった。9ラウンドにはバスケスのパンチで右目の上をカットするアクシデントにも見舞われるも、持ち前のそのアップテンポなボクシングを貫き通した坂田が、最後までバスケスを追い回し、試合終了のゴングを聞いた。
ジャッジは115−113、116−113、116−112の3−0。もっと差がついても良い展開だったが、「パリでもそうだったが、こういう辛い見方をするジャッジもいることを念頭に置いて、これからの防衛戦を戦っていかなくてはならない」と金平会長。「僕のボクシングは決して格好よくないかもしれないし、泥臭いかもしれないけど、これからも一生懸命戦っていきます」とリング上からファンにあいさつした坂田も同じ思いだったろう。敗れたバスケスは「出された結果に対して、何も言うことはない。坂田のほうが強かったことは認める」とコメントを残した。
「同じベルトを持つもうひとりの王者がいるということは納得できないことだったのでこれで自分がWBAの王者だっていうのを証明できてよかった」という坂田。次戦について、金平会長は「これで指名試合をクリアしたので、傷の治り具合にもよりますが、秋には(坂田の故郷)広島で凱旋(がいせん)試合をやりたいと思う。父(坂田の恩師でもある故・金平正紀会長)も広島出身で縁がありますし」とプランを明かした。
サーシャ・バクティン、復活のTKO勝利
サーシャ・バクティン(右)は復活のTKO勝利【 山口裕朗 】
セミファイナルでは、ロシア出身で元日本バンタム級王者のサーシャ・バクティン(協栄)が、フィリピンの元東洋太平洋バンタム級王者ジェス・マーカと復帰戦を行った。サーシャは日本王座を9度防衛したが、昨年2月26日、都内の路上で男性2人を殴って軽傷を負わせた傷害容疑で警察に逮捕された。その直後、協栄ジムはサーシャを解雇して王座を返上し、サーシャは1年以上にわたり試合を控えていた。だが、今年3月、協栄ジムは「本人も十分反省している」として再雇用し、この日の復帰戦を組んだ。
1年5カ月ぶりに公式戦のリングに立ったサーシャは、持ち味である速射砲のような高速左ジャブと、長いリーチを生かした右ストレートをマーカに浴びせてペースをつかんだ。マーカは35歳のベテランらしく、サーシャのジャブをうまくかいくぐりながら、頭を低くしてなんとか懐に入り込もうとしたが、サーシャは左右の連打と、軽快なフットワークでマーカを近づかせなかった。そして、第3ラウンドには、サーシャの左ストレートがマーカの顔面にカウンターでヒットし、マーカはダウン。立ち上がったマーカだったが、それ以降のラウンドはサーシャの手数の多さに圧倒された。
そして迎えた第8ラウンド、サーシャがマーカをとらえてラッシュを仕掛けると、マーカは戦意を喪失。レフェリーが試合を止め、8ラウンド1分46秒、サーシャが復帰戦をTKO勝利で飾った。サーシャのKO勝利は2003年4月の村越裕昭(三津山)戦以来。
試合後、サーシャは「リングが恋しくてたまらなかった。1年以上のブランクがあったが、フィジカルトレーニングを積んで強くなったし、事件があって精神的にも強くなれた。これから世界王座を目指します」と喜びを語った。
■WBA世界フライ級王座統一戦
7月1日(日) 東京・有明コロシアム
<メーンイベント WBA世界フライ級王座統一戦 12R>
○[正規王者]坂田健史(協栄)
(判定3−0/115−113、116−113、116−112)
●[暫定王者]ロベルト・バスケス(パナマ)
※坂田が初防衛に成功
<セミファイナル 121ポンド10R>
○サーシャ・バクティン(元日本バンタム級チャンピオン/協栄)
(8R1分46秒 レフェリーストップTKO)
●ジェス・マーカ(元東洋太平洋バンタム級チャンピオン・フィリピンスーパーバンタム級11位/フィリピン)
<特別スパーリング 2R>
牛若丸あきべぇ(東洋太平洋ウェルター級9位・日本ウェルター級1位/協栄)
ダブラン・ハビロフ(キルギスタン)
<女子ボクシング 特別スパーリング2分3R>
ユリア・べレジコワ(ロシア)
ライカ(山木)
<女子ボクシング 特別スパーリング2分3R>
ニーナ・アブロソワ(ロシア)
藤本りえ(KAKINUMA)
<第5試合 スーパーバンタム級 8R>
○瀬藤幹人(日本スーパーバンタム級3位/協栄)
(5R途中で負傷判定3−0/49−47、50−46、50−46)
●ジョナサン・バアット(フィリピンバンタム級7位/フィリピン)
<第4試合 フライ級 4R>
●山田和弘(山神)
(4R2分37秒 レフェリーストップTKO)
○武藤政志(国際)
<第3試合 スーパーバンタム級 4R>
△橋本 翼(F・I)
(判定ドロー0−1/38−39、38−38、38−38)
△橋本竜星(協栄カヌマ)
<第2試合 フェザー級 4R>
●川瀬広倫(協栄札幌赤坂)
(判定0−3/37−39、37−38、37−38)
○澤井大祐(シャイアン山本)
<第1試合 バンタム級 4R>
○伊藤直行(新和川上)
(2R2分20秒 レフェリーストップTKO)
●小野成大(花形)
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