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閉ざされた「日常」:パレスチナ自治区ガザ/上 食料・燃料、密輸トンネルで

ガザ・エジプト境界の地下に掘られたトンネルの内部=ガザ南部ラファで2008年11月、前田英司撮影
ガザ・エジプト境界の地下に掘られたトンネルの内部=ガザ南部ラファで2008年11月、前田英司撮影

 油のにおいが漂い、発電機の音が響く。エジプト境界のパレスチナ自治区・ガザ地区南部ラファ。ビニールハウスが所狭しと並ぶが、農業用ではない。エジプトから物資を密輸する地下トンネルの「目隠し」だ。

 アブアエルさん(34)所有のトンネルに入った。深さ約20メートル。木製のはしごを下りると、大人が中腰で通れる広さの穴が延びていた。側壁に電球が数珠つなぎになり、内部は意外と明るい。

 エジプト側の出口まで約800メートル。作業員に続いて奥へ進んだ。10分もすると全身汗だくで、息苦しくなった。外から空気を送り込む「通風管」に顔を押し付けて深呼吸する。目の前の壁は土のうで補強されていた。トンネルの崩壊で今年、数十人が死亡した。「食うために命を張っている」。アブアエルさんの言葉を思い出した。

 ガザは昨年6月以降、イスラム原理主義組織ハマスの支配下にある。ハマス弱体化を狙うイスラエルは境界の検問所を閉鎖し、人の移動や物流を著しく制限。エジプトもこれに同調し、ガザの住民生活は困窮を極めた。物資を調達するために掘られたのが、この地下トンネルだった。

 現在約800本のトンネルがあるとされる。服飾品から食料まで密輸品はさまざまだが、ディーゼル油などの燃料類が目立つ。先月は約1200万リットルが運び込まれた。この間、イスラエル経由の「正規輸入」は約500万リットル。数カ月前まで燃料が枯渇して料理油で車を走らせる状況だったが、「今は備蓄する余裕もある」(関係者)という。

 ラファ自治体当局は最近、トンネル1本につき1万シェケル(約30万円)の「登録料」を徴収し始めた。密輸を黙認し、住民の不満を抑えたいハマスの思惑が透けて見える。

 だが、密輸品は「商品」ばかりで「原料」がない。地元経済の活性化には程遠く、国連によると失業率は45%に達した。ガザ市の燃料会社経営、フズンダールさん(54)は「ここでは『普通』の暮らしなんてできない」と皮肉った。トンネルの先は見えない。

 ◇  ◇  ◇

 境界を閉ざされ孤立するガザ地区。閉塞(へいそく)下の住民の「日常」を取材した。【ガザ地区で前田英司】

毎日新聞 2008年11月18日 東京夕刊

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