米軍セスナ機の墜落事故で、米軍が機体を持ち帰って調査することに、「空の安全」の視点からも疑問の声が出ている。軍用機は国際民間航空条約の「適用外」だが、娯楽用セスナに明確な規定はない。専門家は「航空機事故の究明は、再発防止のため世界中で共有される情報。米軍の解釈だけが優先され、第三者の手が届かない状況は国際的に無責任だ」と指摘する。（社会部・嘉数浩二）

セスナ天国

　「まさにセスナ天国だ」。県平和委員会の大久保康裕事務局長はこう指摘する。同委員会が嘉手納基地で年一回、平日の五日間（午前七時―午後七時）行っている飛行回数調査の五年間集計では、全機種四千五百八十九回のうち軽飛行機が１２％を占めた。週末はセスナが中心になるため、実際の割合はさらに高いという。「セスナ数機が旋回する合間にＦ１５が離陸することもある。規制が必要と思っていたが、事故が起きてしまった」

政府は追随

　日米を含む百九十カ国が締約する国際民間航空条約は、死傷者が出た事故の調査は、発生国の法律下で行うと定める。国有機のほか「軍、税関および警察の業務に用いる航空機」は条約の適用外。軍の娯楽用セスナの扱いは明記されていない。各国の航空法は条約に基づき、ほぼ同じ仕組み。今回の事故は日米双方で「公務外」との見方が強いため、「軍の業務でない航空機の墜落」として条約の範囲内との解釈も成り立つ。

　国土交通省航空局運航課は事故について「米軍所有なので軍用機として対応している」と説明。セスナを「米軍機」とした根拠については「一般的に米軍が軍用機と主張し、関係省庁の調整で（軍用機と）認めれば政府全体の決定。一担当部署では答えられない」。

　運輸安全委員会（前航空・鉄道事故調査委）も「航空局から米軍機と聞いた。機種や使用目的に関係なく管轄外」とし、「通常は国交大臣通知で動くが、今回はなかった」と説明した。

客観調査を

　航空評論家の清水喜由さんは「軍セスナは国際条約のグレーゾーンだが、慣行では所有国が判断するため軍用機ということはできる」とした上で、「事故機が軍事目的でないのは明らか。民間人も乗ることが可能で、飛行中は娯楽用、事故になれば『軍用機』と都合よく解釈を変える米軍に、日本が追随する必要はない」と指摘。「航空機事故は大惨事になりかねないからこそ、再発防止のため第三者機関の主導で調査するのが国際社会の常識だ。事故当事者の米軍に一任するのは許されない」と批判した。