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閉ざされた「日常」:パレスチナ自治区ガザ/中 輸出の道なく、農漁業苦境

 「今年も『息子』のように大事に育てた」

 パレスチナ自治区・ガザ地区北部ベイトラヒヤのイチゴ農場で、アハマド・アブハリマさん(37)が汗をぬぐった。イチゴを栽培して約20年。「去年が過去最悪だった」と振り返る。イスラエル、エジプト両国との境界が封鎖され、輸出が一切できなくなった。

 イチゴはガザの主要産品。欧州向けに2・5キロ入りを60シェケル(約1800円)で出荷していたが、地元に卸すと6倍量の15キロで20シェケル(約600円)にしかならない。元パレスチナ農業省幹部で技術指導するファラー・ユニスさん(61)によると、今年のガザ全域のイチゴ栽培面積は昨年の半分以下になった。「このままでは皆やめてしまう。今年こそ輸出できるようにしなければ」と危機感を募らせる。

 そろそろ初出荷の時期。アブハリマさんは「イチゴは我々の『象徴』だ」と言った。ガザから海外を目指すイチゴに、「移動の自由」のない自らを重ねているようだった。

 一方、漁業も大打撃を受けている。パレスチナ自治を実現した93年の「オスロ合意」によれば、ガザの漁船は37キロ沖合まで出漁できるが、実際には、海域を管轄するイスラエル海軍が10キロ前後までしか認めない。イスラム原理主義組織ハマスが勢力を誇るガザへの圧力の一環だ。

 ガザ市の中央魚市場で、漁師のワエル・ハスーナさん(35)が「早く自由に輸出できるようにしてほしい。生活は苦しくなる一方だ」と肩をすぼめた。エビ1キロの輸出額は地元の卸値の約5倍。「『高級魚』が取れたところでガザでは買い手が付かない」と嘆く。安価なイワシが売れるが、漁業範囲の制限で十分な量を確保できず、トルコから輸入している状態という。

 取材中、沖合から鈍い銃撃音が聞こえてきた。イスラエル艦船が漁船に発砲したようだ。しかし、驚く人はいない。「いつものことだから」(地元男性)。むなしいさざ波の音が続いた。【ガザ地区で前田英司】

毎日新聞 2008年11月19日 東京夕刊

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