健康保険鳴門病院(鳴門市撫養町黒崎)で明らかになった薬剤の誤投与による医療事故。筋弛緩(しかん)剤を点滴された患者が死亡する深刻な事態に、19日夜会見した増田和彦院長は「事故を繰り返すことのないよう、医療安全への取り組みを見直し、再発防止に努める」と述べ、謝罪した。病院から届けを受けた鳴門署は、業務上過失致死の疑いもあるとみて、当直医ら関係者から事情を聴いている。【岸川弘明、深尾昭寛】
死亡したのは、10月下旬から肺炎などで入院していた鳴門市内の男性患者(70)。病院によると、男性は近く退院できる状態まで回復していたが、17日午後9時過ぎに39・4度の高熱を出した。通常の解熱鎮痛剤では喘息(ぜんそく)発作を起こす患者だったため、女性当直医が解熱効果のある副腎皮質ホルモン剤「サクシゾン」の処方を決めた。
当直医は電子カルテから薬剤を処方するため、コンピューターに「サクシ」と入力。検索結果の画面には筋弛緩剤「サクシン」のみが検出され、当直医は十分確認せず200ミリグラムを処方した。サクシンは手術時の麻酔などに使われるが、毒薬指定されており大量投与では死に至る可能性もあるという。
薬剤師は使用目的を把握せず「通常の使用量を逸脱していない」と判断しサクシンを調剤。筋弛緩剤の使用を不安に思った看護師は「本当にサクシンでいいんですか」「どれくらいの時間で投与するのですか」と確認したが、サクシゾンと思い込んでいた当直医は「20分くらいで」と投与を指示したという。
点滴後、病室を見回った看護師が午後11時45分ごろ、男性の異変に気付き医師や家族に連絡。男性は呼吸停止し、心臓マッサージや人工呼吸が施されたが18日午前1時45分に死亡が確認された。死因は急性薬物中毒による呼吸不全とみられる。
名称が似た二つの薬剤を取り違える医療事故は過去にもあり、厚生労働省が注意喚起していた。00年11月には、富山県内の病院でサクシンを注射された男性患者(当時48歳)が死亡。その際、医師は「サク」の2文字で薬剤を検索していた。鳴門病院でも取り違えを防ぐため、5年ほど前からサクシゾンを取り扱っていなかったが、今春着任した当直医は事情を知らなかったという。
毎日新聞 2008年11月21日 地方版