2008年11月18日
アンナ・ポリトコフスカヤ(c)Katja Tahjaアンナ追悼集会(フィンランド)(c)Katja Tahja警官に殴られるジャーナリスト_モスクワ(c)Tanya Lokshina
〜命がけで真実を伝えるロシアのジャーナリストやNGOスタッフ〜
<暗殺から2年>
アンナ・ポリトコフスカヤが暗殺されたのは06年10月7日。モスクワの自宅で銃殺された遺体となって発見された。独立系新聞「ノーヴァヤ・ガゼータ」紙の記者としてチェチェン紛争下でのおびただしい人権侵害を報道し続けたポリトコフスカヤの死は世界中で報道され、各地で追悼や抗議の集会が行われた。事件から2年が経過し、容疑者3人が逮捕されたものの、実行犯は捕まっていない。
<北コーカサス:増加する当局による「強制失踪」、拷問>
ポリトコフスカヤ暗殺は、ロシア、とりわけ北コーカサスのジャーナリストやNGOスタッフが現在置かれている危険な状況を象徴する事件といえる。
コーカサスは黒海とカスピ海の間に位置し、コーカサス山脈を挟んだ南北の地域をさす。南コーカサスはアゼルバイジャン、グルジア、アルメニアなどソ連崩壊後に独立した共和国で、北コーカサスはロシア連邦に属すチェチェン、イングーシ、ダゲスタン、北オセチアなどの共和国である。日本ではチェチェン紛争、最近では南オセチアをめぐるグルジアとロシアの軍事衝突の報道で同地域を知った方も多いだろう。
ここ数年、北コーカサスで警察や治安当局などが関与する人権侵害の報告が増加しているという。イングーシでは、彼らはときに覆面をして市民を拘束し、そのまま強制的に「失踪」させる。首都マガスでは男性7名が連邦治安局(FSB)の建物に連行され、拷問されたと報告されている。ダゲスタンでは07年1月から8月の間だけで少なくとも20人が拉致され、行方が分かっていない。家族は当局が誘拐に関与していると主張している。また北オセチアでは、反組織犯罪の名の下、複数の人が秘密裏に隔離拘禁され、拷問され、「自白」を迫られたという情報が入っている。
<NGOスタッフやジャーナリストへの脅迫>
北コーカサスのジャーナリストやNGOスタッフらは、頻発する当局による人権侵害を告発しようとしているが、それによって自らが脅迫、嫌がらせを受けている。具体的な例を挙げよう。
− イングーシの独立系ウェブサイトの主宰者であるマゴメッド・エフロエフが08年8月31日、警察留置場で死亡した。
− 08年7月25日、イングーシの人権団体MASHRで活動していたズラブ・ツェチョーエフは、連邦政府の警官と思われる武装した男たちによって自宅から連れ去られた。数時間後、ツェチョーエフはイングーシの首都マガス近くの道路脇で重傷を負って発見された。
− 欧州人権裁判所に申し立てる書類を作成していたダゲスタンのNGO、ROMASHKAのオスマン・ボリエフ元事務局長は05年11月15日、警官によって拘束されひどい拷問を受けた。
「警官らは私に手錠をかけ、頭に袋をかぶせた。息ができず私は気を失った。目が覚めると椅子につながれていた。警官らは私に殴る蹴るの暴行を加え、腕を捻じ曲げた。・・・(中略)・・・連中は私がスパイだと言い、どこの機関で訓練を受けたか自白するよう迫った・・・(中略)家族を殺す、そして私をチェチェンに連れて行き、自爆テロリストとして吹き飛ばしてやると脅迫した・・・(後略)」
ロシア内外からの批判にもかかわらず、彼は06年2月13日まで拘禁された。無罪判決が出て釈放されたが、すぐに別件で逮捕状が用意されていた。そのためボリエフは、第三国に政治難民として亡命した。
<裁かれない暴力>
ジャーナリストやNGOスタッフに対するこうした脅迫や拷問、殺害事件の被疑者が特定され、裁判にかけられることはほとんどない。そして、加害者への不処罰がさらなる脅迫を生み出している。今やロシアでは、真実を追究し情報を配信すること、政権に批判的な意見を表明することは、最も危険な行為なのかもしれない。
「表現の自由とは、なによりも、反対意見を表明する自由のことである。こうした権利への絶え間ない攻撃は、社会全体を窒息させてしまう」(08年2月26日、アムネスティの声明より)
ロシアの表現の自由は、窒息寸前である。
アムネスティ・インターナショナル日本(国際キャンペーン担当:川上 園子)
■■■ドキュメンタリー映画「アンナへの手紙」■■■
ロシア政権をもっとも厳しく批判し続けたジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤ。弱者に寄り添ってきた彼女はなぜ殺されたのか? 世界から見捨てられたチェチェン戦争の実態を暴き続けたからなのか? 一人の女性の人生を辿りながら、ロシア政権の闇に切り込むドキュメンタリー。「アムネスティ・フィルム・フェスティバル2009」にて上映決定!
2008年/スイス ドキュメンタリー/83分/監督:エリック・バークラウト
作品提供: Refugee Film Festival (難民映画祭)
日本語字幕:日本映像翻訳アカデミー
<インフォメーション>
−今日、映画を観る自由があった−
言いたいことを言う。 行きたいところに行く。
会いたい人に会う。 そして、見たい映画を観る。
私たちが当たり前に思っていることさえ かなわない人びとがたくさんいます。
映画を通して見てみませんか? 今、世界で何が起きているのかを…。
大好評をいただいた2007年の第1回フィルム・フェスティバルに続き、第2回目となる アムネスティ・フィルム・フェスティバル2009を開催します。
今回も、世界各地の国と地域から、人権をテーマにした選りすぐりのフィクションやドキュメンタリー作品を上映します。
◆日時:2009年1月17日(土)/18日(日)
開場・受付開始10時30分/開映11時
◆会場: ヤクルトホール東京都港区東新橋1−1−19ヤクルト本社ビル
◆上映作品
2009年1月17日(土)
「免田栄 獄中の生」/「にくのひと」/「アンナへの手紙」/「刑法175条」/「プロミス」
2009年1月18日(日)
「関西公園 〜Public Blue」/「サルバドールの朝」/「スタンダード・オペレーティング・プロシージャー(原題)」/「ヴィットリオ広場のオーケストラ」
※上映スケジュールや前売り券購入方法の詳細は こちらをご覧ください。
※前売り・当日券ともに数に限りがありますので、売切れの際にはご了承ください。
鬼太鼓座×OKI ―和太鼓とアイヌ音楽−
アムネスティ日本では、世界人権宣言の採択60周年を記念し、国連での採択の日にあたる12月10日にチャリティコンサートを行います。
世界各地で平和への祈りを込めた和太鼓の演奏を行い喝采を浴びている和太鼓集団・鬼太鼓座と、アイヌ音楽を現代に復活させ国内外のロックフェスでも活躍中のOKIの初共演となるコンサートです。
◆日時:2008年12月10日(水)19:00〜21:00(開場18:00)
◆出演者:鬼太鼓座(和太鼓)/OKI(アイヌ弦楽器トンコリ)/古澤良治郎(ドラム)/Marewrew(アイヌ伝統歌ウポポ)/イーデス・ハンソン(アムネスティ日本特別顧問)
◆入場料:一般4,500円/小〜大学生2,000円/団体割引(10人以上)、アムネスティ会員3,500円
◎コンサートの収益金は、アムネスティ国際事務局による世界各国の人権状況の調査・報告のために使用します。